終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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密かに目的を達成しようとする系一般吸血鬼

 この国には自浄作用が無い。

 それがわかったのは、僕が入院した事になっていた四日目のこと。

 

 各国に潜む上位者というのは基本的に実験・研究を行うためにそこにいる存在と、人類を滅ぼし過ぎないように調整するバランサーに別れる。僕に対するエクセンクリン、ケルビマみたいにね。

 ただ、たとえ僕らの存在を差し引いたとしても、その国は国として成立している必要がある。機奇械怪の脅威があっても国を保っていられる必要がある。

 

 ラグナ・マリアは、それが無い。

 もしこの国からチトセ含む上位者全員が姿を消した場合──なんと、この国の奇械士だけでは機奇械怪の脅威から国を守り切れないのだ。

 何故って、国に裏切り者がたくさんいるから。

 

 間宮原ヘクセンの一存で、チトセの暗躍だけで、あれ程の数の人間を捕らえ、機奇械怪に加工し、失敗作は放つ……なんてことをしているのに、彼女らの悪行は国にバレていなかった。

 その理由はとても簡単で、つまりまぁ、間宮原ヘクセンは傍系でありながら愛されていた存在であると同時、実験体でもあった、というわけだ。それはチトセ視点の話でなく、ラグナ・マリア視点の話。

 彼女の悪行を見逃す。国が。

 代わりにそのフィードバックを貰う。それは機奇械怪の研究になり、あるいは医療にも繋がるかもしれない。いいや、兵器になるかもしれない。

 そういった打算が国の上層部にあった。ゆえに奇械士は国外……機骸の道(メクシンロード)の先にある防衛拠点に集中させられ、国内にいるのは奇械士ほど機奇械怪に詳しくない自警団だけ。それも、国の息がかかった人間ばかりで構成された……と。

 

 だから、ジュナフィスとリンゴバーユに聞いた時、あれだけいたんだ。要らない人間が。

 ある程度安全で裕福気味な国なのに、家なき子や家族のいない老人が溢れている、なんて。それは結局、その方が都合がいいから、なのだろう。

 人間の調達にも、目撃者の抹消にも、富の集中にも。

 

 この国には、今いる自国の民を生かす気も、奇械士を育てる気も、機奇械怪への入力を行う気も、何もない。科学力が欲しいだけだ。技術力が欲しいだけだ。あるいは、融合体の強さに惹かれ、それを目指しているだけだ。

 

 だから、()()()()

 NOMANSの時代だったら歓迎していただろうけどね。今の時代はソレじゃダメなんだよ。求めている入力はソレじゃないというか、その入力はもう終わっているというか。その入力をされちゃうと、まーた足踏みしちゃうから。

 ここで、消えてもらおう。

 

「大型機奇械怪……!?」

「そんな、湖の中から……」

「あり得ない!」

 

 騒ぐ、ざわめく雑踏。

 大宮殿内も、大宮殿の外も、こうだった。

 

「不味いね、大パニックだ」

「あれ程のものが現れたのですから、当然でしょう」

「……ボクがアレらを倒してくる。だから、君達は避難誘導をお願いできるかな。フリスさんは、安全なところに……と言いたいところだけど、そんな場所無いだろうから……」

「適当に逃げますよ」

「……うん。話し合いをしている時間は無さそうだ。じゃあ、行ってくる」

 

 そう言って走り出すアルバート。

 

「ごめんなさい、カンビアッソさん。どうかご無事で」

「問題ありません。七日前は後れを取りましたが、流石に人込みでドジを踏む程弱くはありませんので。奇械士の皆さんは、奇械士の皆さんの仕事をどうぞ」

「はい!」

 

 飛び出すはチャル、アレキ、アスカルティン。

 ……おや? チャル、あんなに跳躍できたっけ。……成長? いや、まさか。そんな短期間に。

 

「っと……こうしてはいられませんね」

 

 どこか高台で、アルバートの戦いを見なければ。

 どういう仕組みかは大体考察できたけど、答え合わせは必要だからね。

 

 

+ * +

 

 

 屋根を跳ぶ。

 円形をしたラグナ・マリアの外側。湖中から現れた機奇械怪はどれも見たことの無いものばかり。新種。

 大型らしく様々な機奇械怪の要素を取り込んでいるようだけど──関係ない。

 

 消し飛ばす。

 

「……一回じゃ無理か」

 

 多足の機奇械怪。その触腕の半分ほどを消して──けれど、全体までに行き渡らなかった事を理解。背後に迫る触腕を蹴って、加速しつつの方向転換と跳躍。

 幾節にも連なるパーツで構成された腕に着地。動こうとするパーツを超能力で固定し、再度強く跳躍。今度は、大型機奇械怪本体に向かって。

 

「……!」

「君はまだ、赤子なんだね」

 

 零れる言葉は同情。

 ボクに人間や機奇械怪という区別はない。ただ、己を理解できない獣に与える憐憫があるだけ。その対象は人間にも機奇械怪似もなり得るし──自分にもなり得る。

 愚かだった。

 未熟だった。

 この国に来てから──どうにも、いつものボクじゃない。

 

「これが恋の影響だったりするのかな……」

 

 大口の、ギザギザした歯を持つ巨大な鮫を思わせる大型機奇械怪を消す。

 挟撃を仕掛けようとしていた、半分になった多足の機奇械怪も。

 

 どれだけ大型でもあまり関係がない。斬る回数が増えるだけだ。

 

「──オイオイ、なんだアンタ。助力に来たんだが……もしかして、要らなかったか?」

「……あぁ、さっきの、横臥チトセさん、だったかな。助力というと……もしかしてこの騒ぎは君達の仕業ではないのかい?」

「ちげーよ。何が悲しくて自分たちの住む国を滅ぼさなきゃならねェんだ。折角真面目なメイドとしてある程度顔が知れて来た頃だってのに、そんな全てを無為に帰すような行為するかよ」

 

 湖の中から顔を出した、もう一体の多足機奇械怪。その触腕が彼女に迫る──が。

 ノールックで振るわれた裏拳によって、多足の機奇械怪の身体が浮き上がる程に弾かれる。

 

「さっきの答えだけど、助かるよ。ボク一人じゃこの数を捌ききってラグナ・マリアを救い切るのは難しい。けど、一つ聞かせてくれるかな」

「ンだよ」

「何のために戦うのかな、とね」

 

 時計塔の上に着地して、周囲を見渡す。

 今、大勢の人々が機骸の道(メクシンロード)を通って国外に出ようとしている。それを必死になってサポートしているのは自警団と……この国の奇械士。

 国外には当然、野良の機奇械怪がわんさかいる。湖中の大型と外の野良。どちらがいいか、なんて一般人には判別付かないだろう。

 

 正直に言って、国内にいてくれた方がまだ守りやすい。

 あれ程の数の人間が外に出たとなると、機奇械怪の群れが寄ってくる可能性もある。彼らがどのようにして人間を感知しているのかはまだわかっていないけれど、それを共有できる個体がいることまでは掴んでいる。

 それに見つかったらおしまいだ。

 

 スネイクスの形をした大型が、その口を開く。

 ──アレはやばい!

 

「いよう! にーちゃん、さっきぶりだな! ま、機奇械怪越しだったからわかってねーと思うけど!」

「ふぉふぉふぉ、御前、失礼しますじゃ」

 

 不味かった。アレは、多分ラグナ・マリアの基底部に取り付けられていたレーザー。その集束砲。なればあのスネイクスは、照射装置が機奇械怪になった存在だとでもいうのか。

 けれど光……レーザーを防いだのは、突如現れた少年と老人。彼らは何でもないかのような顔で、そのレーザーを背に受け止め、掻き消してしまう。

 

「あン? 何こっち来てんだてめェら。とっととあっちの防衛行けよ。どーみても戦力過多だろうが」

 

 少年と老人。

 ……この横臥チトセさんも、この二人も。多分、人間じゃ、ないよね。

 

「あっはっは、チトセ!」

「ふぉふぉ、うむ」

「なんだよ。早く言えよ」

「すまん無理だったわ! また同じトコに配置されたらよろしくな!」

「ふぉふぉふぉ……儂、今生で何も活躍しないまま終わってしまいましたのぅ」

「は?」

 

 消える。

 ──消えた。人間ではないにせよ、人間大の生き物が。今の今まで言葉を発していたものが。

 

「……なんだと?」

 

 それは、チトセさんにとっても理解できないことだったらしい。

 ボクの使うソレとは、違う。あの消え方は──朽ちた、ようにみえた。

 

「おい、ジュナフィス、リンゴバーユ。……マジでいねェ。周辺も……。なんだ? 今のレーザー……如きでどォにかなんならオレ達はとっくに死んでる。……あのチャルとかいうのの銃か? いや、そうだとしても、あの二人がなにも抵抗できずに消えるなんて有り得ねェ」

「君、後ろ!」

「あぁ? あぁ、いいよ。問題無、」

 

 触腕による撃ち落し。

 それをモロに食らった横臥チトセさんは、ラグナ・マリア外縁の建物の外壁に打ち付けられる。すぐさま触腕を消し飛ばして彼女のもとに向かえば。

 

「……カ」

「大丈夫……じゃないね。出血量が酷い。君が何か特別な力を使えるのはわかったけど、その怪我じゃどうしようもない。人々の護衛の方に回って欲しいかな。こう見えてボクは、こういう大型機奇械怪退治の専門家なんだ」

「カ──ハハハハッ! あぁ!? いいぜ、なんだよオイ!」

 

 突然、満面の笑みと共に哄笑を上げるチトセさん。

 後頭部からダラダラと血を流しながら──それはもう、嬉しそうに。

 

「いいぜ、いいね、いいさ! おいおい、痛いな! 痛いなんて何百年ぶりだ! この、血液が抜けていくことで死が追い付いてくる感覚は! ──あぁ、初めての、懐かしさだ!」

「あんまり叫ばない方が……」

「やってくれるじゃねェかフレイメアリス!! オレ達の力にまで干渉するたァ良い度胸だ! いつか、と言わず今すぐに追放してやるよ!」

「フレイメアリス?」

「ああ──ア? ……なんだお前。……あぁ、いや、待て。そうか。……すまねェな、アッパーになると周りの記憶が抜ける程興奮しちまうってだけなんだ。お前の名を忘れたわけじゃねェ」

「ガルラルクリア=エルグ・アルバートだよ。横臥チトセさん」

「そうか。んじゃ、ガルラルクリア。こっち一帯はオレがやる。お前はあっち側をやれ」

「一人で大丈夫かい、という問いは、野暮かな」

「野暮だな。なんせ──」

 

 巻き込むから邪魔になんな、っつってンだからよ。

 

 そう、ニヒルに笑って、チトセさんは跳躍する。

 向かう先にいたのは、超巨大な大口の鮫。空を飛ぶこと以外は、ボクのいた過去にいた鮫によく似ている。けど、魚の姿をした機奇械怪はほぼいないはずだ。それが飛行形態を取るなど、少し馬鹿げている。

 それに突っ込んでいって。

 

 右拳の横殴りで、身体の半分ほどを粉砕した。

 

「……大丈夫そうだね」

 

 心配はないと判断する。

 ならば任せられた通り、反対へ行こう。

 

 しかし、フレイメアリスか。

 あの神は、やっぱりまだ現在世界をうろついているんだね。

 ギンガモールでちゃんと消せたと思ったんだけどな──。

 

 

+ * +

 

 

 うわぁ。

 という、ドン引き。

 

 アルバートの攻撃はわかった。超火力でもなんでもない。

 

 アレはただ、対象を未来に飛ばしているだけだ。だから消し飛ばしたように見える。アレは問題を先送りにしているだけで、多分彼女が指定したどこぞの未来に、ギンガモールもアシッド・フログスも、今回ミケルが作った数々の機奇械怪もいる。

 厄介なコトをしてくれるなぁ、と。

 機械は機械、魔法は魔法。時代によってちゃんと使い分けているのに、それが突然飛んで来たら……まぁ、悪意の贈り物(プレゼント)に類する何かにはなりそうだけど。

 

 で、僕がドン引きしてるのはアルバートに、じゃない。

 

「カンビアッソ先輩……大丈夫、大丈夫ですからね! 私がついていますから……」

 

 アルマ・エリナ。

 凡夫と断じたはずの人間が、僕の手を引き、人込みの中を逆走している。

 僕と出会った途端、「見つけたぁ」なんて、上気した顔で、あるいはお酒にでも酔ってしまったかのような表情で──彼女は僕に香水を吹きかけた。

 

 それは、遥か遥か昔の製法。遠く遠く昔の、《茨》を用いた薬品。

 シンプルに催眠香と名付けられたそれは、今や知っている者などいないはずなのに。

 

「~♪」

 

 彼女は、逃げ惑う人々に悟られることなく、気取られること無く、僕を連れて行く。

 

 別に。

 僕の意識ははっきりとしているけれど。

 ただ、確かめる必要があったから。

 

「カンビアッソ先輩、カンビアッソ先輩」

 

 アルマ・エリナ。

 まぁ、出会ったときからおかしさはあった。まず名前がおかしい。ラグナ・マリアには中々いない名前。さらに、どうにもいち科学開発班では知り得ない事──自警団の捜査状況など──を知っていたりした。

 極めつけは吸血鬼事件の全容だろう。

 おかしいと思っていたんだ。融合機奇械怪が、人間の血液だけを吸って肉体を捨て置く、なんて小細工染みた事するもんか、って。

 しないんだ。彼らは何も学習していない機奇械怪に等しいんだから、動力と判断するものは肉体になる。ならば肉片の一つだって残さず食べるはずなのに、血だけ吸う、なんて。

 

 つまりあれは、融合機奇械怪の仕業じゃない。

 そして僕らが事件現場で見つけた機奇械怪の動力炉の痕跡。あの時捕まえた融合機奇械怪が何をどうして動力炉を露出させる、なんて事態に至っていたのか。国内にほとんど手を出してこない奇械士を相手にしていたわけじゃない。自己改造なんてものを知らなかった彼らではそこにはたどり着けない。

 ただ単純に──奇械士以外の敵と戦闘していたがゆえの、破損。

 

 アルマ・エリナ。

 彼女こそが。

 

「到着しました。大丈夫です、この建物は他より強度が高くて、密閉性も高いので……誰にも見つからず、ここで、先輩は、私だけのモノとして、一生を過ごせます」

「それは、勘弁願いたいですね」

「……あれ? カンビアッソ先輩、催眠香、足りませんでしたか?」

「効かないだけです。生憎と人間風情に使う薬では侵されない体質でして」

 

 彼女はニコニコとしていた顔を一転。

 口角を大きく上げ──凄惨に笑う。その犬歯は、鋭く、長く伸びて。

 

「じゃあ、直接わからせてあげます!」

「どうぞ、噛みつけるのなら」

 

 繋がれていた腕に、アルマ・エリナが噛みつく。

 ──が。

 

「っ……硬ッ!?」

「はぁ。焼き増しは好きじゃないんですよ、僕。ケルビマ相手だったとはいえ、それもうやった存在がいますので……面白味がない。ほら、どうですか? 腕が硬かったら、他に何かできる事を探しましょう。何も出来なかったらそれがあなたの"価値"です」

 

 英雄価値、とは言わない。

 彼女は英雄ではないから。

 

 アルマ・エリナは僕の全身に歯を突き立て始める。けど、無理だ。それ以上やれば彼女の歯が、牙が欠けてしまうというくらい強く噛んでも、僕の身体には傷一つ付かない。

 歯に通った管に、何の液体も通って行かない。

 

「──では改めて。僕の名はフリス。クリッスリルグだったりカンビアッソだったりするけど──まぁ今は、ただのフリスでいいよ」

「……ぁぐ、」

「あるいは君には、フェルトゥノスとでも名乗って上げた方がいいかな」

「!?」

 

 退こうとしたアルマ・エリナの頭を掴む。離さない。

 これは僕がフリスになる前に名乗った名。かつて──この惑星の終末が、「機械」でも「魔獣」でも「精霊」でも「ゾンビ」でもなく、「魔族」に設定されていた頃のお話。空歴以前の話だから、何年とかはもう要らないだろう。

 まさか、残っていたとは。まさか、生き延びていたとは。

 一度僕らで地上を完全に焼き払ったのに、どのようにして生きていたのか。

 

 過去の遺物。現代の異物。時代設定を汚す邪魔者に、生きる意味はない。

 

 あはは。

 

 フェルトゥノス。まぁ、ノスフェラトゥだよね。

 

「吸血鬼事件。そもそもそれをそう名付けたのは、君だ。だって君がやったんだから。君が、吸血鬼なんだから」

「ぐ、が、ぁえ……ははひへ(離して)! ははひへふははい(離してください)!」

「血液を生命力と見立て、それを啜る事で疑似的な動力として体内に蓄積、それを用いて驚異的な力や能力を獲得する魔族。ああ、そうだ。昔はよくいたけど──ダメだよ、アルマ・エリナ」

 

 頭を掴んだままに出現させるは──ミケルの作った『刺したら機奇械怪に変えるくん.mex』。

 さぁ、実験だ。

 過去の遺物は、機奇械怪になるのか。なったとして、なんになるのか。

 

「今は機械の時代だ。時代にそぐわない君は、消えなくちゃならない。一度も機械に成っていない、けれど人類にとっての遺物である君は──機械にならないといけない」

「──ヒ」

 

 念動力で動かすそれを、彼女の首元に刺す。

 ああ──絶叫。慟哭。

 始まるのは同じ《茨》のせめぎ合い。

 

「ぁ、ああ、ぁががが、が、が、あが、ががッッ!!」

「苦しむのかな。それとも、痛むのかな。ううん、違うだろう。()()()()()()()んだ。その恐怖は人間よりも大きい。なんたって君達吸血鬼は、《茨》が原動力になりつつあった種族だったからね」

「か、か、んびあ、そ、せんぱ──」

「フリス・カンビアッソ。──あはは、それ、誰かな」

 

 ──終幕。

 こちらに手を伸ばし、血の涙を流していた彼女は──けれど、停止した。

 動力炉が無いからね。動くことはできない。

 

 さて、ではエリナの中に動力炉を入れて、と。

 

「おはよう、アルマ・エリナ。君の名は?」

「……ご命名ください、所有者様」

「うん。じゃあ」

 

 知っている結果だったので、空間を圧して破棄する。

 

 まったく。

 チトセも、こんなことのために十数年をかけて……。何か得られるものがあったのかなぁ。

 

「魂の在り処、だって。お笑い種だよね。それがどこにあるか、なんて決まっているじゃないか」

 

 生成したオールドフェイスをピン、と弾いて。

 

「それは心にあるんだぜ、チトセ」

 

 キャッチは──失敗。

 ……締まらないなぁ。

 

 

 

 

 

 

「おや、アスカルティン。どうしましたか?」

「……避難していく人々の中に、エリナさんとフリスさんの人影を見つけ……尾行していました」

「そうですか。そして、聞き耳を立てていた、と」

「他言する気はありません。貴方がケルビマさんと同じかそれ以上であることを私は知っていたので」

「へぇ。じゃあ、何用ですか」

「質問があるのです」

 

 アルマ・エリナに連れられた構造物を出ての、出会い頭。

 アスカルティンがいた。周囲に人影はない。もうみんな避難したのだろう。

 

「魂の在り処について、ですか?」

「いえ、それはもう知っています。──私が知りたいのは、私達が動力と呼んでいるものについて、です」

「へぇ!」

 

 おっと。

 フリス・カンビアッソっぽくない声を出してしまった。まぁ聞き耳立てられていたなら今更だけど。

 

「オールドフェイスって、魂ですよね」

「正解です。オールドフェイスとは、人間の魂です」

「普通に人間を食べるより、オールドフェイスの方が小さいままに長持ちする理由は、あれが一番効率よく魂をエネルギーにできるから、ですか」

「少しばかり違います。貴女達は魂をエネルギーにしているのではなく、魂の周囲にあるものをエネルギーにしているのです。魂の周囲にあるもの。それは何だと思いますか?」

 

 生徒と先生のように。

 質問に対して答え、さらに問いを投げかけていく。

 

 現時点で、僕の中のアスカルティンの"英雄価値"はチャルを上回った。

 こちらから教えすぎることなく──彼女自身の気付きで、どこまでいけるか。

 

「……記憶とか、感情とか、そういうものですか?」

「素晴らしい。正解です。魂とは二層を持つエネルギー塊。一層目が思い出や感情といった流動するもの。二層目が魂……(コア)と呼ぶもの。記憶や感情はこれに集まる習性を持つため、魂ある限り、機奇械怪は人間の肉体をエネルギーとして消費できます。ただし人間の肉体が無くなった時点で人間は感情や記憶を保てませんから、エネルギーを搾れなくなります」

「……ということは──消費しない方が、効率は良い?」

 

 静かに、薄く笑う。

 その通りだ。けど──それが出来るかな、人と機奇械怪の融合体。

 そこに、自己改造で辿り着けるか。

 

「たとえば」

 

 アスカルティンは──指を差す。

 僕へ。

 

「食べる事の出来ない貴方を、朽ちることの無いケルビマさんを──動力炉に入れたら、どうなりますか」

「やってみるかい?」

「……いえ。死の気配を感じるのでやめておきます。ただ……これが最終結論、というわけでもなさそうですね」

「あはは、いいよ。君はまだまだ価値がありそうだ」

 

 良い。

 とてもいい考えだ。

 上位者を動力にする機奇械怪。あはは、上位者は自分は絶対な安全圏にいる、と思っているからね。もしそれが叶ったら……上位者たちはザワつくだろう。

 良い入力だ。

 機奇械怪へも、上位者へも、いつだって入力者は人間なんだ。人間風情が、僕らを変えていく。

 

「さぁ、アスカルティン。君がどこまで行くのか見せてもらうとしよう。──皆の所へ帰りましょうか、アスカルティン」

「はい」

 

 さてはて、チャルは、アレキは、アルバートは。

 彼女に追いつけるかな? フレシシもガロウズも安全圏にはいない。ケルビマもエクセンクリンも、まだ行ける。

 

 まだまだ進化できるよ、君達。

 まだまだ、まだまだ……。

 

 終わりまではあと少し。

 それまでに、全てを。

 

 

 

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