終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
ユウゴ、リンリー。その他、件のエンジェル転送事件で死んだ生徒に手を合わせる。
特に何か思う所があるわけではない。最年少
ただ、可能性の芽を潰すことをよしとしているわけじゃない。価値のない彼らが奇械士を志し、そうして価値のあるものに変わっていく事も知っている。学生のうちに死んだ彼らに価値も罪もなく、だからこそこのお葬式だ。参列者には涙を流す者や沈痛な面持ちを見せる者もいる。もし彼ら彼女らが復讐心から奇械士になってくれるなら万々歳だ。
過去を振り返る、死者を悼むという行為は、生者を奮い立たせる良い効果がある。
「……フリス」
「うん」
「私、強くなるから」
「うん。応援してる」
そしてそれは、チャルにも、その隣で黙すアレキにも言える事。
決意か、憤怒か。それとも別の何かか。
それは僕の与えた銃の性能だけじゃない、何の価値も無かったチャルが、自ら付加価値を獲得した証明だ。今後彼女は、居住区域の巡回奇械士としてだけでなく、外縁での迎撃、そして島外作業員として地上の大型機奇械怪の討伐にも出向くようになるのだろう。
「チャル」
「……なに?」
「後で、僕の家に来て欲しい。渡したいものがあるんだ」
──ならば。
それに見合うモノは、必要だろう。
7月20日。正午──。
午前中に行われた葬式が終わり、アレキとチャルが奇械士協会に帰らんとしたタイミング。チャルはそれはもうわざとらしく「あ、用事があったんだった!」なんて言ってアレキのもとから離脱し、僕の家に来てくれた。もう少し演技力を鍛えようね。
「それで、フリス。渡したいものって何?」
「コレだよ」
どこかそわそわした様子のチャルに、それを見せる。
直径20mmの、何者かの横顔が描かれた金属。
「……コイン?」
「オールドフェイス、って呼ばれてる」
「オールドフェイス……?」
そう、コイン……いや、硬貨だ。
もう誰も覚えていない、機奇械怪が現れる前──正確には機奇械怪が人類に牙を剥く前に使われていた、世界共通硬貨。本来の名前は他にあるけど、多分通じるのはこっちだろうから。
「機奇械怪の動力が何かは知っているよね」
「え、あ、うん。生きとし生けるもの……人間に始まって、虫とか魚とか、今はいなくなっちゃった動物とか、だよね」
「そう。けど、機奇械怪が元からそういったものを必要としていたわけじゃないんだ」
機奇械怪。
これが昔からこんなにも狂暴な機械だったら、とっくに討滅されている。増え切る前に、あの広範囲に破滅を齎す爆弾とかで。
それがそうならなかったのは、意外、だったからだ。
思ってもみなかったんだろう。まさか、日常的に使っている機械類が暴走し、独立・自律して動き出す、など。
僕の作り上げた五種の機奇械怪の内の、オーダー種。それから発された信号が、機奇械怪の卵とでもいうべき便利な機械類の孵化を促した。
人類は背後から討たれたのだ。己らが便利だ便利だと使っていた機械達に。
そして、五種の機奇械怪のデッドコピー達と卵たちが合流して、莫大な波となって世界を覆い尽くした。それまで便利な機械は全国シェア率1位だったからね。
「本来機奇械怪に必要な動力はオールドフェイスだ。これは、地上の廃墟で探せば少しくらいは見つかると思う。……いいかい、チャル。僕の上げた銃もオールドフェイスを入れる口がある。それを入れた時、あの二つは本来の力を取り戻すだろう。ただし時間制……制限時間がある。オールドフェイスを入れてから、三日。その間しか稼働しない。その後は元の銃に戻るだろう」
機奇械怪の前身と言える機械類たちは、そういうものなのだ。世界共通硬貨によって決められた時間動かせる便利な機械。もうそのほとんどが機奇械怪と融合しただろう。だけど、少しくらいは残っているかもしれない。
オールドフェイスを必要とする便利な機械が、どこかに。
「ふ、フリス」
「分からないところでもあったかい?」
「それって……コレが沢山あれば、人類は機奇械怪と戦わなくて済む……ってこと?」
……おや。
チャル相手ならその辺突っ込まれないと思っていたんだけど、少しばかり侮っていたか。
この子はそういった地頭の部分も賢くなっている。ふふ、僕としたことが、人間を測りかねるなんて。うん、悪くないよ。僕の予想を超える事はとても良い事だ。
「オールドフェイスは量産が利かなくてね。僕も、手持ちはこの一枚が最後だ。僕がこの家の養子になる前、地上にいたことは知ってるだろ? その時見つけたものだからね」
「……もし、これの生産方法がわかれば」
「ああ、それは、あるいは、と言ったところかな。生産装置なんてものが現存しているのなら、とっくのとうに機奇械怪が占拠していそうなものだけど」
「だ……だよね」
それに、オールドフェイスに生産装置なんてないし。
「さて、チャル。外でアレキが待ってる。そろそろ行ってあげるといい」
「え、アレキが?」
「……へぇ、呼び捨てする関係にまでなったんだ」
「あ、いやっ、違くて!」
うんうん、いいね。
学校が無くなってからチャルはギルドに詰めきりで、僕と会う時間が減っている。代わりにアレキといる時間が増えている。だから心が固まるのは時間の問題だと思っていたけれど……うんうん、これは、予測よりも早く成就するかもしれない。
……まだ。
まだ、チャルには、僕を好きだった事の影がある。
今こうやって言い訳をするのは、僕への好意が残ってしまっているからだろう。
さてこれを振り払うには……。
「いいから、チャル。午後も仕事なんでしょ?」
「あ……うん。じゃあ……じゃあね、フリス」
「うん。いってらっしゃい」
……僕が死ぬとか、大怪我を負うとか、そういうのだと余計な感情を引き立てそうだし。うーん、保留かな、これは。
あるいは、アレキの方にちょっかいをかけてみようかな?
怪しい。
アレキは怪しんでいた。それはもう、とても。これ以上ない程に。
「アレキ、どうしたの? 顔が怖くなってるけど……」
「チャル。どうしたもなにも、怪しいと思わない? あの人」
「ああ……メーデーさん」
メーデー。
政府塔から直接派遣された奇械士であり、他国で地上の大型機奇械怪の討伐を担っていた一人だと聞かされた。何故ホワイトダナップに来たのかといえば、国が滅んだから。確かに二か月程前、地上のある国が滅んだことは報道されていた。
だからその経歴はおかしくないのかもしれない。
だが──。
「いつもフード付きの赤茶コートで、パンプキンの仮面……黒のインナースーツに白いブーツと白手袋。その国の正装だ、って聞かされたけど……どう考えても仮装か何かにしか」
「アレキ、ダメだよ。人を外見で判断するのはよくないんだよ?」
「それは……そうなのだけど」
怪しかった。
恰好が。これでもかというほどに。
「それに、メーデーさん可愛いトコもあるんだよ」
「可愛い所?」
「うん。あのね、メーデーさん。すっごく──」
チャルが言葉を発す、直前のこと。
メーデーが通信端末を見て、血相を変えて──顔は見えないので変えた雰囲気を出して──どこかへ去っていく。
気になる。
「あ、ごめんね。すっごく、何?」
「……アレキ、顔に『どこに行ったか気になる』って書いてあるよ」
「う」
ジト目で。
チャルが、アレキに。
……あるいはアレキがもう少し恋愛経験に長けていれば、その目線に多少なりと嫉妬が含まれている事にも気付けたかもしれないが。
「どうする?」
「追うのは……それこそプライバシー侵害でしょう」
「でも、気になるんでしょ?」
「う」
気になる。
怪しい怪しいとは言っているが、政府が認めた奇械士であることに間違いはない。だから何を怪しんでいるのか、アレキ自身にもわかっていない部分がある。
もやもやを、解消したい。
その心がアレキにはあった。
「ちょっとだけ。ちょっとだけ……尾行してみましょうか」
「うん。バレちゃったら一緒に謝ろう!」
天才でも、アレキもチャルも年相応のブレーキしか持っていない。
そしてそこに、二人を止める大人が丁度、狙いすましたかのようにいなかった。だから二人は、メーデーの後を尾行けて。
そこで衝撃の光景に
「どこまで行くのかしら……」
「この辺……倉庫区ってあんまり来たこと無いけど、こんな風になってたんだ」
「私も、構造図で見たことはあっても、来たのは初めてね」
メーデーを尾行する事30分。
驚異的な身体能力で家々の上を、ビル群の隙間を移動するメーデーにやっとの思いで追いつきながら、アレキとチャルはホワイトダナップの中層……倉庫区画にまで来ていた。
人工島ホワイトダナップは、その名の通り巨大な浮遊島だ。その隅から隅までに人の手が入っていて、だから地盤も何もないし、あらゆるところに色々なものが敷き詰められている。
その中の、倉庫区画。
薄暗いその区画にメーデーは入って行って……ふとコンテナとコンテナの間に入った。
何用か。その怪しさも相俟って、悪事でも働いているのではないかとアレキが考えた──その直後のこと。
「キューピッド……あなた、こんな所に呼び出して、何のつもり?」
普段「ええ」とか「わかったわ」くらいしか喋らないメーデーの口から放たれた怒気の混じる声に、びくりとする二人。
そしてそれを覆う──あり得ない名前。
キューピッド。
先日、島外作業員の奇械士二人が正体不明の機奇械怪に襲われた。その時に現れたのが、キューピッド。命からがら逃げ帰った奇械士曰く、子供の姿をし、転移を自在に操り、他の機奇械怪を従えるような行動を取る、と。
オーダー種、サイキック種の二つの特性を兼ね備えた機奇械怪。それも小型。
そんなものは前例に無い。
だから、驚いた。
驚いたし確信した。やはりメーデーを怪しいと思うアレキの直感は正しかったのだと。そして。
「何、上手くやっているかな、と思っただけ」
聞く者を不快にさせる声。合成音声とも違う、何か、奥底を揺らすような声。
それがキューピッドの声だと理解するに時間は要さない。
「……上手く、というのは。私にこんな格好をさせて、これでもかってくらい怪しませている事と関係があるのかしら」
「その恰好を指定したのは政府側だからね。こっちに文句を言われても困るよ」
「あぁ、そう。それで、いい加減用を話しなさい。ただでさえ疑われているんだから、あまり長い事ギルドを抜けていられないの」
「そうかい、それは悪かったね。じゃあ、用件を話すけど──その前に」
悪寒に従った。
アレキは自らの直感を信じている。だから背筋を走った冷たいものに従い、チャルを抱きながら前方に転がる。
……アレキに見えたのは、先程まで自分の体があった位置に走る赤い雷のようなもの。
「っ、誰!?」
「お客さんだよ、メーデー。ああ、まずいね。僕らの話を聞かれたかもしれない」
「……あなた、わかってて……!」
転がり出でて、アレキは向き直る。
メーデー。そして──その隣にいる、鳥の仮面をつけたフードの少年。
その姿。あれはいつか、タンク種の異常発生があった時、遠くの高台からアレキたちを観察していた二人組の一人。
「説明は、してくれるのよね、メーデーさん」
「……キューピッド」
「僕は手を出さないよ。それに、丁度いい機会じゃないか。天才と謳われている最年少奇械士二人を相手に、ソレを試せるんだ。ああ、安心して。どれだけ暴れてもいいように、シールドフィールドを張ってあげよう」
「ご丁寧にどうも。……という事よ、あなた達。話を聞かれたからにはそのまま返すわけにはいかない。可哀想だけど──声を失ってもらうことにする」
それは明確な敵対宣言だった。
アレキは刀を抜く。それを見て、チャルも双銃を構える。
対し、メーデーは拳を構えるだけ。
「……ッ!」
言葉はない。要らない。
ただ、本来起こるべきではない──人間同士の戦いが、ここに始まった。
チャキ、と。
向けられるは、赤熱した刃。そして二つの銃口。
「なにかな」
「機奇械怪、キューピッド。あなたをギルドに連れて行くわ」
まぁ、戦闘はそこまで長くかからなかった、という話だ。
メーデーの本来の武器は杭打機であり、今回は性能テストを兼ねて、付け焼き刃の足技オンリーのスタイル。当然アレキに圧し負けて、チャルにも翻弄されて、かなり早い段階で力尽きた。死んだ、とかじゃなくて、これ以上使うと肉体を侵蝕しかねない段階まで来たので、僕が停止コードを送ったのだ。
それにより歩く事もままならなくなったメーデーが恨みがましい目で僕を睨んできたけれど、これも心外である。助けてあげたのにね。
「それは適わないよ」
「……なら、力づくで」
「ああ──動かない方が良い。後ろの子がどうなってもいいのかい?」
「!?」
アレキが勢いよく振り返る。
そこには、何か、金属の茨のようなもので全身を拘束されたチャルの姿が。
出所は地面。床を割り、それは生えて絡みつき、チャルの柔肌に幾つもの傷を作っていた。
「ッ……仕込んで」
「仕込んで? 違うよ。僕にとって、機械は手駒だ。これはただ、ホワイトダナップのケーブルの一部を再加工してこちらに顔を出させたに過ぎない。この島は機械だらけだからね。いくらでも武器が手に入る楽園だよ」
手元にも金属の茨を出現させて、それを造形し、バラの形にする。
実際似たようなことができるので嘘は言ってない。ただケーブルって別に機械じゃないから操れないし、ホワイトダナップのケーブル引き千切って再加工して持ってくる、なんて危ない事やらない。この島がどれだけ精密機械に溢れているのかくらい、僕がわからないはずないだろ。
「……何が目的なの」
「簡単だよ。メーデーの事を黙っていてくれたらいい。それを約束すれば、その子も解放してあげよう」
「……わかったわ」
「物分かりが良いね。じゃあとりあえずその刀を手放してくれるかな。敵対の意思がない事の証明が欲しいんだ」
カラン、と。
赤熱した刀が地面に落ちる。
……ふむ? もしかして、アレキの方も結構チャルに惹かれていたりするのかな。こんな物分かり良いとなると、何かを画策しているか、本当にチャルが心配かのどっちかだと思うんだけど。
「質問は、してもいいの?」
「構わないよ」
「そう。……じゃあ、メーデーさんは、あなたの手下か何か?」
「いいや。メーデーはある目的のために動いているけれど、僕の手駒じゃあない。僕に弱味を握られているからね、こうやって従わざるを得ないだけだよ」
「……信じられないわ」
「構わないよ。ただ、これは理解して欲しいかな。君達は僕という存在を前に、為す術の無い存在だということを」
「脅し? 信じなければどうなるかわからない……とでも言いたいの?」
「解釈は君次第だ。どう受け取るかは君の勝手さ。だけど、受け取り方次第で──」
ビリ、と。
何かが破ける音がする。
「きゃ……いやっ!」
「──下衆が」
「ふふ、今のは聞かなかったことにしてあげようか。認識コード【トラッツ】」
起動コードをメーデーの下半身に与える。
それで、這うようにこちらに来ようとしていたメーデーの身体に活が戻る。
「メーデー。彼女らから言葉を奪う必要はないよ。──今、その子に、種を植え付けさせてもらったからね」
「ッ──チャルに、何を」
「だから、種だよ。メーデーのことを誰かに話そうとすれば芽吹く種。それは忽ちその子の身体を覆い尽くし、傷つけ、切り裂き、愉快なオブジェにしてくれるだろう」
うんうん、これでいいだろう。
これで、アレキはもう片時もチャルの傍を離れられなくなった。だってアレキがメーデーを尾行したいと言い出さなければこんなことにはならなかったのだし。
勿論全部仕込みだとも。小型の機奇械怪を市街地に出して、アレキ達以外の奇械士を引き出して。遠くからフレシシにアレキたちの動向を逐一報告させて。
僕は別に千里眼を持っているわけじゃないし、全知全能ってわけでもないからね。
ちゃんと準備して、ちゃんと仕込んで。
「ああ、メーデーと秘密を共有する分には構わないよ。彼女のことを、そして僕の事を他言しない限り、種は発芽しない。どこまでがラインかは、君の解釈次第だ。明確な線引きは教えないでおこう。だけど、ラインを越えたら──まぁ、わかるよね」
「……」
「君にとって彼女がどれほど大切か、にも依るけれど。その子の犠牲一つで僕と、そして僕に繋がりのあるメーデーを確保できるのなら──それもいいかもしれないね?」
メーデーがアレキに近づく。
さて、言うべきことは言った。
あとは帰るだけだけど──。
「ッ!」
それは突然のこと。
いや、彼女らにとっては示し合わせた事だったのかもしれない。
地に落とされたアレキの刀。その刀身をメーデーが蹴り上げ──アレキが回転する刀の柄を正確につかみ、神速の突きを繰り出してきたのだ。
一秒に満たない一連の行動に、うんうん、二重丸を上げよう。
今の今まで敵だった相手を信用し、油断しきっている敵を突く。素晴らしい連携だったとも。
「刺さらな──!?」
「ふふふ、その蛮勇に免じて、見なかったことにしてあげよう。──けど、次はないよ。じゃあね、若い奇械士。メーデーも、お仕事頑張って」
残念ながら刺さらない。このローブは機奇械怪の装甲よりも硬い。そして、たとえ刺さったとしても、僕は死なない。うん、残念だったね、という奴だ。
転移を使う。
赤い雷を纏って。
──次の瞬間、いつかの高台にいた。
「お疲れ様です、フリス」
「君もね」
「いえいえ、仕事ですから」
うん、今日もキューピッドらしいことをしたと思う。
これで一気に親密な仲になったんじゃないかな。恋愛に罪悪感や庇護の意識はとても良いスパイスになると、僕は知っているからね。
「……フリスを見てると、恋は困難の連続なんだなぁって思います」
「恋に理解を示すのかい、フレシシ」
「いえ。私、フリスを相手取るのだけは遠慮願いたいので」
そんな会話をして。
僕らは、家路に就いた。
7月22日。
葬式も終わり、ちょっと壊してしまった倉庫区画の修理も終わり、特に何をするでもなく家で過ごしていたら、チャル達が訪ねて来た。
そう、達、だ。
そこにいたのは、アレキと──メーデー。
うわぁ、仲良くなったのかな? にしてはチャルが何か申し訳なさそうな顔をしているけれど。
「久しぶりね、フリス君」
「うん。あぁ、もしかして両親に用? それなら申し訳ないけど、今出かけているよ。君達の方がよく知っていると思うけれど、島外へ討伐に行ってる」
「いえ、用があるのは君よ、フリス君」
僕?
僕が何か、アレキに用ざれる事あっただろうか。
……まさかバレたとか?
「何用かな」
「これ」
これ。
指差されたのは──チャルの腰の、ホルスター。
ああ。
チャルが申し訳なさそうな顔をしている事で理解すべきだったね。
「チャルにこれを渡したの、君だって聞いたわ。──どういうことか、教えなさい。何故一般人の君が、機奇械怪に対抗できる武器を持っていたの?」
「ご、ごめんね、フリス……。はぐらかせなくて……」
「いいよ、チャル。遅かれ早かれバレていたことだろうし。それで……ええと、そっちのパンプキンな人は?」
「あ、この人はメーデーさん。最近お友達になった人なんだ」
「人?」
「うん、人」
「そっか。……いいかい、チャル。友達はちゃんと選んだ方が」
「だ、大丈夫だよ、フリス! メーデーさん、見た目はこんなだけど、凄く良い人だから!」
「……チャル。私の格好の事、『こんな』だって思っていたのね」
「あっ」
ふむ。随分と仲良くなったらしい。
やっぱり秘密の共有というのは仲を進展させるのかな。アレキとの恋路の進展の方が気になるんだけど、まぁチャルがハーレムを作るのも悪くはない。
「こんな所で立ち話もなんだし、とりあえず入って。フレシシ、お客さんだよ。お茶、三つ出して」
「はい。……あぁ、チャルちゃんでしたか。いらっしゃい」
「あ、フレシシさん。お久しぶりです」
招き入れる。
フレシシも僕も、キューピッドとして現れた時とは声も口調も、重心移動なんかも変えている。だからメーデーにバレる事はないと思うけど、メーデーはメーデーで戦士だからなぁ。戦士って第六感に冴えるから、僕ら素人じゃわからない事に気付いたりするんだよね。
まぁその時はその時で。悪くはないし。
フレシシの淹れたお茶がテーブルに置かれ、彼女が下がって。
さぁ、尋問タイムである。
「何から話せばいいかな」
「まず、この銃の出所よ。チャルには話さなかった……はぐらかしたと聞いているけれど、それは何故?」
「それを話すには、まず僕の出自から話さないといけなくなるけど、時間は大丈夫?」
「ええ、問題ない」
大丈夫。
その辺のストーリーはちゃんと作ってあるからね。
「僕が地上で拾われた、という事は知っているかな」
「……チャルから聞いたわ。地上の廃墟で、クリッスリルグの二人に拾われた子供」
「そう。じゃあ問題だ。それまでの僕は、どうやって生きていたと思う? 地上の機奇械怪は有機生命に飢えている。それらを掻い潜る力が僕のどこにあったのかな」
「その銃で、戦っていたと?」
アレキが思考を巡らせる間もなく口を挟んだのはメーデー。
良いアシストだ。
「そう。チャルに話さなかった理由は簡単だよ。これ話したら、チャルは絶対『フリスも奇械士になるべきだよ!』って言ってくるからね。なる気がない僕にとってそれはちょっと面倒だ」
「あはは……あの時なら、絶対言ってたカモ……」
「……君は、地上の機奇械怪を倒し得る技量を持っている? それも……子供の頃から、自分の身を守れる程度には」
「肯定するよ。ただし、僕はもう機奇械怪と戦うつもりはないし、あの死と隣り合わせの世界に戻るつもりはない。チャルに押し付けておいてなんだけどね、僕は戦士じゃないんだよ」
「……何故はぐらかしたのかは分かった。それで、出所は?」
「さぁ? 物心ついた時には持っていたからね。僕の本当の両親の持ち物なのか、僕が幼いころにスクラップになった機奇械怪から抜き出したのか。出所を話さなかったのは知らなかったからだ。僕にとっても、ソレがなんなのかわからない。本当の名前さえも知らない代物だよ」
これも事実半分。
なんなのかはわかっているけれど、銘はつけていないので名前は知らない。
「……わかった。これ以上は出てこなそうね」
「何か知りたいことがあったのかい?」
「アレキ、一応聞いてみるのはアリだと思う。フリスの知識は凄いから」
「そう? ……じゃあ聞くけれど」
何を聞かれるんだろう。
少しばかりの、わくわく。
「あなた、キューピッドという機奇械怪について、心当たりはない?」
……あー。それ早速聞いちゃうんだ……。