終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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少年漫画展開に辟易する系一般上位者

 ネイトの一件を経て、僕と周囲の関係は一変した。

 簡単に言うと、誰も僕を心配しなくなった。守らなくなった。

 

 えー、これについては非常に不味い。アルバートの勘違いのせいで「上位者は傷つかない」みたいな認識になっているけれど、フリス・カンビアッソの肉体はかなり脆弱だ。機奇械怪の一撃でも受けようものなら簡単に死ぬ。

 それはそれで面白いというか、絶望的ではあるんだけど、そんなことするくらいならもう少しお膳立てしてからがいい。普通の野良の機奇械怪戦で死んでどーするって話。

 

 結果。

 

「カンビアッソさん!」

「あの、撃ち漏らしとかやめてください。あなた達奇械士でしょう」

 

 僕の眼前で透明な壁に弾かれる機奇械怪。

 その背から、動力炉ごとアレキの剣が貫通する。

 

「ちょっと、その刀はこっちも危ないんですって」

「あ、ごめんなさい」

 

 テルミヌスは透明な壁を突き破り、あわや僕に突き刺さる寸前で、僕が避けた。

 

 ……まぁ、解禁したのだ。念動力。

 流石に全力の奴じゃなくて、自衛できる程度にしか使えない、ということにはしてあるけど……うーん、前代未聞。上位者がこうも力をひけらかして、しかも機奇械怪と戦う、とか……。ケルビマのアレはカモフラージュ用だから仕方ないにしても、僕のは何の言い訳のしようもないからなぁ。

 他の機奇械怪へ余計な信号が飛ばないように、殺す直前に送信系統のパーツを優先で破壊してるから大丈夫だとは思うけど……せーっかくアスカルティンっていう良い入力素材が出て来たのに、自分の手で汚してちゃ世話無いって。

 

「よし……みんな、そろそろ貯蓄も尽きて来た。次の再建邂逅まで行ったら、この修行の旅は一旦終わりにしようと思う」

「え……でも私、全然強くなれて……」

「チャルさんそれ本気で言ってますか?」

 

 踏み込む……のは、僕じゃなくアスカルティン。

 問いかけとほぼ同時に踏み込んで、機奇械怪へやるようなパンチを繰り出す。僕の肉体なら簡単に弾け飛んでいただろう威力のソレは──ひょい、と。軽々とチャルに避けられた。

 

「ほら」

「ええ。チャル、あなたは自分が思っているより強くなっている。自覚はないかもだけど、そもそも私達の動きについて来れているのが何よりの証拠」

「え、全然ついていけてないよ。今だってギリギリだったし……」

「ギリギリとは」

「……チャルさん、君、誰を目指しているんだい? ボクとアスカルティンならやめといた方が良いよ。自分で言うのもなんだけど、人間が辿り着けるところにいないから」

「……アリアさん、です」

 

 あー。

 ああ、そっか。そうだよね。

 だってチャルにとっては、そういう凄まじい身体能力を見た最初の奇械士が元母アリアなわけで。

 

 ……いや、あの夫妻も相当おかしいんだけどね?

 

「これは……重症かもしれない」

「そうだね……。これは早い所帰って、普通の奇械士を思い出させないと」

「覚えていないかもしれませんが、ランパーロさん。普通の奇械士って飛んだり跳ねたりしないんですよ」

「それは知ってますけど、それができないと置いてかれちゃうから……」

 

 成程。

 ギンガモール戦に置いて行かれたのがトラウマになっているわけだ。

 

 じゃあその辺克服してあげれば、チャルの成長になるかな?

 ミケルの新作も結構溜まって来てるだろうし、良い感じのものを送ってもらおうか。再建邂逅には、まぁ、犠牲になってもらって。

 

「その辺りの相談も含めて、再建邂逅についてから話そうか」

「……はい」

 

 出来るだけ大きくてー、出来るだけ飛んでる奴でー。

 うん。

 じゃあ隙を見てミケルに連絡を入れよう。

 

 ほら、ラグナ・マリアだって結果的に滅びなかったわけだし。今後滅ぶかもとはいえ、僕の介入によって特にそうならずに上手く行く場合もあるわけで。

 再建邂逅にも頑張ってもらおう。そうだよ、僕なんていう試練に負けてたら、どうせ生き残れないからね。

 

 空歴2544年02月27日。

 僕らは再建邂逅に到着する。

 

 

 

 

 

 再建邂逅。

 国名らしくない、というのは僕も感じたことだけど、それはこの国の歴史がそうさせている。本当に文字通り、再建して邂逅した国……という感じなんだ。

 

「実はこの国は何度も滅びを迎えている。何度も何度も。何度も何度も滅びかけて、バラバラになって……しかしそれらが大きくなり、領土を増やし、最終的には合流し、また大きな国となる。それが再建邂逅という国なのだ」

「どれくらい歴史があるんですか?」

「──千年。……とはいえ、途中に空白の百年が挟まるゆえ、九百年、というべきなのだろうが」

「そんなに……」

「空白の百年、というのは?」

「文献がな、何も残っていない百年間が存在するのだ。戦争によって奪われたか、何者かによって隠蔽されたか。……そも、最初の方の記録も……少々幻想的な神話が多い。どこまで確かなのかはわかったものではない」

 

 今、顎髭がもみあげまで繋がっている男性、カンチューイに再建邂逅の案内をしてもらっている。彼はこの国の奇械士……しかも奇械士協会会長であり、再建邂逅における最強。サイキックの類は無いし、身体に機奇械怪を仕込んでいるわけでもないようだけど、だからこそただの肉体能力だけで最強と呼ばれている人間だ。

 僕からはまだ"英雄価値"があるようには見えないけど……まぁ、戦う所を見てからかな。

 

 再建邂逅は、地上の国の中ではかなり国力の弱い国だ。食料自給率も低いし、科学技術力も無いに等しい。立地が良いから生き残れているだけの搾りかす、という印象が強い。

 ただし、民の一人一人、老若男女が最低でもホワイトダナップの見習い奇械士くらいの強さがある、とかいう武術国家。

 

 その証拠というわけじゃないけど。

 

「……この広場は?」

「武術場……腕試しの場だな。二人から二十人までが、武器無し防具無しの状態で殴り合う。何をしてもいい、最後に立っていた者が勝者だ。まぁ、殺しはいかんが」

「それは……失礼なことをいうけれど、意味があるのかい? 対人戦を鍛えても、今の時代……」

「フッ、まぁ、他国の者にとっては価値のないものに見えるだろうな。あぁ気にするな。それが普通だ。……なんというかな、再建邂逅の者達は、機奇械怪に勝つことより、己より強い誰かに勝つことの方が嬉しいのだよ。それは恐らく再建邂逅という国が何度も散り散りになり、また合流した時、誰が上に立つかで殴り合った、という歴史から来ているのだろうが……」

 

 話している最中に、若い男女が広場に入る。

 簡素な服。プロテクターもサポーターもしていない、素足と素手で。広場の外にいた男が笛を鳴らせば──あとはもう、目も当てられない凡夫の泥仕合。殴る蹴るの精度は低く、フェイントもわざとらしければ砂かけなんかの技も当たらない。

 ……それでも周囲は「やれやれ!」とか「いいぞ小僧! いけ!」とか「女の意地見せるんでしょ! 泣かないの!」とか。なんだか感動応援ムード。

 

 こんな凡人を育てて何になるんだ。精々が努力型の……ありきたりな、筋肉で解決しようとするパワー馬鹿が生まれるだけだろう。そんなのいっぱいいたよ、過去に。要らない要らない。そんなの育てるくらいなら、もっと……そうだな、あー。……うん。思いつかない。

 思いつかないから、思いつかないものに出てきて欲しい、って願ってるんだった。思いついたら自分で作ってるよ。

 

「……私にも、こういうのが必要、なのかな」

「お、やってみたくなったか、お嬢さん。……だが、無理だな。再建邂逅は誰でも受け入れると言いたいが……そのひ弱な身体では、この国で最も弱い者と戦っても大怪我をするだろう」

 

 あー。

 クリティカルな言葉出すなぁこの人。そんなこと言ったらさぁ。

 

「……やります」

「チャ、チャル。カンチューイさんも馬鹿にして言っているわけじゃないと思うから、落ち着いて」

「む……すまない、そう聞こえてしまったか。その意図はなかった。だが、お嬢さんには無理なのだ。まず筋肉のつき方が違う。この国の人間はな、歩けるようになった頃からこういう遊びを常にやっているのだ。日常生活でもそうだぞ? 洗濯の手伝いをする時は、屋根と屋根の間をひょいひょい跳ねていく。高い所に目的のものがあれば壁を登るし、逆に低い位置にあれば何も迷わず飛び降りる。そういう生活があってこそ──」

「やります!」

 

 火がついた。

 ……この辺は年相応の子供というか、なんというか。アレキもチャルも負けず嫌いなんだよね。アレキのが飛びぬけてるからチャルは隠れがちだけど。

 

 まー、いい機会なのかなぁ。

 チャルがちゃんと自分の力を把握する場として。君の特別性は肉体とかどうでもいいものじゃなくて、その目と精神性なんだって。

 

「……そこまで言うなら、いいだろう。だが相手はどうする?」

「カンビアッソさん!」

「……。──? ……。……、……。……、……、……? ……──僕ですか?」

「長い溜めだったね。これは、指名されるなんて可能性を欠片も考えていなかったと見える」

「えーと、僕奇械士でもないってわかってますか?」

「はい。でも、この前言ってました。『チャルさんと僕は同じくらいの身体能力です』って。なら、丁度いいと思います」

 

 言ったねぇ!

 それ言ったね! ああ、そっか、ラグナ・マリアでおいて行かれた時、僕としてはフォローのつもりだったけど、チャルからしてみれば結構クる言葉だったわけだ。奇械士として前線張ってる自分が、奇械士でもない、戦闘者でもない僕と同じ、なんて。

 実はずっと気にしてたわけだ。

 

「そちらの兄さんは……科学開発班と言っていた覚えがあるのだが」

「はい。僕は科学開発班です。なので戦士でもなんでもないので……」

「まぁ、問題無かろう。この国では妊婦でさえ戦いに興じる事がある。気遣うばかりで仕事が疎かになった旦那を焚きつけるためにと、夫をボコボコにした後で、元気な赤子を産む者もいる。それに比べたら、内勤であることなど何も問題にはならんだろう」

「それはその人が凄いのであって」

「何より、このような少女に挑まれて……逃げる、というのか?」

 

 うん、全然逃げる。

 だって僕武術とかわかんないんだって。基本念動力と技術力とあとちょっとした凄い事でなんとかしてきた存在だよ? うわー、こんなことなら武人系の記憶入力しておくんだった。あ、待てよ、チトセの記憶……なんでコイツ女性の武人記憶入力して……他、他……。

 おーいケルビマー! 今すぐに死んで僕に入力してくれないかなー!

 

「カンビアッソさん」

「ぅ……」

「いえ、()()()()()……()()()

「その呼び名は……特別なのでは? ランパーロさんの、大切な方の名と被っている、とか」

「はい。でも、そんなこといつまでも言ってたら、私は弱かった頃の過去を振り切れない気がするので──私は、ちゃんとあなたを別人だと認めます。ついでに私の事もチャルって呼んでください。その方がやる気出るので」

 

 ……。

 ま、わかった。わかったよ。

 フリス・クリッスリルグの最後の仕事だと思えば、こっちもやる気が出るさ。最後の最後、なんかあっけない感じで終わっちゃったしね。主にどこぞの断罪系一般奇械士のせいで。

 

 ならまぁ、あの時叶わなかった一対一をここで演じるのも──悪くはない。

 

「!」

「いいですよ。その代わり、といいますか、そろそろ敬語やめませんか? もうすぐ旅も終わりなんですから、砕けていきましょう。皆さんも」

「うん、ボクは構わないよ」

「あはは、あなたは少し前からそうじゃないですか」

「……わかった。やろう、フリス」

「うん、いいよ。──やろうか、チャル」

「ぇ、ぁ……違う。違う、違う。私は、過去を振り切るんだから」

 

 口調を戻せば、目を見開くチャルとアレキ。

 まぁ思いっきり似せたからね。この見た目には似合わない少年口調だけど、僕が上位者だとわかっている彼女らだからこそ、そこを疑問には思わないだろう。上位者は人間とは違う時の流れで生きている、と。アルバートから説明されているから。

 

「盛り上がっている所悪いが、あの二人が終わってからだ。それまで体を温めておくといい」

「わかりました」

「わかったよ」

「ああ、そうだ、フリスさん。わかっていると思うけど、武器と防具無しということは──アレとかアレとかアレも無しだからね?」

「……はいはい」

 

 くっ、こっそり念動力使おうとしていたのがバレた!

 

 

 

 

 

 さっきの若い男女はお互いがお互いの頬を殴り合って引き分けにおわる、みたいな少年漫画的なアレで終わった。つまんないね。

 

 で、改めて。

 

「スーツ、脱がないんですね」

「知らないのかい? スーツって硬いからね、痛みを和らげてくれるのさ」

「……それが、本来の喋り方なんです……なんだ」

「本来の、と言われると微妙だけど、友人と接するときはこうだね」

「うん。それは、ありがたいかも」

「ありがたい?」 

 

 身体は見えなかったけど、音が聞こえたから、上体を反らして避ける。

 空を切ったチャルのパンチ。リーチ差が凄いからね、そのまま体を捻って彼女の身体を蹴っ飛ばすことだってできる。まぁ彼女も彼女で蹴りとは反対の方向に転がってそれを避けたけど。

 弱い身体で、念動力も使えない僕、なんて……エクセンクリンでも倒せちゃうくらいの雑魚だけど。

 

 僕の何よりもの特徴は、感知だったりするので。

 

「ありがたいよ。──なんか、重ねられるから……ボコボコに殴って、忘れられそうだし」

「ひゃあ、怖いな。けど、いいのかい?」

「何が」

「君の大切な人がどんな人だったのか知らないけど──」

 

 バックハンドスプリング。これくらいはできる。から、その際に下の土を掴んで、無造作に投げつける。当然チャルはそんなもの避けるけど、その避ける先にも土。更にその先に土。

 君がどっちに避けるかは足の筋の動きを見ればわかる。あはは、僕が精通しているのが機奇械怪だけだと思ったかい? そりゃ人体改造だって昔はよくやってたんだから、今だって詳しいさ。なんなら医療にも詳しいぞ僕は。人体工学も医療技術も機奇械怪作りに役に立つからね。

 

「く、ぅッ!」

「同じ名前の奴に負けたら──君のその記憶、上塗りしちゃうかもしれないよ」

「問題、ない!」

 

 土をものともしないパンチ。目を瞑って、けれど正確にこちらを目指して……あ、ずるいぞ。淨眼応用して大体の位置探ってるな!?

 チャルのそれは使っているかどうかさえわかり難いんだ、他の人からは気配を探っている、とかに見られている事だろう。チャルはそんなことできないって!

 

「ズルをするなら、こっちもするけど、いいのかい?」

「その価値があるかどうかは、あなたが決めて!」

「──あはは」

 

 それが意識的なことなのか、無意識の事なのかは知らないけどさ。

 "価値"があるかどうか、僕が決める。

 

 うん、悪くない。

 いいよ、やっぱり君は悪くないね。

 

「じゃあ僕も、それなりのズルをしよう」

「ッ、上等!」

 

 振りかぶられたチャルの右拳を──掴む。

 ぺちん、なんて軽い音がして、ソフトタッチで掴まれた拳。一番驚いているのは観客ではなくチャルだろう。だってそれは、怒りを込めた渾身の拳だったはずだから。

 

「君が見えていたかどうかはわからないけどね。あの光の中で、僕は"罅"を《茨》に変換しなおしての処理を行ったんだ。僕ら使徒は《茨》を操れるんだよ。君達を襲ったキューピッドもそうだっただろう?」

「ま、さか」

「そう。──今、君の腕にいる《茨》を操っている。君の右腕は僕のものになったわけだ」

 

 身体をぐりんと回し、無理矢理右腕を引っ張る事で、僕を振り払うチャル。

 そのまま飛び退いて……だらん、と垂れ下がる右腕を押さえて、こちらを睨みつけた。

 

「まさか、今の一瞬で折ったのか!? フリスさん、やり過ぎだぞそれは!」

「別に折れてないです! アルバートさん今はちょっと黙ってて!!」

「あ、あぁ……うん、……わかったよ」

 

 物凄い剣幕に引っ込むアルバート。

 いやぁ、折れてて悲鳴の一つも上げないなら、それはそれで凄かったけど。

 

 今、チャルは感じている事だろう。右腕の中を這いずり回る《茨》の感触を。彼女がどうやって《茨》を制御しているのかはまだわかっていないけれど、制御下においたはずの《茨》が再度反旗を翻し、さらには自身の腕をも奪ってきた、というのは、中々に効くんじゃないかな?

 

 まぁこれで人目がなければ《茨》を全開にして戦ったりしても良かったんだけど、あくまで今回は素手喧嘩(ステゴロ)だ。見た目の変化の大きいものは使えない。

 

「一つだけ、聞きたいんだけど」

「なにかな」

「キューピッドとあなたは、どっちが強いの」

「さて……基本上位者同士は争わないからね。比べようがない」

「キューピッドとあなたは、面識があったの?」

「おや、質問は一つだけなんじゃ?」

「……」

「あはは、怖いなぁ。睨まないでよ。まぁ、いいよ。それくらいなら答えてあげる」

 

 あんまり話していると、観客の野次がうるさいからね。

 ──くい、と。チャルの右腕を後ろに引っ張った瞬間に、この体で出せる限りの速度で突っ込む。

 まるで後ろから手を引っ張られたかのような感触に、一瞬、ほんの一瞬だけそっちに意識をやったチャル。そんな彼女のお腹に向けて、拳を──。

 

「うん。多分キューピッドの方が強い。……彼はこんなフェイントに引っかからないと思うから」

「ッ!」

 

 僕の拳がチャルのお腹に付く寸前、僕の眼前に壁が現れる。それはチャルの膝。

 誘い込まれたのだとわかった時には、思い切り弾かれていた。

 

 周囲から「ヒュウ」とか「やるねぇお嬢ちゃん!」とか「肩外れても後で嵌めてやるから最後まで頑張れよー!」とか声援が飛ぶ。

 更には、「おい兄ちゃん一発で終わりかよ!」とか「良いの入ったなー、脳ぐらぐらだろありゃ」とか「立って男みせろー!」とか、まぁ、声援が飛ぶ。

 

 ……まぁ、ケルビマとかチトセなら、少しは奮い立ったんだろうけど。

 僕には届かないなぁ。凡夫の声なんか、どれも同じに聞こえるし。

 このまま一発ノックアウトもアリだ。チャルの自信はついただろうし。ちょみっとだけ、ね。

 

「うっ……!?」

 

 どすん、と。

 

 仰向けに寝転がる僕の上に、チャルが馬乗りになった。

 その目は──完全に。

 

「面識は、あったの?」

「……無かったよ。会う前にいなくなったからね、彼は」

 

 殴られる。

 えっ。

 

「嘘。私、そういうのわかるから。嘘吐かないで、本当の事を言って」

「嘘じゃないさ。会った事はない。本当だ」

「……それは本当みたい。けど、何か嘘を吐いてる。本当の事を言って、フリス」

「あはは、暴力的だなぁ。ほら、観客も引いてるよ」

 

 観客も「いいぞ殴れ殴れ殴れ!」「とどめ刺せー!」「大の大人に馬乗りになってボコボコにして……カッコイイ!」「あの子弱そうって思ってたけど、結構やるじゃん」「他国の奇械士らしいよ。肝は据わってるってことよね」「ギャハハ、兄ちゃん、後で飲もうな、愚痴聞いてやっからよ! だから今はボコボコになれ!」とか。

 ……僕、この国嫌いかも。

 

「フリス。本当の事を言って」

「──じゃあ君も、何を聞きたいのか──本当のことを言うんだ」

「!」

 

 あーあ。

 こんなつもりなかったんだけどなぁ。まぁアスカルティンの進化は終わったんだ、この旅に意味はあった。ここでフリス・カンビアッソが消えても……問題は無いか。

 最後だって考えれば、ちょっとくらいサービスしたっていいかも? あはは、つくづくチャルに甘いなぁ、僕。

 

 ま、甘くもなる。

 だって──。

 

「……あなたは、本当は」

「うん」

 

 

 紺碧の揺らめきに、銀が混じる。

 その色は──ああ、この感情は、喜色だ。

 かつて一人だけいた。その目の色を持つ者。そうか、君の血筋は。

 

 

「──私の知ってる、フリス、ですか」

「違うよ、チャル。それは違う」
「そうだよ、チャル。久しぶり」

 

 否定する。

 ──君の知っているフリス・クリッスリルグはもういないんだよ。アルバートの知っている誰かさんももういない。

 いいかい。僕はね、フリスかもしれない。

 けど、最初から僕は──君になんか知られていない。僕の事を本当の意味で知っている存在なんてのは、もうこの世界にはいないから。

 

 よいしょ、と起き上がって……バランスを崩して落ちかけた彼女を支え、そのまま後ろにぽいっと投げる。

 

「え、きゃぁ──うっ!?」

 

 思いっきり背中から落ちた彼女。うーん、まずは受け身の取り方から練習した方がいいんじゃない? 危ないよ?

 

「はい、僕の勝ち。子供は大人には勝てないんだよ。わかったかい?」

「うぅ……」

 

 ま。

 いいよ。そういう疑念を抱くのもいいかもしれない。悪くはないさ。

 青春ラブコメアクションストーリーだって、必ずくっつかないといけない、なんて決まりは無いからね。アレキとチャルが友情を確かめ合って終わる、でも問題無いんだ。アスカルティンはほら。隣でなんか食べてればいいだろうし。

 

「勝者、フリス・カンビアッソ──!」

 

 一応存在する審判みたいな人間が勝者の宣言をする。チャルが戦闘不能だと判断したんだろう。

 即座にアレキとアルバートが彼女のもとに駆け付ける。まぁ大丈夫だよ。頭を打たないように念動力で浮かせて衝撃殺したからね。

 

 甘いさ、僕は。

 当然だろう。一足早く最高域にアスカルティンが達した。それはそれとして、僕はまだチャルに"英雄価値"を見出している。

 それは比較して捨て去るものでもない。新しい入力なんかいくつあったっていいんだから。

 

 それに、あの銀色。

 

「まさか君の子だったとはね、マグヌノプス」

 

 身体の土を払って。

 上機嫌で、広場を出──。

 

 

 

「フリス」

 

 肩を、ガシっと掴まれて。

 あ、痛い痛い痛い。痛覚とか無いに等しいけどリアクションしないとおかしいから設定している希薄な痛覚がそれでも痛い。

 

「な、何かな、アレキ」

「さっきチャルに言ってた。『子供は大人に勝てない』って」

「うーん、嫌な予感が」

「私、チャルと同い年。──勝負」

「敵討ちとか、時代錯誤だって!」

「大丈夫。刀は使わない」

「当然だよ!?」

 

 ……その後、チャルの休息が必要なのと、アレキが全ての装備を脱ぐにはかなりの時間がかかる、ということもあって、お開きになった。

 これ、多分戦ってたら内臓破裂は免れなかっただろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

 カンチューイが紹介してくれた宿屋に泊っての、夜。

 ミケルに、明日にでも適当な機奇械怪を送ってもらうよう通信を終えた僕は、人のいなくなった広場に来ていた。

 

「それで、何用かな──アルバート」

「おや、呼んだ覚えはないんだけどね」

「あはは、あれだけ視線向けてきてたらわかるよ」

「視線? ──あぁ、視線か。それは副産物だね。ボクが君に送っていたのは──殺気だよ」

 

 電力というものを引いてさえいないらしい再建邂逅の夜は暗い。

 皆が寝静まっている。その中で──淡く煌めくアルバート。まるで幽霊だね。

 

「それは申し訳ないね。僕、武人じゃないからさ。殺気とかよくわかんないんだよね」

「違うだろう? アナタが殺気を感じ取れないのは、アナタが武人ではないから、じゃない。……ボク程度の殺気、取るに足らないからだ。何故ならアナタは使徒。上位者だからね」

「あはは、思い込みが激しいなぁ、アルバートは。まぁ、そういうことでもいいよ。それで? 何用か──教えてくれるかな」

 

 既に剣を抜いているアルバートに。

 僕も観念して──念動力を周囲に展開する。

 

「やっぱり。自衛程度にしか使えない、というのは嘘だったね」

「嘘じゃないさ。実際、君相手には自衛程度にしかならないよ。アレキの刀にも負けちゃうしね」

「ふふふ、ボクら、これでも世界最高峰な自覚があるんだけど──そういうことは考慮しないんだね」

「君が? 君程度が最高峰? あはは、世界最高峰も低くなったものだね」

「……かつていた英雄達のことかい?」

「それもそうだけど、そもそも君はサイキック頼りの雑魚じゃないか。それがなければ普通の影の薄い奴だろ? そんな君につける価値はないよ」

 

 ──なお。

 僕の審美眼という名誉のために言わせてもらうと、アルバートは普通に世界最高峰を名乗れるステージにある。これはただの挑発で、本当は思っていない、という事を理解して欲しい。

 

 その上で言う。君に価値はないよ、凡夫。

 

「……用件を話そうか。ま、簡単だ。昼間のチャルさんにアテられてね。ボクも身体を動かしたくなった」

「それで僕を指名とは、もしかして弱いものいじめが好きなのかい?」

「ふふ、立場が逆だろう。──ボクの方が、圧倒的に弱いんだ。手加減を所望するよ、使徒フリス」

 

 僕に剣は使えない。僕に銃は使えない。僕に爪は使えない。

 武術なんかできない。それは隠しているとかじゃなくて、本当の本当に。

 

 でも──。

 

「まぁ、サイキックの先達として、ちょっと教えてあげようか。時間操作なんてもの、万能には程遠いのだということを」

「ありがとう。では、ダンスを始めよう。背中を地につけた方の負けだ。いいね?」

「……はぁ。僕、こういう少年漫画みたいの嫌なんだけどなぁ」

「一度了承したんだから、文句を言わない!!」

 

 はぁい。

 それじゃあ、踊ってくれ。上手なダンスを期待しているよ。

 

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