終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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傷心旅行に行く系一般上位者と全部喋っちゃう系一般融合機奇械怪

 

「まず──君の生誕に興味はない。君は恐らく『精霊』の時代の人間だろう。だけど、今は『機械』の時代だ。今の時代に過去の時代の知識も感情も必要ない」

「……そうか。じゃあ、どうしてボクがアナタの名を知っているか、だけが聞きたいわけだね」

「そう。それだけでいい。君という弱く脆く、最強の名を騙る踏み台は彼女らにとって乗り越えるべき必要なステップだ。だから、()()()()()()()()()()()。謎を話しきる事だけはやめてほしい」

 

 大前提を置く。

 僕は僕の性格を知っている。わかっている。

 僕は興味を失くしたものに対し、それをぞんざいに扱う癖がある。見限った時点でいつでも殺していいものの枠に入れてしまいがちだ。

 相手の限界を見たら。価値の底を測り終えたら。

 もう要らないと判断したら、その辺の命と同等の、凡夫の箱に入れてしまいがちだ。

 

 けれど、アルバートは少し違う。凡夫は凡夫に思う。けれど、有用だ。

 最強の名は、そしてチャル達に強さを見せつけた背中は、乗り越えていくに値する。

 凡夫だけど、"英雄価値"のために必要。

 

 僕は今、彼女のことをそう判断している。"素材価値"とでもいうべきものが彼女にはある。

 

「ふふふ、酷い言われ様だ」

「事実だよ。それで、アイメリアの名をどこで……というか、誰から聞いたのか教えて欲しい」

「マクガバン、という少年だ。聞き覚えはあるかな」

「……無いね。そういう英雄も……知らない」

「英雄? はは、そんなんじゃないさ。どころか彼は戦士ですらない。ボクの生まれた時代の話はお気に召さないようだから、彼との関係だけ話すよ。彼はね、旅人だったんだ。ボクの生まれた寒村に来た旅人。1002年。『精霊』の時代が始まってすぐの頃のことさ」

 

 それは……なんというか、凄いな。

 あの時代は人間が生きていくにはかなり厳しかったはずだ。それを、少年の身で旅人なんて。

 普通に"英雄価値"のありそうな少年だ。うわぁ、自分で見つけたかった。

 

「マクガバンは、ボクと同い年くらいだったのに、沢山の事を知っていた。精霊の話。使徒の話。さらにはゾンビの話もね」

「……それは、あり得ないかな。1002年と言ったね。でも、『ゾンビ』の時代が終わったのは800年のことだ。200年の隔たりがある。その少年は、200歳でなければならない」

「つまり、彼はボクと同じだったんだよ。いいや、ボクが預かった、というべきか」

「……成程」

 

 アルバートの、未来の誰かに憑依するという呪い染みた契約。「機械」の時代に全く以てそぐわないそのサイキックは、元々はそのマクガバンという少年のもの、ということか。

 何かのタイミングでマクガバンはそれをアルバートに引き継いだ。そこから、アルバートもまた憑依を続けることになった。

 

 とすると、そのマクガバンという少年……もっと昔の人間の可能性が高い。というか十割そうだ。

 それで、そんな契約結べる時代というと、上位者の大本が覚醒した時期が一番しっくりくるかな。「悪魔」の時代。紀元前300年。

 

「彼はボクに知識を与えてくれた。ボクは彼に遊びを教えてあげた。ただそれだけの関係だったけど、時代が時代だったからね。これ以上の旅は危険だと彼を引き留めて、そこから彼はボクの村に、」

「あぁ、だから、君の生い立ちには興味ないんだってば。それでマクガバン君が死んで、その呪いを君が受け継いだ。それだけだろ?」

「……うん、まぁ、そうだね」

「薄っぺらいな。結局君には特に何かあるわけじゃないじゃないか。凄いというか、何か秘密を握っていたのはそのマクガバンという少年だ。あぁ、今ほど過去に飛べない事を悔やんだことはないよ。全知全能でないことがこれほど悔しいとはね」

 

 その程度だろうと思っていた。だから興味が無かったんだ。

 アルバートは結局、託されただけの一般人だ。そこからまぁ、何度か憑依を繰り返すうちに、剣技の磨きはかかって行ったのだろう。でもそんなの当然だ。他の戦士が、奇械士が数十年かけて辿り着くところに、彼女は何百年をかけて辿り着いた。ただそれだけ。他の戦士だってそれくらいの時間があればそこには行けるだろう。

 それで、途中で僕の"毒"にアテられてサイキックを獲得して。2044年。ミズガルとワンダーレンの戦争の最中にいたのだろう彼女の母親が過去の彼女を産み、時間に関するサイキックを手に入れて、またそれを長い時間かけて磨いて。

 

 でも、今の今まで僕に見つかってなかったってことは、それほど影の薄い……剣技もサイキックもパッとしない、何の脅威にもならない人間だったことの証明でしかない。

 

 溜め息も出るよ、それは。

 そんなつまらない人間が他にいるかな。誰でも到達できるところに到達して、最強なんて名乗って。なんだそれ。

 

「マクガバン。そのマクガバンという少年の姓とか知らないのかい?」

「マクガバン・マグヌノプス。一度だけ、村に来た最初だけそう名乗っていたはずだ」

「──……」

 

 繋がるなぁ。

 あぁ、成程。成程。成程ね。

 そうか、じゃあ、そういうことか。

 

「……聞かなきゃよかった」

「そうかい?」

「ああ……そうか。じゃあ、ある意味当然なのか。チャルが僕の前に来たのは……」

 

 力が抜ける、というか。

 今の僕は金属の球体なんだけど、もうバラバラに崩れてもいいかなって思っちゃうくらいの、気の抜け方。

 

 聞かなきゃよかった。

 今、チャルの"英雄価値"に罅が入ったよ。まぁ全然まだまだ観測したいと思える存在ではあるけれど、少なくとも彼女は元は一般人だったのに、みたいな枠からは外れてしまった。

 なるべくしてなった。僕と接触するべくして接触した。あのクラスに来た事さえ、僕に好意を抱いていたことさえ──。

 

「……これは、お休み期間にして本当に良かったな」

「何の話、」

「ああ、いいよ。もういいよ。《茨》も解いてあげる。君にはもうあんまり興味ないから、適当に生きるといい。追いはしない。というか、僕がどっかに行くか。うん。じゃあね、アルバート。大型討伐頑張って」

 

 返事も待たずに、金属球の身体を浮かせて……ふらふらと、適当な所に飛んでいく。

 

 あーあー。

 僕らしくなかったなぁ。気になり過ぎて聞きに行く、なんてさ。謎は謎のままの方が良いってわかってたのに。

 

 あーあ。

 ……今後、チャルがどれほど僕に近づいても、僕を打ち果たさんとしても……どうしてもマグヌノプスの影がちらついてしまう。

 聞かなきゃよかった。失敗したなぁ。

 

「ちょっと……気分転換に、懐かしい場所にでも行ってみようかな。過去を振り返るのも、悪くはないし」

 

 やっぱり学びって大事だよね。

 知らないことがあった方が面白い、という僕自身の学びを蔑ろにしたこと。

 それが今回の失敗の理由だ。

 

 ということで、その学びを得た場所に行ってみようと思う。

 チャルは……まぁ、大丈夫でしょ。マグヌノプスの子なら、死にはしないよ。

 

 

 

 

 

 

 で。

 

「おー。久しぶりに来たけど……なんというか、ちょっと……寂れた?」

「少年。それは言わないお約束です。──では改めまして、ようこそアクルマキアンへ。歓迎しますよ、少年」

「……観光に行くだけだから迎え要らないって言ったと思うんだけどなぁ」

 

 聖都アクルマキアン。

 ホワイトダナップは航路上かなり遠い所にいて、しばらくは近づかない。それをいいことに、ちょっと来てみた。新たな肉体を得て、上位者らしい気配を全部消して、本当に少年っぽくして、余計な気遣いしないでね、という連絡を入れた上での訪問。

 国に入った瞬間見つかった。

 

「少年、あなたが要らなかろうが、監視は必要だ、とのお達しです。しかしご安心を。私は少年より製造が後であるためか、あなたを知りません。故、心置きなくアクルマキアンをお楽しみください」

「あー、うん。でも僕君の事知ってるんだよね」

「なんと。ということはつまり、私は一度還元されているのですね。初めて知りました」

「うん、うんうん。まぁいいよ、知らなかったらそれで。じゃ、僕行くから。ホントに何もするつもりないから、安心してて。だからついてこないで」

 

 アクルマキアンは広い国だ。単純面積としてホワイトダナップの面積の十数倍あるし、歴史も長い。ま、フレメアとアクルマキアンは歴史を争うくらいの関係にあったんだけど、フレメアからホワイトダナップが飛び立ってすぐに滅亡しちゃったからね。十割ホワイトダナップが飛び立ったせいなんだけど。

 

 で……うーん。

 面倒臭いなぁ、って。

 

 今、「そうは行きません」、「観光大使の名は今や形骸化しましたが、その務めは果たさなければ」、「何より相手が暦の長いご同類とあらば、このアントニオ、粉骨砕身の思いで……」とかなんとか言ってる奴。

 上位者アントニオ。

 昔、あまりの面倒臭いその性格から、僕が思わず殺しちゃった上位者である。

 

 いや。

 いやだってさ。ついてくるなって言ってるのについてくるんだよ。見るなって言ってるのに見るし、やるなって言ってるのにやるし。アクルマキアンそのものを滅ぼさなかった事を褒めて欲しいくらいの苛立ちがあったよ、あの時。

 しかも本人に悪気がないというか、全部善意でやってるというか。

 上位者にしては珍しく他の上位者に尽くそうとする、根本から狂ってるとしか思えない人格設計されてるせいで、どの役職に就かせても上位者第一実験第二にする傾向を変えきれず、すぐに持て余す上位者多数。

 僕も上位者の中じゃかなーり嫌われてる方だって自覚あるけど、アントニオはその上を行く。僕は無計画で厄介だから嫌われてて、アントニオは無邪気で面倒臭いから嫌われているって感じだ。

 これ、この国の政府にいる上位者がこれ幸いとばかりに押し付けてきたとしか思えない。

 

「アントニオ」

「ですから!! 私はこの国のため、ひいては我々のために──む。はい。はい。どうしましたか、少年」

「僕、結構気が短いから。そこのところ気を付けてね」

「はい。ご安心を。私は少年を不快にさせるようなことはしませんよ」

「じゃあとりあえず宇宙まで行ってきて欲しい」

「はい? ヌォ──!?」

 

 転移を封じた上で、ぶっ飛ばす。

 僕の転移可能範囲は狭すぎるので、念動力で射出する。上空に。アントニオの肉体はフリス・カンビアッソみたいな脆弱さを持ち合わせていない、元来の不壊な身体だから、何がどうなっても平気だろう。

 

 これでよし。

 

 とりあえず、ヘイズの居酒屋にでも行ってみようかな。

 ……まだあれば、だけど。

 

 

 

 

 あった。

 

「あ? なんだ坊主。ここは酒飲むところだ、ガキは帰れ」

「……忘れてた」

 

 忘れてた。

 そうだ、飲酒の年齢制限とかあったね、人間。なんで僕少年の身体選んだんだ。青年で良かったじゃん。

 えー。

 えー。

 この体結構特別仕様だから面倒臭いなぁ作り直すの。

 

「あ、コラおい、聞こえてんだろ! 席に着くな!」

「まぁまぁ」

「馬鹿にしてんのかこのガキ!」

「してないしてない。それで、君店番? ヘイズは?」

「……なんだ、店長の知り合いかよ。それなら先に言え。で、店長か。今いねぇよ。普通に仕事中だ」

「仕事? ヘイズ、何か始めたの?」

「知らねぇのか? あー、まぁガキに言う話でもねぇか。最近……っつっても三、四年前からだが、あの人奇械士やってんだよ。知ってるか? 流石に知ってるよな、奇械士。外できもちわりぃ機械共と戦う仕事さ」

 

 ……うーん。

 えーと。

 

「それ本当にヘイズ? ヘイズ・イシイで間違いない?」

「あぁ。なんだ、信じられねぇか、ガキ。確かにあの人ヒョロヒョロだがな、腕っぷしは強いんだぜ」

 

 うーん。

 ……ヘイズは上位者だから、進んで奇械士になるとかありえないんだけどなぁ。まぁラグナ・マリアの上位者も受付として奇械士になってはいたから、そういう感じで……人事異動があったとか?

 僕が言うのもなんだけど、本気で、上位者は機奇械怪に余計な入力しないでほしいんだけどな……。実験の意味がなくなっちゃうじゃん。僕が言うのもなんだけど。

 

「まぁ、店長の客だってんなら話は別だ。ミルクでいいか?」

「ああ、いいよ。何も出さないで。喉乾いてないし」

「そうか。……これから普通に客が来るだろうが、そいつらに出される酒せびったりすんなよ? ガキが呑んでいいモンじゃねぇからな」

「はいはい」

「……可愛くねぇガキだな、さっきから」

 

 飲酒、ねぇ。

 かつては"英雄価値"を見初めるために飲んでいたけれど、酔いという感覚を得た事は無いんだよなぁ。僕ら上位者は結局概念に優先されるから、あんまりそういうものに左右されない。アルバートの時止めみたいなサイキック由来のものなら効くんだけどね。ただのアルコールに酔わされたりしない。

 

 しないから、大変だったなぁ。

 ヒトって酔いつぶれると本当に面倒臭いんだよね。

 

 さて、ヘイズの居酒屋。あるいは酒場。溜まり場。

 ここは聖都アクルマキアンが聖都と呼ばれる前から、首都と呼ばれる前から、なんならアクルマキアンという名ではない時代からある店だ。

 店名自体はころころ変わるので、ヘイズの居酒屋と呼んでいる。上位者が経営している飲食店の中では最古のもので、しかも上位者じゃあまり理解できない酒類を扱うという点から、「ちゃんと出来ているのか」の興味本位で数多くの上位者が集まる店でもある。

 流石に最近は、というかここ五百年くらいは落ち着いたみたいだけど、それ以前は人間に紛れてひっきりなしに上位者が訪れていた。

 訪れて、酒類を頼んで、よくわからないな、と思って、食べ物を頼んで、よくわからないな、と思って、帰っていく。

 

 まぁ全員大体のスペック一緒だから当たり前なんだけど、みんな興味が尽きない、好奇心が尽きないのも変わらないんだなぁって思ったよね。

 

「全然お客さん来ないね」

「ったり前だろ、まだ昼下がりだぞ。あのな、大人には仕事があんだよ。みんな飲みに来るのは夕方から深夜──」

「ぅいーっ、やってりー? やってれー!」

「……まぁ例外もいるが」

 

 誰か来た。

 女性。明るい茶髪で、それなりの長さ。もう出来上がっているらしくニコニコで、酒の臭いも凄い。

 戦士……ではない。奇械士でもない。ただ、内勤系の人間でもないと僕の勘が告げている。どころか──似た人間を知っている、ような。

 

 既に酔い潰れ気味な女性は、がらっがらの店内を見渡して──僕をロックオンする。だろうね。

 

「え~~~~~なに~~~~~? リッキー隠し子~~~~?」

「馬鹿言え。旦那の客だよ」

「ヘイズちゃんの? ……え~~~、ヘイズちゃん、もう結婚してたの??? かなぴぃぃぃい~~~」

 

 うるさ。

 あ、この煩さで思い出した。こいつリズか。リズの子孫か。あの酔いどれ結婚できたんだ。僕がいなくなった時、戦士としては使い物にならない状態までボロボロになってた覚えがあるけど。

 

「マイドガル。君の姓はこれであっているかい?」

「えっ……なになになになに? ぼく、お姉さんの事知ってるの? ナンパ~~~?」

「あはは、それはないよ。でも、成程あの頃はちょっと疎遠気味だったけど、結局順当にヴァニティとくっついたのか」

「だぁれ、それ」

「……ま、君の知らない人だよ」

 

 流石に、祖先の名前一人一人まで覚えてはないか。

 しかし……面白いこともあるものだ。あれ、確かフレシシを作ってからちょっと経った後だから……300年前くらいかな?

 その頃に交わったのだろうリズ・パラスとヴァニティ・マイドガルの子が、また色んな人間と番って交わって、今に至ってこの女性になって。この女性の両親が誰なのか、とかはあんまり興味ないけど、遺伝的特徴は受け継いでいて。

 それが今、僕と出会って。

 ……マグヌノプスの陰を嫌ってホワイトダナップを離れてすぐだと考えると、ちょっと思う所があるけれど。

 

「そっかぁ~。まぁいいや~。リッキー、お酒お酒お酒ー」

「払える金あんだろうな」

「パパにつけといて!」

「……はぁ」

 

 変わらないなぁ、ここは。

 なんというか──窮地に瀕した人間の拠り所として。バランサーとして、ちゃんと機能しているようで何より。

 

 ……けど、凡夫に興味ないから、早く帰ってこないかなぁヘイズ。

 

 

 

 

「──フリス? まさかお前、フリスか?」

「やぁ、やっと帰って来たねヘイズ。君なんで奇械士なんてやってるんだい。まさか深夜二時まで待たされるとは思わなかったよ」

「来るなら連絡してくれたら……ああっ、今朝メディスンが言ってた『旧い友人が訪ねてくるやもしれん』ってお前の事か! アイツ、いちいち言い回しが暗号めいててわかりづらいんだよな」

「ああ、彼、まだそういう性格なんだ」

「まだってなんだよ。俺達はいつまで経っても変わんねーよ」

 

 ようやく帰って来たヘイズ。その風体は、まぁちょこちょこ変わってはいるけど、昔通りの姿で。

 ……本当に奇械士やってるみたいだね。

 

「店長、俺はこれで上がりやっせ。……勢いでガキに酒出さねぇようにな。ここがなくなったら路頭に迷っちまう」

「おう! 店番ありがとうな、リッキー」

「ういす」

 

 店番をしていたリッキーという男が消えて──まぁ、ここからが客入り時なんだろうけど、しばしの歓談に移る。

 

「で、今回はなんだよフリス。今度はどんなでっけぇ事やるんだ?」

「やらないやらない。今僕は傷心中なんだ。傷心旅行に来たんだよ」

「傷心中? お前が? なんだ、好きな子にフラれたか?」

「君、恋愛感情を理解できたのかい?」

「いんやさっぱり。アッハッハ、無理無理。人間にそういう感情は抱けねえよ!」

 

 ロンラウよりかは断然短いけど、ヘイズも中々に古い付き合いの上位者だ。

 だけど、この……なんだろうね。底抜けに明るいけど底が抜けたように感情への理解が無い感じ。ヘイズは昔からこうだ。それでも好かれるのは、この困窮していく時代にあっても明るさを保っている──心の拠り所になる感じが人気なんだろう。

 

 あぁそれと、彼はバランサーではあるけれど、面白いコトが好きなタイプだ。正確にはそれを鎮静するのを楽しむタイプ。結構タチが悪い。

 

「ちょっと君に、聞きたいことがあってさ」

「ん、なんだよ」

「地下大聖堂。まだあるかな」

「……あー。ワリぃ、わかんねぇや。多分あんじゃね? もうずっと行ってねぇけど」

「地震とかで崩落した、みたいなのは聞いていないんだね?」

「おう。だから多分、まだあるよ。ただあそこの入口、今でっけぇ建物あるからどうだかな。当てずっぽう転移で行ってみるか?」

「それは最終手段かな。とりあえず歩いて探してみるよ。情報ありがとう」

「そりゃいいが……地下大聖堂(あそこ)に何用だよ。やっぱでっけぇことやるつもりなんじゃねぇの?」

 

 キラキラした目をされても困る。

 本当にやる気無いんだって。まぁ面白い人間がいたら無計画がひょこっと出てくる事はあるかもしれないけどさ。

 

「マグヌノプスの遺骸を確認したいんだ。あそこに安置されている聖骸をね」

「もう腐り落ちてね?」

「僕の《茨》で厳重に囲ってある。風化や腐食の心配はほぼないよ。ただ」

 

 ただ。

 

「ただ……マグヌノプス自らが出ようとしたりしていたら、話は別だけどね」

 

 

 

+ * +

 

 

 

「休暇……ですか?」

「おう。アレキ、チャル、シーロンス、ワイユー、ケン。お前ら五人は今日3月3日から4月11日まで長期休暇だ」

「ど……どうしてですか? 私達、まだやれます!」

「ん? ……ああ別に、戦力外通告とかじゃないぞ。この休みは本来年間を通してちゃんと振り分けられるものなんだけどな、アレキとチャルは毎日のように働いていただろ? で、溜まってんだよ。ひと月とちょい分の休みが。んで、このままだとシーロンスもお前らと同じ感じになりそうだから巻き添えで休ませる。ワイユーとケンは元からこの期間の長期休みを取ってた。だから期間を合わせた。他に質問は?」

 

 奇械士協会。

 そこで行われている長期休暇の説明に──納得できていない二人。

 シーロンスことアスカルティンは「休んでいながらオールドフェイス貰えるんでしょうか」なんてことを考えているばかりだけど、二人は違った。

 

「休んでいる間は戦って良いんですか?」

「ダメに決まってるだろ。まぁ突然目の前に、とかなら仕方ないが、島外作業はこの間お前らに回ってこないし、巡回のシフトからも外される」

「そんな、腕が鈍ってしまいます。お願いします、大型討伐をせめて七日に一回とか……」

「仕事中毒が過ぎるぜお前ら。良いから休んでおけ。つか、気が向いたら学校にでも行け。お前らの学校の生徒、結構戻って来てるらしいぞ」

 

 あまりのワーカーホリック具合にドン引きなケニッヒだったが、思い出したように放ったその言葉で二人の空気が変わった事を察す。

 

 下降具合に。

 

「……あー。そうか、お前らもまだ……そうだよな。今のは俺が悪かったよ」

「い……いえ。ケニッヒさん達も……そう、ですよね」

「俺はもう割り切ってるよ。仲間が死ぬ事なんてザラだった。俺は弟もお袋も機奇械怪にやられてんだ、そういう……嫌な耐性はついてる」

 

 否応なし暗くなる。

 彼がまだいるかもしれない、云々ではなく、彼ともう学校生活は送れない、という事実にずーんと。

 

 そんな二人の横で、空気を読まない*1少女がポツり──。

 

「学校。私も行ってみたいです」

「あ……そっか。アス、じゃない、シーロンスさんは行ったこと無いんだっけ」

「はい。ずっと病弱で。姉さんから話は聞いてましたけど、ちゃんと通ったのは朧げな記憶の奥底にある数回くらいで……。健康な時にはまだ一度も」

「けど、いきなり編入とかは難しい」

 

 まぁ、行ってみたい、で行けるような場所ではないのは事実だ。

 一か月の間だけ学校生活──なんて、学校側にも色々と負担がかかってしまう。

 

「……」

 

 ただ、ケニッヒは浮かない顔で。難しい顔で、苦虫を嚙み潰したような顔で、そう言いだしたアスカルティンを見る。

 そして重たい重たい口を開いた。

 

「どうかしましたか?」

「……誰が何を思ってやってんのかは、知らねえ。突き止めようと動いた事もあったが、途中で曖昧になってやがるから最後まで追い切れなかった」

「?」

「──実はな、あの学校にはまだ、フリスの席が残っている」

「え……」

「アイツは死んだって届け出は出したんだがな。何故か、いつまで経っても受理されない。されないまま、何故か行方不明者扱いにもならず、まだウチに引き籠ってる、ってことになってる」

 

 それは、怪しいを通り越して意味の分からない話だった。

 フリスの正体。彼が仮人格だった事を知っていても、そして最近使徒の存在を深く知ったアレキ達でも、彼が何故そういう位置づけに置かれているのかわからない。

 

 まさか復帰する予定でもあったというのだろうか。

 

「それで、それがどうかしたんですか?」

「できる、って話だよ。フリスの代わりにシーロンスが登校する、って事も。まぁ、なんだ。エンジェルの一件以降不登校になる生徒が多すぎたからな。事前に払われた金を考えての補填で、同じくらいの学力レベルの親戚や兄弟を通わせていいってのがあるんだ」

「ほへぇ」

「知りませんでした」

「ま、学校がそれを用意したところで、トラウマ抱えてない方の子供までまた危険に晒すのは嫌って親が多いから、あんまり使われてない制度なんだが……使えるっちゃ使える。が、シーロンス」

「はい?」

「脱がなきゃダメだ」

 

 ──静まり返る。

 アレキ達以外もガヤガヤしていた奇械士協会内部が、シン、と。

 

「ケニッヒ、浮気?」

「うおっ!? あ、アリア!? 訓練場にいたんじゃ……」

「セクハラの気配を感じて帰って来たの」

「いやそんなのしてねぇよ!」

 

 まだ静かだ。

 ざわつきは戻らない。いや、ひそひそと誰かが誰かに囁く声は増えてきたが。

 

「あーもう、天然ですか本当に!」

 

 とうとう見兼ねた、というか空気に耐えかねたランビが割って入って来る。

 

「シーロンスさん、学校通うなら、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! ただそれだけでーす!」

「ああ、なるほど」

 

 そう、アスカルティンは、シーロンスという名もそうだが、奇械士協会にいる時はまだこの"THE・怪しい格好セット"を身に着けたままだったのだ。

 政府の内通者……つまりエクセンクリンから齎された『ダムシュの正装(自分の娘に着せたい恰好)』は、流石に学校へは着ていけない。

 だから脱げ、という言葉だった。

 

「ケニッヒさんって、作戦実行時は指示とかすっごいわかりやすいのに、日常生活だと本当に言葉足らずですよね」

「い、いやわかるだろ文脈で……」

「女の子に向かっていきなりキリっとした表情で『脱がなきゃダメだ』は無いですって」

「ケニッヒ……それはダメよ」

「仮面……」

 

 騒がしさを取り戻し行く協会。

 けれど、アスカルティンの心境は複雑だった。

 

 政府が指定してきたもの。そして隠している自分の本当の名前。

 バレたらどうしよう、じゃなくて、約束を破ったらどうなってしまうのか、が怖い。

 例の消臭剤を使っているのか、現在のホワイトダナップにフリスの匂いはないまま。ケルビマか、まだ見ぬエクセンクリンに聞きに行くにしても、許可を出してくれるかどうか、会えるかどうかも微妙。

 

「良いぞ」

「えっ?」

「!?」

 

 一瞬で臨戦態勢に入れたのは、流石奇械士達、と言えるだろう。

 いつの間にか入り込んでいて、いつの間にかアスカルティンの背後にいた──ケルビマが。

 

「兄上!?」

「もうお前が姿をさらして起きる混乱もないだろう。俺が許す。奴が何を言ってきても、聞き流せばいい」

「あ、はい……ありがとうございます」

「うむ。では精進するように」

 

 そして、消える。

 転移の類ではない。ただ速く動いただけだ。

 

「……やはり、遠い……」

「あ、ケニッヒさん。許可出たので、今脱ぎますね」

 

 アレキがケルビマの遠さに歯噛みしている中で、アスカルティンは仮面をカポっと取る。

 

 ──ケルビマに落ち度があったとすれば、アスカルティンの口の軽さを侮っていた事だろう。

 

「改めまして、皆さん。私はシーロンス……ではなく、アスカルティン。アスカルティン・メクロヘリ。リンシュ姉さんの妹です。以後、お見知りおきを。あ、ちなみに九割くらい機奇械怪です」

 

 直後、奇械士協会は大混乱に包まれる。

 誤解と混乱の大混戦は、なんだか落ち込んでいるアルバートが帰ってくるまで続いたのだった。

*1
事情を知らない

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