終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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力を与えられる系一般不思議少女

 聖都アクルマキアン。

 かつて最も栄えた街であり、もっとも人口の多かった場所でもある。

 毎日のように"英雄価値"……その時々の価値ある人間が出入りし、戦士は勿論、その戦士の役に立つ職人や、戦士と一切関係ないながらも人間を成長させる芸術家など、数多の価値を見る事の出来た場所だ。

 ヘイズの居酒屋も勿論だけど、それはどこにいても同じだった。そこかしこ、街の全体が活気に満ちていて、生きる気に満ちていて……だから、気力に溢れていて。

 

 けれど今は、もう違うらしい。

 

「……ここにもある」

 

 少し溜息を吐いて見上げるのは──翼の生えた少年の銅像。

 空の神フレイメアリス。それを讃える像だ。アクルマキアンにはこういうフレイメアリスそのものの像やレリーフが各所に刻まれている。

 まぁ、当然といえば当然。少し前に僕がこの街へ神話を敷いた。面白おかしく書いた三流小説ことフレイメアリスの聖書。それまで信仰されていても詳細はわかっていなかったフレイメアリスの形がはっきりした瞬間。

 そこから今日に至るまで、様々な職人の手によりフレイメアリスは描かれてきた。

 

 ……何度も言うけど、僕はフレイメアリスじゃない。フレイメアリスは架空の神だ。著作物かもしれない。

 

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 フレイメアリスという名前がこの世界に根を下ろしたのはもっと前。もっともっと昔。

 紀元0年、空歴0年にまで遡る。ま、これも当然だよね。だって空歴って空の神フレイメアリスがこの世に出でてから今まで、って意味だし。

 

 その、架空の神フレイメアリスの名付け親が、マグヌノプスだ。

 

「……あれ?」

 

 ちょっと鬱々とした気分の中で──ふと、その建物を発見する。

 聖都アクルマキアンの雰囲気にあまりに似合わなすぎる、そぐわなすぎる、雑居ビル。これほど郊外にあるからいいものの、中心近くにあったら取り壊されていた事間違いなしなソレは。

 

「NOMANSの……え、壊されてなかったんだ」

 

 株式会社NOMANS。

 この「機械」の時代において、人類を滅ぼしたといっても過言ではない会社。その支社が、そこにあった。

 

 

 

 流石に中は調査され尽くして封鎖も為されているけれど、転移でパパっと入って……その懐かしさに浸る。

 汚れはついてしまっているけれど、家具の位置とか間取りとか、当時のままで……うん。

 

 NOMANS。人の要らない機械。

 初めはただの電化製品として、そこから段々と便利な機械類として全国にシェアされていった機械。自立機能と捕食機能、その他攻撃性のある機能の諸々を封じて世に放った機奇械怪の前身。

 今までの暮らしを一変する程の利便性と数多ある機能は文明を一気に何段階も押し上げて、貸出開始からたった51年で全国シェア100%、どころかNOMANS無しではマトモな生活が送れない、というところまで人類を堕落させた。

 

 ちなみにピオが名乗っている高級汎用給仕型人造人間(アンドロイド)もこの時期に貸し出しが開始されている。彼女自体はフレシシの増殖体だけど、使ってるメモリーチップはその頃のアンドロイドのものだ。

 多分だけど、彼女は放浪したんだと思う。自我を獲得するまでの間、自身に足りないもの……高級汎用給仕型人造人間足るための機能を探しに、全世界を。

 そうして完成した(と本人は思っている)ピオはようやく自我を獲得して、そっからまた放浪の旅。

 後に古井戸と出会って……。

 

 そうだ、古井戸。

 結局彼、なんなんだろう。"英雄価値"なのは間違いないんだけど、何か……違う感じがするんだよね。どれにも属さないというか。

 

「なんだ、地下扉は調査しきれなかったか。人間ってこういうとこ甘いよね……」

 

 床の一部を開いて、落ちるように降りる。

 外の雑居ビルにも色々置いてあったけど、あんなのダミーだ。一般社員の入る場所でしかない。

 本来はこっち。この、無駄に秘密基地風な入口と、無駄に秘密基地風な露出した骨組みと、無駄に秘密基地風な斜めにかけられたネオンの文字盤と……とにかく「凝り性が作りましたよ」感満載な区画。

 こここそが、株式会社NOMANS。あ、本拠地というか本社はエルメシアだから違うけどね。

 

「──それで」

 

 声を掛ける。

 背後にいる──背後で、僕の後頭部に銃を突き付けてきている青年に。

 

「ご挨拶じゃないか、バンキッド」

 

 前も言ったけど、こんな締め切った密室で煙草はやめた方が良いと思うよ?

 

「……誰だ、アンタ。ただのガキじゃねぇな。上位者か」

「えー。そこはわかるところだろ」

「……。……──……、……まさかフリスか?」

「そうじゃなかったら怖すぎるでしょ、こんな少年」

 

 NOMANSの社員しか知らない秘密の地下扉開けて、しっかり着地しないと普通に足の骨をやるような高さ降りてきて、なんでもないかのように話しかけてくる全く知らない人間の男の子、だったら。

 銃突きつける前に逃げた方が良いよ。多分それ人間じゃないから。

 

「フリス! おー、フリスか! お前……顔変わったな!!」

「そりゃ違う肉体だからね」

「ばっかお前……お前ー!!」

 

 地下だって言ってるのに真っ黒なサングラスつけて、顎髭トゲトゲ煙草にピアスに刈り上げタトゥーと……一応聖都、つまり神のお膝元な宗教国家で住むにはあまりに不便すぎる格好をした男。

 僕に頬ずりをして、持ち上げて、床とか壁に叩きつけたりしてるこの男。

 

「バンキッド。相変わらずだね。大本のことはまだ嫌いかい?」

「あん? ったりめぇだろ、フリスを追放しようとした奴だぜ? っつか、フリス。お前だよお前。帰って来たっつか生き返ったんなら連絡しろよ! 他の奴も呼ぶから待ってろ!」

「ああいや、今は観光で」

「お前が人間の文化に興味持つわけないだろ! まぁ座ってろって!」

 

 バンキッド。

 彼もまた、上位者だ。だけど──大本に離反した上位者、になるのかな。

 大本から生まれた端末でありながら、その考えに嫌気が差して、人間に与した上位者。あるいは人間と肩を組まずとも、上位者であることをやめた上位者。

 そもそもNOMANSとは、その集団だった。人でなしだし人ではないし、人の要らないグループ。

 だからあの時僕は怒ったんだ。人間がNOMANSを騙ることは悪い、ってね。

 

 上位者をやめた上位者。

 けれどそれは勿論、何のデメリットもなく、とは行かない。

 上位者たちのほとんどは気付いていないけど、彼らはしっかり大本からの制御を受けている。制御内容はとてもシンプルに一つ。「己が上位者であることを疑わないこと」。

 どんな人間の記憶の入力を受けても、他の上位者の記憶を引き継いでも、新しく生まれても。

 上位者が自身を上位者だと思う理由は、これがあるからだ。これがあるから、強い記憶に塗り潰されないでいられる。

 

 端末は結局端末でしかないからね。念動力の強弱にもバラつきが出るし、思考や嗜好もバラバラだ。だからこその見えない縛り。それ以外の干渉はされないから、実質ないようなものではあるけどね。

 

「とりあえず六人には連絡した。あ、ヘイズとメディスンは呼んでないが、いいよな?」

「いいよ。ヘイズには会ってきたし、メディスンは……面倒だし。アントニオとか絶対呼ばないでね」

「呼ぶかよあんな奴」

 

 酷い言われようだ。

 可哀想にアントニオ。可哀想だとも思わないよ。

 

「しかし、どういう風の吹きまわしだ? あんときお前が死んでから……俺達ずっとお前の事探してたんだぜ?」

「大本にコンタクトしに行けば一発でわかっただろうけど、ホワイトダナップにいたよ」

「あー、あれな。あそこは流石にわかんねーわ。エクセンクリンの目が光り輝いてるしよ、俺ら乗せてもらえねーんだわ」

「彼と君達は気が合わないだろうね……」

 

 追加でケルビマも。

 規律のキの字も知らないNOMANSでは、ケルビマの許容範囲に収まらないだろう。

 

「君達こそ、今まで何を?」

「何をって……そりゃ準備だよ」

「準備?」

「あぁ、マグヌノプスの旦那が来てな、もうすぐ戦争を始めるから用意しておけ、って……」

 

 ──どうやら、全部後手に回っているらしい。

 お休み期間にしたかったんだけど、そうはいかないようだ。ヘイズの言ってた見たことの無い機奇械怪やあの少女、そして戦争の準備。

 

「あ、悪ィ、フリスとマグヌノプスの旦那は……アレがあったか」

「いや、いいよ。それで、マグヌノプスは何故戦争なんか? というかアイツ今どこに?」

「あー……っと、確か今回の時代はいつもより早く終わるから、『徹底抗戦と行こうじゃないか』とか言ってたはずだぜ。どこにいるかは知らねえ、いつもみたいに『少し出てくる』って言ったきり四日は帰って来てねぇな」

 

 バレている。

 チャル達のために人類をもっと衰退させんと、やる必要が無いくらい派手にやってきているのがバレている。

 別にラグナ・マリアを壊滅させる必要はなかった。だけど、復旧を難しくさせて、且つリンゴバーユとジュナフィス以外の上位者を摘み取って。

 再建邂逅だって別に残しておいてもよかった。トーメリーサが面白そうだったから手を貸したけど、残っていても問題ない国だった。

 それの両方を消したのは、偏にチャル達へ負担をかけるためだ。

 僕は無計画だけどね、無計画にチャルの"英雄価値"を高めようとはしているんだよ。彼女なら必ず機奇械怪に都合の良い入力をしてくれるはずだから。

 

 ただ、それもマグヌノプスの掌の上……というか見抜かれていることだとすれば。

 

 ……。

 じゃあ、もっとやる?

 

「フリス?」

「バンキッド」

「お、おう。なんだよ……ちょっと雰囲気怖いぞ、お前」

「マグヌノプスの戦争相手は、聞いているかな」

「あー……いや、聞いてねぇな。知らねえ」

「その反応で十分だ」

 

 掴む。

 かつて苦楽を共にした仲間を。騙られて怒るほどには思い入れのあった仲間を──念動力で掴む。

 

「ち、違ぇんだ、フリス! 俺はお前がホワイトダナップに配置されてたなんて知らなくて……」

「でも今、そう知って、嘘を吐いた。君は知っていたね。マグヌノプスが戦争を仕掛けるその先が、ホワイトダナップだ、って」

「し、知ってたけど、それ言ったらフリスは止めるだろ、だから」

「だから──なんだ」

 

 だからなんだ。

 僕が止めると思ったから、僕に嘘を吐いたって?

 それはつまり、僕に内緒で僕の実験場を壊しにかかるつもりだったと、そういう吐露をしたことになるけど。

 

「バンキッド、助けにき、ぐ!?」

「チッ、もう気付かれてたか! おい、レンバ、ギングランド! 逃げろ、フリスに勘付かれた!」

「逃がすワケないだろ」

 

 ああ。

 ああ、悲しい。とても悲しいよ僕は。

 

 そこまで。

 そこまで──なめられていたか。まったく、君達は僕を何だと思っているんだ。

 

「ま、待って、フリス。アタシとアナタの仲じゃない。またオトコノコやオンナノコについてあつーい話を」

「くそ、化け物め……俺達の力を完全に上回って……!」

 

 ビーゴッシュ。パケラフィズス。上階にいるレンバとギングランド。

 バンキッドが助けを乞うたのは後二人か。流石に感知範囲には入ってこなそうだね。

 

「殺しはしない。戻ってしまうからね」

「──ホワイトダナップは安全すぎる! バランスが悪いんだよ、気付け! お前のその選民思想じゃいつまで経っても進化なんて──」

「殺しはしないが、変わってもらう」

 

 ずっと喚いていたパケラフィズスに、ラグナ・マリアで手に入れた上位者の一人の記憶や感情を入力する。それはずっと、僕の中で変質し続けていたもの。

 僕はこれをオーキストと呼んでいる。

 

「パケラフィズス! ちょっと、酷いじゃないフリス! アタシ達仲間でしょ!?」

「先に裏切ったのはそっちだろ。何をされたかは知らないけど、簡単に寝返って、馬鹿みたいだ。君達に少しでも恩義を覚えていた僕がね」

「……そんなの、ちっとも覚えてないクセに」

「あはは、バレた?」

 

 強面のビーゴッシュにも同じことを。二人ともガクンと頭を垂れて、沈黙する。

 今情報の処理中だろうね。

 

 して、バンキッドに向き直れば。

 

「……悪い」

「悪いと思うなら、最初からしなければいいのに」

「俺はお前を……仲間だと思ってた。けど、そうだったな、フリス。最初に……言われたよな」

 

 それはNOMANSとして集まった僕らが、各々の自己紹介をしたときの事。

 如何に上位者といえど、互いの全てを知っているわけではない。況してや大本から切り離されていれば情報の更新がされない。だからこその自己紹介で、僕は言った。

 包み隠さずに。

 

「『僕の名はフリス。君達上位者とは少し違う存在だけど、仲良くしてくれると嬉しいかな』。……懐かしい話だよ。君達はそれでもちゃんと、本当にちゃんと、僕を受け入れてくれていたのにね」

「信じてくれ。俺は本当にお前を……拒絶したわけじゃねえ。お前が他のトコに所属してたら、配置されてたら……また一緒に馬鹿やりたかった」

「それは考えるのも無駄な可能性だね。何故って、マグヌノプスがホワイトダナップを狙ったのは僕がいるからだ。ホワイトダナップが安全だ、とか、選民思想がどうの、とかは後付けだと思うよ。君達にホワイトダナップを狙わせることを納得させるための理由付け」

 

 上階のレンバとギングランドにも同じようにオーキストを注入する。

 徹底抗戦だって?

 こっちのセリフだよ、マグヌノプス。

 

「ん……お? おい……なんで俺掴まれてんだ。フリスだろ、この感じ」

「あらやだ、なにこれ放置プレイ? しかも緊縛だなんて……興奮しちゃう!」

「ああゴメン、今放すよ」

 

 処理が終わったのだろう、二人の意識が戻る。

 戻ってみれば。

 

「フリス、いつの間に帰って来てたんだ。久しぶりじゃねーの」

「あら、バンキッド何してるのそんなところで縮こまっちゃって」

「……パケラフィズス、ビーゴッシュ。お前ら……どうしちまったんだ……? 記憶、いや認識が……」

「二人とも、上でレンバとギングランドが倒れてると思うから、引っ張って来てくれる? さっきサプライズとか言って突然飛び出してきたから、思わず念動力で殴っちゃったんだよね」

「お前さぁフリス! 突然のことに対してすぐ手出すのやめろよ! お前の念動力あぶねーんだって!」

「手じゃないし」

「屁理屈王か!?」

 

 あはは、なんて言って。

 二人を見送る。

 

「君も、ああなるんだよ、バンキッド」

「……忘れる、のか。どこまで……」

「疑えなくなるだけだよ。僕の事を。悪い奴だと思えなくなる。だって当然だろ? 僕は疑わしい奴でも、悪い奴でもないんだから──冤罪をかけられたらたまったもんじゃない」

「マグヌノプス! マグヌノプスの──居場所を、知っている!!」

「だろうね、嘘吐き君。四日前というのも嘘だ。本当は昨日までここにいた。──でも、安心して良いよ」

 

 ああ──悪くはない。

 崩れていく。僕の中の、珍しくいい思い出に分類されるものが、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

「お望み通り戦争を起こそう。ただし」

 

 ──君達上位者も巻き込まれるような、ね?

 

 

 

 

 二週間後。

 

「やぁヘイズ。子供は元気になったかい?」

「あ?」

 

 色々と殲滅したり下準備をしたり無計画をしたりしていたら、ヘイズとの約束の日まで一瞬で過ぎた。それに気付いてそれはもう意気揚々とヘイズの居酒屋に訪れてみたら。

 

 年端も行かない少女を抱いて、身体を揺らす──スキンヘッドな強面男。

 

「──この国って警察機構とかあったっけ」

「おいおい待て待て、一回会ったことあるだろ! この店の店番してるマリクだ!」

「マリク? 余計に知らないな。あーこの国警察じゃなくて憲兵なのか。じゃあその辺の門の横とかに……」

「リッキーだリッキー! 昼間の店番のリッキー!」

「……ああ!」

 

 あの凡夫か。

 もう、やめてほしいな。ただでさえスキンヘッドな人間って見分けがつき難いのに、名前まで変えられたらわかんないって。

 

「マリク、うるさい」

「あぁ? ……あーわかった、わかったよ。耳元で叫んで悪かった」

「うん」

 

 あ、そっか。

 ヘイズは夜しかいないんだっけ。前は昼間からずっといたから、その時の癖が抜け切れてないねー。

 

「誰?」

「ああ、気にしないで。僕君に興味ないから」

「おいなんてコト言いやがる。挨拶は基本だぞガキ」

「名前も知らない客相手にガキなんて事言う奴がいるとはね、ハゲ」

「ンだと!?」

「マリク、うるさい」

 

 マグヌノプスが身代わりにしていた子供、というだけで、少しばかり言葉に棘が出てしまう。

 ……サイキックは感じられない。上位者でもない。

 本当に普通の子供……?

 

「スファニア・ドルミル」

「……」

「名前。教えろ、ガキ」

「──」

「ああ、悪ィな。なんせ先生役が俺とヘイズの旦那しかいねェんだ、口は悪くなるさ」

 

 ……。

 ふぅ。落ち着け僕。別になんでもない凡夫だ。マグヌノプスですらない。

 

「フリスだよ」

「そうか。よろしくなアイメリア」

 

 ──。

 ……なんだって?

 

「スファニア、それはダメだ。名乗ってもらったんだ、それはちゃんと呼ばねえと。つか誰だよアイメリア」

「? だがそう名乗った」

「耳クソ詰まってんのか? あとで掃除してやるよ。いいか? このガキはフリスって言ったんだ。フリス。わかるか?」

「フリス。覚えた。俺の名も覚えろフリス」

 

 警戒度を引き上げる。やはり普通の子供じゃない。

 何か持っているな。チャルのものに似た、見抜く力。

 

 ……いや、そうか。だからアルバートも……。

 マグヌノプスに関係がある人間はみんな、妙に鋭い。そんな気がする。

 

「君の名を覚える必要があるとは思えないかな」

「あ、おいコラ! お前もお前でちゃんと会話ってもんをしろ! 名乗って名乗られて、名前教えあったら呼び合うんだよ! ったく、どんな教育受けて来たんだか……」

「僕に親や家族という存在はいないよ」

「……そうか。それはすまねぇ。ヤな事言ったな」

「俺もいない。気付いたらヘイズとマリクの子だった」

「おいやめろ、その言い方。まるで俺とヘイズの旦那が番ってるみてぇだろうが! あと俺、もやめろ!」

「じゃあお前もやめろマリク」

「俺はいいんだよ!!」

 

 何を見せられているんだ。

 ああ、早く帰ってこないかな、ヘイズ。今日は大事な報告があって来たのに。

 

「おい、フリス。とりあえずなんか頼め。客以外は受け付けてねーんだ」

「馬鹿お前、スファニア! こいつはヘイズの旦那の客なんだよ、こいつはいいんだよ!!」

「特別扱いはダメだ。前例を作っちまったらなし崩しに支払いがツケになる」

「言ったけど! それは言ったけど! 今はそうじゃねぇっつってんだよ!」

 

 スファニア・ドルミル。

 このマリクという男はともかく、凡夫……に見えるけど、多分そうじゃないんだろう。チャルだって最初は凡人に見えていた。オルクスを手にしてから一気に覚醒したんだ。

 僕が"英雄価値"を見定めるには、そういう場面に直面してもらわないといけない。

 

 食指が動く。

 無計画が鎌首をもたげる。

 絶対に、絶対にやる必要が無い。今まさに警戒した相手にやることじゃない。

 

 だというのに──気付けば口を開いていた。

 

「スファニア・ドルミル」

「なんだ、アイメリア・フリス」

「君さ、戦闘に……戦いに、興味はあるかな」

 

 外で。

 店の外で、悲鳴が響き渡る。

 

 何事かとマリクが裏口から出ていく中で、僕とスファニア・ドルミルは向かい合って。

 

「戦い」

「そう、戦いだ。何かを倒す、何かを殺す、何かを守る、何かを為す。そのためには戦いが必要だ。君はそれに対し、興味を持つだろうか」

「……俺が、戦うのか。誰と? 何と?」

「なんだと思う?」

 

 珍しい。

 食指が動いたとはいえ、僕がこんなにも……穏やかに。

 凡夫。マグヌノプスの身代わり。明らかに警戒すべき、そして唾棄すべき価値なき者に対し、優しい声で問いかける。

 

「もう一度問うよ、スファニア・ドルミル。君は、今。何も覚えていない、自分というものが確立していない君は、今。──力を欲すだろうか」

「要らないなら貰う」

「……──あはは、いいよ。あげる」

 

 マリクもいないんだ、見せてあげてもいいだろう。

 さぁさ、手の中に集まっていくは光。《茨》は形を変え、色を変え、強い個となってそこに織られていく。同じ、同じだ。

 チャルの時のオルクスと、アレキにあげたテルミヌスと。

 

 それは──。

 

「……槍?」

「名を、カイルス。大きいけど、軽いから持ってみるといい」

 

 カウンターに置いた、巨大な突撃槍(チャージランス)

 スファニアはその柄を持ち──ひょい、と持ち上げる。

 

「おお」

「君以外が持つと重いから気を付けてね」

「意味が分からん」

「あはは、だろうね。君如きに理解できる代物ではないよ」

「それで、外のを殺せばいいか、アイメリア」

「できるのならやってみるといい。僕は君を全く信じていないけど、もしかしたらできるかもしれない」

「わかった」

 

 わかった、と言って。

 ヘイズの居酒屋を出ていくスファニア。

 

 さてさて、僕が呼び込んだ飛行形態の機奇械怪三万と、ミケルの新作オーダー種二体。

 特別な武器を持っただけの凡人に捌ききれるか。

 

 捌ききったのなら──その時は君を英雄とでも呼ぼうかな。

 

 

+ * +

 

 

「えーと、ミナミ・ホシゾラさん」

「ミナミだけでいいってー」

「ミナミさん」

「うん。なぁに、アスカルティンさん」

「昨日は申し訳ありませんでした。折角貸して頂いた運動着を……破ってしまって。こちら、弁償金になります」

「うん、ありがとう。貰っておくね。それじゃ、この件は終わり! だから変に罪悪感とか覚えなくていいからね!」

 

 とか。

 

「あのー、クルールさん」

「あ、なに? アスカルティンちゃんも混ざる?」

「あ、いえ、私が混ざると怪我をさせてしまうので……そうではなく、昨日の、」

「昨日? ……あ! 高い高い事件のこと!?」

「あ、う、やっぱり事件ですよね……」

「あははっ、いいっていいって! あの時はびっくりして泣いちゃったけど、よく考えたら奇械士の人って身体能力凄いもんね。むしろ思い返したたら面白くて、もっかいやってほしいかも!」

「も、もう一回ですか? 構いませんけど……」

「やた!」

 

 とか。

 

「──逃げろ、アスカルティンのシュートはやべぇぞ!!」

「止める──止めてみせボファ!?」

「馬鹿、止められるわけねーだろ! 大丈夫か!? 死んでないか!? 救護班、救護班──!」

「……運動着の、アスカルティン……良い、な……」

「保健室、やっぱいいわ。その辺に捨てておけよコイツ」

 

 とか。

 

 

「……はぁ」

「あはは、難しいよね、力加減……」

「私も最近、手加減しないと……危なくなってきた」

 

 木陰で休む三人。

 教科書での勉強だけでなく、身体を動かす体育も採用しているこの学校で、しかしアスカルティンは苦戦していた。

 

 手加減。

 それがあまりにも難しいのだ。例えるなら、カップ目前でドライバーを使わされ続けているような──なんて例えは、ゴルフという文化の一切が消え去ったホワイトダナップでは伝わらないのだが。

 

 アスカルティンは機奇械怪だ。もう九割どころじゃない、99%機奇械怪だ。

 そして、機奇械怪に手加減をする、という機能は無い。捕食対象を殺さずに取り込む時に多少の緩急はつけるが、常に加減をして動く、という事が無い。

 一瞬そういう機能を獲得する事も考えたが──それをすると、今度は奇械士の仕事の方に影響が出そうだとやめた。

 

「体育、なしにしてもらう?」

「そう、ですね……その方が良い気がしてきました。皆さんにずっと迷惑をかけてますし……」

「案外みんな楽しんでる気がするけど」

「男子とか、アスカルティンさん対策委員会とか組んで真剣に話し合ってるもんね……」

「もうそれ討伐対象と同じじゃないですか……」

 

 初めの一週間で、アスカルティンは全教育課程にある勉強の全てを覚えた。難しい、量が多いと言っていたのは、あの短時間で膨大なその全てを覚えようとしていたがためだったのだ。そして実際に覚えて、賢いアスカルティンになった。

 ならば次はと体育系を取って──今挫折している。

 

「ちなみに聞くけど、今って最高どれくらいの力が出せる?」

「どれくらい、とは」

「たとえば、ホワイトダナップを動かしたり……」

「オールドフェイスがあれば可能かと。通常状態だと……東西南北の区画をどれか一つ壊滅させる、くらいでしょうか」

「一撃で?」

「一撃で」

 

 アスカルティンは日々進化している。

 詳細を知れば、ケルビマもフリスも驚く事だろう。オールドフェイスからの効率的なエネルギー吸収を覚えた彼女は、全身の駆動系に対しても同じ操作を行った。また、非戦闘時に消費しなくなる余剰エネルギーを溜め込むタンクを作り出し、打撃の瞬間にそのエネルギーを用いて威力を上げる、などという新たな戦術も編み出している。

 フレシシに教えられたわけでも、ガロウズに教えられたわけでもない。 

 上位者からインスピレーションを受けたわけでもない。ただ自分で、爆速の進化を行い続けている。

 

 アスカルティンはもう、大型機奇械怪と同じか──否、それ以上の域にあるといえるだろう。

 

 そんなのが普通の学校で体育をやっている、など。 

 死人が出ないのは、偏にアスカルティンが全力の手加減をしているおかげである。

 

「……怖くて聞けてなかったんだけどさ」

「はい?」

「アスカルティンさん、学校、楽しい?」

「え? あ、はい。すごく楽しいです。新鮮ですし、まぁ体育は今困ってますけど、それ以外の色々が面白いです。芸術系とか、多分学校来てなかったら一生触れてなかったと思います」

「それはよかった。私も心配だったから」

「あ、ごめんなさい。心配かけちゃってましたか」

「ううん、楽しいなら良いんだ。それじゃ」

 

 立ち上がる三人。

 ちょっと気分が悪くて、なんて言って抜けてきていた体育に、復帰する。

 

 ──その時チャルが言った言葉が、アスカルティンの耳に強く残った。

 

「そろそろ反撃開始──ってね」

「え?」

「え? じゃない。あなたが気遣って全然投げないから、ドッジボール、逆に負けそうなんだから。気を引き締めて」

「あ……はい。全力で行きます」

「全力はダメ! みんな死んじゃう!」

 

 もう、さっきの言葉なんて覚えていない。

 風に吹かれて消えて行ったから。

 

 だけど──世界は、確実に。

 




TIPS 抜粋登場人物表


名前所属状態
上位者
フリスホワイトダナップ健常
ケルビマホワイトダナップ変質
エクセンクリンホワイトダナップ変質
チトセラグナ・マリアオーキスト
ロンラウ再建邂逅→放浪健常
ヘイズアクルマキアン健常
奇械士(メクステック)
チャルホワイトダナップ健常
アレキホワイトダナップ健常
アルバートホワイトダナップ残滓
ケニッヒホワイトダナップ成長
アリアホワイトダナップ成長
詳細不明
メーデーホワイトダナップ死亡?
アスカルティンホワイトダナップ成長
マグヌノプス??????
スファニア??????
機奇械怪(メクサシネス)
キューピッドフレメア残骸
アモルフレメア残骸
フレシシホワイトダナップ良好
ガロウズホワイトダナップ良好
その他
ヒースリーフホワイトダナップ恐怖
オサフネホワイトダナップ酩酊
ダッグズホワイトダナップ修羅場
エリナラグナ・マリア再生
 
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