終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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封印される系一般上位者

 機械の翼が煌めき、輝く粉が降り注ぐ。

 融合ハンター種『フレスベルグ』。奇怪な鳴き声を上げて飛行・強襲・捕食を繰り返す様子は、まさに捕食者、強者そのもの。

 空は我がものであると言わんばかりに飛び回り、歴史ある建造物も誰かの思い出の詰まった家々も、なにもかもを破壊していく。広い広いアクルマキアンを更地に帰すが如く、破壊行為を繰り返す。

 それに追従するは無数の基本ハンター種が飛行形態の機奇械怪達。イグルスやホークスなどを始めとした、一体一体では弱いとさえ言われてしまうだろう機奇械怪が、万を超える数で飛来する。

 如何に弱いと言えど、それは奇械士をして、だ。

 戦う術を持たない一般市民にとって、機奇械怪は機奇械怪であるだけで脅威。況してや小型となれば、自らの小さな動力炉にソレを詰めるために、丸呑みではなく啄みを選択する。

 

 被害は既に甚大。襲撃からまだ数十分ほどしか経っていないのに、だ。

 ──あるいは、滅亡した再建邂逅ならば……こちらには対応できたのやもしれないが。

 

「遠隔攻撃できる奴は狙いとかどうでもいいから撃ち続けろ! 撃てば当たる! こんだけいるんだ、余計なコト考えんな!」

「近接班は民の保護、及び避難所の確保だ! 急げ!」

「簡易でいい、鉄を扱える者はいるか!? 補給部隊に組み込みたい!」

 

 地上で騒いでいるのは奇械士達だ。

 それぞれの武器を以て、それぞれの役割を以て、右へ左へ東へ西へ、奔走を続けている。

 ただ──圧倒的な、人手不足。 

 三万と二体の機奇械怪に対し、奇械士がアクルマキアン全域を見ても千人いるかいないか。流石にこの規模の国となれば各所に支部を持ち、それらが百人前後を保有しているから、指揮系統はちゃんとしている。それぞれの支部の長たる奇械士が、あるいは連携を取れる奇械士が率先してリーダーを担い、的確な指示を飛ばし続ける。

 そしてその中には、彼もいた。

 

「チッ……こういうコトやんのは絶対アイツだが……俺ンとこにまで手ぇ出すってことは、相当切羽詰まってんな……マグヌノプス関連か」

「ヘイズさん! 僕達はどうしますか!?」

「でけぇのを叩く! あの鳥……じゃねぇな。どっかにいるはずだ! 戦場を俯瞰してる、何もしてねぇ機奇械怪が! ソイツがオーダー種で、それが全体に指示出してる! 上を撃ち落しながらそれを探せ!」

「了解!」

 

 ヘイズ・イシイ。

 上位者である彼にとって機奇械怪の襲撃などどうでもいい事だが、驚く事に今の彼は念動力の大半を失っている。使い方を忘れた、などとフリスには言ったけれど、そんなのはちょけただけだ。

 本当は違う事に使っていた。だからほとんど使えなかった。

 

「やべぇな、アイツ……本気だ。こんな()()()、一瞬で止めねえと後が続かねえ」

「ヘイズ!」

「あん? ……バンキッド? それに、レンバとビーゴッシュ……」

 

 混迷に落ちたアクルマキアンで、ヘイズに声を掛ける者。

 即ち上位者の一人、バンキッドが、その後ろにも上位者が。

 

 ああ、けれど。

 

「ちっとばかし協力しよう──ぜ?」

「バンキッド!? ちょっと、ヘイズ、トチ狂ったわね!?」

 

 その雰囲気で悟った。

 ヘイズは己が武器である双頭槍を用い、バンキッドを両断する。

 同じ上位者。不壊であるはずの彼を、ただの一撃で。

 

「うるせぇ。トチ狂ってんのはお前らだろうが。実験場荒らされてんだぞ、人間の保護にも動かねえで、俺に武器を向けてくる奴を同類だなんて思えるか」

「隙あ、」

「無ぇよ、馬鹿」

 

 いつの間にか背後に回っていたレンバという少年も、槍で両断する。

 今の彼には、武器に纏わせる程度しか念動力が残されていない。

 

 十分だった。

 

「この世に生まれ出でて早1755年──お前らみてぇなひよっこに負ける程弱っちゃいねぇぞ、俺は」

「……!」

 

 ヘイズ・イシイ。

 あの彼が古い付き合いというだけあって──端末としてこの世にあり続けた暦は、非常に長い。

 バランサー。そして鎮静側。

 なればクラウン足る上位者の"やらかし"を止めるだけの技量が揃っている。

 

「ハハッ、まぁ、フリスの奴とは一度やってみたかったんだ。"最悪端末"。なまじ気があっちまったもんだから、敵対する機会が無くてな。良い機会だって思えるぜ」

「アナタ……まさか、ワタシ達がどうなっているのかも」

「知らねえよ。知らねえし興味無ぇ。上位者なんか観察したって意味ねぇんだよ。が、死にたくねえって言うんならとっとと逃げな。俺にしてやれるのは、素早く殺してリセットしてやることくらいだ」

 

 一人残ったビーゴッシュが──拳を握りしめる。

 

 その瞬間、彼の身体は両断されていた。

 

「嘘だよ。お前ら残しといたって何の益にもなりゃしねぇんだ。人間を害し、観察結果に無駄なノイズを増やす邪魔者は殺すに限る」

「……性格が、悪……い……」

「ハハッ、死にたがってる奴殺して何が悪い。大方フリスに何かされたんだろ。仲良く大本のもとに戻って、直ってきな。ま、その時には離反心も消えてるだろうが」

 

 上位者のスペックは上振れ下振れはあれど、大体が同一だ。

 差が付くとしたら、製造後の入力。武人系、職人系、芸術系と様々な"英雄"が存在し、それらが死する時、その記憶を入力として変換、欲す、あるいは必要な上位者に入力する。そうやって上位者は差別化されていくし、強くなっていく。

 

「──聖都アクルマキアン。ここが聖都と呼ばれる前から、首都と呼ばれる前から、アクルマキアンと呼ばれる前から──俺はここにいたんだぞ。この国の歴史が、全てが。俺の中にある」

 

 ヘイズ・イシイ。

 彼はこの巨大な国を実験場とする上位者だ。

 そして、この国で生まれ、この国で死んでいった"英雄"、その全ての入力を受け入れ続けている存在でもある。

 

 文字通り経験値が違う。レベルが違う。

 

「だからオーダー種がお前なのもわかってる」

「──あぇ?」

 

 首と動力炉を突き刺すは、先程ヘイズに指示を求めた奇械士。

 ()()()()()()()()にノイズを滲ませて──絶命した。

 

「光学迷彩。200年前に戻った気分だな」

「ありゃ、お気に召さなかったかい? まぁ新しさはないよね。彼は新しいと思っているようだったから、特に何も言わずに投入してみたけれど」

 

 振るわれる槍は、少年の直前で止まる。

 念動力同士のぶつかり合い──しかしぶつかり合ったのは一瞬だけ。すぐに互いに力を解いて。

 

「こういうことやらないって言ってたじゃねーかよ」

「あはは、ごめんごめん。マグヌノプスが思ったよりも深くまで入り込んでいてね。ついカッとなってやっちゃった」

「だろうと思ったぜ。……ま、実験はまたやり直せばいい。だが一個聞かせろ」

「なんだい?」

「あいつ……スファニアはどうした? さっき店を見たが、いなかった」

 

 先程の三人に対峙した時とは違って、宥和な会話。

 周囲では未だ悲鳴が響き、肉が弾け血が飛んで、機械が砕けて建物が割れているのに──二人はまるで、カウンターで酒を酌み交わしているかのような雰囲気で話し合う。

 

「ああ、彼女なら、ほらあそこ」

「あそこ……? ……おお、なんだありゃ」

「ちょっと面白そうだったから、武器を渡してみたんだよ。そしたら、思いのほか物凄いセンスでさ。もうモードを使いこなしてる」

 

 フリスの指差す先に、それはいた。

 自身の身体の半分以上を隠す槍。突撃槍カイルス。

 それを持って──()()()()()()()()

 

「……マリクは?」

「彼なら死んだよ。外の悲鳴に何事かって出て行って、そのまま機奇械怪にね。──だから、せめても、って思って……アレにした」

「あぁ、やっぱりか」

 

 アレ。

 指は差したまま。だから、つまり。

 

「ま、いいや。それで? この思いつきな無計画大襲撃は、最終的に何が目的なんだ? いつも通り目的なんかねぇのか?」

「聖都アクルマキアンの壊滅及びマグヌノプスの炙り出し。マグヌノプスがのこのこ出てくるならこれらを停止させるのも吝かではないよ」

「あー、別に良いんじゃね? 俺も、この前言ってた違う実験がちょっと気になり始めてるしな。マグヌノプスが出てくるかどうかは知らねえが、この国にそこまで固執するモンは無い」

「英雄は凡人二人から生まれるんじゃなかったのかい?」

「凡人なんかいくらでもいるだろ。そりゃ凡人がゼロ人になっちまうような事するんだったら俺も全力で止めるけど、アクルマキアン一つ滅びる程度でやいのやいの言わねえよ。事態の鎮静は計るがな」

「あはは、うん、君ならそう言ってくれると思っていた、」

「だが」

 

 宥和に、柔和に終わりそうだった話し合いは、けれど。 

 

「一個だけ、お前にとってヤバい情報がある。──聞きたいか?」

()()()()()。サプライズの方が面白い。それがどれだけ僕にとって致命的でもね」

「……いいねぇ、お前のそういうとこ好きだぜ、俺。んじゃ、俺はこの機奇械怪共殺してくるが、いいんだよな?」

「勿論。というか君達バランサーが協力しないと多分すぐ終わっちゃうよ。君も気付いているだろう、これが単なる一波目だ、って」

「おうよ。んじゃあな、フリス。精々見てな、俺の活躍を」

「昔の君なら念動力で全体を叩き伏せていただろうに……」

「うるせー! 使えねーもんは使えねーんだよ!」

 

 笑顔でヘイズを見送るフリス。

 真っ黒な空を切り裂く二つの槍。基本ハンター種たち。

 

 その残骸でフリスが見えなくなっていく中で、ヘイズは通信機を起動させる。

 

「メディスン、状況は?」

『最悪の一言だ。旧き友人の力を見くびっていたのだろう。こちらの宣言を受け付けぬ機械に、この聖都全域が悲鳴を上げている。あぁ、運命よ。どうして我らに枷を課す』

「んじゃあ朗報だ。通信回線開きな。あぁコレの事じゃねえ、念波だ。あんま使う機会ねぇから使い方忘れてなければいいが」

『誰に開く?』

「エクセンクリン」

 

 武人系の入力を受けた上位者は、主に透過のサイキックを使う。転移、念動力といった基本のサイキックのほかに、追加で使える……使いやすいサイキック、というものがあるのだ。

 そしてそれは、職人系や芸術系といった内勤の上位者にしても同じ。

 世界中を飛び回るホワイトダナップ以外、滅多なことでは遠方との連絡など取らない──取る意味が無い──ために使う者の少ないサイキック。

 

 それが念波。念話、テレパシーなどと言ったりもするだろうか。

 またこれも、他の上位者から日がな送られてきたら面倒なので、相手を選んで回線を開いていなければ届かない。化け物のような念動力を用いて無理矢理回線を開かせることはできるけれど、それをするにはできるだけ近くにいなければならないし、そんなに近いなら直接乗り込んで話した方が良い。

 しいて言えば近くにいながら内緒話をするのに向いている──そんな、ちょっと使いづらいサイキック。

 

「さぁてこれは、誰にとってのクリティカルになるか」

 

 ニヤリと笑って。

 ヘイズは、空に作られた機奇械怪の海に向かって突撃した。

 

 

+ * +

 

 

 少し、考える。

 

 ミケルのことだ。彼は昨日、キラキラした笑顔で最新作を渡してきた。

 それは光学迷彩──音の相殺で足音まで消せる光学迷彩の発生装置。その後に送られてきたのは、動力炉の要らないチェーンソーとホイールソー。

 瞬関冷却装置、加熱装置。酸性の動力液を自在に操るための極小機奇械怪。

 

「……ネタ切れ、になるのかなぁ」

 

 溜め息。

 ミケルのアイデアは新しい。良い"英雄価値"だ。

 だけど──圧倒的に知識が足りない。いや、この時代の人間を考えれば、恐らく最高峰の知識の持ち主であるのは間違いない。

 だけど。だけど。

 

 そんなの全部NOMANSが作ってたよ、っていう。まぁ動力炉関係は違うけどさ。

 

 技術の堂々巡りとでも言えばいいか、機奇械怪を自由に改造させて、辿り着いたのがNOMANSって……なんか、機械という技術の限界を感じる。

 これで僕がアイデア渡すのはまた話が違ってくるしなぁ。

 

 ミケル・レンデバラン。

 紛う方なき天才だ。それは間違いない。アリア・クリッスリルグとの関係性は未だよくわかっていないが、もし兄妹や近しい親戚なのだとしたら、ヘイズの研究にも役立ちそうではある。そういう利用価値はある。

 あるけど……もし。もしも、この後今後に送られて来る機奇械怪が……全部既知だったら。

 

 もう、要らないかなぁ。

 

「機奇械怪もだけど、人間も中々次のステージに進まないよね」

「──それは貴様が閉じ込めているからだ、アイメリア」

 

 顔を上げる。

 そこに、巨大な大砲を担いだ、隻眼の老人がいた。銀色を揺らめかせる瞳。

 

「なんだ、アクルマキアンが恋しくなったのかい? わざわざのこのこと姿を現すなんて」

「くだらない勘違いはよせ。──我が貴様の前に出てくる。その目的が、貴様を殺す事でなかったことがあったか?」

「あったよ。君と初めて出会った時は、君に殺意は無かった」

 

 顔。顔面に、大砲が付きつけられる。

 あはは、それ携帯ロケットランチャーとかじゃないじゃん。普通に設置する用の大砲を担いでって、やっぱり馬鹿なのは変わってないんだなぁ。

 

「ふん、あの時貴様と出会ったのは我が生最大の汚点だな」

「そうだね。僕もあの時君に出会ってしまった、その事を後悔しなかった日はないよ」

「心にもない事を」

「お互い様だろう」

 

 老人。

 とんでもない。彼は、どのような姿をしていようとも関係ない。

 確実に封印した。殺せなくて封印した。それがまさか別人に憑依していようとは。違うものになっていようとは。

 

「マグヌノプス」

「アイメリア・フリス」

 

 マグヌノプス(集大成)を意味に持つ名をした、僕の敵。

 ここに戦争が始まる。戦端が開かれる。

 

「今度こそ貴様を殺し、この星を癒す」

「今度こそ君を殺し、この星を貰うよ」

 

 爆発が起きる──。

 

 

 

 駆ける。

 飛ぶ。

 半壊したアクルマキアンの街並みの、その屋根の上を。

 

「何を思って普通の砲弾なんか持ち出したんだい? 僕にそれが効かないなんてわかりきっているじゃないか」

「問題ない。作戦通りだ」

「そうかい──じゃあ、その作戦とやらごと、潰してあげるよ」

 

 念動力を解放する。

 それは円形。それは球形。全てを圧し潰す念動力は、マグヌノプスを弾き飛ばし、アクルマキアンの街並みをも削り取っていく。中に人間がいようが、空に機奇械怪がいようが関係ない。

 突如アクルマキアンに出現した空白の球体は、その周囲のあらゆるものを圧し潰し、殺した。

 

「──おいフリス!」

「ん? あ、ヘイズ。そこで何やってるんだい?」

「普通に救助活動だよ! で! お前のソレで、大衆浴場の一部が崩壊した! わかってんだろうな、あんまり地上付近で戦うと──」

「ああ、そうだったね。忠告ありがとう」

「おう!」

 

 そうだ、そうだった。

 地下大聖堂を壊すのは避けたい。マグヌノプスを封印するには足らなかったけれど、まだ調査が終わっていないし、アレは他に使い道があるし。

 

「二撃目」

「──おっと」

「ふん、避けるか、アイメリア。お前にとってダメージにもならんだろうに」

「いやいや、この念動力の中を突き抜けてくる砲弾だからね。何かあるんだろう? わざわざ当たってあげる程僕は優しくないんだよ」

 

 念動力。それをかき分けていく砲弾は──背後の空で爆発する。

 その際、何かが四散した。金属片のようなものだ。

 

 ……成程。ま、対策してないわけないもんね。

 

「相変わらず小細工が好きだね、マグヌノプス」

「大雑把な貴様に対抗するためだ」

「あはは、いいよ。君はそれでいい。その方が潰し甲斐がある」

 

 じゃあ僕も、ちょっと細工をしてみよう。

 なに、頭の悪い僕でも思いつく簡単なことだ。

 

 マグヌノプスに手を翳す。

 そして──集める。

 

「……!」

「念動力とはいってもね、これはただの力場だ。エネルギーじゃない。だから、集束させることなんてできない」

「ならば、それは」

「うん。()()()()()()()()?」

 

 放つ。

 僕の念動力を一点に集めたナニカ。力場そのものを集束させた砲弾。

 それは放たれると同時、一定空間内にある構造物の全てを圧し潰し、破壊しながらマグヌノプス向かって進んでいく。

 成程、コアを持った斥力の塊を放つ、みたいになるのか。面白いな。

 念動力をこうやってド派手に使うのも紀元前以来だ。案外楽しいかもね。相手がマグヌノプスじゃなければ。

 

「く──ぐ!」

「そら、どうしたんだい、マグヌノプス! 君ってばその程度じゃないだろう! それとも、今の君のその肉体はその程度ってことかな──バックアップが他に沢山いるんだろう、マグヌノプス!」

「貴様に言われる事ではない──アイメリア」

「ふふ、あはは! そうだね、その通りだ! 僕に言われちゃおしまいだ」

 

 念動力の力場を消して、あるものを探す。

 お、あった。

 

「……何をしている」

「見てわからないかい? 街灯を引っこ抜いているんだよ」

 

 無事なものを一つ、引っこ抜いて。

 ヘイズにならって、念動力をそれに湛える。

 

「時間稼ぎに付き合ってあげる、と言っているんだ。何か策を弄しているんだろ? それを見ずに君を殺してしまうのは少々勿体ない。それに、僕もコレを使ってみたかったし」

「……街灯を、か」

「あはは、そうだね」

 

 振り回す。

 おお、面白い。この棒状のものの動きが手に取るようにわかる。

 

 これが武人系の入力。

 

「面白いね。成程成程、武人系が入力を手放さないのもわかる──」

「死ね、アイメリア」

「そんな気ないくせに」

 

 いつの間にか接近していたマグヌノプスの大砲から砲弾が飛び出る。

 それを街灯で叩き斬れば、またも飛散する金属片。

 

 ──それは、念動力を切り裂いて、僕に突き刺さらんとする。

 

「惜しかったね! あと一回早ければ効いていたよ」

 

 だけど、その程度の量なら──捌ききれる。

 身体に当たらないように、街灯を回しながら防ぎ、横移動を伴うことで無効化した。

 

 面白い! これ、面白いね!

 成程成程、"英雄価値"……今までは観察するだけだったけど、自分でやってみるのも中々面白い。

 なんていうんだろう。こう、爽快感? 無敵状態での殲滅も楽しいけど、こうやってギリギリの中を技量だけで捌いていくのも悪くはない。

 えー、次の時代では初めから武人系で行ってみようかなぁ。

 

「武術か」

「そうだよ。つい最近入力を受けてね。中々面白いだろ、これ」

「ああ。ありがたい」

「──」

 

 念動力で街灯を吹き飛ばす──けれど、そちらの方が一瞬早かった。

 街灯に突き刺さった無数の金属片。それが再度四散したのだ。それにより、持ち手付近にあった金属片の一部が、僕の腕に刺さる。

 

 瞬間、その箇所から、《茨》が飛び出した。

 

「──!」

「貴様に封印されてから、2500と40年。我はただひたすらに貴様の《茨》についての研究をした。自らを覆うもの。自らを封じ込めるもの。それが持つ意思と、それと対話する方法。外に残した我の意識もまた、同じ研究をつづけた。貴様の《茨》が変質した"種"、"毒"、"罅"。その性質」

 

 金属片はずずず、と僕の中に入って行く。

 そこから、そのまま。

 僕からの入力を受け付けない《茨》が、無数のと称すべき《茨》が溢れて止まらない。

 止まらず──僕の身体に巻き付き、更に地面へ、構造物へ、あらゆる場所に突き刺さって、僕を固定していく。

 

「我にそれを見せすぎた事。それが貴様の敗因だ、アイメリア」

「……いいじゃないか」

「何?」

 

 僕に巻き付き、僕を固定し、僕を封じ込める僕の《茨》。

 

 笑みが零れる。あぁ、だからチャルは、《茨》を従えることができたのか。

 あはは。あはは。

 

 もう……遅いよ。

 

「遅いよ、マグヌノプス。2500と44年。ようやくかい? 長かった。遅かった。まさかとは思うけど君、《茨》を封じた程度で、《茨》に封じられた程度で──僕が死ぬとか思って無いよね」

「当然だ。──機械達よ!」

 

 ぎゃいぎゃいと街を襲っていた基本ハンター種たちが、マグヌノプスの呼びかけに一斉に彼を見た。

 

「行け! 支配者を殺せ!」

 

 そして、同じく一斉に──僕に突貫してくる。

 自らが砕ける事も厭わずに《茨》へと刺さり、そして僕に突き刺さって来る機奇械怪達。成程、僕の不壊が《茨》によるものだということも見抜いてたか。いいねぇ、やるじゃないか。

 昔は僕に壊され続けるだけだった君が、よくもまぁ成長したものだよ。無論殺しきれなくて封印したんだけど、成程成程、色々考えるものだ。

 

 ──赤雷が走る。

 

「転移はさせん」

「う──ぐっ!?」

 

 ここで初めて、苦悶の声が漏れる。

 大砲。撃ち出されたのは──ああ、これは。

 

「水晶……ふふふふ、君を、封印していた、水晶か」

「《茨》を外に出さん水晶とあらば、貴様にも効く。そうだろう」

「ん~、80点かな。良い線行ってるよ」

 

 機奇械怪が突き刺さる。その後ろから、更に後ろからと、数多の機奇械怪が僕に誘引されていく。

 あぁ、だから、傍から見たら──真っ黒な球体にでもなっているのだろう。

 

 転移は封じられた。念動力も切り裂かれている。《茨》は指示を受け付けない。

 ──あぁ、笑みが零れて仕方がない。

 

「蝋を入れろ! いや、全部だ! すべてを入れろ!」

「周到だねぇ。でも、いいのかい? 僕を殺すんだろ? これじゃあ封印だ」

「──貴様の本体を殺さねば、意味はない。貴様は端末だ。上位者たちとは違う原理の、だがな」

 

 凄い。そこまで辿り着くか。

 2500年の妄執? いいね。悪くない。悪くはないよ、マグヌノプス。

 

「良いね。マグヌノプス、今回は凄く良いよ。──じゃあ、間違えない事だ」

「……」

「敵と味方を違えるな。君にとって誰が敵なのか、誰が味方なのか。誰に喧嘩を売っていいのか、誰がダメなのか。忘れるなよ、マグヌノプス。"君はもう英雄じゃない"んだから」

「負け惜しみは要らん。──大人しく眠れ、アイメリア」

 

 閉じられる。

 何か様々な身を固める薬剤が満ち、更にその上から……これはコンクリートかな? それで《茨》と機奇械怪の集合体が固められ、さらにさらにと、僕への封印が為されていく。

 肉体を捨てようにも、さっきの金属片と水晶片が僕を固定しているせいで抜け出せない。まぁ肉体が死んでも僕は死なないんだけど、動けないのは退屈だ。

 

 だから──じゃあ。

 

 もっともっと、呼んでみよう。大丈夫。このために二週間かけて、リストアポイントを作っていたんだ。あはは、つまりね、やりたい放題ってわけ。

 戦争なんだろう? じゃあ、どっちかが死ぬまで安心をしないことだ。

 

 ほぅら。

 おいで、おいで。

 

 おいで。

 

 

+ * +

 

 

 空歴2544年03月17日。

 この日、初めての現象が各地で観測された。

 

 機奇械怪の大暴走(メクス・スタンピード)──。

 あらゆる機械が己の生息地を捨て、ある一点に向かって狂ったように猛進する。

 

 歴史が、時代が。

 何かが動き始めているのを、誰もが感じた。

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