終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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協力体制を敷く系一般上位者達

 激震だった。

 誰もが気付いていなかった。誰もがまだ救援に行く気があった。

 聖都アクルマキアンの惨状を報じられ、今すぐにでも駆け付ける──そんな気でいた。

 

 まさか、ホワイトダナップへ向けて()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──ホワイトダナップは、数多の念動力の波に襲われ、墜ちていた事だろう。

 

 その光線のおかげでホワイトダナップは緊急停止し、不時着する決定をした。

 聖都アクルマキアン。彼我の距離十キロメートル程の所の話である。

 

 

+ * +

 

 

 想定外の攻撃を受け、人工浮遊島ホワイトダナップは不時着を行います。島民の方におかれましては──。

 

 なんて放送がずっと響いている。

 超高空を飛ぶホワイトダナップ。そこへの攻撃とあらば、機奇械怪の仕業を考えるのが普通だ。だけどこれは、どうにも下手人がいるらしい。それが見えているらしい。

 

「ケニッヒさん!」

「あぁ、来たか」

 

 チャル、アレキ。他、非番だった奇械士や休暇中だった奇械士の全てが集まり、一気に大所帯となった奇械士協会で──説明が行われる。

 

「とりあえずこれを見ろ」

 

 言って映し出されたモニター。

 ホワイトダナップの先頭カメラに映るのは──二人の人影。

 

 時代のそぐわぬ、しかしどこか既視感のある突撃槍を持った少女と、双頭の槍を持つ青年。

 それが、ホワイトダナップ下部の荒野に仁王立ちしていた。

 

「この二人は……?」

「こっちの小さいのが、ホワイトダナップに攻撃仕掛けて来た張本人だ。まぁさっき通信が来てな。『当てるつもりはなかった。すまん』らしいが」

「え、凄い衝撃でしたよね」

「ああ、直撃だったな」

 

 んで、と。

 ケニッヒは胡乱な目を奇械士達に向ける。

 

「こいつら、入れてくれ、って言ってるんだが……どう思う?」

「危険です。アクルマキアンの奇械士、というわけでもないんですよね?」

「いや、男の方はアクルマキアンの奇械士だ。結構な実力者。だが、少女の方は……」

「該当データなし。あの武器含めて、完全に未知数」

「ってワケだ。俺としてはホワイトダナップに入れるんじゃなく、俺達で出向いて話聞きに行くべきだと思うんだが……」

「私もそれが良いと思います。もしもの場合、私達なら逃げられる」

 

 賛同の声が上がる。

 未知の、それもホワイトダナップを攻撃してきた者をここに入れる事はあり得ないと、嫌悪を含んだ声まで聞こえて来た。

 

「ま、そうだわな。んじゃ──アレキ。対人戦ならお前が一番信頼できる。だろ?」

「はい。任せてください」

「チャル、お前さんはバックアップな。……っと、アスカルティンはどこいった?」

「あ、アスカルティンさんはその、みんなに遠慮して、外で待ってます」

「……あー。別に良いんだがな、気にしなくても。お前らももう割り切れてんだろ?」

 

 そうケニッヒが見渡せば──まだ、微妙な顔が多い。

 溜め息。それは仕方のないこと、ではあるのだろう。今の今まで喋っていた仲間が機奇械怪で、なんでもないかのように人間を食べるモノであるという事実は、おいそれと受け入れられるものではない。

 

「ああ、まぁいいや。アレキは別にアスカルティンに忌避はないな?」

「はい」

「んじゃ俺とアレキとアスカルティンで行く。アリア、チャル。んー、あと……ケン。お前たちはバックアップ……つまり、俺達とアイツらの話し合いが決裂した場合に、俺達の逃走を援護する役目だ。見つからない程度に隠れて近づいておいてくれ」

「わかりました」

「時間はあんまりなさそうだからな。行くぞ」

 

 

 

 

「遅い」

「アッハッハ、お前、アポなしなんだから当然だろうよ」

「アポってなんだ」

「ん-? ……なんだ、訪問依頼? この時間に行っても良いですか、みてぇなのだよ」

「緊急事態だったんだ、仕方ないだろう」

「だな!」

 

 降りて来てみれば、底抜けに明るい声と、どこか自信満々な声が響いている。

 二人自身に変わった所はない。どこかが機械だとか、そういうこともない。巨大で時代錯誤な武器を持っている事以外は普通だ。

 

 そこへ。

 

「よっと……おう。俺はホワイトダナップの奇械士、ケニッヒ・クリッスリルグって言うんだが、まず確認だ。攻撃の意思は無い。あってるか?」

「あってる。いやさっきはすまねぇな、マジで当てるつもりはなかったんだ。何分初めて使う機能だったから、加減がな。って言え、スファニア」

「そういうことだ」

「……あぁ、まぁ、それでいいや。で、そっちは?」

「ん。あぁ、俺はヘイズ。ヘイズ・イシイ。聖都アクルマキアンの奇械士だ」

「スファニア・ドルミル。ちょっと前まで監禁されて眠らされてて、起きたら武器を渡されて戦えって言われた」

 

 視線が向く。

 ヘイズに。軽蔑に近い視線が。

 

「俺じゃねぇよ。俺と、まぁもう一人が助け出したんだ。で、そんなことは割とどうでもよくてだな。正直お前らじゃ話になんねぇから、ケルビマとエクセンクリン呼んできてくれね?」

「!? 何故、兄上の名を」

「兄上ぇ? ……兄上? あー……なに? アンタ、アイツの義妹みたいなアレか?」

「血の繋がった兄妹」

「いやそれはねーだろ。……あり、呼んできてくれない感じか」

「呼べと言われてもな。どちらも奇械士じゃない。呼び出す権限がない。エクセンクリンという奴は、そもそも知らないというのもあるが」

 

 まずいな、とケニッヒは思った。

 この二人が何を思ってホワイトダナップに攻撃を仕掛けてきたのかはわからないが、要求に応じることができないとなれば戦闘になりかねない。

 そして、この少女の方はホワイトダナップを緊急停止させ、不時着にまで追い込むほどの攻撃力を持っている。この至近距離で戦端が開かれたとあれば、今度こそ壊滅も免れない。

 

 なんとかして平和に終わらせなければならないが──。

 

「とりあえず聞かせてくれねーか? なんで攻撃してきた。ああいや、攻撃じゃないにしてもだ。何の意図があって、ホワイトダナップを停めた?」

「まず、聖都アクルマキアンは救援を呼んでねぇ。そっちから救援の申し出をした。この認識は合ってるか?」

「……あってねぇな」

「アッハッハ、やっぱりか!」

 

 取られた確認は、聞き覚えの無いもの。

 

「ま、お前らハメられたんだよ。今聖都アクルマキアンじゃホワイトダナップを撃ち落すための準備が着々と進んでる」

「なんだと?」

「あぁ勘違いすんなよ? 撃ち落そうとしてんのは人間じゃねえからな?」

 

 その言葉にピンと来たのは、ケニッヒではなくアレキとアスカルティン。

 

「使徒、か」

「お、なんだ。そっちの嬢ちゃんらは話わかるんじゃねぇか。えーとなんだっけ。ケルビマの妹と……あん? プレデター種?」

「あ、どうも。アスカルティンといいます。融合機奇械怪です」

「アレキ・リチュオリア」

「おう、アレキとアスカルティンだな。んじゃ話が早い。使徒、そうだな。その呼び方に合わせるが、使徒がホワイトダナップを狙ってる。落とそうとしている。俺達はそれを防ぐために牽制ビームを撃っただけなんだよ。当てちまったのは悪かった」

「思ったより操作が難しかった。すまん」

 

 スファニアは、何も悪いと思っていなそうな顔で謝る。

 実際何が悪いかわかっていない部分は多い。

 

「防ぐため? あなた達は、こちらの味方?」

「味方かどうかはまぁ定かじゃねぇが、いなくなられると困るのは事実だな。アイツが本気出すと確実に巻き込まれてこっちが全滅しちまうし」

「アイツ?」

「あぁ。フリスだよ。わかるだろ、ホワイトダナップ在住なら」

 

 あっけらかんと、そしてなんでもないかのように放たれた言葉。

 なんならアスカルティンは「あぁ……」という反応ではあるけれど、アレキとケニッヒにとってはたまったものではない。

 

「……」

「……どっち? カンビアッソ……それとも、クリッスリルグか」

「いや知らねーって。フリスだよフリス。名字なんてその時々で変わるだろ」

「あの、多分この二人では事情を知らなすぎるので、もう少し詳しい私が担当します。そっちのスファニアさんはわかりませんけど、ヘイズさんも使徒ですよね?」

「おう、合ってるぜ」

「確認しますけど、今聖都アクルマキアンに住んでいる、あるいは占拠しているのは使徒である。これはあってますか?」

「ああ、間違いない。人間は全員地下シェルターに押し込んである。絶対安全とは言い切れねえが、まぁ大丈夫だろう。んで、あの町にいるのは使徒と……なんつーか、使徒じゃないけど人間でもねぇ爺さん一人だ」

「ヘイズ。迎撃してくる」

「おー、頼んだ」

 

 くるりと踵を返し、スファニアが──飛ぶ。

 跳んだのではない。飛んだのだ。

 

「何を?」

「あぁ、さっきから大砲が飛んできてんだよ。ホワイトダナップぶっ壊すためのな。それを迎撃してるわけだ」

「成程? それはありがとうございます」

「おう」

「……えっと、それでですね。貴方達の要求ってなんなんでしょうか? 私達ホワイトダナップに何をお求めで」

「ん、帰れ!」

 

 単純明快。シンプルイズベスト。

 笑顔で、明るく、朗らかに。

 

 ヘイズは「帰れ」と言った。

 

「お前らがいると邪魔なんだわ。ホワイトダナップが壊れたら流石のフリスも怒る。そうなると色々手が付けられねぇ。時代が終わる可能性がある。まーたやり直しになるのはちと面倒でな、お前らが帰ってくれたらそれが一番いい」

「フリスさん、そんなに凄いんですか?」

「すげぇっていうか……面倒? 俺、アイツの事嫌いじゃねぇっつか好きの部類だけど、自分の近くにいなければ、って感じなんだよな。アイツがホワイトダナップでなんかやってる分には問題ねぇし、ずっとやっててほしいけど、アクルマキアンの近くでやらかされるのは困る。況してや全世界ともなれば尚更に」

「ああ……成程。わかりました。それじゃあケニッヒさん。帰りましょう。聖都アクルマキアンは救援を必要としておらず、敵の狙いはホワイトダナップ本体。となれば射程圏外にまで逃げて、今後一切聖都アクルマキアンの近くを通らないようにしましょう」

「おう! そうしてくれ!」

 

 アレキもケニッヒも、気持ちの整理を付けられぬまま話がどんどん進んでいく。

 とはいえ当然、ホワイトダナップの航路問題など、たとえ気持ちの整理がついていたとしてもケニッヒの一存で決められる話ではないのだが。

 

 ──と、そこへ。

 

「ふぅ……成程、ヘイズか。顔を合わせるのは初になるな」

「お! お前がケルビマだな? よ、最新! 俺は最古じゃねぇのがカッコつかねえが、よろしくな」

 

 降りてきたのは、ケルビマ。

 加えて。

 

「はぁ。私は事務労働専門であって、表に立つことは求められてなかったはずなんだけどね……。やぁ、ヘイズ。久しぶりだ」

「エクセンクリン……お前、なんかやつれたか?」

「ふふふ、おかしなことをいうね。私達にやつれる、なんて概念あるはずないだろ?」

「どうだろうな。俺の目には、会うたび会うたびやつれて行っているように見えるぞ、エクセンクリン」

「……それは多分、フリスとケルビマのせいだろうね」

 

 既に奇械士は蚊帳の外。

 使徒──上位者同士の同窓会が始まろうとしている。

 

 そこに水を差したのは、アレキだった。

 

「あ……兄上」

「ああ、アレキか。どうした?」

「──兄上は、この方々とはどういったご関係で……」

「む……まぁ、簡単に言えば」

「使徒仲間だよ。俺もケルビマもエクセンクリンも使徒」

「……」

「あん? なんだ、もしかして言って無かったのか? そりゃ悪いな。だがちょいと誤魔化したりしてる時間ねーんだわ」

 

 ケルビマは溜息を吐いて、エクセンクリンは後頭部を掻いて。

 

「仕方がない。君達、私は政府塔科学開発班所属のルバーティエ=エルグ・エクセンクリンだ。本来通さねばならない局が色々あったりなんだりあるが、命令だ。ホワイトダナップに戻って待機していなさい。あとは私達がやる」

「そういう次第だ、アレキ。──詳しい話は後でしてやる。そっちに隠れているのも含めて、一度ホワイトダナップに帰れ」

「そんな、兄上! 納得できま、」

「いや、帰投する。ただし、後々説明がないようなら、俺達奇械士協会は政府塔を襲撃する。政府塔内部に裏切者の影あり、ってな」

 

 何かを割り切った顔で、ケニッヒがまっすぐな目を上位者らに向ける。

 強い目だ。そしてさりげなく(とん)でもない事を言ったりしてみている。

 

「ふふふ、余計な仕事を増やさないで欲しいかな切実に。──無論だ。勘違いしないでほしいというか、わかっていてほしいのは、私達はホワイトダナップの味方である、ということだよ。普通に仕事をしているし、生活もしている。アレキさん、君には先日、娘がお世話になったようだしね」

 

 アレキは厳しい顔のまま、その言葉に更に眉間にしわを寄せる。

 

「ッ……まさか、モモ」

「あ、やっぱりモモさんのお父さんでしたか。名字が同じだな、とは思っていましたが」

「モモは使徒ではない。私の妻もね。その辺の話は後で説明するまで口外しないでくれると助かるかな。色々と絡んでいて厄介なんだ」

「ああ、俺から緘口令を敷く。──帰るぞ、お前たち。アリア、そっちもだ! 一度帰投する!」

「アスカルティンは置いていけ。連絡役になる」

「……危険は?」

「無いとは言わん。だが、ホワイトダナップと同じくらいにはコイツも奴のお気に入りだ。だから大丈夫だ、とは言っておく」

「そうか」

 

 険悪な空気は消えない。疑念は何も払拭されていない。

 だけど、と。ここは割り切るべきと割り切って、未だ難しい顔をしているアレキを引っ張って。

 

 ケニッヒら奇械士達は、飛空艇へ戻って行った。

 

 

 

 

「手短に話す。現在のアクルマキアンは、上位者百二人によって占拠されている。中心はマグヌノプス」

「……やっぱりか」

「知らん奴だな。上位者ではないようだが」

「マグヌノプスの説明はエクセンクリン、お前がしてやれ。後でな」

「わかったよ」

 

 奇械士達のいなくなった荒野で、ようやく話がスムーズに進んでいく。

 アスカルティンは聞いているだけだし、大砲を迎撃し終えたスファニアも突撃槍で地面に何か絵を描いて遊んでいるだけだけど、邪魔しないならそれでいいと言わんばかりに三人とも無視。

 

「フリスはどうしている」

「マグヌノプスの計略に嵌って封印中。だがありゃ、出ようと思えばいつでも出てこられるな。マグヌノプスの策が見たくて待ってるだけだ」

「……悠長に静観しておいて、ホワイトダナップに危機が迫る事も理解していて、でも自分が防いだら面白くないから私達を動かそうとしている。そういうことかな?」

「多分な。アイツからしたら、お前らだけじゃなく奇械士にも動いてほしいんだと思うぜ。全面戦争してほしいのさ。その方が面白いから」

 

 ただし。

 

「ただし、全面戦争の結果、ホワイトダナップが壊れたり、甚大な被害が出ようものなら──ちゃんと怒って、全てを滅ぼす、か」

「面倒だね、本当に」

「フリスにそこまでのことができるのか?」

「何言ってんだ、フリスだぞ? って、ああ。お前さん最新だから、その辺知らねえんだな」

「ああ。フリスから受けた入力の最古は2200年。原初の五機を製造しているところまでだ」

「あ! やっべ! 忘れてた」

 

 "原初の五機"という言葉を聞いた瞬間、ヘイズは大きな声を出して、舌を出した。

 記憶力が抜群に良いヘイズ。だが、言い忘れる、ということはある。あんまり興味が無いと、特に。

 

「なんだ?」

「いやな? スタンピードになったのは知ってるだろ? 大暴走。機奇械怪のさ」

「ああ」

「次が六波目なんだよ」

 

 曰く。

 機奇械怪が押し寄せるタイミングには波があり、一波目はハンター種の群れ。プラスしてオーダー種二体。空を飛び、強襲する機械の鳥が、アクルマキアンを廃墟に追い込んだ。

 二波目はプラント種の群れ。地面を割るようにして出現したプラント種達が、隠れていた生命を根こそぎ奪った。

 三波目はプレデター種の群れ。仕留め損なわれていた機奇械怪や、奇械士との戦いに勝利したものの傷つき、傷を癒さんと資材を集めていた機奇械怪を捕食して回った。

 四波目はオーダー種の群れ。この頃には人間は全員シェルターに避難していて、上位者がこれに対処した。

 五波目はサイキック種の群れ。これもまた上位者が対処したが、アクルマキアンは更にボロボロになった。

 

 まるで奇械士や上位者たちの対応力で遊ぶかのように、機奇械怪を編成している。

 呼び集めているのがフリスならば、まさに手のひらの上。

 

 しかし五種の全てがもう来た。

 なのであれば、次は。

 

「まさか、原初の五機が来るというのかい?」

「可能性は高ぇだろ。で、その対処を奇械士にやってもらいたかったんだよ。どの道方向を考えりゃホワイトダナップぶち当たって来るだろうし」

「ホワイトダナップに帰れといったのは?」

「帰っては欲しいぜ? けど機奇械怪を倒すのが奇械士の仕事だろ? 生憎アクルマキアンの奇械士は瀕死状態でよ。ホワイトダナップに頼るしかねんだわ」

「マグヌノプスというのに当てればいいだろう」

「マグヌノプスの爺さんは強いんじゃなくてしぶとくてずる賢いってタイプなんだよ。対フリス特化の集大成さ。だから普通の機奇械怪を、つか原初の五機相手だと分が悪い」

「む? マグヌノプスというのを殺す、ないしはアクルマキアンから退かすのが最終目的ではないのか?」

 

 ここへきて、認識の齟齬。

 当然だった。ケルビマはマグヌノプスを知らないのだから。

 

 時間の猶予はあまりない。

 ──ゆえに、ヘイズは決断する。

 

「よし、んじゃあの爺さんについては道中俺が話す。エクセンクリン、お前は奇械士達に説明と連絡な。アスカルティンと、んでコイツも連れていけ。役に立つ」

「ヘイズ、俺はヘイズと一緒に行くぞ」

「役に立たねーよ馬鹿。お前は同年代と一緒に機械狩っとけ」

「……そうか」

 

 しょんぼり。

 あれだけ自信満々だった少女が、ヘイズの拒絶にしょんぼりした。

 

「エクセンクリン、頼めるな?」

「ああ、いいよ。どうやら此度の話は、私を騙る何者かの仕業のようだし、ケジメをつけるべきは私だろう。奇械士に説明をしたあと──少し、内部を探ってみる」

「ハハッ、そういう細かいトコは全部任せるわ! ──んじゃいくぜ、ケルビマ。簡単にあの爺さんについて話すが、疑問は無しだ。細かいコトは後でエクセンクリンに聞け」

「承知した」

 

 しょんぼり、いじいじと地面にまた絵を描き始めるスファニア。

 そんな彼女の頭を撫でる存在が一人。

 

「大丈夫ですよ、スファニアさん。私も今ホワイトダナップの皆さんからだいぶ嫌われているので、嫌われ者同士仲良くしましょう」

「……チビ、嫌われてるのか。可哀想だな」

「あれ、思ったより口が悪い」

「……わかった。おいヘイズ! 俺はこのチビと仲良くしてやるから、後で飯作れ!」

「あいよー」

 

 返事をして──爆速と呼んでも足りないほどの速度で走り出したヘイズとケルビマを後目に、エクセンクリンも「じゃあ、私達も行こうか」と言葉を発し、念動力を展開する。

 浮き上がるアスカルティンとスファニア。

 

「おおお」

「浮いて……」

「それじゃあ、行くよ」

 

 浮き上がる。

 向かう先は、奇械士協会……ではなく、発着場。

 そこで待つケニッヒと、奇械士きっての尋問官──チャル・ランパーロのもとへ。

 

 嘘の一切は、許されない。

 

 

 

+ * +

 

 

 

「マグヌノプスは、このメガリアという惑星の作り上げた抗体とでもいうべき存在だ。毒や病に対する抗体。上位者には聞き馴染無いとは思うがな、動物っつーのはそういうの作るんだよ。惑星は別に動物じゃねぇが」

「知識として知っている」

「あぁ、それならいい。──が、最初のマグヌノプスは弱かった。入力無しの上位者でも簡単に殺せるくらい弱かった。俺達がなんなのか、って話は今は置いておくぜ。長くなるからな」

「構わん」

「マグヌノプスは最初の方は頻繁に殺されていた。簡単に殺されていた。姿もあんなジジイじゃねぇ、子供みてぇなのだったらしい。全部らしい、なのは俺が生まれてねぇ時代だからだ」

「そうか」

 

 走りながら、話す。

 マグヌノプスという男についてを。

 

「そして奴はフリスに出会った。上位者(俺達)なんか目もくれねえくらいの大物にな」

「抗体にとっての大物。つまり、致死クラスの毒かなにかということか、フリスは」

「ああ。で、そっからずっと戦争だよ。アイツら二人はな。マグヌノプス側は何度も殺されて、何度も学習して生まれ直して、技術も小細工もどんどん見つけて開発して……フリスを追い詰めようとする、んだが」

「全く届かない、と」

「アッハッハ、一回フリスから聞いたことあるが、マジで気の遠くなるくらいの試行錯誤して、それでも届かねえってつまんなそうに言ってたぜ」

「フリスも、弱きに興味は無いからだろうな」

 

 聖都アクルマキアンの城門は完全に破壊されている。

 そこに並ぶ、十人の上位者。

 

 彼らはヘイズを視認するなり──念動力の波を()()()

 

「そんな日々が続いての紀元0年。とうとうフリスは飽きた。殺しても殺しても殺しきれねえで蘇る、だが別に自分に届くわけでもない羽虫。ウザかったんだろうな。そりゃもう厳重に封印して、地下の奥深くに埋めて……」

「珍しいな。奴がそこまで感情を露わにするとは。いつもなら『それも悪くない』などというだろうに」

「それがいつもになったのは結構近年だぜ? アイツ、昔は結構短気だったんだよ。変わったのは……あー、いつだったかな」

「今もそこそこ短気ではあるがな」

「ハハッ、そりゃそうだ」

 

 二人の背後で轟音が響く。

 振り返りはしない。それが何かくらいわかっているからだ。

 来たのだろう、原初の五機が。機械の時代の始まり。フリスがバランスとか考えずに作ったパワーブレイカー機奇械怪達が。

 

「マグヌノプスを殺してはいけない理由、マグヌノプスに死なれては困る理由は、生まれ直されると面倒だから、か?」

「正解だ。今の爺さんの身体でいてくれた方が色々楽なんだよ。監視しやすいしな。ま、ちょいと《茨》に対する理解が深まっちまってる感はあるが……そりゃ誰に成っても同じだしな。もしマグヌノプスが今度ホワイトダナップで生まれでもしてみろ。それこそやべぇだろ」

「殺してはならん理由を理解した」

 

 ヘイズは上体を大きくしならせる。自らの身体を射出装置が如く見立て、槍を強く強く握りしめて──。

 

「そろそろだ。しかし、どうするのだ。マグヌノプスは殺さないとして、他の上位者は?」

「ああいいよ。あいつらマグヌノプスの思想に触れて大本から離反した奴らだから。ぶっ殺して戻してやれ」

「承知した」

 

 波が放たれる。槍が放たれる

 それは面となって二人を襲い──たった一本の槍に、ぶち抜かれる。

 

「──」

 

 地平が傾く。

 槍は容易く念動力の波を切り裂き、着弾し、凄まじいまでの爆風を生み出した。

 ああ、けれど。それよりも何故、視界が逆さになっているのかという疑念。

 

「肉体に縛られねえ上位者が"そう"なっちまったらおしまいだっつーの」

 

 最後に聞こえた声は──憐れみさえ含まないもの。

 最後の力で眼球をそちらに向かせども、そこにはもう、誰もいなかった。

 

 一瞬にして首を断たれた上位者十人。

 彼らの肉体は全く同時に絶命し──大本、モルガヌスのもとへ還元される次第となる。

 

 

 

 

 最新の上位者と、最古ではないけれどかなり古い上位者二人。

 対するは十減って九十二人の上位者たち。そしてマグヌノプス。

 

 さて──マグヌノプスは、果たして誰に喧嘩を売ったのか。

 

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