終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
上位者と上位者の間に明確な優劣は存在しない。
誰もが平等に端末。性格如何での振れ幅はあれど、スペック差というものは生まれない。
その、はずだった。
「──第六関門突破されました! ヘイズ、ケルビマ、互いに勢い衰えず!」
「あり得ない……もうそろ半分を殺されるぞ!? 奴らと僕らに何の違いがあるというのだ!」
「入力差か!? ──なら、今すぐにでもその辺りで死んでいる奇械士から戦闘記録の入力を──カペッ」
最後に喋った一人の頭蓋が吹き飛ぶ。ただの瓦礫片。それが頭部に直撃しただけだ。
それだけでは死なないはずの上位者が──しかし、たったそれだけで自己の楔を失い、大本に還元されざるを得なくなった。
既に射程圏内にあり、更には己らも殺し得る二人であることに──上位者から、恐怖の波が生まれ始める。
恐怖。
彼らは上位者である。長らくこの星を裏から操り、支配してきた上位者。人間の生死など思うがままであり、それらを騙すも
──だからこそ。
「ひ……怯むな! 我らは抜け出すのだ! 支配から……我々を縛る無意識から! 自由になるのだ!」
「そうだ……そうだ! 我ら上位者、君臨する者なれば! あのような
「敵はたったの二人! それも、片方は製造から二十年ほどしか経っていない新米だ、私達が怯える理由など無い! 圧し潰せ、圧し潰せ! 念動力で、転移で、あらゆる知識を以て潰せ!」
だからこそ、だ。
マグヌノプスと出会い、己が気付かぬうちに支配されている事に気が付けた。
大本、モルガヌス。
モルガヌス。
どこぞの拠点で、誰もいない部屋で、世界中の情勢をモニタで監視してふんぞり返る──己で出向くことなく全てを端末に任せ、手を出さず、眺め、面白がっては次を、次をと求むる上位者たちの"大本"。
いつまでもあんなものの下にいるのは嫌だと、誰もが思った。誰もが気付いた。
だから、だから、だからこそ。
「ぐだぐだうるせぇな。俺達は端末なんだよ。人格を与えられてんのはそうじゃなきゃマトモに動かなかったからだろうが。何が気付いた、だ。そりゃ洗脳されたっつーんだよ、ゴミ」
「あ……ひ、ぃ……! やめ、やめろ! 戻りたくない、何も知らない頃に戻るのは嫌だ! また、あの支配に囚われ──」
「不良品は回収だ。自主回収が一番クレームが少ないってな、200年前に学んだだろ?」
肉体が裂かれる。壊される。
それにより──肉体に蓄積していた数々の"
何故今まで、他の上位者が抵抗もせず大本のもとへ戻っていたのか。拒否し、概念体であることを選ばなかったのか。
簡単だ。
「気付いたんなら、さっさとリセットされてきな」
「──恩に着る」
汚染された肉体さえなければ。催眠、あるいは洗脳された脳さえなければ。
どの上位者も、ヘイズとそう考えは変わらない。自分たちは端末で、壊れたのならば戻らなければならない。唯一概念体にまで響くだろう
「己が役目を忘れ、肉体に縛られる、か。上位者などと、もう名乗れはせんな」
「……お前さんもそこそこおかしくなってたりするけどな」
「何?」
「いや、忘れてくれ……とは言わねえ。ちゃんと考えると良いぜ。あぁ自殺だけはすんなよ? 俺がフリスに怒られちまう」
「……俺は、おかしいのか?」
首を傾げるケルビマに、「うわやっちまったか?」なんて珍しく反省しているヘイズ。フリスが言っていたのだ。ケルビマと、そしてエクセンクリンは──"成長コンテンツ"である、と。
完全にではないにせよ、大体の意味は悟っていたヘイズ。だからこそ余計な事言ったぜ、と反省して。
「しっかし、あれだな。お前、良く片腕で戦えるな」
「うむ。少しばかりの調整は必要だったが、十分なものになったと自負している」
「機奇械怪で補強したりはしねぇのか? フリス……は今無理にしても、エクセンクリンの奴ならできるだろ。ああつかお前もフリスの記憶持ってんだっけ?」
「いや、直す気も補強する気もない。これは俺が思う"英雄価値"によって吹き飛ばされたもの。フリスはあの娘を英雄だとは思わなかったようだが、俺は高く評価している。否、英雄だとは思わなかったというより、死者に興味が無い、の方が正しいか」
「ふぅん……よくわかんねぇけど。ハハッ、そういう所が、って言ってるんだぜ」
「?」
成程これは"成長コンテンツ"だ、とヘイズは思った。
今までの上位者に無いタイプだ。
眺めていて面白い上位者。それはまるで、人間のような。
「よーし、ケルビマ。あの丸っこいのが見えるか?」
「石と金属の球体だな?」
「ああ。お前の感知範囲はまだ狭いみてえだから教えてやる。アレがフリスの封印されてる場所だ。あの近くにマグヌノプスもいる」
ヘイズが槍差す方向にある、巨大な球体。
そこにフリスはいると。
「……何故奴は大人しく捕まっている?」
「おもしれぇからだろ、普通に」
「何がだ」
「ん? そりゃ、マグヌノプスと俺達の戦いが、だよ。あとはチャルだっけ? あいつの気に掛けてる奇械士。そいつらの戦いも楽しみにしてんだろ。自分が出てったら簡単に終わっちまうからな」
「まぁ、良い。面白さは保証しないが、精々踊ってやるか。俺としてはそのままあの球体の中にいてくれていいのだがな」
「全部が終わったら勝手に出てくるよ、アイツは。いつでも出られるくせに楽してるだけだからな」
雑談に興じ始めた二人。
──そこに強襲をかけるものがいた。
気配は上位者。ゆえにケルビマはそれを迎撃し、両断しようとして──ヘイズに止められる。
頭に疑問符を浮かべるケルビマをよそに、ヘイズは少しばかり場所を移動することを提案。言われるがままに少しずれた、その瞬間。
先程までケルビマ達のいた所に何かが着弾した。
頭上から、垂直の落下。気配は上位者。
そいつは──。
「ん!? 必死の思いで無重力圏から脱してみれば──いや、申し訳ない見知らぬお二方。ここは一体どこでしょうか? ああ申し遅れました、私は聖都アクルマキアン観光大使スカーニアス=エルグ・アントニオ! ええ、ええ、突然のことで驚きでしょうが、ご安心ください。私が貴方達に手を出すことはありませんとも恩人よ!」
「馬鹿、俺だよ。ヘイズだよ」
「……あ、ヘイズ殿。なんですか? あなたも少年の癇癪で宇宙まで飛ばされていたのですか?」
「アッハッハ、だから姿見えなかったのかお前!」
上位者アントニオ。
所々で邪魔者として扱われている存在が、そこにいた。
「……珍しいな。フリスがそこまで感情を露わにするとは」
「あー、コイツウザいからな。日常生活で隣にいてほしくない奴ナンバーワンって感じだ」
「お二方、ここが、ここがアクルマキアンであるというのは真ですか!?
都合の悪い事は耳に入らない。
アントニオのパッシブスキルである。それは聞こえていてスルーしているとかでなく、縛りつけて耳元で音源を再生し続けようが、脳に直接入力しようが、無いものとして進行する──アントニオという人格が元から備え持つ、余りにも埒外なスルースキル。
コイツを相手にする時ばかりは、あのヘイズであってもこのアントニオを製造した大本に苦言を呈す。
曰く、絶対ノリで作っただろ、と。
だが、付き合いの長いヘイズだからこそ、動かし方も熟知しているというもの。
「アントニオ。仕事がある。聞け」
「ハッ! 上位者ヘイズ、私に仕事をくださるというのですか!? 是非! なんでしょうか、人間、そういえば人間が少ないですね。いえいない? では近くから集めてこなければ──」
「人間を減らす存在がこのアクルマキアンに多くいる。そいつらは気配は上位者だし、言動も上位者だ。つか、この国の上位者の姿をしているから見分けはかなりつきづらい」
「なんと……上位者が、実験以外で人間を減らすことはあり得ませんぞ?」
「そうだ。だがやってる奴がいるんだよ。そいつはもう上位者とは呼べねえ。わかるだろ? ──俺の実験の邪魔なんだよ」
「ええ、ええ! わかりますとも! つまり──乗っ取られている、と。そういうことですな!?」
「ああ! 話の早い奴は嫌いじゃないぜ、アントニオ。証拠に、肉体から剥がしてやればちゃんと自身の過ちを認める。情けねえ話だがな、上位者が肉体を乗っ取られて、その力を使われてんだよ。悔しいだろ?」
みるみるうちに義憤に燃えていくアントニオ。それを冷たい目で見るケルビマと、ちょっと楽しくなってきているヘイズ。
傍から見れば地獄絵図に近い光景も、観測者が当事者だけなら問題ない。
「頼むわ。俺達だけじゃ手が足りねえんだ。あいつら、解放してきてやってくんね?」
「お任せを!! 不肖、このアントニオ、同輩方々を苦しみから解放し、救世主となってみせましょう!! では!!」
そう言ってビリビリ、ボロボロなマントを翻し、物凄い速度で上位者たちの関門に突っ込んでいくアントニオ。
彼は武器無しで戦う戦士──格闘家全般の情報を入力されたがっつり武人系の上位者である。
「……よくもまぁ、そこまで口が回るものだ」
「アッハッハ、伊達に1700年も酒場の店主やってねぇってな。割と疑ってくる鋭い人間は多いからよ、こういう口八丁は結構初期に覚えたぜ?」
「酒場の店主? 酒がわかるのか?」
「うお、その質問懐かしっ! んで、答えは決まってる。『いや全く』だ。高い酒も安い酒も全くてんでわからん! が、人間の表情変化や状態変化って反応を見りゃそれがどういうものかのデータは取れる。そうして統計とってけば、初対面の相手に最も合う酒だの、ソレに合う料理だのを作れるんだ。おもしれぇだろ?」
「ふむ。俺は食に興味は無いが、試行錯誤は武術に通じるものがあるな」
「ハハッ、まぁまだお前は製造から20年そこらだからな。これから覚えて行けばいいさ」
大きな爆発が起きる。
身体を千切られ、飛んでいく上位者が見える。
そう、ヘイズやケルビマの念動力が強くなったとか、特別である、というわけではない。
弱くなったのだ。
マグヌノプスにそそのかされて、大本から離反した上位者たちが。
大本からの供給を断ったのだから、当然に。
それに気付かない時点でもう終わってんだよな、なんてヘイズは流し目を向ける。肉体に引っ張られ、概念であることを忘れ、端末であることを忘れた上位者に価値など無い。
「いよし、ケルビマ! 本丸に向かうぞ」
「む? マグヌノプスは殺さないのではなかったのか?」
「ぶっ壊すんだよ、アレ。いつまでも楽してるフリスを引っ張り出すんだ。んでマグヌノプスをもっかい封印なりなんなりさせる。俺達じゃ封印だのなんだのはわからねぇからな」
「つまり、殺さずに戦闘不能にし、球体を全力で破壊する。そういうことだな?」
「そういうことだ。あぁアントニオは気にすんな? アイツあれでいてかなり強ぇからな。全部が終わったら手合わせでもしてみるといいぜ。性格以外はがっつり武人系の入力受けてっから、かなりいい勝負になるだろ」
「そうか。まぁ、未来の話は未来ですればいい。今は奴を引っ張り出す」
「応!」
小休止は終わりだ。
二人はまた、爆速で。
目的地──フリスの封印された球体へと向かって行った。
少し時は遡って。
「説明は以上です。使徒についての話は、原初の五機を倒した後からでお願いします」
「……ま、わかったよ。ソイツに関しちゃ、俺達どころかホワイトダナップにとってもマストだ」
「ええ……気になる事は尽きないけど、今は奇械士としての責務を果たさなければ」
ホワイトダナップ奇械士協会……ではなく、発着場。
そこに集う奇械士達は、アスカルティンとエクセンクリンから簡易の説明を受けていた。
説明と言っても単純明快。
ホワイトダナップに迫る大型……否、巨大機奇械怪、原初の五機を討滅せよ、というもの。
原初の五機は半ば御伽噺染みた話だったが、いる、と言われてそれを嘘だと断じる者はいない。いてもおかしくないからだ。
今いる機奇械怪の全てが原初の五機から増殖した劣化品。であれば──もしかしたら、という希望も生まれる。
「ああ、君達が今期待している事は正しい。──動力炉というものを作り出し、世に放ち、機奇械怪を産んでいるのも原初の五機だ。例外もいるが──原初の五機さえ壊し切ってしまえば、機奇械怪が無限に生まれ続ける、という事は無くなる」
それはざわめき、否、歓声を響かせるに値する情報だった。
誰もが心のどこかで思っていた。もう人類はダメだと。段々と強く複雑になっていく機械。あまりにも呆気なく滅びゆく国々。人類の滅亡は秒読みである、と。そう考えていた。
それを救うのが自分たち奇械士である、なんて奮い立っても、限界はある。一人で全世界の機奇械怪を討滅できるはずもなく。どこで生まれ、どこで増えているのかわからない機奇械怪が地上から消え去る姿など想像もつかず。
それを──救い得るのだと、提示されたのだ。
「……やろうと思えば、俺達の代で──完全な平和を掴み得る。そういうことだな?」
「肯定しよう。かなり頑張る必要はあるけど、それは可能だ。だが、それをするにはまず」
「原初の五機を倒さなきゃ話にならねぇ。そういうこったな」
「そうだ。そして──あれらは強いぞ。希望を見据えて足元を掬われるなよ、奇械士」
言われるまでもねぇ、とケニッヒは吐き捨てるように言う。
「戦闘に関しちゃこっちの領域だからな。だから、逃げるなよ。説明はしてもらうからな。アンタら使徒の話。そんで、フリスの話」
「ああ、いいよ。私は逃げない。だから存分に戦ってくると良い」
先の話が聞こえていなかったのだろう、突然零された「フリス」という単語にチャルが「え……?」なんて動揺をしているけれど、それに対してはアレキが宥める。
アレキとて何の整理もついていないが、今はそれどころじゃないのだ。
「よし! すぐに協会に帰って部隊を編成する! あぁあんた、原初の五機は同時に来るのか? 一体ずつか?」
「それはわからない」
「了解だ。──アリア、斥候を頼む。いいか、絶対戦うなよ。情報を持ち帰るだけでいい」
「そんなに念を押さなくてもわかってる。──行ってくるわ、ケニッヒ」
「ああ」
クリッスリルグ夫妻。
その信頼は──妻を死地に単独で送る事でさえ。
「俺は何をすればいい?」
「ん? ……あぁ、スファニアか。お前さんは……だが、全員に姿知られちまってるしな」
「なら、私達と共に戦いましょう。攻撃方法の特異さを考えても、私達四人で一体引き受けることができるものと判断できます」
アスカルティンがまっすぐな目で言う。
それには多分、スファニアを自分の二の舞にさせたくない、というような、無意識のお姉さん心も混じっていたのかもしれない。
でもそれはちゃんと、届いた。
「……だな。んじゃ、新人ばっかでちょいと不安だが──チャル、アレキ、アスカルティン、んでスファニア! お前ら四人はチームだ! 暴れてこい!」
「はい!」
「おう」
ああ、ここにようやく完成する。
誰もそこに作為があったことになど気付いていない。そのために引き合わされた、など欠片も考えない。
青春ラブコメアクションストーリー。
ようやく、"主人公パーティ"が完成したのだと。
飛空艇の中、四人の少女はいた。
「改めて。私はアスカルティン・メクロヘリです。よろしくお願いします」
「アレキ・リチュオリア。よろしく」
「チャル・ランパーロです。よろしくね、スファニアさん」
「おう。俺はスファニア・ドルミルだ。よろしくな、ガキ共」
「が、ガキって……どう見てもあなたが一番年下……」
「アレキさん、どうどう」
「……そうね。そういう子も、いる。そう」
可愛らしい見た目で尊大な態度。
粗暴な口調に些か面食らうも、それも個性の一つと考え、受け入れるアレキ達。
そして彼女らは、自然な流れでそれを見せ合った。
「……似てますね」
「ええ。私のテルミヌス、チャルのオルクス、そしてスファニアのカイルス。名前の響きも、装飾も……酷く似ている」
「言われて見りゃ、本当だな。でもこれ、貰いもんだぜ? 高い金とか出してねーし」
「私も貰い物だよ」
「これは……一応戦利品」
そして思い出すは、ケルビマの言葉。
原初の五機に対抗するために作られた五種の武器。それがオルクスであり、テルミヌスだと。
ならばこのカイルスも。
「オルクスは、原初のオーダー種に対抗するための銃。テルミヌスはサイキック種だったはず。じゃあ、カイルスはなんなんだろう」
「俺のこれは、空を翔けたりビームを撃ったり、あと硬いモノをぶち抜いたりできるぞ」
「となると、プラント種かな?」
「まぁ、原初のハンター種が飛行形態ならハンター種の可能性もあるし、プレデター種に至っては何が最適なのかわからないから、その可能性もある」
なんにせよ。
「うん。十分、戦える」
「……私だけ特別な武器無いの、ちょっと疎外感ですね」
「アスカルティンさんは存在がかなり特別なような」
「そうね……」
「俺もかなり特別だぞ。ヘイズもそう言ってた」
「あなたも機奇械怪なの?」
アレキの問いに、アスカルティンが「いえ」と返す。
「スファニアさんは機奇械怪じゃないですね。ただ……」
「ただ?」
「気のせいでなければ……
「!?」
そのあまりにもな言葉に、咄嗟にスファニアの胸に触れるアレキ。攻撃の意思が無かったからだろう、スファニアも「お?」なんて言って、されるがままに触られてる。
そして──アレキが、青い顔をして呟いた。
「……本当。鼓動が、無い」
「ですよね。聞こえないなぁとずっと思ってたんです」
「俺は健康だぞ? ちゃんと飯も食うし、運動もしてるからな!」
それが余計に恐ろしさを産んだ。
アスカルティンにとっては心臓など遠い昔に失ったものなので別に忌避はないのだが、流石にアレキとチャルは人間。心臓が動いていない──ゾンビのような存在に驚かない、なんてことは。
「どこもいたくないの? スファニアさん」
「おう!」
「じゃあ、大丈夫だね。アレキ、大丈夫だよ」
あった。
肝が据わっている、どころではない。ないが、チャルはそれを普通に受け入れていた。
理由は。
「だって、ほら。アレキ、私に考えるのは後で、って言ったけど……フリスが生きてるかもって話してたでしょ? じゃあもう驚かないよ。というかほら、いつかのゲームセンターの時さ、"種"の紋章が"華"になった時。あの時フリスを感じたんだよね。だから、幽霊になって、普通にいるんじゃないかなってずっと思ってた」
「ああ、俺のカイルスはフリスって奴から貰ったぞ」
「……ほら。幽霊で、普通に生きてて、だから心臓が動いていないなんて……え?」
ちょっと苦い顔で笑いながら、アレキを諭そうとしたチャル。
その、耳に入って来た情報を吟味して、噛み砕いて、二度見して。
今度こそ動揺する。
「え、え? フリスからって……」
「おお、凄い食いつきだな」
「フリスって……どの? どういう?」
「どういう……。うーん、意味の分からないタイミングで『あはは』とか渇いた笑いをして、絶対良くないのに『良いと思うよ』とか言って、『戦いに興味はあるかな』とか聞いてくる……」
──"戦いたい?"
──"戦う力が欲しい?"
──"大丈夫だよ、チャル"
──"決めて、チャル"
記憶が溢れる。揺さぶられる。
懐かしさが零れる。それは──涙となって。
「ん? なんで泣いてるんだ、ガキ。あ、チャル。どこか痛いのか?」
「……ううん。大丈夫」
アレキは──かける言葉を見失っている。
どうしたらいいのかわからなかった。慰めるべきなのに、言葉が出ない。良かったね、と言ってあげるべきなのに、口が動かない。
何故──何故、自分が。
彼に対し、「まだチャルを縛りつけるのか」なんて最悪な感情を抱いているのか。
その理由がわからない──そんなことはない。わかる。わかっているからこそ、身体が思うように動かなかった。
「あ──皆さん、戦闘態勢に入ってください! 接敵します!」
「!」
「……今は、割り切らなきゃ。できる? チャル」
「……うん。アレキこそ大丈夫?」
「う。……そう、まぁ、見抜かれてるか。……ええ、大丈夫。鬱憤は機奇械怪にぶつけるから」
「調子悪いなら下がってろよガキ共! ぶっ潰してやる!!」
飛空艇のハッチが開く。
着陸するのはあまりにも危険ということで、降下作戦となった本件。
アリア・クリッスリルグの情報によれば──迫りくる一匹目は、恐らくハンター種。
原初ハンター種。神話に記載されたその名は。
「あれが──『アーチェルウィリーナ』」
遠目でもわかる。
轟と。轟轟と──灼熱に燃える鳥。
今は絶滅したそれを知る者がいるのなら、こう称すだろう。
「皆、行こう!」
「ええ!」
「おう!」
「はい!」
──"ドデカい燃えてる金の鶏"と。