終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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飽きる系一般上位者

 当然。

 

 原初の五機がその程度で壊れるはずがない。

 頭部、その中でも中枢──AIの部分を失ったアーチェルウィリーナは、しかし即座にその部位を作り直す。自己改造による自己修復。原初より稼動し続ける五機のそれは最早反射の域にまで至っている。ただ入力として、知能機構を壊されたから直した──それだけのこと。

 そして、己に破壊を齎したソレに対し、攻撃を仕掛ける。

 炎弾。口からではなく、頭部から発射された炎の散弾は、エタルドを使用した下手人たるチャルを捉える。

 が、チャルも今まで何もしてこなかったわけではない。まるでどこに何が来るのかわかっているかのようにそれら散弾を空中で避け──。

 

「あ、マズ──」

 

 個人用飛空艇が完全に破壊された。

 

 落ちていくチャル。向かう先は獄炎。アスカルティンのような耐熱装甲を持つでもないチャルでは、瞬く間に丸焦げになってしまうだろう未来が見える。

 ああ、憐れ飛べない人間。かつては飛べない鳥として名高かったカタチに対し、為す術もなく。

 

「っとと、任せろ!」

「うぐぇっ」

 

 否、為す術はあった。

 空を翔ける者がいた。それはチャルが飛ぶ手段を失ったとみるや否や、彼女を制止していたアレキを振り解き、己が武器を取ってここまで突進してきたのである。

 

「人間はとりあえず全部助けろ、特に女とガキは助けろってヘイズが言ってたからな。女でガキのお前は助けるべきだ。そうだろ」

「ありが、ぐぇ、あの、襟、ぅぐ」

「あ? 苦しいか? 痛いのか? ……ヘイズに見せねえとわからねえけど、とりあえず逃がすぞ」

 

 苦しませているのはスファニアなのだが、それでもチャルの窮地は救われた。 

 アーチェルウィリーナに対し完全に背を受け逃げの姿勢に入っているスファニア。当然だが逃がしてはならないとアーチェルウィリーナが飛び上がり──コケる。

 それはもう、綺麗に。すってんころりんと。

 

「ちょ──そういうことやるなら言ってよ! 中にいる私のこと考えてー!!」

 

 アーチェルウィリーナの内側から声が反響する。彼女が入ったはずの翼の付け根付近……ではなく、胴体の底の方から聞こえたあたり、中は大変な状態にまでシェイクされたことだろう。

 

「ああ、ごめんなさい。次から考えて打撃する」

「そこじゃなくて! 合図!!」

 

 その声に返事をしたのがアレキだ。

 当然、アーチェルウィリーナを転ばしたのがアレキなのだから、近くにいてもおかしくはない。飛び上がったその瞬間を狙い、片方の足に超威力の打撃を入れた。

 

 ただ、それだけ。

 けれど……もうそろ、誰かが思う事だろう。速さ。力。それが装備によるものだけでなく、明らかに何か、異質な、成長と呼ぶにも烏滸がましい変化を見せ始めていると。

 その変化はつまり──"英雄価値"に。

 

「スファニア、チャルを返して」

「あ? う、ぉ!?」

 

 先程までアーチェルウィリーナのそばにいたはずのアレキが、いつの間にかもう、空中のスファニアにまで追いついている。追いついて、彼女からチャルを奪った。その時の力があんまりにも強かったものだから、スファニアも驚愕の声を上げる。

 そうして見事掴み取った戦利品……もといチャルを姫抱きにし、地上へと降りるアレキ。

 スファニアに襟首を掴まれて振り回されていた事で息も絶え絶えなチャルは、けれどそれ以前に"息も絶え絶え"になっていたことをアレキは見抜いている。

 

「エタルドのオーバーロード。あれ、使う必要あった?」

「……奥深く、だったから」

「穴さえあけてしまえば、私やスファニアが攻撃できた。なんであんな無茶したの?」

 

 "華"と"種"から《茨》が出て、互いに絡み合う。行われるのは譲渡。生命力の譲渡。

 エタルドのオーバーロードはいとも容易くチャルを瀕死の状態にまで追い込んでいた。

 

「それに、オールドフェイスなんかいつ……」

「アルバートさんにね……ん、ぅ……貰ったんだ。出立する、直前くらいかな」

「……何やってるんだか、あの人は」

 

 命の光。

 それを受けて、見る間に回復していくチャル。対しアレキに変化はない。特に何でもない、といった顔で譲渡を行っている。

 

「……チャル。フリスのことで、動揺するのはわかるけど」

「あ、ううん。違うよ。フリスについては……まだ、色々思うことあるけど、そういうことで無茶したわけじゃない」

「無茶の自覚はあったと」

「う」

 

 譲渡が終わる。互いの《茨》が体内に戻っていく。

 その過程でアレキの腕に傷が付き、少しばかりの血が流れた。

 

「それで、倒し方はわかった?」

「うん。体内にあるものは、多分どこを壊しても再生する。自己改造……自己修復というので、簡単に。そこはアスカルティンさんに任せるしかないと思う」

「ええ。適任でしょう」

「だから私達のやるべきは、アーチェルウィリーナの足止め……というか、あの足を使えなくさせる事。そして、自己修復を起こさせ続けること」

 

 機奇械怪の自己修復は無限ではない。

 己が保有する素材の中から修復に使えそうなものを選び、それを加工してから修復素材として用いる。だから当然、保有素材がゼロになれば修復は行えない。巨大であればあるほどに保有素材は多いだろうが、それでもやはり無限ではないのだ。

 

「つまり、力業で叩き続ける、と」

「おお! 俺の得意な奴か」

「あ、スファニアさん。さっきはありがとう」

「あん? 何がだ?」

 

 空中ダッシュから帰って来たスファニアが話に混ざる。

 果たして混ざる気があるのかは謎だが、混ざる。そしてぺこりと頭を下げたチャルに対し。

 

「何って、助けてくれたこと……」

「俺は機械から人間を助けただけだぞ。謝られても困る」

「あ、いや、謝ってるわけじゃ」

「そんなことより、アレどーするんだ。なんか怒ってるっぽいぞ」

 

 本当らしかった。

 立ち上がったアーチェルウィリーナがダンダンと脚を踏み鳴らし、その巨翼を大きく大きく広げ──アレキに対し威嚇するようなポーズを取っている。

 そして、「今にも駆け出しますよ」というような前傾姿勢になった。

 

「アレキ、私をおんぶして!」

「ええ」

「スファニアさん! 私とアレキが通った所の装甲は全部脆くなってるから! そこをガンガン攻撃しちゃって!」

「おう、簡単だな!」

 

 時が来る。

 怒り心頭なアーチェルウィリーナが地面を揺らしながら駆け出した──その時には、アーチェルウィリーナの身体にアレキが貼り付いていた。燃え移らんとする炎。それらを剣圧で吹き散らしながら、黄金の金属の表面を駆け始める。

 

「モード・エタルド……極小版!」

 

 それはさらなる絶技だった。

 フリスが設定した「《茨》側の操作による消費体力の小分け」は、けれど多くて三回に分けて、が限界。それを想定した《茨》への入力。

 けれどチャルは《茨》を調伏し、更なる少なさ──極小単位での体力消費を可能とした。その精密さ、緻密さは、オルクスから吐息を零すが如く。

 

 モード・エタルド/吐息(エッセルブ)

 完全にフリスの想定外の使い方。

 銃口付近にあるだけで、あらゆる機奇械怪の装甲板は脆くなっていく。朽ち果てるまでは行かずとも、弱く脆く、ぶち抜きやすく。

 チャルを抱えたアレキが縦横無尽に走り回れば走り回る程、アーチェルウィリーナの黄金はその輝きを失っていくのだ。

 

 なれば。

 

「モード・エスレイム」

 

 その身体に、めきょ、と大きな凹みができる。

 まるで隕石か何かが衝突したかのようなへこみは──矮小な存在が引き起こしたもの。

 先程までアーチェルウィリーナの装甲に阻まれ、炎によって焦がされるだけだった存在が、アーチェルウィリーナの腹に大きな大きな傷をつけたのだ。

 

 モード・エスレイム。

 槍先に当たった対象に衝撃を浸透させ、内側から破壊する実体のない射出装置(ヴォイド・パイルバンカー)

 この際何が射出されているのか、何が衝撃波を出しているのか、スファニアには一切わかっていない。

 

 けれどそれで、確実なダメージが入った。

 

 混乱。動揺。

 体内のバグだけでも許しがたいのに、外の装甲まで。

 アーチェルウィリーナの思考。優先すべきは外の装甲。内側に差し向けていた掃除屋を回収し、外に当てる。補充する。

 

「モード・エスレイム」

 

 ──だが、あぁ、それすらも破壊される。

 この程度の衝撃でどうにかなるはずがない。344年の歴史が物語るアーチェルウィリーナの装甲は、今の今まで何物にも破られた事は無かったのに。

 今ここで。

 たった四人の小さきもの達に、崩されようとしている。

 

 死。

 

 悲しいかな、原初の五機の中でもっとも頭の悪いと言えるだろうハンター種であるがゆえに。

 アーチェルウィリーナは、最悪の選択肢を取る。

 

 ──"たすけて!"

 

 だって、あなたが呼んだのだから。

 遠くにいたわたしたちを、あなたが呼びつけたのだから。

 わたしたちを作った創造主。偉大なる父、アイメリア。

 

 ならばどうか。

 

「興覚めだよ、アーチェルウィリーナ。認識コード・リクカサト。君なんかが原初だったから、ハンター種の機奇械怪は進化できなかったんだろうね」

 

 ああ、なんて。

 冷たい、つめたい、声──。

 

 

 

 

「──やっと出られました」

「あ、アスカルティンさん。よかった」

 

 唐突に動かなくなったアーチェルウィリーナ。火も燃え終わり、今はただ、所々が凹んだ黄金が夕陽に照らされているのみ。

 そのあまりの唐突さに壊れた事を信じ切れず、色々つついて回っていた時の事。

 頭部付近に来た段階で、突然ボコッと黄金が吹っ飛び、アスカルティンが出て来た。

 

「ああ皆さん。お疲れ様です」

「アスカルティン、内部はどう? アーチェルウィリーナはまだ生きてる?」

「いいえ。どうやらアーチェルウィリーナは外部からの入力によって停止したみたいですね」

「外部からの入力?」

 

 機奇械怪を停止させる入力。

 そんなものはない、とは言い切れないチャルとアレキ。何故って彼女らは、見ているのだ。

 

「再建邂逅の人達が機奇械怪になっていって……でも突然止まった時も」

「ええ。恐らく」

 

 アスカルティンとしてはいい迷惑でもあった。

 本能の赴くままに食事を楽しんでいたら、突然味がしなくなって、そのまま瓦礫の山に圧し潰されて。無駄に硬い、無駄に重い素材を使っているものだから、中々思うように動けず、なんとか隙間を縫ってようやく、といったところ。

 その間に本能は鳴りを潜め、理性たるアスカルティンに交代している。丸投げである。

 彼女は理性的なので、アーチェルウィリーナの残骸から外に出る前に皮膜(スキン)を再生成していたから、結果オーライではあるのかもしれないが。もし本能のまま出ていたらと思うと。

 

「しかしこれ、もしかして余裕なのでは?」

「何が?」

「いえ、原初の五機というのですから、もっと苦戦するかと思ってたんです。でも、なんだろう、シンプルに硬い、シンプルに近づき難い。ただそれだけで、搦め手を使ってくるわけでもなし、この前の白い繭みたいな厄介すぎるものでもなし」

「……油断はするべきではないと思うけど、旧式なのは確かかもしれない」

「原初、だもんね」

 

 慣れ過ぎている部分はあるのかもしれない。

 彼女らは知らぬことだが、既存の機奇械怪では辿り着けなかった、人間(ミケル)のアイデアを入力された個体。それが最近彼女らが相手にしてきた機奇械怪だ。その機構は複雑で陰湿で、とてもではないが野良の機奇械怪に再現し得るものではない。

 

 拍子抜け。

 その一言に尽きる。

 

「おい、ガキ共」

「スファニアさん。そういえば、火傷は大丈夫?」

「火傷? なんだそれ。いや、そんなことどうでもいい。俺は帰るぞ」

「帰る?」

「ヘイズのとこだよ。戦いはもう終わっただろ」

 

 その言葉に。

 

「いえ、あと四体残ってる」

「まだ一体目だよ、スファニアさん」

「もう後続が来ていることはアリアさんからの通信でわかっています。私の鼻にも引っかかってますので」

「……そりゃだるいって」

 

 口の悪さは──ヘイズ譲りか、それともスファニア本来のものか。

 

「ま、まぁ、多分私達は一度下がらせられるから。奇械士は外にもいっぱいいるから、ね?」

「ええ。私達は一度ホワイトダナップまで戻って、休憩」

「……私とスファニアさん、入れてもらえるんですしょうか」

「その辺りはケニッヒさんがちゃんとやってくれると思うよ」

 

 そんな感じで。

 なんだか、あんまりにも手応えなく──原初の五機の一体目は討伐された。

 強くはあったが……なんだかな、というのが皆の感想であり。

 

「ごめんね、僕もここまで堕落していたとは思ってなかったんだ。次はちゃんとしたのを用意するよ」

「え?」

 

 誰かの声が。

 

 

+ * +

 

 

 さて、また時を遡って。

 

「──よぉ、マグヌノプス。初めましてだな。俺はヘイズっつー上位者だ」

「ケルビマという」

「……アイメリアのお気に入りに、ホワイトダナップの守護者か」

 

 邂逅。

 マグヌノプスを囲っていた上位者の全てを殺し終え、ようやく三人は出会う。

 

「我はマグヌノプス。星を癒し、守る者。上位者を名乗る"腫瘍"。アイメリアという"病魔"。……我は貴様らを許さんぞ」

「許さなくて結構。それより、俺はちょいとお前と話してみたかったんだ」

「おい」

「まぁ待てってケルビマ」

 

 槍を地面に刺し、適当な瓦礫に座るヘイズ。ケルビマから上がる抗議の声を制止して、彼は膝に肘をついた姿勢で──問う。

 

FLEIMEARICE(フレイメアリス)。この名前、アンタが作ったんだよな。後世に残るように」

「……ああ、そうだ」

「こいつからEIMERIA(アイメリア)を除けば、FLICE(フリス)になる。アイメリアの方が昔に名乗ってた名前なんだろ? アンタはアイメリアの名が後世において消えてしまう事を恐れ、この隠し名を作った」

「それがなんだ」

FLICE(フリス)は、誰だ。アンタが隠し名に使った、そして今奴が名乗っているフリス。こりゃ誰の名だ?」

 

 少なくともフリスはフレイメアリスを名乗っていない。それはマグヌノプスが呼んだ名であり、同時に架空の神でしかない。

 だが、そうなるにはおかしな点がある。

 アイメリアがフリスと自らを定めなおした理由。

 

「……」

「おいおい、今更だんまりは無しだろ。『悪魔』の時代に生まれたアンタが、『ゾンビ』の時代、『精霊』の時代、『魔獣』の時代、そして『機械』の時代のそれぞれと自らを繋いでまで語り継いできたフレイメアリスの名。何か意味がある。誰か強い強い、忘れたくない誰かの名前。そうじゃねえのか?」

「……それは」

 

 マグヌノプスがようやく重い口を開く──その前に。

 

「あのね、そういうの本人のいないところでやった方が良いよ。僕聞こえてるからそれ」

「ッ、アイメリア……!」

 

 声。石と金属と蝋の球体の中から、なんとものほほんとした声が響く。

 それは確実にフリスの声で。

 

「そりゃ聞こえるようにやってんだから当然だろ。聞かれたくなかったら場所移すっつーの」

「ああ、そうなんだ。で、フリスが誰の名前か、だっけ。別に隠し立てすることでもないから教えてあげるけど、僕の名前だよ」

「んなこた知ってるよ」

「ああ、そうじゃなくて。アイメリアは種族名なんだよ。僕がこの星に着弾した時に名乗っていた名前。ほら、あるでしょ? 『我々は宇宙人だ』みたいな。僕も倣ったのさ。『やぁ、僕はアイメリアだよ』ってね。その時マグヌノプスはまだ生まれてなかったけど、メガリアがそのままそういう入力をしたんだろうね、彼に」

 

 ならば、と。

 ヘイズがマグヌノプスを見る。先ほどまで重い顔をしていた理由は。

 

「彼が答えられなかったのは簡単だよ。知らないからさ。フリスは、まぁ意味はあるけど、普通に僕の名前。別にこれに縛られているわけでもないから別の名を名乗ることもあるし、またフリスになることもある。マグヌノプスが僕をフレイメアリスと呼んだのは、"フリス=アイメリア"という種族の等号を忘れさせないためなんじゃないかな」

「……お前さ、無計画なの昔からなのな」

「そりゃ誰だってやってみたいでしょ。別の星に来たら、ワレワレハウチュウジンダ、の件りはさ」

 

 溜め息は二つ。

 勿論ヘイズとケルビマから。

 

「そもそもの話だけど、そこにいるソイツ、そこまで頭良くないよ。今は老人の姿だから思慮深く見えるかもだけどね、結局はマグヌノプスだ。星が僕を排斥するために作り上げた集大成(マグヌノプス)。だから当然、この星にいる間の運命は僕とソイツを引き合わせ続ける。封印してこれで解放される、なんて思った僕が馬鹿だったのは認めるよ。まさか《茨》で封印した後、各時代の各地にマグヌノプスの影があった、なんて思わないだろ」

 

 言われ放題のマグヌノプスは、しかし黙したまま。

 球体をじっと見つめて動かない。

 

「僕が何か新しいことをしなければ、ソイツも新しい事が出来ない。その上でソイツは策を弄さなきゃ僕を倒せず、弄した所で──ホラ」

 

 ピシ、と球体に罅が入る。

 地面に張っていた《茨》が崩れて消える。

 まるで卵が孵化するように。

 

 封印は──ただの球体は割れ砕け。

 

「はい」

 

 中から、《茨》を波立たせて操るフリスが降臨する。

 

「やっぱ出られんじゃねーかてめぇ」

「そりゃ出られるさ。出るのは簡単なんだよ。単純に固定されていただけでさ。それもホラ、内側から力を込めて排出しちゃえば終わり。つまらないね」

「……アイメリア」

 

 マグヌノプスはまた、大砲を構える。

 まるで万策尽きたというかのように。

 もう一度焼き増しを行おうとしているかのように。

 

「原初の五機も、これだけの間放置しておけば何か変わるかな、と思っていたけど……期待外れもいいところだった。人間からの入力だけで機奇械怪が進化することはもう望めないのかもね」

「おお待て待てフリス。諦めんな。その言い方だと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っている風に聞こえんぞ」

「うん。そう言ってる」

「──時代を終わらせる気か、フリス」

 

 ずっと黙っていたケルビマが、そう問えば。

 

「そうだね、今の今までそう思っていたけど──どうかな」

 

 フリスが湛えた微笑みは、誰もが見たことの無いものだったかもしれない。

 それはようやく彼が表に出した、鎌首をもたげる無計画性の一端。今まで内面でしか見せていなかったそれを、表情として出力して、言う。

 

「うん。決めた。『機械』の時代はさっさと終わらせて、次は『機械と人間』の時代にしよう」

 

 よっこいしょ、とフリスが球体から出て、降りて。

 

 

 おもむろにマグヌノプスの額を《茨》で貫いた。

 

 

「──!?」

「ア、イメ……」

「えーと、残ってる国は、ジグとエルメシアか。エルメシアはヘイズの言ってた実験……"英雄価値"の遺伝に使うとして、鎖国中のジグはどうするかな。次なる舞台にするのもいいんだけど……ん-、まぁ中身を見てから決めよう。面白そうだったら遊ぶし、面白く無さそうだったら潰してポイ、だ」

「おいフリス、マグヌノプスを殺したら……」

「あぁ、まぁ誰かに生まれ変わるだろうね。でも今のままじゃ絶対に僕には勝てないからさ。一度星の中に戻って、再入力受けてきてくれた方が期待値高い、みたいな。それに、奴が生まれ直すまでの間は、チャル達も奴からの干渉を受けないし」

 

 伸びていく。フリスから《茨》が、ざわざわ、ずるずると。

 まるで聖都アクルマキアンを覆うかのように。

 

「あ、ヘイズ。アクルマキアンの人間は残しておく?」

「……ああ、頼むわ」

「おっけー。ってあれ、アントニオ?」

「ああ、奴には上位者の掃除を手伝ってもらったからな。俺も後に手合わせをしてみたい。残しておけ、フリス」

「え、ケルビマあいつを気に入るんだ……。アントニオが受け入れられているの、僕初めて見たよ」

 

 遠方で、「ぬっ、植物、いや、ぬ、ォォォォオオオ!?」なんて悲鳴が聞こえたけれど、気にせず。

 マグヌノプスを殺した事なんか本当に些事であるかのように、フリスはコトを進めていく。

 

「ケルビマ」

「なんだ」

「アスカルティンの育成って、どれくらいかかった? ちゃんと戦えるようになるまでさ」

「そこまでの時間は要していない。育成といっても機奇械怪の前に放り出すだけだったしな」

「それであそこまでのが出来上がるなら楽だけど……まぁアスカルティンはアスカルティンだからこそ、か。えーと次。フレシシとガロウズは……うーん。まぁ保留。次。モモだっけ? エクセンクリンの子供」

「ああ」

「まぁアレに関して僕がなんかするとエクセンクリンが怒りそうだからいいや。次は……スファニアか。ヘイズ、スファニアは」

「ゾンビだよ。俺の製造された時代と同じ産物。……消すか?」

「いや、いいよ。それも面白い」

 

 次々と何かを確認していくフリス。

 その間にも《茨》は増え続け、伸び続け。

 

「あ、あとピオ。そしてチャル達、と。うん。これで全部かな」

「何の確認だったんだ?」

「次の主要登場人物」

「……はあ?」

 

 認識コード・オディヌ。

 

 フリスがそう呟いた瞬間、全ての《茨》が眩い光を伴ってフリスへと戻る。

 そうして。

 

 そうして、全てが消えた。

 

「おい何してんだ」

「まぁ待ってよ。僕は全知全能じゃないんだってば。大きな事をやるには手順が必要なの」

「大きな事?」

 

 完全な更地となった聖都アクルマキアン。

 その上にまた《茨》を敷いていくフリス。この辺りはヘイズもケルビマもガヤになるしかない、フリス固有の領域。

 

「リストアポイントをね、作っておいたんだ。スタンピードとかやったら後々の作業が面倒になるってわかりきってたからさ」

 

 造られていく。

 ヘイズ達の視界で、《茨》がまるで建造物のように盛り上がり、何かが造られていく。

 

「僕にしては珍しく計画性を持った行動だったってわけ。で、まぁ死んだ命は蘇らないから、全部機奇械怪に置き換えて。スペックはまぁ、簡易でいっか」

 

 そして──。

 

「はい、完成」

 

 また、《茨》が戻る。

 そこには──聖都アクルマキアンがあった。

 

「……」

「……こりゃ」

「二週間と三日前の聖都アクルマキアン。人間の欠けは僕じゃどうしようもないから機奇械怪で代用して、建造物や構造物は全部元通り。ついでに」

 

 ついでに、聖都アクルマキアンの外。

 ゴミ山のように盛られ、しかし修復された機奇械怪達が、のそのそと元の場所に戻っていく。

 

「自身の生息地への帰還命令と、そこに付いたら二週間と三日前まで入力データを消去させる命令を入れてある。自分たちはスタンピードになんて参加しなかったし、聖都アクルマキアンを襲ってもいない。まぁ何故か長期間の記憶がごっそり抜けている。そんな感じ」

「それはそれで十分な入力な気もするが」

「まぁね。ああそれと、上位者は無理。モルガヌスがデッドヒートで製造を頑張るくらいしないと、アクルマキアンの上位者百人は戻ってこないから、しばらく行政とか諸々が大変かも」

「ま、そりゃアイツらの失態だ、仕方ねえよ」

「先に戻ってるバンキッド達を上手く使って。……と、こんなところかな」

 

 フリスは──額を貫かれ、だらんと手足を下げているマグヌノプスに近づく。

 近づいて。

 

「次を期待しているよ、マグヌノプス」

 

 その手で、彼を──。

 

「……」

「……あん? 今何が起きた?」

「消えたように見えたが」

 

 まだ死に切ってはいなかったマグヌノプス。

 それが最後の力を振り絞って逃げた、とでもいうのか。

 彼は、三人の前から忽然と姿を消した。

 

「大丈夫。時代の搾りかすが、搾りかすと添い遂げるってだけだから」

「?」

「それよりヘイズは生き残った人間への説明頑張ると良いよ。すべては夢だった──みたいなさ」

「……うへぇ。無理があんだろ、そりゃ」

「ああ、アントニオは多分どっかの地面に縛りつけてあるから、適当に探して」

 

 とまあ、ここまでが。

 聖都アクルマキアンに起きた、十七日間の悪夢、である。

 

 

+ * +

 

 

 そこは遠い場所。

 

「……久しぶりだね、マクガバン」

「……貴様、は、誰だ」

「おや、喋れるとは思って無かった。額に穴が開いているのに……恐ろしい生命力だ」

「我は……知らぬ。貴様を」

「だろうね。君と彼は大本と端末、みたいな関係なんだろう。ボクに色々なことを教えてくれた彼は、君の駒でしかなかった」

「待て……」

「待たないよ。これはボクの、何の意味もない感傷だから」

「──……エ、フィーナ……か?」

「!」

 

 それは。

 遠い遠い昔のお話。

 

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