終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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騙られる系一般上位者

 空歴2544年6月4日。

 聖都アクルマキアンからの偽の緊急要請、ホワイトダナップの不時着、原初の五機の襲来──。

 激動の三月から二か月開けての、今日。特に湿気があるとか無いホワイトダナップは。

 

「平和ね」

「平和だね」

 

 平和だった。

 

 奇械士協会と政府の一部の者に明かされた上位者という存在。

 けれどこれは、ケルビマ、エクセンクリンの両者が誠実な受け答えをしたことと、何よりもホワイトダナップを守護する者であり、元々の交友関係においても信頼されていた、という事が相俟って、敵意を剝き出しにされるという事は無かった。

 気味の悪いものを見る目で見られることはあっても、元々断罪者であり一般人に関わることの無いケルビマや、元々過度な労働を求められる存在であり仕事を押し付けまくっても死なないんだ! という信頼からか、時が経つにつれ彼らの関係性はほとんど元通りに。

 エクセンクリンについては悪化したと言えなくも無いが、概ね良好である。

 

 原初の五機。それとの闘いは、皆が思っていたよりかは苦戦を強いられなかった。被害は出たものの、死者さえなく。むしろ直前のギンガモールの方がホワイトダナップにダメージを与えたくらいだ、と報道されることも少なくない。

 さらに幸運は続き、その時のエクセンクリンの説明通り、機奇械怪が目減りし始めたのだ。ホワイトダナップを襲撃しに来る飛行形態のハンター種も、地上で組み上がる大型機奇械怪も。

 ホワイトダナップ内にいたNOMANSを名乗る教団の残党も完全に駆逐され、人類は完全な平和というものを取り戻しつつある段階にあった。

 

 懸念があるとすれば、他国だろうか。

 聖都アクルマキアンは当時、非の一切を認めない姿勢でいたが──国民を含む奇械士協会がアクルマキアンの上層部に対しクーデターを決行。結果頭がすげ代わり、そのままホワイトダナップとの友好的関係も結ぶ次第となった。

 エルメシアは変わらず沈黙。友好的とも敵対的とも言わないまま、シールドフィールドに包まれた国で沈黙を保っている。同じくジグも鎖国を解かないまま、こちらは通信の一つもない。

 

 ラグナ・マリアは復興中でホワイトダナップと繋いでいられる人材がいないようで、聖都アクルマキアンから派遣の人材がどうのこうの。再建邂逅は完全に没しているため、クリファスやネイトと同じく不可侵の地になった。

 ──その件について、足跡を辿るとアルバートの影がちらつく……ということで、協会はアルバートを問い詰めにかかった……が、アルバートは忽然とホワイトダナップから姿を消し、そのまま今に至るまで行方不明。

 最強と名高い奇械士の失踪に協会も一時混乱した……が、七日後届けられた匿名の手紙から、彼の無事を、そして奇械士をやめる、という旨を読み取り、それを周知する次第となった。手紙の内容は詳しく明かされていないが、ケニッヒ曰く「これは俺達宛てじゃない」とのこと。

 とかくアルバートは無事で、旅に出ているのだとか。

 

 また、彼と同じくスファニア・ドルミルも一瞬姿を消したが、すぐにアクルマキアンで発見報告があがった。ヘイズの居酒屋に戻ったとの話でありながら、聖都アクルマキアンにホワイトダナップが近付くと空を翔けて上陸してくる始末。

 本当は色々な手続きが必要な上、すわ機奇械怪の襲来かと奇械士がザワつくのだが、こちらも上位者同様概ね受け入れられている。本当に牽制のつもりだったことが、彼女と関わっていく内の人となりでわかったためだろう。

 スファニア本人も遊びに来る感覚で来ているのだから毒気も抜かれるというもので。

 

「……平和だね」

「ええ」

 

 総合して、やっぱり平和だった。

 明らかに以前より平和だ。平和、だけど。

 

「どこにいるんだろ、フリス」

「……チャル」

 

 彼だけがいなかった。

 フリス。クリッスリルグでもカンビアッソでもない、フリス。上位者二人を問い詰めても、そればかりはわからない、と帰って来るばかり。

 チャルの超能力的感覚にも、アスカルティンの機奇械怪的センサーにも引っかからない。

 

 フリスは、どこにもいなかった。

 

「……」

「チャル?」

「……何か、来る」

 

 果たして。

 

 ああ、それは成長なのだろう。

 チャルはアレキを手で制し、下がらせることに成功した。己も下がった。だから、助かった。

 

「──!!」

 

 今の今までだ。

 今の今まで、二人が座っていたベンチ。そこから先が、真白に染まる。真っ白だ。目を焼くほどの白。

 轟音と暴風。悲鳴と断末魔。

 白が退かば、収まれば。

 

 そこに、天使がいた。

 

「ッ、アレキ!」

「わかって、る!」

 

 既視感だ。

 既視感のある展開だと、チャルは思う。だが今は、チャルが戦える側にある。周囲を守り得る存在である。

 

 ならばこの焼き増しにも──。

 

「──告ぐ」

「!」

 

 ああ、ならば。

 この焼き増しは……ただ、()()()()()()()()()()()なのだと知るだろう。

 

 天使。特異サイキック種エンジェルから聞こえるその声は、だって、だって、彼の声なのだから。

 

「なんて、ね。やぁ、ホワイトダナップの諸君。僕だよ。運命を引き合わせる者(キューピッド)だよ。あはは、破壊されてから一年と経たずに冥府の縁から舞い戻って来たんだ」

 

 それは、ホワイトダナップの全端末に向けて発信している……過去、キューピッドが行ったそれと全く同一の手法だった。

 その上で、新たな体を得たキューピッドは言う。

 

「六日後だ。空歴2544年6月10日。この日を新たな時代の幕開けとする。地を這うばかりの機奇械怪は羽化の時を迎えたのさ。これからは機奇械怪が人間と共存していく時代だ。よろしくね、人類諸君」

「ふざけるな!」

 

 誰かが叫ぶ。

 それは皆の声を代表するモノでもあったのかもしれない。だが、相手を見定める必要はあったのかもしれない。

 叫んだのは、奇械士の一人だった。チャルとアレキも顔見知りな──キューピッド襲来事件で、守るべき家族を守れなかった奇械士。自らの力不足を嘆き、今では島外作業員に抜擢される程になった彼が、エンジェルに、キューピッドに突っ込んでいく。

 武器は剣。ああ、だが──チャル達が彼を宥めようとした時には、隙を窺っていた、そして心を落ち着かせていたチャル達が彼を停めようとした頃には。

 

「うんうん、元気なのは良い事だよ」

 

 あまりにも簡単に。いや、当然だろう。奇械士は知識と身体能力を以て戦う戦士だが、特に何か特異な能力を持っている、というわけではない。チャルやアレキといった特別なものが目立つから勘違いされがちだが、奇械士はただの人間だ。知識をつけただけの人間。

 だから、念動力なんてものが見えないのも、簡単に捕まってしまうのも仕方のないことだった。

 

 けれど。

 けれどそれは、全端末を通して発信されていて。それで、だから。

 

「だけどまず、君達無力な奇械士が何もできないことを自覚すると良い」

 

 そのまま。

 ぺしゃ、と。

 

「ああ、騒がなくていいよ。今日は襲撃しに来たとかそういうことじゃないんだ。紹介に来たのさ」

 

 空に浮く赤い球体となった誰かのことなど気にもせず、キューピッドは言う。

 そして、ほら、と。

 北西の方向を手で指し示した。映像がそちらに切り替わる。

 

 そこに。

 

「浮遊人工島ホワイトダナップ。かつて皇都フレメアから飛び立った特権階級の生き残りは、けれどたった三十万そこらまでしか増えなかった。空へと飛び立った意味は果たしてあったのか。食糧問題、土地面積、ホワイトダナップそのものの機関部が抱える問題……諸々が君達にはある。平和の裏に、重く重くのしかかる。もうそろ見て見ぬふりはできない」

 

 だから、と。

 

「解決策を用意したんだ。──ほら、見えるかい?」

 

 雲海を突き抜けて、それは浮上する。ホワイトダナップの高度にまでそれがせり上がって来る。

 

()()()()()()()()()()

 

 それはまさしく、ホワイトダナップだった。

 確実にホワイトダナップだった。この島に住む者達が言う。納得する。あれはホワイトダナップだと言える。

 

「あそこには今、機奇械怪が住んでいる」

 

 カメラがズームされる。

 言う通りだった。キューピッドの言う通り、島の形状こそホワイトダナップなれど、そこで暮らすは機奇械怪ばかり。

 けれど、どうしたことだろう。機奇械怪達の中に、人影らしきものもちらほら見える。

 

「何故機奇械怪の中に人間がいるのだろう、何故襲われないのだろうと、そう思ったかな。あはは、答えは単純だよ。彼らは共存しているからさ。共存する道を選んだから、と言い換えることもできるね」

 

 異様な光景だった。

 花壇に水をやる女性。その隣で、ハウンズが彼女に頬を擦り寄せ、女性は水やりをやめてハウンズの頭を撫でる。

 ボールを追いかけるドッグスとストレイ。それを追いかける子供。

 樹上ではホークスやイグルスが身を寄せて止まり、またその上に、飛行種に掴まって移動する人影らしきものも見える。

 

「必要なのは相互理解だったのさ。君達人間が機奇械怪(僕ら)を拒絶しないというのなら、機奇械怪(僕ら)は君達を受け入れよう」

 

 沈黙。

 誰も何も言わない。

 

「六日後だ。新時代の幕開けはそこ。その日、君達一人一人に聞くよ。こちらに来る気があるかどうか。そしてその時教えてあげよう。行く気が無いと──拒絶したのなら、どうなるか。あはは、よく考えておくといいよ」

 

 言って。

 エンジェルが消える。キューピッドが転移する。

 青い雷は、その場でパチパチと爆ぜて──消えた。

 

 

+ * +

 

 

「ねぇフレシシ」

「はい?」

「僕、あんな喋り方かなぁ。もう少し優しいと思うんだけど」

「まぁ……少しばかりミケルさんの要素が強かったですよねぇ」

「あと、僕の声の合成音声とかいつ作ったんだか。僕が聞いても僕だと思う程出来がいいし」

「一応天才らしいですし、あの人」

 

 僕である。

 僕がフリスである。あんなエンジェルなんかと一緒にしないで欲しい。

 

 さて、まぁ何の連絡もないけど、ミケルの仕業なのだろうことはわかる。僕としてはまだ機奇械怪の指導者というのを模索中で、無い頭をうーんうーんと捻っていた頃のこれだから、なんというか、面白くなるならそれでもいいけど……みたいな感じなんだけど。

 いやね、「機械と人間」の時代とは言ったよ。けど共存って……それじゃ進化しないじゃん。どっちかが飼い慣らされて終わりでしょ、ソレ。進化は闘争の中にこそ生まれるんだから。

 

「だから、僕に問い詰められてもわかんないよ。これで納得かい、エクセンクリン」

『……一応は。ミケル・レンデバランの足取りは?』

「さぁ? 僕、もうアレに興味ないからなぁ。さっきチラっと映った人型の機奇械怪もフレシシやガロウズを真似たものみたいだったし、ホワイトダナップそのものも別に根気があれば作れるし。新しさがないよね、彼」

『だが、わかっているのかい? 彼はエンジェル襲撃事件を真似た。それはつまり──』

「ミケルは悪意の贈り物(プレゼント)を送って来た奴じゃないよ。だから模倣犯になるのかな、これは。僕、二番煎じって嫌いなんだよね。新鮮味がないから。……まぁ僕の発想力の足りなさから僕自身はやることあるんだけど」

「横暴ですねぇ」

「上位者だからね」

 

 機奇械怪の指導者。

 つまり群れのリーダーとでもいうべき機奇械怪の作成。知能をつけすぎてはいけない。動物程度に抑える必要がある……んだけど、なまじ機奇械怪が地上の動物滅ぼしちゃったからなぁ。

 種は保存してあるけど……どっかに動物の群れがいて、そのリーダーから脳をデータ化したものを、とかの方が楽なんだけど。今から動物育てて群れにしてリーダー形成させて、しかもそれが機奇械怪全体の指導者になれるようなものに、ってなると……「機械と人間」の時代どころじゃないじゃん、っていう。

 

『……了解したよ。ケルビマにも同じ説明をしておく』

「わぁ気が利くねエクセンクリン。君のそういうトコ好きだよ」

『フリスに好かれても何も嬉しくないよ、私は。……はぁ。全く、次から次へと……』

「あ、そういえば念波の痕跡。調査結果出たけど、聞きたいかい?」

『聞きたいもなにもそういう取引だっただろう……。早く話してくれ』

 

 エクセンクリンとの喧嘩(舌戦)の末掴み取った彼の娘に関するある取引。その代価として要求された、彼を騙る何者かの発信について、これを僕が調査すること。

 片手間にやったけど、まぁだろうね、って感じだった。

 

「マグヌノプスだね。転移に念波に、《茨》を操る金属片。いいね、彼も少しずつできることが増えて行っている。今は真似事の段階だけど」

『つまり、エスト・マグヌノプスは生きている。そういうことかい?』

「生きているかどうかは知らないけど、少なくとも転移みたいな事が出来る程度には動けるみたいだね。ああエクセンクリン。悪いけど、僕が辿れるのはサイキックの痕跡だけだよ。徒歩で移動した、とかだとさっぱり。まぁホワイトダナップ内にはいない事は確実で、時代の縁的にまだいるかもしれない、くらい?」

『時代の縁?』

「うん。今代はチャルだと思ったんだけどね。チャルに現れているマグヌノプスの影はまだ薄い。完全にマグヌノプスになってたら、もっと僕を敵視するはずだし。つまりエスト・マグヌノプスはまだ稼働していて、どこかに身を潜めていると取るのが一番だ。そのエスト・マグヌノプスがアクルマキアンにいたマグヌノプスとどうやって連絡を取って、どういう取り決めのもと君を騙ったのかまではわからない」

 

 上位者と大本の関係とは少し違う。

 マグヌノプスはマグヌノプスっていう抗体本体がいるんだけど、これとは違う端末がうろちょろしている。いつの時代も隻眼な彼は、その端末を通して世界を見る事ができるみたいだね。だから僕がホワイトダナップにいる事も知っていたんだろうし、ホワイトダナップを気に入っている事も知っていた。

 チャルがその端末なんじゃないかな、ってあの時は落胆したんだけど、エスト・マグヌノプスというのがまだ稼働しているならば話は変わって来る。

 同時代に端末は二個も稼働しない。どちらかだ。どちらかがマグヌノプスの目、つまりこの星メガリアの触覚となって動き、情報を収集すると共に言葉を伝え続ける。記憶を伝え続ける。

 抗体本体が一度死んだら、また生まれ直すまでにそれなりの時間を要す。チャルが大人になるくらいかな、彼がまた生まれてくるのは。

 だから端末マグヌノプスは抗体本体が生まれてくるまでになんとか生き繋ごうとするはずだ。その宿主としてチャルはとてもいい身体のはず──なんだけど。

 

「エスト・マグヌノプス。英雄、ね」

『ああ、仕事が入った。いや常に仕事はあるんだが、君の長い話を聞いていられなくなった』

「あはは、お仕事頑張って」

 

 通信が切断される。

 

 ……もう。

 エクセンクリンがあんまり気にするから、ちょっと気になって来たじゃないか。

 

 エスト・マグヌノプス。機械技師。僕の知らない"英雄価値"。マグヌノプスの時点で意識から外しているのが仇になり過ぎている感じはある。

 

「フレシシ」

「はぁい」

「またちょっと僕は消えるけど、君もそろそろ決断しておくといいよ」

「……え」

「ミケルじゃないけど、もうそろ時代の幕開けっていうのは否定しないしさ。君がやってる隠し事、エクセンクリンがやってる隠し事、ガロウズが持ってる隠し事。他にも色々、僕にとっては楽しみなこととはいえ──」

 

 表情を硬くした彼女に笑いかける。

 

「ダブルスタンダードは、まぁ、嫌われちゃうからね」

 

 それだけ言って、消える。

 赤雷を伴う転移。

 

 ……よしよし、これでフレシシも危機感持って色々行動することだろう。僕、君の性格だけは評価してないんだ。その停滞を好み、怠惰でいようとするところはね。

 

 なんて。

 これは"余計な入力"だったかな?

 

 

 

 

 

 

 で。

 

「死んだとしか」

 

 えー、難航難航。

 失せ人捜しとか、僕の分野じゃないんだって。

 

 エスト・マグヌノプス。色々漁って見てるけどさぁ、足跡が全然英雄じゃないっていうか、普通に社会人で、チャルの母親のニルヴァニーナと結婚、チャルを産んですぐに死亡。

 

 ん~、凡夫!

 

 確かに転移っぽい痕跡はあったけど、その転移先に血痕や組織片の類すらないとなると、こう……どうにかしてマグヌノプスの能力だけをチャルにはっ付けて、結果動力炉とノートとやらが落ちた、としか。

 いやそうなんだよ。何、動力炉。あの動力炉。

 小型で、昔フレシシが使ってたものより効率悪い、けど使い古されてた動力炉。

 流石に動力炉に記憶とか無いからなぁ。あの場じゃオールドフェイスも作れなかったし。

 

 ただ確かに、エスト・マグヌノプスの墓でもオールドフェイスは作れなかったんだよね。

 だから誰かが何かをしたのは事実だと思うんだけど……流石の僕も、メガリア全体から一人を探す、なんてのは無理だよ。大陸に限定してもかなり厳しい。

 

「ミケルのショウまであんまり時間もないし、とっとと終わらせたいんだけどなぁ」

 

 ミケル・レンデバランの最期のショウ。別に彼は最期だなんて思って無いだろうけど、彼はもう僕にとって薄れた"英雄価値"だ。最期の最期、何か大きい花火を打ち上げてくれなければ、普通に邪魔者として切って捨てるつもりでいる。彼、大型機奇械怪ばかり作るから資源の無駄だし。

 ……とはいえ一応それを楽しみにしているあたり、僕も大概、と。

 

「いえ、あの」

「エスト・マグヌノプスーって呼んだらでてこないかな。ああでもマグヌノプスの名を口にするとそれだけで本体が出てきそうでやめておこう」

「あのー」

「まったくさぁ、ミケルもタイミングが悪いよね。チャル達はお休み期間だって言ってるじゃん。まぁお休み期間もう終わってるんだけど」

「そろそろ事情を説明してくれ、といっているんだ!」

「……そう怒らないでよ。無視したのは悪かったって思ってるよちょっとだけ」

「いきなり連れ出して! 説明も無しに! 高速で空を引き回されているこっちの身にも、」

「あ、そっか。君一般人だったね。しかも学者? あんまり高かったり速かったりはキツいのか」

 

 ルバーティエ=エルグ・モモ。

 エクセンクリンと交わした取引。それは、"君の娘と世界を巡り、意見を貰いたいんだけど良い? あ、勿論無事は確約するよ"というもの。その代価たるエスト・マグヌノプスの調査なのだから、どちらも兼ねて一挙両得、ってね。

 彼女の、つまり普遍的な凡夫の、けれど専門性の高い意見、というのは僕じゃ中々手に入れ難い。まず興味が無いから。

 だけど、平等から進化は生まれないという至言をくれた彼女なら、もっと色々発掘できるんじゃないか、っていう、結構期待値高めな旅行となっている。

 

 そのために、いつもの子供のそれでなく、大人で、ヘイズに似た感じの身体にした。つまり武人系の入力を最大限に発揮できて、ちゃんと上位者の不壊な肉体で、サイキックも十全に使えるスーパー上位者だ。デフォルト上位者ともいう。フリス・カンビアッソが極端に弱かっただけである。

 

「よ、と」

「……そういうことではないが、まぁ、いい。それで……何用なんだ貴様……とかは言わない方がいいんだったか」

「あ、いいよ普通で。僕別に偉いとかじゃないし」

「そうか。……で、何用だ。私はこれからガロウズさんと動力炉についての勉強をするところだったというのに……」

「え、まだそんなのやってるの? ……ああ、まぁ、いいや。ガロウズの教育方針は僕と違うだろうし。それで、目的だっけ。目的はフィールドワークだよ。やるでしょ、学者なら」

「……社会関係の学者ならまだしも、私はないな、そういう経験は」

「絶滅してるから、そっか」

 

 未だ距離感が図り切れていない。

 思考する際に、どうしても「でも凡夫だし気にしなくてよくない?」とか「だって凡夫じゃん」とかが邪魔してくる。

 良い知見を貰ったとは思っているけど、この子を"英雄価値"だとは呼べないからなぁ。

 

 僕はケルビマみたいに「弱きは罪だ」とは言わないけど、初期のチャルくらいの"英雄価値"を見せてくれないと食指は動かない。

 

「ホワイトダナップの外に出た事、無いでしょ。こういう経験は中々得難いものだよ?」

「それは……まぁ、そうなのかもしれない。少しばかり浮足立つ私もいる」

「うんうん、君はそれでいいよ。それじゃ、ちょっと歩こうか。歩きながら話をしよう。大丈夫、動力源は僕が用意できるからね、疲労を覚えない身体での徒歩旅行は、それなりに楽しいものだと思うよ?」

 

 エスコート、とかをする気は無いけれど。

 フレシシやガロウズが教えられない、僕ら上位者だけが持ってる視点も、彼女に教えてあげるのはいいことかもしれない。

 その役目は新人類(アスカルティン)になる予定だったけど、別に二人いてもいいし。

 機奇械怪なんて保管庫でしかないんだ。次の時代……「機械と人間」の時代のさらに次の時代になればお役御免。その予定先となる子なら、何を入力したって問題ない。

 

「モモ。君はこの世界……いや、まずは目の前のことからだろうね。君にこの地上はどう見える?」

「どうって……荒廃した、寂しい風景だ」

「寂しいか」

「ああ。かつてはここにも街や国があったのだろう? それがどういうものかまでは想像もつかないが、それがあった記録があって、それが無くなっていて。ならばやはり、寂しいのだと思う……ぞ?」

「それじゃあ、たとえば」

 

 周辺の機奇械怪に対する認識不可の命令を送り、一時的な隔離空間を創り上げる。

 そこに、適当なNOMANS……かつては「自動調理器」なんて俗称で呼ばれていたそれを創り上げる。それと、ベンチと、適当なそれっぽい標識と。

 

「こんな感じは、どうかな」

「どうと言われても……良いんじゃないか? いや、何が良いのかは上手く言葉にできないが、これが……その、昔の光景なのだとしたら」

「寂しいかな、これ」

「……。……ああ、寂しいと思う」

 

 それなら、と。

 さらに大きなもの。家を一つと、道も敷こうか。それと、適当な自動車も用意してみる?

 

「これでも、寂しいかな」

「寂しいな。これ以上何かが増えても寂しいままだ」

「それはどうして?」

「……魂が無い」

 

 その言葉は、彼女への期待値を上げるに十分な言葉だった。

 ホワイトダナップは宗教色の強い国じゃない。空の神フレイメアリスを奉る宗教は広く認知されているが、その教義に則って生活している民はそう多くはない。そしてフレイメアリスを奉る宗教において、魂というものについて深く触れている箇所は無い。当然だけど、僕が書いた神話が元になっているからね。

 フレイメアリスを奉る宗教に生きていない者であっても魂というのはオカルトというか、よくて創作にたまに現れる程度の単語だ。そもそも生まれ変わりというものがあまり広く認知されているわけではないからね、魂なんて以ての外だ。

 

 それを、ただの凡夫が、学者が。

 まるで日常であるかのように、当然知っているものとでもいうかのように口にするものだから、驚いてしまった。

 

「続けて?」

「続けるもなにも、これは、とても無機質だ。今あなたが造った、造り上げた簡素な街、になるのだろう。この一角。これは、けれど、魂が籠っていない。生活感や痕跡の話じゃない。そんなものは作ろうと思えば作れる。そうではなく、これには無いんだ。あるいは物としてこの世に(カタチ)を受けて、それを主張する暖かさが」

「そうかい。それじゃあ」

 

 少し、弄る。

 見た目に変化はない。ただ──魂を、宿す。

 

「……今、何かしたか」

「見えている?」

「見える?」

「いや、そうではないか。聞こえている。それも違いそうだね」

「……わからない。ただ、今何か……息を吹き返したような」

「うんうん、いいよ。今はそれでいい。アスカルティンもだけど、無知である方がより何か……動物的本能とでもいえばいいかな、それが働くのだろう」

 

 宿したものを消す。

 創ったものを消す。

 何もなかったかのように、荒地に戻す。

 

「少し、話をしようか、モモ。僕ら上位者が見えているものについて、君達が見えていないものについて」

「あ、ああ……」

 

 荒んでいた気分が、機嫌が戻っていくのを感じる。エスト・マグヌノプス? あとあと。

 

 そんなことよりも今は、少しばかりのお話を。

 あはは、その相手がエクセンクリンの娘だというのは、中々面白いものだと思うけどね?

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