終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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昔語りをする系一般上位者

「まずは、モモ。一つ整理をしておこう。──僕は一般に上位者と呼ばれる存在じゃない」

「……やはり、なのか。それについては……ミケル・レンデバランやフレシシさん達も言っていた」

「うん。上位者。これは、大本にモルガヌスという名の男を置く……なんだろう、言ってしまえば一つの群体に近いものだ。紀元前300年。この頃にモルガヌスという人間が覚醒した」

「人間……なのか?」

「そう。彼は人間だった」

 

 荒地を歩きながら話をしていく。

 時折通り過ぎる機奇械怪は、けれど僕らを気にも留めない。当然だろう。僕は勿論のこと、モモも純粋な機奇械怪。ベースがサイキック種だから、無駄に刺激する必要もないと思っているだろうし。

 プレデター種が近くにいないことは感知済みだからそっちも問題無し。

 

「モルガヌスは悪辣な男だった。だけど同時に天才でもあった。いや、秀才かな。とかく知識や情報を収集することを好む男でね。当時から人間の組織を立てて、あるものについての情報を集めていた。とりわけ彼の興味を引くものがあったんだ」

「……それは?」

「僕だよ。アイメリア──あるいは、とある隕石について」

「……あなたは、宇宙人……だったのか」

「あはは、そういうこと」

 

 それは「悪魔」の時代と呼ばれる時代。紀元前300年から紀元0年に至るまでの間に遭った、とても短い時間の話。

 

「世界各地に残る隕石の痕跡。モルガヌスはそれに執心だった。金のため、ではなく、知識欲のため。当時から隕石は未知の物質だとか、この星にはないものだと騒がれていてね。モルガヌスはそれを自らの手で解明したいと思った──のか、それともただ集めたいだけだったのかはわからないけれど、とにかく彼は集めた。死力を尽くして人力を尽くして、隕石の破片の全てを集めきった」

 

 あるいはロマンだったのかもしれない。

 モルガヌスという男はただの浪漫家で、それに多くが惹きつけられ、彼に協力したのかもしれない。

 彼のもとに集まった人々が忘れていたのは、彼が手段を択ばない男であったという事実。

 

「隕石の破片を集め終わった彼は、隕石の復元を行い──理外の力を知った。触れずにモノを動かす力。一瞬で遠くから遠くへ移動する力。物をすり抜ける力。遠くに声を届ける力」

「それは」

「そう、サイキックだ。君の使えるそれも、元を辿れば外の異物。この星に由来する力じゃないんだよ」

 

 手に入れた隕石の力。けれど彼はそれを自らが使いたいとは思わなかった。

 彼は矢面に立つことを極端に嫌う。言ってしまえば臆病で、現地に赴くことをよしとしない人間だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「当時の彼に付き従った、隕石蒐集の夢に付き合った十数人。モルガヌスが事業として立ち上げたそれに付き添った十数人は皆、隕石の破片を埋め込まれ──上位者と化した」

「何故だ? たかだか石だろう。特別な力を持っていたとはいえ、それが人間を変質させる程の何かを発揮することがあるのか?」

「言っただろう? その隕石に()()されていたのは僕なんだよ。アイメリア。別の星ではそれを寄生虫の名として用いている。……いた、かな?」

 

 よって。

 隕石を体に埋め込まれ、サイキックに目覚めた彼らは、自分でも知らない一瞬のうちに変質した。機奇械怪に侵食されるどころの比ではない。本当に一瞬で、彼らは上位者となった。痛みも無く、感覚もなく。

 それが最初の上位者だ。ロンラウもこの内の一人と言えるだろう。

 

「モルガヌスはけれど、研究をやめなかった。もっと小さな欠片で、もっと効率的に。そうしている内に、上位者は十万という数を手に入れるにまで至った。この星が上位者で埋め尽くされないのは隕石に限りがあるからだ」

「十万……」

「あはは、そんなに多い数じゃないよ。メガリアがもっとも人類であふれかえった『魔獣』の時代には、三百億を超える人間がいた。ま、そんなにいれば当然戦争が起きる。『魔獣』の時代は魔獣たちとの生存競争であったのと同時に、人間同士が最も争った時代だった。その中にいたたった十万の上位者なんて誰にも見つけられなかったさ」

「……モルガヌスという者がそれほど長い間生きているのもその隕石のおかげか?」

「いいや、少し違う」

 

 首を振る。

 僕がモルガヌスを消さずにいるのは、あんなのでも彼を評価しているからだ。

 

「彼は今やデータなんだよ。とうの昔に肉体を脱ぎ去って、地中深くにある本体に揺蕩っている。どこぞの拠点で、()()()()()()()で、世界中の情勢を監視しながら、ね」

「データ……AI、という奴か?」

「うーん、まぁこの時代の発展具合じゃそこまでしか思いつかないだろうけど、彼は違った。天才だった。彼は隕石のサイキックを用いて独自のネットワークを……つまり上位者を端末とした念子の海とでもいうべきものを構築し、そこに身を投じた」

 

 上位者が肉体を損失した時、概念体となり、そしてモルガヌスのもとへ戻る。

 あれはそのネットワークを通じて戻って行っているものだ。念波も似たような構造で送受信が為されている。

 そもそも「悪魔」の時代は彼女が思っているほど原始時代ということはない。むしろ「悪魔」という存在があったからこそ、科学は非常に発達していた。今の時代が「機械」の時代になったのはほとんどNOMANSのおかげだからね。せい、でもあるけど。

 この時代は機奇械怪という存在以外、超科学とでもいえる存在が無い。

 シールドフィールドやレーザーまでは辿り着けた国もあったけれど、広域ネットワークの構築や人工知能による生活の向上なんかをNOMANS無しにやっていた「悪魔」の時代に比べたら、とても「機械」の時代なんて呼べない程の"遅さ"だ。

 ま、時代の名前は人類を脅かすものの名前にしてるから、人類は別に名乗ってなんかないんだけどね。

 

「彼はモルガヌス本人だよ。それは僕が保証する。予め入力された数値しか出せないものや、学習するプログラムとして編まれたものでなく、魂を持った彼という本人だ」

 

 僕は彼のように現地に赴かないスタイルは嫌いだけど、彼の天才性は紛う方なき"英雄価値"だったと称し得る。

 

 そうして彼は、極自然的に──僕を発見する。

 

「あなたは、つまりそのサイキックそのものの根本。そう言える存在。だから……モルガヌスという人は、あなたを見て」

「あはは、僕がそんな引き籠りに見えるかい? 僕はもうその頃上位者をやってたよ。モルガヌスが肉体を脱ぎ捨てる前から、当然のようにそこにいた。上位者が上位者を上位者だとわかるのは、そのサイキックを感じ取れるから、みたいなところがあるからね。僕を見て、上位者たちは『モルガヌスが新しい端末を作ったのだろう』としか思わなかったんじゃないかな」

「そんなもの……か?」

「さあ、当時のモルガヌスの心境なんて知らないよ。とかく僕はそれらを受け入れた。自らを上位者と定めた彼らに、悪くはないと、面白いと思って、それに紛れることにした。とりあえずこれが上位者の成り立ちだ」

 

 では、次の話。

 前から歩いて来た馬の形の機奇械怪を撫でてて、僕とモモはさらに進む。

 

「どうして上位者たちは、機奇械怪の進化なんかを望んだんだろう?」

 

 一拍。

 

「どうして……と言われてもな。私にはそれがあなたの目的なのか、モルガヌスの目的なのかさえわかっていない」

「ああ、そこからか。うん、まず、機奇械怪の進化……というか『人類を脅かす存在』の進化は僕の望みだ。『悪魔』の時代、『ゾンビ』の時代、『精霊』の時代、『魔獣』の時代……そして今、『機械』の時代。それぞれが人類の存続を脅かすモノの名を冠し、そしてそれらにはある共通の進化を望んできた。良い所まで行ったのは『悪魔』の時代だけだったけどね」

「それは……やはり、魂、か?」

「正解。いいね、君はそこに関しての嗅覚だけは良い。褒めてあげるよ」

「あ、ありがとう?」

 

 半分以上貶してるんだけどね。

 まぁ本人が嬉しいならそれでいいよ。悪くはない。

 

「そうだね、そこからだ。まず僕の目的とモルガヌスの目的。これらは同一じゃない。ただし、重なってはいる。さっきモルガヌスが収集欲の塊だという話をしたね?」

「あ……だから、あなたより先に見つけたい、のか?」

「なんだ、わかっているじゃないか。今のくだり要らなかったよ」

 

 そうだ。

 モルガヌスが上位者を使って実験を繰り返しているのは、僕に取られてしまうのが怖いからだ。怖いと言っても恐れているとかじゃなくて、嫌だから、が近いだろう。

 だから僕と同じ目的にしている。僕と同じところに合わせてきている。

 けれど、モルガヌスも魂というものを完全に理解しているわけじゃないからね、当然端末たる上位者も理解しきっている者はいない。

 僕みたいにわかっている目標があってそれを目指しているのではなく、僕の行きつく先に先回りしたいがための行動だ。それに付き合わされる上位者を可哀想だと思う事はあれど、自ら抜け出せない時点で同罪だろう。

 

 無論。

 抜け出した者は、僕が確保しているよ。チトセとかね。

 

「なら、先程の問いは、上位者たちが機奇械怪の進化を望んだのは何故か、ではなく、あなたが望んだ理由は何か、にすべきだった。作問側のミスだ」

「……」

「な……なんだ。正当な抗議だぞ!」

「ふふっ、あははっ。いや。いや、そうだね。その通りだ。ミスリードだった。ごめんね、謝るよ。だからこれに関してはそのまま答えを教えてあげる」

「あ、ああ……」

 

 あんまりにも普通の、なんならちょっと子供じみた抗議をされて、失笑してしまった。珍しいよ? よく渇いた笑い、なんて表現される僕が、噴き出す程笑うなんて。

 それくらい、思わず笑ってしまうくらい、良い生徒だ。久しぶりに人間と会話している気がするよ。機奇械怪だけど。

 

「そうだね。何故僕が機奇械怪の進化を望んでいるのか。人類を脅かすモノ達に先を望んでいるのか」

 

 空を見る。仰ぎ見る。

 遠く遠くの離れた星を見る。

 

「人類じゃ辿り着けなかったと、知っているからさ。かつて人類が滅ぼした彼らの方が生き残るべきだったんじゃないかと考えている。だからその実験を他の星でやっている。……そんな感じ」

「……先ほど聞きそびれていたことだ」

「うん」

「あなたは、何だ。アイメリア。その名を寄生虫として用いていたどこかの星。宇宙人」

「その情報で十分じゃないかい? どこぞの星の宇宙人で、寄生虫的特徴を持っている。これだけじゃないか」

「……こういう与太話は専門じゃない。だが、違う……気がする。ああいや、だから、何故、が足りないんだ。宇宙人で、寄生虫で──たったそれだけなのだとしたら、何故それだけであるあなたが進化を求める。まるで神のように、まるで母のように……あなたが機奇械怪に進化を求める動機が足りない」

 

 白状しよう。

 僕は今、楽しんでいる。これが子供の成長を見る親の気持ちなのかな。

 モモ。凡夫としか見れないただの人間。死した人間を完全に模した機奇械怪。

 ()()()()()()()

 

 それが──今。

 

「ルバーティエ=エルグ・モモ。その答えを聞いたら、君は戻れなくなるかもしれない。それでも聞くかい?」

()()()()()()()()()()

 

 ──……。

 口角が上がる。俯いた彼女には見えていないだろう。

 そして──そして。

 気付いただろうか、彼女は。自らに無かった"暖かさ"が、彼女自身に宿ったということに。

 

 これは、入力だから、全てに適用すること、とは行かないけれど。

 君は新しいステージに立ったんだよ。二人目、だね。

 

「……たとえば。あなたはその星で、元々寄生虫だった。それが何らかの影響でサイキックに目覚め、あなたになった」

「違うね。0点」

「ぐ、……では逆はどうだ? サイキックの集合体であったあなたが寄生虫に宿って」

「それも違う。ちなみに言うけど、アイメリアは種族名とはいえ、僕みたいなのが沢山いたわけじゃないよ。僕の生態をして当時の学者がアイメリアと名付けただけだ」

 

 蔑んだ、でもいいけど。

 僕としてはそこそこ気に入っているから、そのまま名乗っている。人間だってそうでしょ。人間を人間だと称した人間の意見を、それが気に入ったからそうやって名乗ってるだけだ。自分たちの種族名なんか自分たちじゃわからないさ。

 

「……ならば、その前の星でも……あなたはあなただった?」

「お」

「しかし、だとすると……やはりその観点がわからない。かつて人類が滅ぼした彼らの方が、などというのならば、あなたはそちら側であるべきでは?」

「うーん、離れたね。君、結構先入観にとらわれるタイプだね。ああ、言い方が悪いな。君はまだ人間の尺度にいる、という方がいいか」

「尺度……」

「とまぁ、お話は一旦終了にしよう。ほら、見えて来たよ」

「……? そういえば、どこに向かって歩いて……」

 

 ま、この辺りはもう少しゆっくり考えると良いさ。

 急ぐ話でもないからね。

 

 潮風が頬を撫でる。

 打ち付ける波の音。

 

 咄嗟に身体を隠そうとするモモ。

 

「? 何やってるんだい?」

「何って、海だぞ!? そして私は機械だ。金属だ。潮風は敵だ!」

「……機奇械怪がそんなことで壊れると本気で思ってる? というか皮膜(スキン)あるでしょ。生成の仕方も学んだでしょ」

「た──……確かに」

 

 うーん。

 この子、期待できるのかできないのか微妙なんだよな。

 着眼点は凄く良いし、姿勢も素晴らしい。けど感性が……なんだろう。

 

 残念。

 

「それで……こんな所にまで来て、何をする気だ?」

「ああ、別の大陸に行こうと思ってね」

「成程……成程?」

「僕の転移ってちゃんと距離制限があるんだよ。だからほら、僕の手を取ってくれるかな」

 

 手を差し伸べて。

 おずおずと──それを取ったモモと共に、跳ぶ。

 

「……? お、──お、おい! 下! 何もないぞ!? 海だぞ!?」

「だからそんなに遠くまで跳べないんだってば。ここからしばらく落ちながら斜め上方向に跳んでいくよ。高速飛行は嫌なんだろ?」

「だ、だからそういう意味じゃ、」

 

 跳ぶ。飛ぶ。転移する。

 非効率だとは思うけどね。これをご所望なんだ、仕方がない。

 感覚的に無限落下に近いものを味わわせることになるけど、ねぇ? 仕方がないから、ねぇ?

 

「あはは、海面ギリギリで転移する、とかも面白いかもね」

「面白くない! 安全に行け安全に!!」

 

 騒がしい子だなぁ。

 エクセンクリンも……結構騒がしいから、ちゃんと似たんだねぇ。

 

 

+ * +

 

 

「皇都フレメア。そこは貴族の都。フレイメアリスを奉る国」

 

 捲られる紙の音──ではなく、端末に書かれた文字を上に流していく作業。

 

「聖都より別たれし兄妹。兄は聖都を、妹は皇都を首とし、以降袂を分かつ」

 

 母に依頼し、そして母より返された、皇都フレメアで見つけた禁書の翻訳文。

 ニュアンスなどをしっかり寄せて翻訳されているのだろうそれは、けれどチャルにもわかるような言葉で書かれていた。

 

「エルグの血を受け継ぎし者を貴族とし、そうでないものを民として……」

「チャル? 今大丈夫かしら」

「ん……お母さん? うん、大丈夫だよ」

「お友達が来ているわ」

「友達?」

 

 先日までは忙しくしていた母も、先のキューピッドの宣告を受け、今は家にいる。

 上層部がほとんどの職員に休暇を言い渡したのだ。六日間、しっかり考えられるように、と。

 

「ええ……ユウゴ君と、リンリーちゃんって子なんだけど……」

「──え?」

 

 チャルの心臓が跳ねる。

 あり得ない名前だったからだ。だって、その名前は。

 

「……どうする? 調子が悪いんだったら、帰ってもらうけれど」

「あ……大丈夫。今行くから。あ、お母さんは……来ないで良いよ。外で話すから」

 

 簡単に身支度をして。

 オルクスをしっかり確かめて。

 

 チャルは。

 

 

 

「いよっす! 久しぶりだなぁチャル!」

「ほんと! しばらく見ない内に……背、伸び……てないね。相変わらずちっちゃいなーチャルは」

「あ……う、うん」

 

 日の暮れて来た街を行く。

 できるだけ住宅街から離れるように、できるだけ広い場所に。

 

「それで……何? 用、って」

「あー、もうそれ聞いちゃう? もうちょっと話してからでもいーじゃん」

「そーだよ。久しぶりなんだからさ、今まで何があったのか話そうぜ、チャル」

 

 できるだけ、人のいない方に。

 チャル自らが先導していく。

 

「ごめんね、奇械士になってから、忙しいんだ」

「……そうだよな。お前、奇械士になったんだもんな」

「あのチャルがねぇ。ウチがいうのもなんだけど、まだフリス君とかの方ができたんじゃない?」

「ははっ、あいつ頭良かったからなー」

 

 だから、と。

 話を急くように、チャルはその銀の瞳で二人を見る。

 

「話って、何かな、ユウゴ、リンリー」

「……招待状だ」

「招待状?」

 

 手。

 二人は、その手をチャルに向ける。

 

「気付いてるよな。俺が……俺達が一度死んだこと」

「覚えてるよね。ウチらの最期」

「うん。……一回も、忘れた事は無いよ」

「けどな? 俺達は、蘇ったんだ。生き返ったんだよ。今は──あっちのホワイトダナップで過ごしてる」

「──」

「ウチらだけじゃないよ。あの事件で死んじゃったウチら以外のみんなもいるし、チャルの知り合いだ、って言ってた人もいた。確かミディットさんとケイタさんと……」

「アニータって綺麗なねーちゃんと、レプスって兄ちゃん。あとリンシュっていう……なんか騒がしいねーちゃん」

 

 忘れるはずがない。

 それを。

 

 その犠牲を。

 

「みんな生き返って、こっちにいる。だから──さ」

 

 もう一度、強く。

 ユウゴとリンリーは、その手を伸ばす。

 

「チャル。お前もこっちに来いよ。迷ってんだろ? 判断材料がねーからさ。だから、そんなんなら」

「ウチらと一緒に、もっかい学校生活しようよ。あっちのホワイトダナップなら、機奇械怪も襲ってこないし!」

 

 その二人に対して、チャルは。

 

 

「モード・エタルド」

 

 

 絶死の弾丸を撃つ。

 当然だ。チャルには、見えているのだから。

 

「……ちぇ。あーあ、勧誘は失敗か」

「あ、チャル。またね。ウチらはあっちにいるから……これ、ただの人形だから。ちゃんと待ってるから」

 

 首を振る。

 朽ちかけながらもまだ。まだ、チャルの友人のフリをする機奇械怪を見て。

 悲しそうに、言う。

 

「二人の一番大切なものは、神様、なんかじゃなかったよ」

「……」

「……」

「ちゃんと覚えてるから。二人のこと、ちゃんと」

 

 だから。

 

「あなた達は、二人じゃ、ない」

 

 消えていく。

 ユウゴとリンリーが朽ちて消えていく。エタルドのサイキックによって、機械にとっての絶対的な死が与えられる。

 

 それを最後まで見ることなく、チャルは踵を返した。

 恐らくこの"招待状"は他の者の所にも行っている事だろう。ならばそれを、死者を騙る機奇械怪を狩るのは、奇械士の仕事である。

 

 チャルは再度オルクスを握りしめ──駆け出した。

 

 

 

 

 

「くだらん」

「兄上!?」

「ん……なんだ、アレキ。起きていたのか」

 

 たった今女性を切り伏せた兄を見て、アレキは驚く。

 だってその斬られた女性は、間違いなく。

 

「母上……?」

「ああ。だが、機奇械怪だ。大方お前の母を装って、あちらのホワイトダナップに誘う……そんな魂胆だったのだろうが」

「機奇械怪……」

「……おかしなものだ。今俺は、虫の居所が悪い。……何故か憤りを覚えている。何故だ?」

 

 母親を兄が斬った、その母親が機奇械怪だった、それが刺客であった。

 続けざまの話に付いていけなかったアレキだったが、それよりももっと驚くことがあって、その怒涛のアレコレが彼方へと吹っ飛ぶ。

 

「……兄上。兄上は、上位者……なのですよね」

「む? あぁ、そうだな。俺は上位者だ。今更だな、まだ聞きたいことがあったか?」

「いえ……ただ、今の兄上は、母の死を利用されて、死を悼む感情を利用されて憤る……普通の人間のようだ、と感じました」

「死を悼む感情を利用されて……憤る」

 

 それはあり得ない。

 ケルビマは上位者で、断罪者だ。その証拠にケルビマは、ルイナードで死したあの女性のことを偲べなかった。あの時諭されこそしたが、それでもその実感を得られなかった。

 好こうとして、好こうとしたまま死んでしまった相手に感慨を抱けなかったケルビマが──実験で殺したに等しい女性のために、怒る、など。

 

「兄上。──死者は、弱者ではないと……考えます」

「……」

「私は……母上と父上が何故亡くなったのかを知りません。説明されたのかもしれませんが、覚えていません。兄上が何かを知っているのだろうこと、お爺様も何か隠しているのだろうことはわかりますが、聞こうとも思っていません」

 

 強い目だった。

 ケルビマが、口をつぐんでしまう程度には。

 

「でも、兄上が家族を大事にしている……いえ、人と人との関りを大事にしているのだろうことはわかります。知っています」

「そんなことはない」

「いいえ。兄上は知らないでしょうが、私がよく知っています。あなたは私に愛情を向けないよう必死に……まるで実験動物でも見るかのような目で私達を見てきました。けれど、私はソレを感じ取っています」

 

 そう言われてしまっては、ケルビマは否定できない。

 妄想だ、幻覚だと言うしかない。そんなものはないのかどうかさえ、ケルビマは自身を理解できていないのだから。

 かつて女性の墓前で「……ロクな感傷も持てんとは。不便なことだ」と呟いた彼は、もう。

 上位者という枠組みから──大本に振り回されるだけの上位者から、逸脱している。

 

「ありがとうございます、兄上」

「……何がだ」

「もし本当に、あなたが上位者という存在で、家族という縁になんの感慨も持っていないとして、そうあれとされた存在だとして」

 

 アレキが。

 テルミヌスを、抜く。

 

「──母上のために憤ってくれるあなたを──家族としてでなくとも、嬉しく思います」

 

 瞬間、アレキはケルビマの後ろにいた。

 たった今彼が斬り伏せた女性の横。そこから現れようとしていた男性を、両断して。

 

「コレは、父上ですか。くだらないですね」

「……くだらん奴が考えそうなことだ。アレキ。お前は、あちらのホワイトダナップには」

「ご安心を。あれなる偽物は、私達奇械士が叩き落してきますので──兄上は感情の育成に注力ください」

 

 それだけ言って、アレキは夕暮れの街に飛び出していく。

 チャルと同じだ。このような機奇械怪がいると知って、放置していられる性格ではない。

 

 その背を見つめて。

 

「……これも、くだらん感傷だがな、アレキ」

 

 思い浮かべるのは、アレキの言う通り実験対象でしかなかった、そのはずの男女。

 言葉よりも先に手が出るくせに、感情に訴えかけることも得意としていた二人。

 

「よく、似ている」

 

 果たして──ケルビマの表情は。

 

 少なくとも、それを見たどこぞの一般機奇械怪が「変顔の練習ですか?」とかなんとか余計なことを言ったのは、この風景から除外して良い事実なのだろう。

 

 

 

 

「何も──肉親を二度も食べさせることないじゃないですか。何にも気にしてませんけど。というか、馬鹿ですね。ただの人間相手ならともかく、私を騙せるわけないじゃないですか」

 

 だけど、と。

 

「本物の方が、ずっと美味しかったです。それだけは──姉さんの、名誉のために。何が、って感じですけど」

 

 夜に言葉は溶けていく──。

 

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