終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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見直す系一般上位者

 見るからに生気のない、サイキックの欠片も感じない──幽鬼のような男。 

 エスト・マグヌノプス。彼がそうなのだとすぐにわかる。

 

「やぁ、エスト・マグヌノプス。今までどこに隠れていたのか、それとも匿われていたのかは知らないけれど、随分とボロボロだね」

「……一度死に、生き繋いだだけの身だ。十六年は、保った方だろう」

「あはは、それはそうだ。賞賛を送れるよ。君がマグヌノプスでなければね」

 

 因縁だと思う。運命だと思う。

 この星メガリアが僕を排除するために生み出した抗体、マグヌノプス。それがこうも僕を阻むとは、中々にやってくれると本当に思うよ。

 これがこれから何万年と続こうものなら──この星を諦めようかと思う程度には。

 

「少しだけ答え合わせの時間にしよう。それまで僕は君を殺さないし、君も余計な事をしないで欲しい。お互いのためにならないとわかるだろう?」

「……いいだろう」

「ではまず、直近の事件。エクセンクリンの名を騙ってホワイトダナップをアクルマキアンに向かわせたのは君だね?」

「そうだ」

「うん。ではその時、どのようにしてあちらのマグヌノプスと連絡を取ったのかな」

「答え合わせなのだろう。自分で考えろ、アイメリア」

 

 ──おや。

 少しだけ、違和感。確かにマグヌノプスは自分の手の内を明かさない奴だけど……これは。

 

「単純だ。もっと前から、ホワイトダナップが聖都アクルマキアンに近づいた時から、あちらのマグヌノプスとは交流していた」

「……正解だ」

「まぁ十六年もあったんだ、それくらいは造作もないだろう」

 

 だから、自身の墓に痕跡を残したのはフェイクか。

 あるいはそこから発信こそしたけど、その後普通に徒歩で帰った。死に体であるとはいえ、それくらいは動ける……もしくはミケルが手を貸したか、かな。

 

「それはマグヌノプスからの依頼だったのかな。アイツが端末に対して働きかけるなんて珍しいけど──今回はどうやら総力戦にするつもりではあったようだし」

「……」

「答え合わせ以外には応答しない、と。いいね、マグヌノプスの頑固さそのまんまだ」

 

 まぁマグヌノプスだから当然なんだけど。

 でも、違うな、という囁きがある。これはやっぱり、僕が長年奴を相手にしてきたからの気付き。

 

「その次だ。ミケルに機奇械怪のアイデアを与えていたのは君。合っているかな」

「否定する。……俺と出会った時から、コイツは既に神狂いだった」

「神狂いとは言ってくれるな、協力者」

「おや、違うのか。ミケル、君の突飛な機奇械怪のアイデアは、エスト・マグヌノプスから着想を得たものだと思っていたけど」

「ふむ。少し違う、というべきだな。私は独力で調べただけだ。この、年齢に見合わず全てを知っているかのような口ぶりの男を。そうしてマグヌノプスという名に辿り着き、そこからサンドリヨンとギンガモールを創り上げた。だが、トーメリーサや今回のディンドコンゲンス(ドラゴン)は私の発想によるものだし、神は私が生まれた時から私の中にいたものだ」

 

 ……さて。

 この発言の十割を信じる程僕は甘くない。甘くないが──ちょっと違うかもしれない、とは思い始めている。

 ミケルは影響を受けただけでエスト・マグヌノプスから何かを得たわけではない。

 何故なら。

 

「最後の質問だ、エスト・マグヌノプス」

「……ああ」

「君はマグヌノプスではない──違うかな?」

 

 問いに。

 エストは、にやりと笑った。

 

 

 

 

「おっけー、成程ね。今君と話して違和感を覚えた理由が分かった。マグヌノプスは僕に対し情報を漏らさないけれど、僕を試すような真似はしない。それは根源的に奴が僕に挑む者であるからだ。その点、君は違ったね」

「……飲み込まれつつあるのは確かだがな」

 

 もう、その喋りも、表情も。

 マグヌノプスのそれじゃない。奴は僕にそんな表情を見せない。

 このニヒルな男は、マグヌノプスじゃない。

 

 マグヌノプスに乗っ取られていない、が正しいか。

 

「前の姓は覚えていない。自らの家族も知らない。ただいつの間にか俺はマグヌノプスで……その意識を奪われようとしていた」

「それは何年前?」

「さぁな……二十年か、それくらいだ。ニルヴァニーナと出会った直後あたり……その日俺はマグヌノプスになりかけた」

 

 僕や上位者も十分悪辣な存在だと言うのは認めるけれど、それを排除するためとはいえ、マグヌノプスだってかなり悪辣な生態をしている。

 各時代に必ず一人は居続ける端末マグヌノプスだけど、当然前代が死んだタイミングで丁度よく赤子が生まれるか、なんて言ったらそんなことはない。勿論人類の総人口からの計算で、一秒に何人生まれている~なんて話はよくあるけど、絶対にそのタイミングで新しい命になれるなんて保証はない。

 だから、前代の端末マグヌノプスが死んだ場合、次代の端末マグヌノプスは誰かが()()のだ。

 この星に生まれた者の責任として、誰かが。老若男女問わず、誰かが成る。

 

 それが今回、エストだった、というだけ。

 

 けれど彼は呑まれなかったらしい。

 正直に言えば、信じられないよ。だってマグヌノプスは星の意思だ。メガリアという星そのものの意思を、個人の意思だけで跳ね除けるなんて。

 紛う方なき英雄だと、僕も認めよう。

 

 なにより。

 

「何より君は、死を拒否した。気付いたんだね? 次代が君の娘……チャルになる、って」

「ああ……そうだ。まだ赤子で、俺の血を引く……チャル。マグヌノプスの器として、あまりに丁度いい。だから、引き留めた。指先程度は……俺が死んだ数瞬分だけは、入ってしまったかもしれないが」

 

 だからやっぱり、チャルの淨眼がエストの、ひいてはマグヌノプスの力で在ることは間違いないんだ。あの銀色は奴の色だから。

 だけど、それだけに留めてくれた。エストがチャルをマグヌノプスにしなかった。

 

「どうやって生き繋いだかは聞いても?」

「特に大したことじゃない……死ぬ前。あの炎に包まれた機関部で、俺は機奇械怪を殺して回って……だが、結局追い詰められて。その時、まだ生きている動力炉を目にしたんだ。……だから俺は、それを胸に詰めた。丁度、機奇械怪に切り裂かれていた傷口にな」

 

 わかるだろうか、僕のテンションの上がり具合が。

 口角の上がり具合が。

 さっきまでの落胆に反する──"価値"を見つけたこの喜びが。

 

「動力炉は……機奇械怪は、完全に停止しない限りは、ずっと捕食行動をし続ける。いや、融合に向かう場合は除くが……特に近くに生体があるのなら、たとえ動力炉のみの状態でもそれを取り込まんとする。……アイメリア。そうだな」

「ああ、そうだ。機奇械怪はただの機械じゃない。動力炉を中心とした一個の生物だからね。ミケルがトーメリーサを作ったように、それ以前のナイフのように、簡易なガワと動力炉だけでも機奇械怪足り得る。君はそれを知っていたわけだ」

「奇械士より……詳しい自信はあるさ。ホワイトダナップの機関部は、もう寿命だったからな……」

 

 成程。

 これは、本当によく知っている人間の言葉だ。

 

 だってホワイトダナップって機奇械怪だし。

 

「そうして融合し、心臓を食わせた君が、どのようにして生き繋いだのかな」

「ミケルだ。……俺の……マグヌノプスが使う、劣化した転移については、調べがついているんだろう……無論……

俺も……仕組みの全てを、理解しているとは言わないが……マグヌノプスは、周囲にある同等のもの同士を入れ替えることができる……。星を使う、と。そう……言っていた気がするが、俺に理解のできるものではなかった」

「……ふむ。じゃあ、君の墓の近くにミケルが行って、君の肉体に似せた何かと動力炉を用意、それと入れ替わったわけだ」

 

 じゃあ、あのノートは。

 ……それと同等のものを、ミケルが用意できなかったのかな。

 

「死体と同等のもの、などと言われてもわからなかったのでな。緊急搬送されていくエストに機奇械怪が埋め込まれている事は一瞬でわかったゆえ、適当な贄に動力炉を詰めて近づけた途端、目の前にエストが現れた」

「君達いつから仲間だったんだい?」

「それも、ニルヴァニーナに会った直後くらいだな……」

 

 マグヌノプスと天才が出会う、という図式は運命を感じさせる。その天才がアリア・クリッスリルグの親族で、マグヌノプスはクリッスリルグの養子と同じクラスになって、のあたりも。

 だけど、実際ここまでニアミスを……回避をし続けている。

 それがエストの意思だ。

 

「それで、そんな君が、何故ミケルの手伝いを?」

「……マグヌノプスを封印するためだ」

「へぇ?」

 

 へぇ。

 へぇ!

 

「君が、マグヌノプスを?」

「そうだ。……引き留めはした。だが、このまま俺が死んだとて……そのままマグヌノプスはチャルに宿るだろう。そして、たとえそうでなくとも、こんなものを誰かに背負って欲しいと思うほど、俺は腐っていない」

「君はマグヌノプスの役割を理解した上で、そう言っているのかい?」

「そうだ。アイメリア。お前をこの星から排すためにマグヌノプスはいる。だが……()()()()()()、俺達の人生を食い潰されるのは、納得がいかない」

 

 正当な。

 真っ当なこと、だとは思っていたけどね、マグヌノプスという存在は。だって僕完全に部外者というか惑星外生命体だし。このメガリアがモルガヌスを腫瘍として、僕を病魔として扱うのは極めて正常で──なんなら使命感でも抱きそうな、マグヌノプスに賛同する者がいてもおかしくないな、と思う対立関係だと、そう思っていた。

 けど、エスト・マグヌノプスにとっては違うらしい。

 

「アイメリア。そして上位者……お前たちが、人間に対し……実験を、何かをする事。それに対して思う所はある。それについて対抗すると、抵抗する気持ちもわかる。俺達は弱者で、星の意思でも無ければ対抗し得ない事も知っている」

 

 だが、と。

 笑みを絶やさないまま、エストは言う。

 

「その程度で……星に助けを乞いたいとも思わないし、背負わなければならないとも、勿論思わない。絶望の淵、悲嘆の果てに己の運命を呪い……それでも頼ろうとは思わない」

「いいね。じゃあ聞くけど、その手法や如何に?」

「それについて私が話そう!」

 

 生き生きと、意気揚々と、ミケルが体を乗り出してくる。

 ……マグヌノプスと関係ないと言っていた割に、そこは噛んでいるのか。うーん、ミケルはミケルで……まぁ、まだ殺すには惜しいとは思い始めてはいるけれど。評価がしづらいな。"英雄価値"ではなくなってきているのは確かとはいえ。

 

「神は降誕したが、あれでは不完全だ。君達上位者に簡単に負けてしまうものだ。──だが」

「ああ戦闘力期待してたの?」

「戦闘力? そんなものは機奇械怪で十分だ。神に必要なのは器だよ器。星の意思とやらを受け止めるに値する器」

「ふむ。一理あるね」

 

 聞きに徹してみる。

 

「星の意思。それがどのようなものか私にはわからないが、何故それは全て人間に憑くのか、というところに着目した。上位者という絶対的な存在に対し、何故星の意思は脆弱な人間を選ぶのか? まさか人間以外は星の意思を代弁するにそぐわないとでもいうのか」

 

 面白い話だ。

 確かにそうだ。マグヌノプスは人間以外にはならない。機奇械怪や今までの「人類を脅かすモノ」に上位者が負けるかどうかはともかく、確実に人間より強いそれらにマグヌノプスは宿らない。

 良い着眼点というか、僕が考えもしなかった──考えるに値しなかったことだ、それは。

 

「そして私は、そんなことはないと考える。神も星の意思も、どちらも大いなる意思であり──ただ、それに相応しい器が無かっただけなのだと」

「それが、こうも多くの"神"を生み出すこととどう関係するんだい」

「まぁ待ちたまえ。そう、君の言う通り、今この新生ホワイトダナップには今二千を超える神がいる。上位者……ケルビマ・リチュオリアとルバーティエ=エルグ・エクセンクリンが相手をしているのはほんの一握りだ。他の神は全て、ある場所に集っている」

「そこは、どこかな」

「ホワイトダナップだ。あと少しでディンドコンゲンスが自爆し──更なる贄を生み、これより送られる宿主に神が集中、融合し、完全なる神が降誕する」

 

 好きだねぇ自爆。

 けど、成程。確かに今、ディンドコンゲンスなるあのドラゴンの機奇械怪は、ホワイトダナップに身体を巻き付けるようにしてチャル達と戦っている。

 それがあと少しで爆発するのなら、ホワイトダナップにいる住民のそのほとんどが死に絶えるだろう。

 

 そして「精霊」の融合。

 つまるところ今代の機奇械怪が四千融合するに等しい。加えてディンドコンゲンス分か。

 うーん、それがマグヌノプスの依り代になる、とは考え難いけど……。

 

 いや。

 だから……そうか。

 

「君か」

「ああ、俺だ」

 

 エスト・マグヌノプス。

 今その身にマグヌノプスを宿す、死に体の英雄。端末である彼は、けれど、だからこそ。

 

「俺がマグヌノプス本体を引きずり込む。そうして後は……あとは、わからない。俺が何になるか、マグヌノプスになるのか、それとも『神』に支配されるのか。俺の心臓は機奇械怪だ。そのまま、機奇械怪になる可能性もある」

「私は神が降誕すると踏んでいるが、まぁ、それ以外が降りても問題は無い。また次なる思考を試すまでだ」

 

 一つだけ。

 

「チャル達が巻き込まれる事はいいのかい?」

「……父親としてのことは、何もできなかった。あの子は俺を父親だと思っていないだろうし、思っていてくれたとしても、俺の事は何も知らないだろう」

「他人だから構わないと?」

「まさか。大切な娘だ。だから、マグヌノプスを引き留めた。そして、だからこそ」

 

 勝手ながら、だがな。と。

 自虐的に、けれど誇らしそうに彼は笑う。

 

「信じている。俺はあの子を、ただひたすらに」

 

 じゃあ。

 

 

 

+ * +

 

 

 

 ドラゴンと奇械士の戦いは長引いていた。

 サイズがサイズだ。チャルのエタルドは巨大な敵に弱い。アレキのテルミヌスで斬り付けようとも些細なダメージにしかならず、アスカルティンの歯も立たない。

 そもそも胴にどれほどの攻撃を与えども一切の効いた素振りを見せないドラゴンに、ケニッヒが出した策は──。

 

「アレの中に入る……本気ですか?」

「しか方法ねぇだろ?」

「でも……」

 

 もう、ホワイトダナップは半壊状態だった。

 ディンドコンゲンス──という名は知られていないためにドラゴンと呼称されている機奇械怪。その身が巻き付いている南部区画から東部区画は見るも無残で、さらに火事も多い。

 たとえディンドコンゲンスを撃退しても、復興には時間がかかる。そういった様相を呈す街に、ケニッヒは捨て身の作戦を吐くしかなかった。

 

「口の中に入って、体内ぶっ壊しながら動力炉見つけて、……あとはまぁ、どうにかする」

「……危険どころじゃないです」

「つったってもうどうしようもねえさ。このまま戦闘を長引かせりゃ、最悪ホワイトダナップが圧壊する。そうでなくたって次にあのブレスが来たら終わりだ。なら、一か八かに出る方が良い」

 

 いつもの余裕なんてない。

 こうも直接的にホワイトダナップを攻撃され、防げなかった。

 奇械士としての

 

「……ケニッヒさん」

「なんだ、チャル」

「作戦があります」

 

 強い瞳。紺碧に揺る青に、銀の混じる瞳で彼女が言う。

 

「──私達でやらせてください」

「ダメだ。……といいたいところだが、まず作戦を聞く。どういう事だ」

「私達は、アレを……アレの動力をどうにかできる術があります」

「動力炉を、か?」

「いえ、動力を、です」

 

 もう隠すこともない、とばかりに、チャルは袖を捲る。

 そこに、腕に刻まれた紋章。"華"と呼ばれるソレに、ケニッヒは目を細めた。

 

 なぜならそれは、彼の妻の身体に刻まれていた"毒"と酷似していたから。

 

「チャル……」

 

 目を瞑り。

 そして──解放する。

 ずるり、とチャルの腕の紋章から姿を出した《茨》。それは彼女の肌をぞりぞりと斬り付けながら、しかし暴れることなく待機する。

 

「私はこれを従えていて、これは、機奇械怪の動力そのものと同じ性質を持っています」

 

 同じようにアレキが"種"から《茨》を出す。

 互いの《茨》は混じり合い、けれど攻撃性を示さない。

 

「あのドラゴンの動力炉がどこだろうと、私のこれは動力と接続し……それを吸い出すことができます」

「……アスカルティンが必要な理由は?」

「私達じゃどこに動力の経路があるかわからないんです。だから、アスカルティンさんに見つけてもらいます」

「あ、はい。行けます。匂いでわかるんで」

「今まで言い出さなかった。デメリットは?」

「制御できるかどうかは、わからないということです。初めてやるので」

 

 ケニッヒは「はぁ~」と大きなため息を吐く。

 自信満々なチャル達に。

 

「最悪お前さんも死んで、ドラゴンを止める機会も失って、ホワイトダナップと心中か」

「でも、ケニッヒさんが口に入って動力炉を探して壊すより確率は高いと思うんです」

「……わーった。だが一つ。俺もここに残るし、その……《茨》? チャル、お前がドラゴンの制御に失敗したら、それを無理矢理にでも引き千切る。その役目を担う」

「わかりました。お願いします」

 

 じゃあ、と。

 

「じゃ、最初に行きますね。動力の経路、それがもっとも表出している箇所を打撃し、動力を露出させます。敵は機奇械怪、それも恐らく数多くの製造炉を持っているので、一瞬で修復される可能性が高い。ですから」

「打撃した瞬間、私がチャルを傷口にまで運ぶ。最速で行きます」

 

 吟味は必要ない。

 一刻を争う事態だ。冷静に、というのにも限度がある。

 だから、言う。ケニッヒは。

 

「……考えてる時間は無いな。よし、お前ら。正念場だ。──行って来い!」

「はい!」

 

 

 

 巨竜ディンドコンゲンス。

 既存の機奇械怪には無いそのアート性は、だからこそ()()()()()()()という欠点を有している。

 なればこっちのものだと、アスカルティンはドラゴンの蛇腹へと飛び移り、即座に理性を外した。

 外れたのではなく外した。任せることにした。

 

「アハ」

 

 アハハハハ──と高笑いが響き、直後打撃が始まる。

 原初の五機を食べた事で手に入れた強度のある素材。それをふんだんに用いた拳で、ドラゴンの側面に強烈な打撃を与えていく。

 すわ工事現場たるやというほどの打撃は、けれど微かなへこみを作るのみ。

 あれほど硬かった原初の五機の素材でも傷つけられない素材。

 

 ならば合金を作るまでである。

 アスカルティンは自らの製造炉を働かせ、原初の五機の素材全てを合わせていく。そして鍛え、より強固なものを、より堅固なものを。その工程を数秒で行い尽くし、己が腕に換装する。

 

 一つ、強い音が弾けた。

 そのままギギギ、といういびつな音。それはまさしくアスカルティンが傷口をこじ開ける音であり。

 

「固定、しておくから! 来てー!」

 

 灰色の世界。

 その中をアレキが行く。風さえも追いつけない速度で、しかも直線的に。足場とか一切関係ないその跳躍力は、いつかホワイトダナップから降りるときにケルビマが見せたそれと同レベルのもので。

 本当に一瞬で、最速でその傷口に辿り着いたアレキは、チャルを前に出す。

 

「チャルっ!」

「うん、わかってる。行くよ」

 

 右腕。"華"は大輪を呈し、《茨》は怒涛を流す。

 アスカルティンが開いた傷口。そこにアレキがテルミヌスを突き立て、更に動力の経路を露出させ、チャルが傷だらけの右腕を突き入れた。

 

 突き入れて。

 

「──ぅ、ぁ……ァアッ!?」

 

 光。光だ。

 彼女の腕から這い出た《茨》の一本一本が光を発し、それがチャル自身にも伝う。

 アレキが即座に自らの《茨》を彼女のソレへ絡めようとも、バチンと弾かれるのみ。

 

「ッ、ダメか!」

「あ、ぁ、が……い、──ま、で、」

 

 いつの間にか辿り着いていたケニッヒ。チャルのその様子から、その槍を振るおうとして──アレキに止められる。

 

「待ってください、まだ」

「どう見てもやばいだろ!」

「っ、修復スピードが速すぎる! 二人とも手伝ってー!」

 

 アレキがテルミヌスを、ケニッヒが槍を。

 それぞれアスカルティンが開いた傷口に突き立て、それを手伝う。

 

「……まだ、だよ……!」

 

 言う。言葉を放つ。

 それがケニッヒを思いとどまらせる行動であり、アレキが、アスカルティンがチャルを信頼し、そのちっぽけな全力を巨竜に注ぎ込まんと気力を張るに値する意思となる。

 

 今。

 今、チャルの身体を巡るどこまでも激しい意思。彼女はこれを、これが何なのかを知っている。

 これこそが機奇械怪の意思だ。機奇械怪にも個性があり、大切なものがある。チャルの瞳はそれを見抜いていた。

 だからこそ、この提案をしたのだ。この作戦を立案できた。

 

 何故か。

 何故か、このドラゴンは──。

 

「大丈夫……私が、全部……貰ってあげる、から……!」

 

 劈くように、泣いていたのだ。

 

「アスカルティン、それ、食べることはできる!?」

「少しずつなら!」

 

 添えるように、アスカルティンが動力を食んでいく。ネイトで食べたあの不味いものよりかは美味しいソレは、しかし物凄い速度でチャルに引き込まれていっている。

 アスカルティンはまるで「自分の取り分が無くなる」とでもいうかのように捕食速度を高め始める。

 

 だが、アスカルティンが捕食に集中した分負担が増えるのは二人だ。

 片方は境界を切り裂く刀。動力を裂くこともできるのだろう、まだ軽い。

 だが、もう片方はただの槍だ。次第に機奇械怪の表皮の修復に巻き込まれ、その穂先が取り込まれんとしている。

 

「ッ、クソ、安物じゃねえんだが──」

「ケニッヒ! これ使って!」

「!?」

 

 突然の呼び捨てに驚いた、というのもあるが、何よりもケニッヒが驚いたのは、突然その場に槍が出現した事にだ。

 転移してきた、とかではない。

 唐突にそこに槍が作り出された。ケニッヒの使っているものよりも上質なそれが。

 

「こんなもんどこから──」

「いいから! 多分、もうちょっとだから!」

 

 刺す。急造の槍を、傷口の縁に刺す。

 それは修復に巻き込まれること無く、折れる事も無く。

 

 ただ凄まじい力がかかるのみ。

 なれば、ケニッヒだって役に立てる。

 

 あとはチャルがドラゴンの制御をするだけ。

 あとは彼女が頑張るだけ。

 

 その必死の耐えは、数秒の猶予は。

 チャルの決死の行動は。

 

 

 

 

 ──ドラゴンの自爆という最悪の形で、幕を下ろすこととなった。

 

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