終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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その身を捧ぐ系一般機械技師

 投げ出される感覚があった。

 投げられる。放り出される。引き剥がされて、捨てるように。

 

 光り輝き、自爆を敢行したディンドコンゲンス。

 その嘆き、その悲しみは、けれど関係ない。ディンドコンゲンス()の感情と、ミケルが植え付けた時限式の自爆機構は、チャルの対話に関係なく作動する。

 作動し。

 

「──え」

 

 だからそれは、その後ろ姿は──酷く鮮明に映ったことだろう。

 

 チャルの腕をそっと引き抜き、遠くへ投げた少年。

 アレキの背をそっと押して、弾き飛ばした少年。

 アスカルティンの肩を叩いて、向こうを指し示した少年。

 

 ケニッヒに苦く笑いかけて。

 

「みんなのことお願いね、父さん」

「フリ──」

 

 直後爆発が起きる。業火を伴う爆炎は空を焼き、弾け飛ぶパーツは炎を纏ってホワイトダナップに降り注ぐ。連鎖的に起きた爆発はディンドコンゲンスの身体を頭から尾までを辿り、その身が巻き付いていたホワイトダナップが東部区画、南部区画を完全に焼き尽くす。

 悲鳴も断末魔も上がらない。上がるような遅さじゃない。

 ただ、それほどの被害だというのに、少年に投げ出された四人は熱さえ感じなかった。

 

 何か不可視の力が彼らを包み込んでいたからだ。

 

「──!」

「──! ──!?」

 

 中の二人、ケニッヒとチャルが必死の形相でその不可視の壁を、自分たちを包む球体を叩いているけれど、声さえも外に出ないその球体はどんどん彼から離れていく。

 

 少年は──二人に手を振って。

 

 

+ * +

 

 

 空歴2544年6月10日。

 奇しくも偽キューピッドの宣言通り、その日は歴史の転換点となる。

 

「……なんて、語られるのかな」

「奇特な……奴だな……。目の前で、見たい、なんて。アイメリア、お前を殺す存在になるやもしれないんだぞ」

「あはは、僕がマグヌノプスに殺されるのは無いよ。少なくとも3000年くらいでどうにかなる存在じゃない自負がある」

「……まぁ、いいが」

 

 念動力でチャル達を逃がし、ディンドコンゲンスの爆炎をある程度抑え込み、集まって来る「精霊」が融合していくのを眺めながら……やりすぎたかな、とか考える。

 いやね。

 多分というか確実に僕が出てくる必要ってなかったんだよ。

 ケニッヒ・クリッスリルグあたりが犠牲になれば、チャルとアレキを守り抜くくらいはできるだろう。アスカルティン? 動力炉と記憶チップさえ無事ならどんだけ破壊されても平気でしょ。

 

 犠牲でなくとも怪我をするくらいはしていいと思っていた。原初の五機との闘いでは、奇械士に被害が出なかった。

 手ぬるいとか、被害を出したいとか、そういうわけじゃないんだけどね。なんとなく怪我しな過ぎだなぁとか思ってた。

 

 だから、出てくる気は本当になかったんだ。

 

「でも出てきた方が面白そうじゃん?」

「……何の話かは知らないが、悪い顔をしているぞ」

 

 無計画だ。

 でも、今。この絶体絶命を、絶死の瞬間を。

 もし、フリス・クリッスリルグに助けられたら──アスカルティン以外は激情を駆り立てられるんじゃないかな、って。

 あ、アスカルティンは無理だよ。あの子は僕を見た時点で僕であるって気付いちゃったし。もうあの嗅覚は上位者に近いね。

 

「さて、エスト。僕は今から、君を全力でサポートする。周囲は気にしなくていい。このアイメリア・フリスが君の英雄譚を華々しく飾ってあげよう」

「……ああ」

 

 無論。

 僕がやるのはサポートだけだ。

 この融合の末、エストが何に成っても──エストのままでも、マグヌノプスになっても、「精霊」になっても機奇械怪になっても。

 あれなるモノを倒すのはチャル達の仕事。自爆で全員爆散、は面白くないからね。

 

「世界は……広いな」

「メガリアは特に広いね。巨大な星だ」

「そういうことじゃない……。俺はマグヌノプスになりかけてから、世界の一端を知った……。マグヌノプスの知識。星に蓄積された知識。……機械技師として多くを知っていた俺がどれほど矮小だったかを思い知らされ……そしてまた」

「僕や『精霊』、上位者を深く知って、広くなったかい」

「ああ……。だが、やはり俺の考えは変わらない」

 

 一歩、エストが踏み出す。

 彼の足元には銀の粒子のようなものが零れ落ちている。あれがマグヌノプスの疑似念動力。何か細かい砂のようなものを操って、それを遠隔操作している。

 今回はそれを用いての足場形成だ。同時に、「精霊」へ粒子を飛ばしている。

 

「……アイメリア」

「何かな」

「俺はお前を信用しない。俺はお前を頼らない。恐らくどうにかなってしまうのだろう俺も、お前も──"英雄"が必ず打ち果たすだろう」

「それは、チャルかな?」

「わからない。チャルか、チャルの友か、チャルの子か、それとも全く関係のない別の誰かか──」

 

 エストは振り向いて、大きく(そら)を仰いで、言う。

 

「だが、お前は必ず打ち果たされる」

「楽しみにしているよ」

 

 ニヒルに笑って。

 

 瞬間、周囲にいた「精霊」が、そしてディンドコンゲンスの身から漏れ出でていた動力が、エストの身体に集中し始める。

 苦悶の表情を浮かべるエスト。けれど、悲鳴を上げるだとか、目を剥くだとかはない。

 歯を食いしばり──耐え続けている。

 

 凄いな。

 どれほどの苦しみか。どれほどの異物感か。

 身体に入って来る何か。「精霊」は魂の塊みたいな存在だ。《茨》もまた、性質としては似たようなもの。それを一身に受けて、けれど狂いもせずに踏み止まる精神。

 

「──アイメリア!」

「うん」

「今から、マグヌノプスを引きずり込む!」

「おっけー。じゃあ──僕も少し解放しよう」

 

 マグヌノプスは星の抗体だ。

 だから、僕という病魔が強く強く表出したら──少しくらいの隙は見せる。

 

 ああ。

 目を瞑っていたエストは、それが見えなかった事だろう。

 僕の首に入った一筋の線など。

 

 そこから──そこから出て来た不可視の何かを。

 

「──来た!」

 

 誰に見えているわけでもないだろう。

 星。下だ。地面。

 惑星メガリアから吸い出されていくものがあった。それは魂に似た、けれど全く違う"情報"。星の記憶。星の抗体。

 

「ッ……流石に、重い……重いが……」

「大丈夫。そこは手伝ってあげるよ。そのつもりで来たんだ」

 

 僕もそれを念動力で掴んで、エストに入れていく。

 これでも、それでも、エストは悲鳴を上げない。苦悶の表情を呈しながら、声の一つも漏らさない。

 

 エストの心臓にある機奇械怪が融合を再開するのがわかる。

 エストの身体に詰まった「精霊」が暴れまわるのが見える。

 エストの引き込んだマグヌノプスが──僕を睨んでいるのがわかる。

 

『聞こえるかねエスト・マグヌノプス! これより融合を開始する──気をしっかり保ちたまえ!』

「ああ……来い!」

 

 転移。青雷残るそこから出てきたのは、動力液……に見えるもの。

 違うな。アレは動力液じゃない。似ているけれど、全く新しい性質のものだ。

 

 それは意思を持っているかのようにエストに纏わりつき、そしてその身を──溶かし始める。

 

「……!」

「ああこれ、アスカルティンが戦ったっていう……」

 

 あるいは、アシッド・フログスの体表にあった酸性の液体。

 エストの肉体を融かし、壊し、そこへ「精霊」と動力が集い、混ざりあい……「融合」していく。

 

 それでもエストは、まだ。

 

「……もう、寿命だ。動力を得たことにより、機奇械怪の侵蝕が脳にまで達しつつある。『精霊』は取り込んだ。器は完成したが──俺の意思は敢え無く消えるだろう。だが」

 

 ぶれる。エストの姿に、歴代のマグヌノプスが重なる。

 だが、だが、だがと。

 振り払うように、己を確認するように。

 

「捕らえたぞ、星の意思(マグヌノプス)──」

「うん。こっちでも視認できたよ。今君の中にはマグヌノプスの本体がいる」

 

 エストの瞳から血が零れる。頭部からも、胸からも。

 瞬く間に血だらけになっていく彼。マグヌノプスがエストから逃れるためにその身を傷つけているのだろう。

 

 だが、それでも。

 それでもエストはマグヌノプスを離さない。

 

()()()!!」

 

 彼は英雄だ。紛う方なき。

 だけど僕が"英雄価値"と評するのは、あくまで機奇械怪に対する入力を行ってくれる存在に限る。今ここで英雄でなくなるエストは、チャルに壊されるつもりのエストは、決して僕にとって価値ある存在とは言えない。

 

 それでも手伝ってあげようと思えるのは。

 

「悪くない」

 

 アイメリア。そう呼ばずに、僕を名で呼ぶエスト。

 悪くはない。マグヌノプスの性質を持つ者に、名前で呼ばれる事。それを悪くないと思うのは──やっぱりチャルの影響が大きいのかな。

 

「創り変えるよ」

 

 エストに手を翳し──その中の機奇械怪へ、そして「精霊」へ干渉する。

 彼が引き込んだマグヌノプスを覆うように、逃さぬように、馴染むように。

 星の意思の全てをここに結する。

 

「……!」

「後は君の戦いだ、エスト。君が負けた瞬間、君はマグヌノプスになるだろう。『精霊』や機奇械怪じゃ太刀打ちできない。意識の主導権は確実にマグヌノプスが得る。君が勝てば、あるいは君がマグヌノプスを従えるかもしれない」

「本望だ」

 

 その胸に《茨》の針を刺す。縫い留める。

 痛みは無いだろう。だが、もうマグヌノプスはエストから逃れられなくなった。

 

 これにより、マグヌノプスの抵抗が増す。エストは内外から傷つけられることになる。

 機奇械怪の侵蝕、「精霊」の炎。エストを苦しめるものは多い。それでも、それでもと。

 

「──そして、最後にプレゼントだ。猶予をあげよう、エスト。今のチャル達では絶対に君に勝てない。僕にもね。だから──彼女らには時間が必要だ」

「……ああ」

「未来へ」

 

 それはアルバートの技。

 単純に飛ばす──けれどアルバートと違い、場所と時間を指定して。

 

「君にとっては一瞬だ。彼女らにとっては、五年間。次に目を開けた時、成長した彼女らが君を倒せるかどうか──この永遠のような一瞬を、楽しみに待っていると良い」

「……ああ」

 

 じゃあね、と。

 彼を消す。

 

 そして通信機をONにして。

 

『な──何が起きた? 神は? エスト・マグヌノプスはどこへ……』

「ミケル。最後の発注だ」

『その声は……フリスか。少し待ちたまえ、今神を降誕する儀式をしている最中で──』

「指導者を作って欲しい。人間らしさも、策略も、アート性も削いだ機奇械怪の指導者。これ以上の情報は与えないから、僕の意図を読んでこれを作って欲しい』

『……フリス。良いかね、これは社会人として言うが、依頼は具体的に──』

「じゃ。完成したら連絡してねー」

 

 通信機を切る。

 後ろを振り返れば。

 

 ……まぁ、ホワイトダナップはほぼ壊滅状態だ。そして丁度、あっちの新生ホワイトダナップが()()()()に斬れたのが見えた。

 多分ケルビマだろうけど、もしかして念動力の範囲広がったかな。モルガヌスからの支配を完全に跳ね除けたからか、制限が取れている。

 

 ミケルは……ま、生きてるでしょ。生存能力高いし。

 

 不時着どころか、墜落気味に落ちていくホワイトダナップ。

 元々機関部は寿命を迎えていた。けどこれ、どうかなぁ。全員死ぬ……気はしているんだよなぁ。何の緩衝も無しに地に堕ちたら、辛うじて生き残っている北部、西部区画の人間も死ぬだろう。

 

 ホワイトダナップ。

 まぁ、別に要らないといえば要らないけど。

 

『フリス!! 手伝ってくれたまえ!!』

「来ると思ったよ。で、エクセンクリン。何を差し出してくれるのかな」

『私が機奇械怪へ入力として用意していた、"群れの王"の記憶だ!』

「いいよ。じゃあそれを等価としよう」

 

 落ちかけていたホワイトダナップを掴む。

 まーまー重いけど、その程度でどうにかなる僕じゃあない。

 

 ……で、手伝いはしたけど、機関部直さなきゃどの道落ちるよこれ。

 

「どうする気なの?」

『今ケルビマが、新生ホワイトダナップの機関部をごっそり切り取って持ってきている。フリス、挿げ替えるのは可能かい?』

「可能かどうかで言えば可能だ。けど……」

『ヘイズにスファニア・ドルミルをこちらへ貸してもらえないか交渉する!』

「あはは、そんなにホワイトダナップが大事かい?」

『当然だ! 私の妻子が乗る島だ──なんとしてでも守ると決めたんだ、そのためなら悪魔にだって魂を売るさ!』

「……ま、いいよ。チャルの母親もいるしね。少しだけ手伝ってあげよう。ただし、ミケルがホワイトダナップをそっくりそのまま模しているかどうかはわからないよ?」

『構わない。やってくれ』

 

 まったく、人使いが荒いなぁ。

 僕は万能じゃないんだから、挿げ替えるって言ったって結構時間がかかるっていうのに。

 

 さぁて。

 機関部と、そして──久しぶりの再会を、ね。

 

 

+ * +

 

 

 

 何があったのだろうか。

 不可視の球体に包まれた四人は、爆炎の光の嵐の中を潜り抜け──いつの間にかホワイトダナップに着弾していた。

 

 アレキがテルミヌスを抜き、その球体を切り裂けば──。

 

「やぁ、久しぶりだね、四人とも」

「……フリス」

「フリス……」

「っ」

「あ、どうも」

 

 フリス・クリッスリルグ。

 少年がいた。あの頃のままの姿で、彼が。

 警戒を解かないアレキ。対し、チャルとケニッヒは武器を構えることすらしない。

 

「アスカルティン、その腕は?」

「あ、槍に加工してケニッヒさんに渡しました」

「……突然現れたと思ったら、そういうことだったか」

 

 ケニッヒがその手に持つ槍をアスカルティンに返す。

 するとアスカルティンはその槍を食べて……すぐに腕部へと加工した。

 

「フリス……本当にフリス、なんだね」

「うん。久しぶりだね、チャル」

「……よぉ、フリス。久しぶりだな」

「父さん、と呼べたらよかったんだけどね。僕は君の息子ではないから、そうは呼ばないでおくよ」

「そうか」

 

 フリス・クリッスリルグの姿をしていても、やっぱり彼はフリス・クリッスリルグではない。

 もう彼の性格はある程度が抑えられ、鳴りを潜めていた温厚なものから、興味のある事以外に興味のない残酷なものへと戻ってしまっている。

 けれど、それを素直に伝えたのは──ある意味、フリスという存在が変わっている、ということでもあるのかもしれない。

 

「五年後だ」

「……何?」

「五年後の今日、ホワイトダナップを脅威が襲う。それまでに強くなっていて欲しい」

 

 それだけを告げて、フリスは踵を返す。

 背を向け手を振って、そのまま消えようとした彼に──抱き着く存在があった。

 

「フリス!」

「……何かな、チャル」

 

 抱き着く。

 いや、抱き着いたように見える、だろう。少なくともアレキ、ケニッヒ、アスカルティンにはそう見えた。

 抱き着かれた当の本人……フリスにとっては、その背に突きつけられた銃口に笑みを零すしかない。

 

「聞かせて、フリス」

「キューピッドは僕じゃないよ」

「……うん。それは信じてた」

 

 じゃあなぜ、チャルは彼に銃を突き付けているのか。

 

「それじゃ、何が聞きたいのかな、チャル」

「今。フリスの一番大切なモノは……私じゃなくなってる。ううん、どころか、良く見えない……上手く見えない、曖昧な、けれどフリスは確信している何か。これは、何?」

「……」

 

 見えていた。

 チャルには、彼の一番大切なモノが。青色に近い黒。もやもやした、ねばねばした、こちらを見て、にたりと笑うモノ。

 これが何なのか、チャルにはわからない。

 

「アスカルティンの好物だよ」

「……嘘じゃないね」

「うん。さて、じゃあ僕からも質問だ、チャル。何故君はオルクスを僕に突きつけているんだろう。モードはティクスだね。生物を絶死させる弾丸」

「確認したいことがあるの」

 

 震え。

 オルクスを持つチャルの手が、カタカタと震えている。

 

「ちょっと前にね。ユウゴとリンリーが来たの。勿論彼らは偽物で……機奇械怪だった」

「言っておくけど僕の仕業じゃないからね?」

「わかってる。……その時ね、その時。ユウゴとリンリーの偽物を、エタルドで倒した時。この銃が……オルクスが、とっても熱くなった」

「へぇ」

 

 その時ばかりは、チャルの瞳は強いソレではなく。

 苦しさ紛れるうるんだ目。

 

「その時ね、オルクスの一番大切なモノが見えたの」

「武器だよ、それは」

「でも、機奇械怪だよね、これ」

「……うん。よくわかったね」

 

 オルクス、テルミヌス、カイルスは機奇械怪だ。

 捕食行為をしないがゆえにわかり難いが、これらは全て機奇械怪で──何かを消費して作られたものである。

 だから、チャルは問う。

 

「──オルクスは、何で出来ているの?」

「さぁ? なんだろうね?」

 

 弾丸が放たれる。

 有機生命を殺す弾丸。それはフリスに突き刺さり、その部位から彼を滅していく。

 

「フリス。……あなたはもう、フリスじゃないんだね」

「少し違うな。フリス・クリッスリルグがおかしかっただけだ。僕が元々のフリスだよ」

 

 朽ちて行く。

 滅んでいく。

 

 人体が簡単に──その全てが塵となって消えていく。

 

「ともかく、五年後だ。五年後までに最強になってね、チャル。今回は旧友の頼みでホワイトダナップを延命したけど──五年後の今日、君達が強くなっていなければ、ホワイトダナップは落ちる」

 

 消えていく。

 消えて。

 

「これからは『機械と人間』の時代だ。これがどういう意味か、深く考えておくと良いよ──」

 

 消滅した。

 

 フリスはその場から完全に消え、ようやく、ホワイトダナップは平和を取り戻したのだった。

 ──凄まじいまでの、恐ろしい程の被害を伴って。

 

 

+ * +

 

 

 突然だが、ピオ・J・ピューレは機奇械怪である。

 高給汎用給仕型人造人間(アンドロイド)──NOMANSの製品であった頃の記憶を持つ彼女は、この世界の現状に不満を抱いている。

 まず、世界が荒廃している。

 ピオの記憶にある限りの世界はもっと豊かだった。でも、いつの間にか世界は滅びかけていて、人類は絶滅しかけていて──何故か隣に、浮浪者みたいな男がいた。しかもそれが所有者になっていた。

 

 不満である。

 

「あん? なんだ、ピオ。俺の顔になんかついてるかいよ」

「いえ。古井戸さんの顔はゴミで構成されているようなものなので、ついているかどうかは微妙なラインです」

「そうかいそうかい、粗大ゴミが」

 

 古井戸。

 ピオの所有者はこの男である。ボサボサの髪と髭、襤褸切れのような着流し。サンダル。

 ピオも古井戸も己の出自を知らない、という共通点はあれど、高級汎用給仕型人造人間として見目麗しい少女の形をしているピオと、小汚い浮浪者一直線な見た目の古井戸ではつり合いがとれない。

 

「……世界が滅びに向かっています」

「だねぇ。まさかラグナ・マリアがあそこまでボロボロになってて、再建邂逅がもぬけの殻になってて、聖都アクルマキアンがなんぞ正体不明の機奇械怪の巣になってて……」

「ネイトの大穴、クリファスに満ちる謎の霧、舞い戻ったダムシュも完全に壊れていて、ホワイトダナップも巨大な機奇械怪に襲われていて」

「残るは排他主義のエルメシアと鎖国中のジグだけ。……嫌な世の中だねぇ」

 

 もう。

 滅亡まで秒読みだった。

 無理だと思えた。ピオの演算機能が未来を予測した結果、あと五年もすれば──全ての国が滅んでいる可能性があると。

 

「ピオ。……お前さん、俺についてきていいのかい?」

「は?」

「怒んなってぇ。なに、世界が滅亡するっていうんならぁら、俺に付いてくるんじゃなく自分の行きたいトコに行くのもいいんじゃねぇのかぁなってさ」

「……私はオールドフェイスを自身で自身に入れる事が出来ません。また、所有者から一定距離以上を離れる事が出来ません。以上の観点からあなたから離れる事が出来ません」

「んじゃ誰かに売りつけるかデッ!?」

 

 馬鹿なことを言い出した浮浪者を蹴り飛ばす。

 ちなみにピオの蹴りは大岩を蹴り砕く程度の威力を出せるので、それなりの技術で古井戸側がダメージを軽減しているのだろうことがわかる。

 尚、ピオは製品であるため売りつける事は実際にできてしまう。できてしまうが。

 

「……私は古井戸さんの傍を離れる気はありませんので」

「そぉかいそぉかい。……しかし、機奇械怪も減ったねぇ」

「それは、そうですね」

 

 唐突に話題を変えた古井戸に、けれどピオも乗る。

 古井戸とピオは地上を旅しているのだが、最近明らかに機奇械怪の数が減っている、という感覚があった。

 だからこそピオは疑問に思う。

 自身の演算装置は、機奇械怪が減っているにも関わらず、人類は五年以内には滅びると言っているのだ。

 

 何か見落としているものがあるのか。

 何か忘れているものがあるのか。

 

「古井戸さん」

「俺も同じこと思ってたぁよ」

「じゃあ、行きましょうか」

「あぁ」

 

 ──何か、考え忘れがあるのなら。

 

 知らない所に行くべきだ、と思う。

 

「エルメシアへ」

「ジグへ」

 

 ……。

 尚、二人の気は全然合わないものとする。

 

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