終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
五年が経った。
──なんてことはない。まだ、もうちょっとだけ。
場所は聖都アクルマキアン。住民の大半が機奇械怪に変わったこの国は、けれど比較的平和な生活を送っていると言えた。
通称"十七日間の悪夢"において壊されたはずのモノもヒトも全てが元に戻っているのだから当然だろう。数少ない人間達は巻き戻った時間に違和感を覚えながら──けれど「空の神フレイメアリスのおかげ」と信じることで、無駄な混乱を起こさずにいられた。
宗教国家であるが故、といえるだろう。
「……ヘイズ」
「なんだ」
「つまらん」
「そうか。ホワイトダナップにでも遊びに行けよ。俺は忙しいんだ」
「客も来ないのにか?」
「……俺は俺でやることがあんだよ」
ヘイズの居酒屋。ヘイズの酒場。
ここは今、閑古鳥が鳴いていた。客が来ない。客が来ないのだ。
それも当然、この酒場に入り浸っていた大半の人間は機奇械怪になってしまったし、からくも逃れた人間は、けれど"十七日間の悪夢"が起こったあの日、唯一外に出ていた二人を警戒してしまっている。ヘイズとスファニアが何かをしたのではないか──そう疑われているのだ。
客が来ない程度で傾くことのないこの酒場であるが、人間を間近で観察するため、という名目で酒場の経営をしていたヘイズにとってこれは痛手。マリクがいなくなったことで奇械士の仕事もできない。
となると。
「……そろそろ潮時か」
「何か言ったか?」
「ま、この店も畳み時って話だよ」
「畳んだら俺はどうなる?」
「そりゃお前」
ヘイズはニヤりと笑って──スファニアに手を翳す。
彼女の口の形が「オイ」になって、けれど声が発される前に、スファニアは転移光と共に姿を消した。
丁度ホワイトダナップが周辺域にいた時の話である。
さて。
荒野も荒野だ。当然、ここはアクルマキアンではないのだから。
砂埃を立てながら物凄い速度で地上を爆走するヘイズ。道中の機奇械怪は無視だ。正確には、既存の、知っている機奇械怪は無視している、が正しい。
聖都アクルマキアンに起きた、マグヌノプスによる上位者の乗っ取り事件。
アレには一つだけ解決されていない事柄があった。
それが、おかしな行動を取る機奇械怪の存在。ヘイズが奇械士になった理由であり、フリスが来る直前まで目撃され続けていたもの。結局マグヌノプスはその機奇械怪を使っては来なかったし、
なればそれはなんだったのか。
「っと……この辺か」
ヘイズが追っていたのは足跡だ。機奇械怪の足跡。
当時の証言をもとに作成した資料から機奇械怪の型を割り出し、最も怪しいものを追って爆走していた。
そして辿り着いたのが、ここ。
「……小屋?」
そこには小屋があった。小さな家屋。
荒野に突然現れた、ポツリと聳え立つソレに──とりあえずヘイズは攻撃を仕掛ける。
「まぁ待ちたまえ脳筋が!!」
「あん?」
それを止める存在があった。
ヘイズの槍を、念動力らしきものが止めたのだ。伴って声。ヘイズの知らない声。
「なんだよ、上位者か?」
「む、そういう貴様は……聖都アクルマキアンの奇械士か? いや、言動を察するに上位者か。まったく、上位者というのはどいつもこいつも……」
「んじゃこっちも言動から察するが、アンタは上位者じゃねぇんだな。つかここにいねぇな。どっかからか遠隔でスピーカーに声当ててんのか?」
「そのようなところだ。では改めて自己紹介をしておこう。私はミケル・レンデバラン。研究者であり芸術家であり聖職者だ」
「あー。お前か、フリスが懇意にしてた技術屋ってのは」
「肩書き! 名乗っただろう今!」
はぁ、と大きなため息を吐くヘイズ。
ならばあの奇異な行動を取る機奇械怪は、このフリスお抱えの技師の仕業か、と。
「で、こんなとこに掘っ立て小屋なんか立てて、何してんだ」
「調査だ」
「調査?」
「ああ、私は機奇械怪を作る事を生業にしているのだが、ある日私の作ったオーダー種が信号を捉えた。なんとか解析を試みてみると、それはどうにも救難信号のようだった」
「それがこの辺から出てる、って?」
「そうだ。ゆえにこうして拠点を立て、幾つかの機奇械怪を洗脳し、調査を行わせている」
仕業は仕業だった。それは合っていたが、どうやらそう単純な話ではないらしい。
「……お前、その信号受け取った時、ホワイトダナップはどこにいたよ」
「ほう? ケルビマ・リチュオリアもフリスも脳筋で辟易していたのだが、上位者の中には貴様のように頭の回る者もいるのか。名は?」
「ヘイズだ。それより、さっきの答えは?」
「フレメアとエルメシアの中間付近だ」
「……そりゃ」
成程それは調査をしたくなる、とヘイズも納得する。
この付近は大陸に置いて西北端……フレメアやエルメシアから正反対の場所にあると言っていい。
そんな距離を越えて信号を飛ばすなど、上位者にだってできやしない。
「ただの救難信号であれば無視したのだがな。だがそれが既存の機奇械怪にはない距離を操る者であり、しかも全方位に対して信号を飛ばせる者となれば話は別だ。是非ともその技術は手に入れたい」
「……わかった」
「む? 何がだね?」
「協力してやる、って言ってんだよ。調査、難航してんだろ? ホワイトダナップがこの周辺域にいる時間もそう長くはねぇ、できるなら今回ですましちまいてぇ。違うか?」
「……私の感動が伝わっているか? これまで上位者というのはあのフリスという……こう、社会というものが何なのかわかっていないビジネス不適合者や、とりあえず全部叩き斬ればいいと結論付けるような交渉不適合者、辛うじて話は通じるものの根本的に私に敵意があるため話にならない復讐者と……大変だったのだ!」
「最後のについちゃ自業自得だろ」
苦労しているのは伝わってくるが、コイツ自身も別に善性じゃねぇから何とも言えねえな、とはヘイズの心内。
「ええい正論を言うな正論を。まぁ、良い。協力は願っても無いことだ。よろしく頼む」
「ああ。んで、今どこまでわかってんだ?」
「その前に──変形をするから待ちたまえ」
「変形?」
言葉が終わってすぐの事。
突然目の前の掘っ立て小屋が、ウィーンガションウィーンガションと音を立ててバラバラに……否、自らのパーツを組み替え始めたではないか。
ヘイズが多少興味深そうにそれを見守っているのも束の間。
「──特異ハンター種『ハンス』と特異サイキック種『グレーテ』だ」
組み上がり、変形が終わった小屋は、凧のついた球体を思わせる姿になった。
「ほぉー……既存の機奇械怪じゃ絶対辿り着かねえ発想だな。二つで一つなのか」
「見る目があるな、とさっき言ったが訂正しよう。慧眼だ。よくぞ見抜いた。そう、この機奇械怪は最新作……互いが互いに動力炉を持ち、しかし動力を共有する二体で一体の機奇械怪だ。その機構あって、ハンター種の機動力とサイキック種の超能力の双方を一つの目的で使うことができる」
風もないのに凧が上がる。そちらがグレーテなのだろう、それは中空に固定され、ハンスの方がゴロゴロと転がり始めた。
「待て待て。どこまでわかってんだ、って聞いてるんだよ」
「この辺りから信号が発されている、ということはわかっている。──それ以上の追跡は地道にやるしかない」
「……この機奇械怪は?」
「グレーテがオーダー種の信号を敏感に感じ取り、その方向をスキャン、ないしは念動力による掘削を行う。ハンスはその周囲を破壊し尽くす。これにより効率的に信号元を探すことができる」
「それは効率的じゃなくローラーっつーんだよ」
また大きく溜息を吐くヘイズ。
そして──背にかけていた双頭槍を抜き取り、ぐるぐると回し始めた。
「その玩具、壊されたくなかったら離れてな。全力でだ」
「おいおい、信号元を壊しかねない、ということはわかっているのか?」
「そんな表層にいるなら自力で出れてるだろ。ま、何らかの事情で、ってんなら──俺は知らねえ。壊しちまったら残念だったな、だ」
「……やっぱり脳筋か! ああもう、どうしてこう上位者というのは!」
言いながら全力で離れていく二つの機奇械怪。
それに流し目を送り、「ハ」と短く笑ったヘイズは──。
「念動力の大半は使っちまってるが──これくらいならできる、ってな」
槍を突き立てる。
その、衝撃は。
アクルマキアンやジグにまで"地震"という形で届いたという──。
「危ないだろう!? 私が君の槍の威力を測り損ねていたらハンスもグレーテも潰れていたぞ!?」
「よく測りきれたな。やっぱアンタ見る目あるよ」
「この微妙に話の通じない感じ……!」
そこには、クレーターがあった。
まるで隕石でも落ちたかのようなその痕跡に、ミケルは通信機越しに喉を鳴らす。
「で、お目当てのモンはあれだろ」
「……おお」
クレーターの中。
そこに、あれだけの威力がぶち当てられたにもかかわらず無事な建物一つあった。
青色のメタリックな外見。立方体のその家は、入口らしきものが見つからない。ただこれが救難信号を出しているのは確実だ。何故ならグレーテが過剰なほどに反応しているのだから。
ミケルはハンスとグレーテを操作し、そのメタリックな立方体に近づく。
そしてハンス……球体である機奇械怪からマニピュレーターを出して、慎重にそれを調べ始めた。
「……なんだこれは」
「あー。……なんだこりゃ」
「わからないのかね、上位者が」
「上位者が何でも知ってると思ったら大間違いだぜ。知ってたら実験なんかしねぇしな」
「ふむ。先ほどの一撃をこれに当てる、ということをしてみては如何かね?」
「無駄だろうな。ホントはもっと威力出るんだが、コイツに弾かれてこの程度の深さまでしか掘れなかったんだよ」
「……測り違えていた、と」
ヘイズもノックをするようにブルーメタリックの立方体を触るけれど、特に何の反応もない。また透過も試してみて、それが上手く行かない事も確認した。
つまり。
「あー……俺より前に製造された上位者の拠点、という可能性があるな」
「まーた上位者か。だが、オーダー種が如き救難信号を出す上位者がいるのか?」
「フリスだってオーダー種みてぇな信号出せるぜ?」
「……確かに。それが先日のスタンピードだったか」
となると、途端に興味が薄れる二人。
技術だったら、機奇械怪だったら取り込めるとウキウキしていたミケルも、そんな特異存在が野良で発生した可能性があると知ってワクワクしていたヘイズも、なーんだ上位者か、と落胆してしまったのだ。
しかしミケルはメンタルの立ち直らせ方を、モチベの高め方を知っていた。
「……いやいや、違うだろう。つまり、上位者の拠点に特異な技術を持つ機奇械怪が閉じ込められている、ということだ。そう、特異な進化を遂げてしまったがゆえに隔離された……ような」
「上位者はそんなことしねぇんだわ。野良でそんな特異個体が現れたんなら大歓迎だし、自分の実験で生まれちまったんならすぐに壊す。わざわざ閉じ込めるなんて面倒なことしねぇよ」
「ならば不慮の事故だとするとどうだ? なんらかの手違いで転移事故が起こり、閉じ込めてしまった……としたら、すぐにでも出すか。そもそも転移が通じるのであれば貴様が真っ先に入っているはず……」
「だな」
立ち直ったメンタルを自分で砕いていくミケル。
なまじ頭が良いとそうなる。
「なら、やはりこの救難信号を出しているのは上位者だと?」
「まぁ馬鹿やったんじゃねぇの? 自分であんまりにも堅固な拠点を作り出して、けど出られなくなって、そっから救難信号出し続けて……地形が変わって元あった場所が地面に埋まるくらいの時間が過ぎて、ようやく俺達が来て」
「その私達もまた、興味を失って帰ろうとしていると」
「だって開けようねーし」
さて──。
二人の心は一致しただろう。
困ったぞ、と。
「まず思い浮かぶ選択肢は一つ」
「フリスを呼ぶ、というのであれば却下だ」
「……じゃあ、八方塞がりだ」
「選択肢も何もではないか!」
「俺より製造年月日が若くて念動力に長ける奴なんかもうそうそういねぇんだよ。大体一度戻ってるし。心当たりがあるとすれば──」
二人の間に。
影が一つ、降り立つ。
その姿は──。
「ん、ん~!! 上位者ヘイズ! お困りですかな! 聖都アクルマキアン観光大使、スカーニアス=エルグ・アントニオ、上位者メディスンの命によりあなたを探しに来ました──ご無事で何よりです!!」
「お前かぁ。ロンラウとかがよかったんだが」
「しかしここはどこで……む、機奇械怪。もしやこれが上位者ヘイズを困らせているものでしょうか。全く許せませんね、上位者の駒でありながら、実験動物でありながら、上位者の手を煩わせるなど──破壊という名の仕置きが必要でしょう」
「……また上位者か。はぁ、上位者は調べても面白みがないのだがな……で、何用おおう!?」
球体がギュリンと動き、アントニオの拳を避ける。
そこにまた小さなクレーターが空いたことを見て、ミケルは生唾を飲み込んだ。
「む、機奇械怪のくせに上位者からの
「ヘイズ! 貴様が呼んだのだろう責任を持って──」
「呼んだんじゃねえ勝手に来たんだよ。まぁ逃げた方がいいとは言っておくぜ。なんせコイツ、ガチガチの武人系の上位者だ。大陸の外にまで逃げても追ってくるくらいしつこい。体力無限だしな」
「だから何とかしろと言ってい、ぬぅお!?」
「ちょこまかと──仕方がない、念動力を解禁いたします! 潰れなさいガラクタ!」
「──今、私の作り上げたコレをガラクタと呼んだか。良かろう、そこまで言うなら相手をしてやるぞ上位者! デモンストレーションだ、覚悟したまえ!」
そうやって。
それはもう騒がしい二人が……球体と凧と白マントの青年が、激しく、そして煌びやかな空中戦を繰り広げながら遠くへ遠くへと離れていく。
「厄介払い成功、と」
大きく溜息を吐いて。
ヘイズは、改めて。そのブルーメタリックの立方体に向き直った。
一時間くらいは経っただろうか。
「……わかんね」
ヘイズは様々な方法でアプローチした。念動力以外にも、近接攻撃や水、火などの類を。
その全てが無駄。
不気味なまでに硬い立方体は、傷一つ付くことなく鎮座している。
「無理だな、こりゃ。……が、フリスを呼ぶっつったってアイツ今どこにいるのかわかんねぇし」
「
「……アンタが出てくるのは素直に驚きだよ、モルガヌス」
いつの間にかそこにいた。
ヘイズも見慣れた顔の上位者。だが、その顔に意識らしいものはない。半開きになった口からかろうじて音を出せている。ただそれだけの器。
「臆病者のアンタが出てくるのは、何かの心変わりか」
「
「へぇ。んじゃ、ようやく本腰上げてフリスを討伐する気か?」
「
ヘイズはフリスが嫌いではない。
嫌いではないし、なんなら好きの部類に入る。
だけど、それでも、興味はある。
あの怪物は果たして膝をつくのだろうか、という興味が。
それがもし、大本の主導で行われるのなら、と。
「ま、その話はいいや。今はコレだ。これ、なんだ?」
「
「罠ぁ? いつの時代のだ?」
「
成程、それは知らないわけだ、とヘイズは得心する。
ヘイズの製造は「ゾンビ」の時代。「悪魔」時代の次の時代なのだ。
「で、その罠の中から救難信号が出てるらしいぜ」
「
モルガヌスが、それに操られた上位者が立方体に近づき──何か、文字のようなものを描く。
瞬間、上位者の身体の半分がごっそり持っていかれる。消えた。あるいは、食われた。
「
「……どういうことだ。そりゃあまるで、上位者専用のトラップみてぇに聞こえるぞ」
「
それを嘘だ、とは言えなかった。
何よりも自分たちの大本たるモルガヌスの発言であることもさることながら、今の一瞬、この立方体が開いた一瞬、ヘイズも感じ取れたのだ。
念波による「助けてくれ!」という発信が。
「
「……ま、わかりはした。だがそんなものが何故ここにあって、なんで機奇械怪専用の救難信号なんざ出してた。上位者狙う装置なら、オーダー種の救難信号に変える必要ねぇだろ」
「
「フリスか」
「
フリス曰く、「悪魔」の時代は最もイイトコロまで行った時代だったらしい。
だからこそ諸悪の根源が何かに気付くのも早かったのかもしれない。
フリスは、というか上位者は、時代のリセットを行うたびに地表を焼き払う。生物の全てが絶滅し、構造物は崩れ去り、真っ新になった地表にある程度の過去を作り上げて、そこに人間を蒔く事で新たな時代の幕開けとしている。
だからこそこれは、この罠は幸いにも残ったのだろう。紀元前たる「悪魔」の時代から2500年を超える今まで。
「で、これどうするんだ?」
「
「何かに役立つかもしれないから、ってか?」
「
「……了解だ」
「
言って、上位者から抜け出たのだろう、モルガヌスが去る。
先程まで器にされていた上位者もまた体の半分を損失して絶命、モルガヌスのもとに強制送還される次第となった。
後はただ。
まーだ遠くの方でドンパチやってる二人と、ため息を吐きながらクレーターを埋める作業に入るヘイズがいるのみであったとか。
スファニア・ドルミルはゾンビである。
心臓の動いていない死体。だけど別に飲み食いできるし、血色も良い。心臓が動いていないだけのゾンビである。
ルバーティエ=エルグ・モモは機奇械怪である。
動力炉で動く身体。だけど別に飲み食いできるし、皮膜のおかげで血色も良い。心臓が動力炉になっているだけ。
そんな二人は今──ファミレスにいた。
「おお。美味い。美味い」
「そうか……それは良かったな」
「む、食べないのか? なら俺が貰うぞ」
「あ、ああ。別に構わないが」
「お前良い奴だな?」
事の発端はそう、モモが復興中の街を歩いている時のこと。
突然転移光があって、そこに彼女がいた。発端もなにも、ただそれだけ。
ただし、今のホワイトダナップの人間は転移光に酷く敏感である。それによって大切な人達が連れ去られた──"招待状"を受け取ったのはその人達自身であるとはいえ──という認識が強いため、それはもう騒ぎになりかけていた──ので、モモが彼女の手を取ってその場を離れ、適当なファミレスに入った次第。
自分でも何故そんな危険を冒したのか理解できないモモだったが、料理をそれはもう凄い速度で平らげていくスファニアを見て、「まぁいいか」という気持ちになっていた。
「自己紹介が遅れたな。私はモモ。お前は?」
「スファニアだ。んぐ、んー。んんー」
「見たところ、奇械士……だな。だが他国の者に見える。奇械士協会の場所がわからないのであれば、案内するぞ」
「おー。食ったらなー」
スファニアの注文分も、モモの分も平らげて。
──まだ足りない、という視線がモモに突き刺さる。
「はぁ。わかったわかった。好きなものを好きなだけ頼め」
「お前良い奴だな!!」
ルバーティエ=エルグ・モモ。
父親が高給取で、モモ自身もそこそこ稼いでいるため、懐にはまだまだ余裕があった。
「ふぅ、食った食った」
「全品頼むやつが本当にいるとはな……」
「美味かったぞ! えーと、モモ!」
「ああ。まぁ、それならいいか。それで、奇械士協会でいいんだな?」
「別に行きたいわけじゃないぞ?」
「そう、なのか? ……だが、警察……は今ほぼ機能していないし、どうするか」
ファミリーレストランを出て。
流石にそれだけ時間が経てば、スファニアの転移光に関する騒ぎは収まっている。代わりに凄まじいフードファイターについてのうわさが若干広がっているが、それはそれだ。
「スファニア、お前、親は?」
「親? ……って、なんだ?」
「あー、すまない。他、知り合いの大人はいないのか?」
奇械士だ。
早期に親を亡くした事をきっかけに奇械士を目指した、という者も少なくはない。だからモモは勝手に納得した。
「知り合い。ヘイズのことか?」
「ああ、それでいい。そいつはいまどこにいる」
「知らねえ。俺を転移させて、それっきりだ」
「……」
転移させた、という時点で上位者だろうことを察したモモ。その上で言い分を察するに、もしかして捨てられたのではないか、というところまで辿り着いた。
捨てられた子供。こういう子供をどう扱うか、モモの知っている限りの上位者……フリス、ケルビマ、そして父エクセンクリンで考えてみる。
まずエクセンクリンであれば……ああいやでも、溺愛してくれているのはモモと母のみで、他の子に優しいかどうかはわからないな、という結論。
ケルビマは……子供には優しく無さそうだな、と結論。
フリスは論外だ。一緒に旅をしてコイツにだけは子供を預けてはいけないというのがわかっている。
結論。
「……一緒に来るか?」
「どういうことだ」
「つまり、一緒に住まないか? 幸い私の家は広いし、空き部屋もある。一人増えても生活に困るような貧しさもない」
「よくわからん」
モモはもうこの時点で慈愛のような感情が湧いていた。
可哀想だと。捨て子。しかも親の愛を知らない子供。
モモは愛されて育ってきた人間……もとい機奇械怪だから、ことさらにそう思う。同情ではあったけれど、それでもここで捨ておくのは人としてダメだ、と考えた。機奇械怪だけど。
ので。
「よし、じゃあウチに来い。お前の親……ヘイズというのが見つかるか、お前を探しに来るまで私とお前は家族だ、スファニア」
「おう! よくわかんねぇけど、お前良い奴だからなんでもいいぜ!」
さてはて。
流石にこの辺りは、誰かの掌の上にあった出来事なのか、どうなのか。
裏で交わされていた取り決め、エクセンクリンがヘイズからスファニアを借りる、という交渉が為されないまま──スファニア・ドルミルはホワイトダナップの住民になったのだった。