終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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最終決戦に臨む系一般各人

 空歴2549年6月4日。

 

 五年の月日を経て、ホワイトダナップは一変していた。

 同時期に壊滅的な被害を受けていたラグナ・マリアとの移民受け入れ、技術提携などがあり、ホワイトダナップは攻撃性といえるものを手に入れている。対外攻撃機構。人工浮遊島でしかなかったホワイトダナップが、戦艦が如き砲門を持つようになったのだ。

 本来ならばそういった改造に真っ先に反対してくる国々──聖都アクルマキアンやエルメシアが完全な沈黙を保っているがために実現したこの大改造は、あのキューピッド襲撃事件から五年後にまた災厄が降り注ぐという真実が流布された事に起因していると言えるだろう。

 奇械士だけの隠し事でなく、周知されたのだ。

 五年後、本当に脅威が来る。だから──。

 

「……お母さん、本当に良いの?」

「もう、何度目よ、それ。いいのよ。というか、私がチャルを置いてどこかに行くわけがないでしょう」

 

 ホワイトダナップからの移住許可。

 その当時はラグナ・マリアからの移民を受け入れたホワイトダナップだったが、当然五年後に訪れるとわかっている災厄に対していつまでもここにいたい、と思う者ばかりではなく。

 ホワイトダナップからの支援を受け、こちらもある程度まで復興したラグナ・マリアへ、今度はホワイトダナップ側の住民が移住可能なように交渉が成立していた。

 

 家族に奇械士のいない住民や、元々ラグナ・マリアの民、また奇械士でありながらも戦う事を諦めた者達は皆、ラグナ・マリアへと降りた。

 

 その中で、チャルの母親……ニルヴァニーナは、それを是としなかったのだ。

 

「約束の日まで、あと六日。そろそろホワイトダナップは完全警戒態勢に入る。民間の人が乗れる船は、もう出なくなっちゃう」

「大丈夫よ。それに、私からしたら……チャルから離れる方がよっぽど恐ろしいわ」

「お母さん……」

 

 当然と言えば当然、ホワイトダナップに残ることを選んだ者はとても少なかった。

 悲しい事件があり過ぎたのだ。人が死に過ぎた。

 無論地上の国に行くのだ、ホワイトダナップより常の危険は増えるかもしれない。かもしれないとはいえ、それ以上にホワイトダナップの人々はキューピッドに脅威を覚えていた。

 アレの悪辣さを、アレの無慈悲さを、彼らは刻み込まれてしまっている。

 

 残る事を宣言したのは奇械士の一部とその家族、そしてエルグの貴族たち。

 前者はともかく、保身に走るかと思われた後者がその選択をしたのは意外だったようで、それにアテられて残ると言い出す住民が現れる程。

 今や廃れた貴族文化も、けれど君臨し続けたエルグを慕う者は少なくなかったのだ。「ホワイトダナップを守る」、「歴史を守る」。エルグの末裔が放つ言葉は強く、戦う力もないクセに、頑なにその場を動こうとしない住民が一定数いる。

 

 それでも、そういう者がいても、もうホワイトダナップには一万人も住んでいない──そんな状況だった。

 

「せめてシェルターに……」

「シェルターに入っていても、どこにいても、ホワイトダナップにいるなら同じでしょう。それなら私は家にいるわ。あなたが勝って帰ってくるための家だもの」

「……う~」

「唸っても無駄。一度こうだと決めた私は梃子でも動かないって知っているでしょう」

 

 なお、こういうやり取りが行われているのはランパーロ家だけではない。

 奇械士の家族はなぜか、その家族らも覚悟が決まっている者が多く、そうして残る事を決めた家族に辟易しながらも嬉しく思い──更に強さを磨く奇械士がほとんどだ。中には引き摺ってでも、自分が降りてでも家族を逃がそうとする者もいたが、しばらくしてから戻ってきたりして。

 どこぞの少年系上位者の言う"英雄価値"には決してなり切れない凡夫が、けれどそうして覚悟を決めていく様は、これまたどこぞの武人系上位者の目には眩しく映ったとかなんとか。

 

「それに、この島はあの人が愛した島だし。大丈夫よ。エストとチャルが守ってくれるのなら、私に怖いものなんてない」

「……そっか。わかった」

 

 決戦の日は近い。

 果たして此度はどれほどが死に、どれほどが生き──時代はどうなるのか。

 

 その行く末は──。

 

 

 

 

「流石に減ったな、ここも」

「ヒッヒッヒ、そりゃあなぁ。確実に死ぬとわかってて残るヤツは、狂人か馬鹿か、そのどっちかさぁ」

「なんだ、お前は残ることにしたのか、ヒースリーフ」

 

 没落貴族の繫華街(ダウンタウン・オブ・ルイナード)

 ディンドコンゲンスの自爆によって更地になった南部区画。そこには兵器群が乱立しているが──ここは相変わらず手も付けられないまま、アンダーグラウンドな雰囲気を変えていなかった。

 どちらかといえば廃墟街(ルイナード)に見えなくもない程に人は減っているが。

 

「残るも何も、俺にここ以外の居場所はねぇってな。ああでもダッグズの奴は五人の妻と添い遂げたぜ? 今じゃラグナ・マリアでよろしく子供でもこさえてんじゃねえかな、ヒヒ」

「そうか。……その方が幸福なのだろうな」

「旦那ァ、そいつはちと違うぜ。別にここに残った俺達が不幸かってそりゃ違う。行くアテがないのは確かだがな、俺達は自分の意思でここを選んでる。たとえ未来でどれほど惨たらしく死のうと、この選択をした過去の自分を憎み恨むことになろうと──俺達は幸福だよ。なんせ、選べたんだからなぁ」

 

 ヒッヒッヒ、と笑いながら。

 酒に酔っているわけでもないだろうに、ヒースリーフは言葉に酔って話しを続ける。残り五日。それを知って尚と。

 それに同調したのだろうか、数少ない残った者達もヒースリーフの言葉に頷き返す。

 

「ケルビマの旦那。アンタが人間じゃないとか知った事じゃねえがね、人間がどう在るか、俺達がどう幸福であるかは俺達が決めんのさ。──だから勝手に気負ってくれるなよ、若造」

「……気負っているつもりはなかったが……そう見えたか」

「ヒッヒッヒ、この時期にわざわざこんなとこにきて、残ってる俺達の顔を覚えようと、心に刻み付けようとするくらいには気負ってんだろう?」

「ああ……そう、なのだろうな。俺はかつて、間に合わなかった。最期を見届けられなかった。……ここは嫌いだったはずなのだがな、存外気に入っていたらしい」

「……素直過ぎるケルビマの旦那ってのも気味悪ィな。つか、ほら。こんなおっさんと話してる暇あったら、オサフネのとこ行けよ。アイツも残ってるからよぉ」

 

 しっしっとケルビマを追い払うかのような仕草をするヒースリーフ。その方向に──いた。

 オサフネ・チグサガネ。

 この五年間、ルイナードを訪れることの無かったケルビマが、だからこそ一切あっていなかった女性。

 

 ケルビマは彼女の店に歩を進める──。

 

 

 

「あによ。アタシを笑いに来たわけ?」

「む? なぜそうなる」

「……アタシが残ってる理由が、恋敵の弔いだからよ」

「恋敵?」

 

 大きな大きなため息。

 オサフネはケルビマの顔を見て、更にもう一つ溜息を吐いた。

 

「ケルビマ、アンタさ。アイツの名前、知らないんでしょ?」

「アイツ?」

「あの時死んだ女のことよ」

「ああ……。知らんな。調べようと思えば調べられるが、調べなかった。どうせ名乗りあっていないのだ、知らぬままで良いと断じたが故」

「あっそ。じゃあ嫌がらせで教えたげる。アイツの名前はリンゼンバーン。リンゼンバーン・フィーザフィー。珍しい名前でしょ。ホワイトダナップ出身じゃないらしいわ」

「……どういう嫌がらせだ、それは」

「別に? その特別感を壊したかっただけ。それで、結局何用?」

 

 あからさまにイライラしているオサフネに、けれどケルビマはその理由がわからない。

 五年前アレキに言われた"感情の育成"。それについて取り組んでみてはいるが、やはりいまいちわからない、というのがケルビマの感想だった。

 なんせ感情というものがあると、それがどういうものかについては、過去の膨大な記憶の入力で理解している。ケルビマは最新の上位者だが、フリスという名の344年分の入力、また武人系各種の膨大な入力を受けているため、多くを覚えている。

 学校生活や恋愛体験もしている。記憶の中でだけ、だが。

 だからこそ、わからなかった。

 何故オサフネがそうも苛ついているのか、あの時死んだ女性の名をケルビマに教える事が、何がどう嫌がらせになるのか。

 

 ──だからこそわからない、なんて思っている時点でわかっていないというところが、少年系上位者曰くの"成長コンテンツ"なのだが。

 

「アタシは逃げないから。アンタが何をするのかは知らないし、キョーミもないけど、ホワイトダナップが墜ちるんならアタシも一緒に墜ちる。止めても無駄。以上!」

「そうか。……ならば、安心しろ」

 

 頭に手を置く、とか。

 その手を握りしめる、とか。そういうことはしないケルビマ。

 

 ただ踵を返し、着流しを翻し、背を見せつける。

 

「俺は断罪者だ。だが──どうやら最近は、ホワイトダナップの守護者でもあるらしいからな」

 

 それが最後。

 ケルビマは隠すことも無くなった転移でその場から姿を消し──ルイナードには、拳を握りしめるオサフネだけが残された。

 正確には、その肩に無理矢理腕を回し、ニヤついた笑みでオサフネの頬をつつくヒースリーフ達だけが──。

 

 無論、大喧嘩になる。

 

 

 

 

「断固反対だ」

「……申し訳ございません」

「謝って欲しいわけじゃない。ただ、わかるだろう? 君は戦闘用の身体ではないんだ。大人しくお母さんと共にいなさい」

 

 ルバーティエ家。

 そのリビングで正座し、膝を突き合わせる親子が一つ。

 先に眠りについた母親に配慮し、念動力による遮音壁を作り出したエクセンクリンが、ガミガミとモモを叱っている。

 決戦まで残り四日。そんな時期に、親子は仲違いをしてしまっていた。

 

「まったく……本来ならラグナ・マリアに退去して欲しいくらいなんだ。それをホワイトダナップに残ることまで譲歩したのに、奇械士達と共にいたい、なんて……許容できるはずがないだろう」

「ですが、私の知識や発想が奇械士の役に立つことも」

「無い。いいか、奇械士というのは対機奇械怪の専門家(スペシャリスト)だ。そこに、ただ身体が機奇械怪である、というだけの君が混じっても戦力にならない」

「しかし、ですね……」

 

 モモは驚いていた。

 父がこうもモモを否定してくることなど滅多にないからだ。

 怒ったり叱ったりは人並みの父親程度にはしてくる彼だが、モモの能力を否定する、ということは無かった。その背を押してくれることがほとんどだった。

 それが、こうも。

 

「さっきからうるせぇなぁ。モモがやりたいって言ってんだから黙って見送れよ」

「……もしかしないでも、君の影響かな、これは」

「はぁ? んなわけねぇだろ、モモは最初からこういう奴だっつーの」

 

 そんなエクセンクリンに意見する者が一人。 

 スファニアだ。五年前モモが拾ってきて、そのままルバーティエ家に住み着いたゾンビの少女。とはいえ別にゾンビは人間を噛んだりしない。心臓が動いていないだけの、生身の機奇械怪みたいなものだ。だからエクセンクリンは居住を許可し──それを今、心から悔いている。

 

「とにかく、ダメだ。モモ。君は安全な所で──」

「……うぜぇな。おいモモ、こういう時なんて言うのかヘイズから教えてもらったよな!」

「あ……ああ」

 

 エクセンクリンがスファニアをあまり気に入っていない理由の一つに、モモがスファニアを通じてヘイズとも交流を始めてしまった、というのがある。

 ヘイズ。上位者の中でもかなりの古株でありつつ、そこそこは常識人な──完全な上位者気質の男。人間を実験材料だとしか思っていないのは当然として、その度合いがなんならフリスより酷い。上っ面だけを取り繕った、人間への擬態が上手い上位者。

 それと定期的に接触しているとなれば、どんな心無い言葉が飛び出てくるのか。

 

「お父さん」

「……はぁ、私は何を言われても」

「──そろそろ子離れしてください」

 

 その時エクセンクリンに衝撃走る。

 何を言われたのか。無論聞こえている。耳から入り、脳の髄まで響き渡っている。理解している。理解したく無い言葉を完全に解析できている。

 何を言われたのか。

 何を。

 

「機奇械怪となって加齢はしなくなってしまいましたが、私はそろそろ三十に近くなるんです。もう自らを子供だ、なんていう事はできませんし、既に一人で生きていけるくらいの知識を身に付けました。お父さんとお母さんの愛情はとても嬉しいのですが──正直な話、その」

「鬱陶しい、だろ」

「──!?!?!?!?」

 

 ガツン、と。

 弾かれたように、エクセンクリンが仰け反る。

 

「一々子供のやる事為すことに口出すんじゃねぇよ、……って、ヘイズが言ってたぜ。お前についてモモが相談した時の話だ」

「お母さんは、『あなたのやりたいことだと言うのなら、私はその背を押すだけよ』と言ってくださいました。──お父さん。お願いします。私はスファニアと共に……そして奇械士のみんなと共に、お母さんやお父さんの住むこの島を壊そうとする災厄を打ち払いたいのです」

「……ダメだ」

「しつこいなオマエ」

 

 途中までぴくぴくと痙攣していたエクセンクリンだったが、けれど持ち直し──それでも、と拒絶の意思を示した。

 

 だって、彼は知っているのだ。

 本質的に、この戦いは人間が関わる必要の無いもの。マグヌノプスとアイメリアが行う喧嘩にホワイトダナップが巻き込まれる形にある、というだけで──なんならホワイトダナップから奇械士を含む全員が退去したとて問題は無い。

 奇械士を焚きつけたのはフリスだ。あたかもホワイトダナップの危機だ、なんて言って惑わし、彼女らの戦力増強を図った。

 実際のところ確かにその災厄の矛先はホワイトダナップに向くのだが、それはフリスがいるから、という言葉に尽きる。フリスがホワイトダナップを離れていれば、マグヌノプスとなった可能性の高い「神」はそちらを追いかけるだろう。

 

 そんなしょーもない戦いに巻き込まれて、折角蘇った命を失う、なんて。

 やっぱりそれは許容できない。エクセンクリンは父親として、真実を知る上位者として、モモを戦場に赴かせることなど──。

 

「モード・レヴィカルム」

「!?」

 

 突如部屋に光が満ちる。

 スファニアの突撃槍から放たれた太陽光線(極太ビーム)。それはエクセンクリンによってギリギリのところで逸らされ──家に大穴を開け、空へと撃ち放たれていく。

 

「な……何を」

「うるせぇ。じゃあこうする。俺がモモを攫う。守りたきゃ奪い返してみな」

「は」

「行くぜ、モモ。掴まれ」

「あ──ああ」

 

 スファニアの手を取るモモ。

 まだ事態についていけていないエクセンクリンを余所に、スファニアはカイルスをソナーウォに切り替え、中空に足を掛ける。

 

「お父さん。行ってきます」

「……ああ、もう! 必ず無事で戻って来るんだぞ! わかったね!?」

「はい!」

 

 部屋に空いた大穴から、一条の流星が出ていく。

 

 それを見送って。

 

「……この穴、どう修復するか……」

 

 なんて。

 エクセンクリンは大きなため息を吐きながら、二人の出て行った方を見る。

 そして、何かを決意したように。

 何も知らない妻が眠る方を見て、唇を噛みしめるのだった。

 

 

 

 

 

「うん?」

「……あ」

 

 それは幸運だったのか、奇遇だったのか、不運だったのか、必然だったのか。

 ホワイトダナップのある一角で──その二人は出会った。

 

 再会した。

 

「……アリアか」

「兄さん……?」

 

 アリア・クリッスリルグ。否、ここではアリア・レンデバランと言った方が良いだろう。

 何故なら、彼女の目の前にいるのが──もう何年も前に失踪した兄、ミケルなのだから。

 

「本当に、兄さん? ……今までどこに」

「どこにも何も、ホワイトダナップにいたが? 私がこの島を捨てるはずがないだろう。これほど神に程近き島を」

「まだ……神様がどうとか、言ってるのね」

 

 昔の話だ。

 アリアが奇械士になった22年前。

 彼女が16歳の時に、兄ミケルは失踪した。機奇械怪に食われたとか、自ら地上に降りたとか、様々な噂が流れたが──誰も心配はしなかった。

 当然だ。彼はその頃から狂ったように「神の降誕」だの「神の作成」だのと呟いていて、会話をしようにも二言目には神、神、神。

 紛う方なき狂人として知られていた彼は、レンデバラン家からしても、近隣住民からしても腫れ物の扱いだった。

 

「まだとはなんだ、まだとは。──実際、神は一度降臨しただろう。五年前にな。すぐに消えてしまったが……」

「アレが神? 機奇械怪じゃない」

「ふん、何も知らないお前は黙っていろ。奇械士になったにもかかわらず、最強にも特別にも辿り着けなかった愚妹めが」

「……久々に会ったけど、やっぱり私、兄さんのこと嫌い」

「結構だ。奇械士などという冒涜者に好かれたいなどと思ったことは無い。それに、お前はあのクリッスリルグとくっついたのだろう? ──そしてフリスを拾っ、た!?」

 

 瞬間、ミケルの首に戦斧が付きつけられていた。

 変形式の巨大斧。それがミケルの首の皮一枚を切り裂く寸前で止まっている。

 

「何を知っているの、兄さん」

「……ふ、余裕が無いな。安心しろ、私も全てを知っているわけではない。ただ、お前よりは知っている、というだけだ」

「……」

「まったく、趣味が悪い。ケニッヒ・クリッスリルグもそうだが、フリスを拾うなど──頭のネジが外れているとしか思えん」

「兄さんに言われたくない」

「それほど奇特ということだ。私は自覚している方だがね、アリア、お前は無自覚だ。お前があれなるものを拾ってしまったがために、このホワイトダナップは今未曽有の危機に陥っているといっても過言ではない。人を守るなどとほざいて奇械士になったお前だが、この時代において、この大陸において、国という国を滅ぼし尽くした遠因がお前にあるのだ、アリア」

 

 まったくもっての言いがかり、冤罪であるのだが、大局的に見れば確かにそうであったりするのが難しい所だろう。

 諸般の事情を知るミケルからすれば、クリッスリルグ夫妻がフリスを見つけることさえしなければ、連れ帰る事さえしなければ──全く違った未来があったのだろうことを推算できる。

 だが、それを知らないアリアにしてみれば、自らの子との絆を全否定されたに等しい侮辱だった。

 

「何をしに、こっちの顔を出したの」

「自らの生まれ育った場所を見納めるためだ」

「……どういう」

「三日後。ホワイトダナップは完全に崩壊する。上位者と星の意思の戦争に巻き込まれてな。その果てに神が降誕し──人類は一新されるだろう。なれば、もう見られなくなるものを見に来ようと思うのは"普通"ではないか?」

「そうさせないために私達がいる」

「ふん、たかだか人間があれらに勝ち得るものか。お前も、折角子を産める身体になったのだから、安全地帯にでも避難しているがいい。愚妹の愚かさ加減など私には測りようも無いが──我が身を案ずる生物的本能くらいは残っていると信じたい所だからな」

 

 ミケルは、首に突きつけられた斧に手を翳し──弾く。

 そのあり得ない膂力に思わず後退するアリア。

 

 今のは、まるで。

 

「賢い選択を期待している。──さらばだ、もう会う事もないだろう」

「っ……」

 

 止めはしない。

 ただ、アリアは。

 

「……今更人間らしいところを見せて……同情でも期待しているの?」

 

 暗い瞳を。

 

 

 

+ * +

 

 

 

 決戦の日をして、僕である。

 

 いやー。長かったね五年。普段は一瞬で過ぎる年月も、待つ行為が付属すると長い長い。

 流石に五年ぽっちじゃエルメシアで"英雄価値"の遺伝について調べる、なんてこともできないから、本当にほぼ何もせず五年待ってみた。

 こればっかりはね。何か計画性のある動きをすると、つまらなくなるってわかってたから。

 

 これより起こることに対して、僕は無計画に、全部アドリブで対応するつもりだ。

 

 場所はエストを飛ばした東部区画の先。

 ホワイトダナップもその航路になるよう無理矢理強制航行させて持ってきている。

 

 いやね、楽しみなんだよ僕は。

 楽しむために、チャル達の修行も見ていない。機奇械怪への入力に関しては二の次だ。今はね。

 今は、人間がどこまでを掴み得るのか。かつて何も成せず、人間同士の諍いの末に絶滅した彼らが、様々な脅威を相手にどう魅せるのか。

 そして──僕という本当の黒幕を前に、何をしてくれるのか。

 

 ──赤雷が走る。

 中空に巨大な何かが現出を始める。

 

「さぁ始めよう! 『機械と人間』の時代──誰がどれに、どれが何にとどめを刺すのか──ここに教えてくれ!」

 

 マグヌノプスとアイメリア。

 その決着をここに付けようじゃないか!

 




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