終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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END「フリスとチャル」
耐え忍ぶ系一般機械技師


 ──まず。

 フリスの誤算。否、誰もが推し量ることのできていなかったところがあった。

 赤雷を纏って現出しかけた何か──と、それを包むようにして出現した、更なる巨大物体。なめていた、と言えるのだろう。そんなことはできないと思っていた。そんなことはありえないと断じていた。

 

 まさか。

 まさか、フリスが決戦の時と選んだ全く同じ時間に、彼女が今までの全てを飛ばしていた、なんて。

 

 空歴2549年6月10日14時33分──。

 フリスと、そして「神」と思しきナニカを包み込むようにして、融合プラント種ギンガモールが出現した。

 

 

 

「……ッ、やってくれるじゃないか」

 

 さしものフリスも、その予想外には悪態を吐く。

 当然だろう。五年を待った彼との再会。「精霊」と星の意思の融合体など、長くを生きるフリスでも見たことの無いものだ。

 それとようやく相対できると勇んだ矢先に、この巨大金属島に閉じ込められたのだから、虚を突かれた、といえるだろう。

 あの時は半分ずつ消し飛ばされたはずのギンガモール。それが完全な形で出現した事を見るに、彼女の未来送りは切断などの効果を持たないのだろうこともわかる。あるいは同じ時間に飛ばせばくっつくのだ、ということが。

 

 とはいえ、ギンガモールは単なる機奇械怪である。

 その巨大さは、けれどフリスの念動力の有効範囲内に収まっている。

 だから、と彼がこれを潰さんと念動力の海を広げた──その瞬間のこと。

 

「!」

「ッ、防ぐか!」

 

 防ぎ得たのはフリスに武人系の入力が為されていたが故だろう。

 後頭部を狙った一撃。対し念動力による斥力でソレ……刀を受け止め、弾いた。驚愕。防がれた事に下手人が驚愕した、のではない。

 斬りかかって来た者に対し、フリスが驚いたのだ。

 

「……どういう了見かな、ケルビマ」

「ふん、簡単なことだ。リチュオリアは、俺の剣は──お前を罪ありとした。アイメリア・フリス。ホワイトダナップの守護者として、ただいるだけで災厄を引き寄せる……罪たるお前を、この島より追い出す」

「それは、悪くないね」

 

 瞬間、ギンガモールの一画に巨大な空洞が開く。

 モルガヌスの支配から逃れ、完全な一個体になったケルビマ。元よりモルガヌスなど関係なく、サイキックの原本ともいえるフリス。

 その二人による力場の押し付け合い。今この瞬間、この場には塵の一片たりとも入っては来られない。空気さえも押し出すサイキックのぶつかり合いは、ギンガモールをみちみちと圧し潰して広がり合う。

 ただし、均衡は一瞬だ。

 

「チ──無理か」

「当然だろう。君と僕とじゃ年季が違う。力の根源が違う。理解が違う。だけど、単純な押し合いじゃなければ、僕に刃を届かせる方法がある。そうだろう?」

「ふん、良く知っている。お前は下調べの類を大層嫌うものだと思っていたんだがな、フリス」

「正解だよ。教えてくれたのはアレキであって、僕は調べていない」

「……アイツは、まったく。口が軽いというか、切り札というものは隠し持っておくべきだと何故わからん……」

「あはは、自分の力を誇示したい年頃なんだよ」

 

 額を揉む、なんて人間らしい仕草をしながら、ケルビマが独特な構えを取る。

 それは突きの構え。一本突き、と呼ばれるソレは、けれど上位者が行うことで別の意味を持つ。

 纏う。湛える。

 ヘイズやロンラウが得意とする、つまり武人系ならば思いつきやすい技。武器の形に添って念動力を滾らせ、攻撃力の底上げを狙う手法。

 だけど、それをケルビマが取るのは珍しい事と言えた。

 何故なら彼の剣は断罪の剣。人体の斬首に特化した剣は、突きという技を持たない。

 

「一点集中であれば、僕の念動力を破れるって?」

「アレキに教えた技とは違うがな」

「そうかい。じゃあ、そっちはそっちで楽しみにしておくとしよう」

 

 左腕の無い身体。モモに吹き飛ばされた時から、ケルビマはずっと片腕だ。

 ああ、だから、ある意味でここは思い出の場所なのだろう。彼が初めて重傷を負った場所。間に合わなかった場所。

 

 なれば今は、今こそは──間に合わせるための場所にできる。

 

「いくぞ、フリス」

「いいよ、ケルビマ」

 

 行くと宣言し。

 

 行く。

 

「──……ッ」

 

 行った。

 少年の力場をかき分けて、彼の剣は、刀は、突きは、確実にフリスの額を捉えた。

 

 だが、そこから先が進まない。

 弾かれるように仰け反ることさえしない。にこにことしたフリスは、その切っ先を額に受けたまま微動だにしない。

 上位者の身体は不壊だ。だけどそれは、念動力が全身に漲っているからだ。斥力の塊が人の形をしている。隕石の欠片から抽出されたチカラがカタチになっている。

 

 なれば、ケルビマのこの念動力を突き除ける剣が、技が、止められることはないはずだ。

 

「……これを、無知が招いた悲劇だとするのは悲しい事だけどね」

 

 ぐ、ぐ、ぐと。

 少しずつケルビマの身体が離されていく。突き切った姿勢のまま、少しずつ。

 

「僕の344年。君が生きた26年。プラスして、武人系の入力が各50年ずつくらいかな。ま、大体700年くらいだ、君の記憶は」

「づ……ぐ、ぅ……!」

「浅いよ。生きた時間だけで言えば、アルバートの方が多いくらいだ。──悲しい事だけどね。最近は、そういうことをしてくる存在がいなかった。それに尽きる」

 

 フリスは、悲しい目で。

 落胆の声で。

 

「昔はいたよ。全く同じことをしてきた人間が。サイキックも使えない人間が、それをしてきた。研鑽の果てに辿り着いた"英雄価値"……否、英雄の絶技。その英雄がその絶技を得たのは、確か18歳の頃だったかな。──膨大な入力。上位者としての念動力。それらを以てして、人間に並ぶのが八年遅い」

「──その、英雄の、名は?」

「そんなこと聞いてどうするんだい? ──君は今もう、いなくなろうとしているのに」

「ふ──手向けくらい寄越せ、フリス」

「……そうだね。うん。教えてあげよう、彼女の名は、フィーザフィー。残念ながら名前は知らないよ。彼女は家名しか名乗らなかったからね」

 

 目を見開いて。

 あるいは、どこか嬉しそうに。悲しそうに。

 

「成程──目を焼かれる程の英雄に、出会ったことが無い、などと」

 

 痛みは無いのだろう。

 だが、身体は動かない。動かないまま……潰されていく。"成長コンテンツ"。仲が良い。フリスがそう評価したケルビマが、けれど。

 彼の前に立ちはだかる障害として認識されたのならば──容赦はない。

 

「じゃあね、ケルビマ。安心すると良い。君は還ることなく、」

「──まさか」

 

 壊れるはずのない肉体が悲鳴を上げ、どろどろと流れていく血の中で──ケルビマは笑う。

 嘲笑する。

 

「まさか俺が、なんの策も無しに単身突っ込んできたと──そう思っているのか?」

「君、僕と同じで無計画じゃん。そんな君が計画を練るなんてこと」

 

 風切り音。

 今度こそ、フリスは避ける。防がずに避ける。あるいは最初の一撃を防いだのはヒントのつもりだったのかもしれないが、こればかりは、と避ける。

 

 身体を大きく弓なりに仰け反らせたフリスの背。そこを突き抜け掠めるは──槍。

 

「あるんだなぁ、これが! なんてったって策を練ったのが俺なんだから!」

 

 突いた槍を引き戻し、更なる連撃を仕掛けるは、いつもよりテンション割り増しな男、ヘイズ。

 その一撃一撃には先ほどのケルビマの突きと同様の念動力が籠められていて、さらに言えばケルビマのそれとは比べ物にならない程の強度を誇っている。

 これには思わずフリスも回避に徹さざるを得ない。ケルビマを解放し、空洞の大きいギンガモールの中を逃げ始める。

 

「いいか、よく見ろケルビマ! お前の突きは、剣は、意味無いわけじゃねえ! 効かなかったってだけだ! こいつが身に湛えるサイキックが桁違いなだけだ! その証拠に──今、俺の槍がフリスを穿つ!」

「ッ……ヘイズ、君が僕と戦う理由がわからない、な!」

「──戦ってみてぇから。それ以外に理由はいるか?」

 

 とうとうヘイズの突きがフリスの肩口を捉える。

 フリスに入力された武人系の記憶は、ロンラウに入力されていたグレイブのものだけだ。つまり、圧倒的に戦闘経験値が足りない。ケルビマのような念動力でごり押しできる相手ならともかく、ヘイズクラスの念動力の使い手で、且つ技巧者の相手はフリスには荷が重い。

 

 クリーンヒット。

 ごっそりと肩口の肉を削いだ槍が引き戻される頃には、フリスの左腕がだらんと垂れ下がっていた。

 

「実験だよ実験。人間に対する実験もおもしれえし、機奇械怪に対する実験もおもしれぇ。他のなんでもそうだ。やってみて、起きる反応を見たくて俺達上位者は存在している。──なら、その相手が惑星外生命体ってのも、楽しいだろうさ。なぁ?」

「……悪くないね。あはは、いいよヘイズ。今度は君と遊んであげよう。策を練って来たと言っていたね。それは期待して良いと言っているのと同じだけど、大丈夫かい?」

「当たり前だろ。つか、お前こそいいのかよ。お目当ての奴はこの奥で既に現出済みだぜ。俺達と遊んでる暇あんのか?」

「それは大丈夫。物事には順序があり、登場人物には役割がある。強すぎる相手には強すぎる奴が宛がわれる。それに満たない敵にはそれに満たない者が当てられる。そうして淘げられた美しいものがこそ、"英雄価値"に相応しい」

 

 フリスが動かなくなった左腕を、ぶちっと千切る。

 そしてそれをグチャグチャと捏ねて引き伸ばし、棒状に整えた。赤黒い、時折白も見えるグレイブ。

 

「……付き合い長い方だがよ、今日はとことん意味わかんねぇな、お前」

「あはは、わからなくて大丈夫だよ。これは僕の視点の話だからね」

 

 ケルビマと同じように片腕で、ではない。

 フリスはギンガモールの残骸から適当なものを見繕い、自身の腕に引っ付け、新たな腕とした。義手の構造になっているはずもないそれは、念動力で無理矢理に動かしているに過ぎないものだ。

 

「それじゃあ踊ろうか、ヘイズ。君の歴史を僕に見せてくれ」

 

 答えは顔面への突きだった──。

 

 

+ * +

 

 

「ギンガモール……」

「ええ、確実にそうね。二体目、というよりは……」

「同じ個体ですねぇ。アルバートさんが消し飛ばしたと言っていましたけど、果たして、って感じです」

「おいモモ、俺は確かに一緒に戦ってもいいって言ったが、こんなとこまでついてこいとは言ってないぞ」

「どこにいても同じ、だろう。それに私は……知らないところで友達が死ぬ、など。嫌だと素直に思う」

 

 上位者三人が熾烈な戦いを繰り広げる一画、ではない方。

 比較的上部に当たる部分を行くは、五人の女性。チャル、アレキ、アスカルティン、スファニア。そしてモモ。

 少ないながらも存在する機奇械怪達を蹴散らしながら、五人はその中心部へと向かっていた。

 

「でも、アスカルティンさんが動力炉壊したんじゃなかったっけ?」

「中心近くにあった数基は壊しましたけど、全部じゃないですよ。確かあの時決定打をやったのはケルビマさんだったと聞いていますが」

「ええ、その時兄は腕を失って……今考えると上位者である兄がそれほどの傷を負わされる、なんて……どんな相手と戦ったのやら」

 

 まさかケルビマの腕を吹き飛ばす威力の爆発を、即興で作り上げた張本人がここにいる、などと露とも知らず。

 張本人もその時の記憶が無いために一緒に悩みながら、けれど歩は緩めずに進んでいく。

 

 が、ギンガモールの内部は入り組んでいる。フリスに言わせればアート性のある配管とケーブルの道も、スファニアからすれば怠い迷路でしかなかったらしい。

 

「……うぜぇな。おいガキ、倒さなきゃいけねぇ敵はどこだ? どっちにいる」

「あの、そろそろ名前覚えてくれませんか? 私の方が全然お姉さんですし」

「見た目がガキだからガキつってんだよガキ」

「はぁ……。あっちです、あっち。この方向に直線で──って、まさか」

 

 まさかだった。

 ニヤリと、ヘイズを思わせる笑みを浮かべたスファニアが「モード・レヴィカルム」と呟く。

 認識コードに反応し変形する突撃槍。あっち、と向けられた指先の方角を正確に捉え──ホワイトダナップを緊急停止にまで追い込んだ太陽光線(ビーム)が発射される。

 こう言ってしまうのはなんだが、ある特別な部屋以外の材質はそこまで耐久性のあるものではない。ギンガモールは巨大さとサイキック種であることを両立させることに重きを置いた機奇械怪であり、且つ例の部屋にこそ時間がかけられているので、その他はそこまで強度が無いのである。

 だから、スファニアの、というかカイルスのビームは一瞬にして目的の場所までの道を作り得た。大穴を開けた。

 

「行くぞ、お前ら」

「あはは……流石だね、スファニアさん」

「ええ、この五年で慣れたものと思っていたけれど、こうも巨大な機奇械怪はいなかったから……なんだか新鮮に感じると言うか」

 

 若干引いている二人を置いて、スファニアは進んでいく。

 置いて行かれないようについていく四人。果たしてその先には何がいるのか。

 

 この異様な気配は。フリスの言った、本当の災厄とは。

 

 

+ + +

 

 

「人……?」

 

 未来へ。

 そう言われた。星の天敵、アイメリア。諸悪の根源。

 だから、彼の主観では本当に一瞬だった。突然景色が変わっただけ。変わらず体内ではマグヌノプスが荒れ狂い、意識を劈くような悲鳴が脳裏を爆ぜ続ける。ただ、それだけ。

 そのはずだった。

 体感はそうだ。だけど、確実に五年が経ったとわかるものがあった。

 

「……ああ」

「喋った……?」

「皆さん、気をつけてください! これ、やばめです……かなり!」

「俺にもわかる……それに、この感じは……」

 

 ああ。

 もう、少女とは言えないほどにまで成長しきった──大事な、大事な我が子が、そこにいる。

 愛を注ぐことなく死んでしまった。愛を向けることなくいなくなってしまった彼を、毎年のように墓参りにきて偲んでくれているという愛娘。

 大人になった。五年。最後に見た時はカメラ越しで、まだ少女だった。それが、背も、伸びて。

 

「……どうして」

「チャル!? ダメよ、不用意に近づかないで!」

「お前……俺と前に……いや、だが」

「ッ、皆、壁だ! 気を付けろ、何かが蠢いているぞ!」

 

 どうして、と。どうして、と。

 よたよたとした足取りで寄って来る娘。チャル。

 その瞳には銀がある。ニルヴァニーナの紺碧を強く継いだ目。容姿。そこに秘された彼の遺伝が──星の意思に塗り替えられている。

 ああ、強い憤りだ。これがあるから、まだ、抑え込める。

 

「チャル、ダメ……どうしたの!?」

「アレキ。私、この人……知ってるの。ううん、だってこの人は」

 

 抑え込める。抑え込める。

 ──いいや、抑え込めるのは意思だけだ。彼という枷を壊さんとするものは止められない。

 

 だから言う。

 彼は言う。

 

「──死ね」

「ッ!」

 

 手を差し向けた。そこに纏わりついてくる金属片のようなものが、彼の娘を傷つけかけた。

 それを刀で弾いてくれたのは娘の友。相棒。アレキ・リチュオリア。

 

「チャル、目を覚まして! ずっとコイツを倒すために修行してきた! 忘れた!?」

「で、でも……この人は、この人は!」

「チャルのお父さん! そうでしょう、知ってる! あなたが写真を見せてくれたから、知ってる。だけど──あなたのお父さんは、死んだ。違う?」

 

 そうだ。それでいい。

 良い友を持ったと、彼は安堵する。アイメリア・フリス。余計な因果を差し向けてくるものだと吐く溜息は、心の中だけで。

 ああ、だが、己だけに集中してはいけないと、彼は部屋を見る。

 彼が現れてからの数瞬。彼女らが辿り着くまでの数分。そのわずかな時間で、マグヌノプスの力はこの部屋を覆い尽くしている。

 アイメリア・フリスの力を解析した──アレが《茨》と呼ぶものを解析した、マグヌノプスの力。本来は細かく砕き、アイメリア・フリスの体内に侵入させることで《茨》を操ったりその出力を消すものだが、こうして操る事も出来るらしい。

 

 当然、彼の意思ではない。

 マグヌノプスが彼を壊そうとしているだけだ。

 

「そうだけど──そうだけど、じゃあ、じゃあ、なんでっ!」

 

 銀色が彼を貫く。

 瞳が彼を見抜く。

 

「なんであの人の、一番大切なモノが──私とお母さん、なの」

 

 溢れんばかりの愛情を、見抜いてしまう。

 

 これが例えば、彼がフリスの姿をしていたのなら、チャルは引き金を引けたのだろう。

 意外過ぎたのだ。まさか写真で見るくらいしかなかった、データで見るくらいしかなかった父がそこにいて、その彼の心が自分と母に向いているなど。だってその二人を愛するのは、父しかいないと知っているから。

 

「アレキっ、チャル引っ掴んで退いてろ! おいガキ、やるぞ!」

「だーかーら……ああもう、はいはいわかりました! それとアレキさん、チャルさんが戦えなさそうなのは同意です。モモさんと一緒に部屋から退去を。この部屋自体もちょっとやばそうなので」

「わかった」

 

 だから、空気も読まず感情も汲まないスファニアの存在は救いだった。

 彼に対し何の因縁も無いスファニアは、だからこそ何の躊躇もなく武器を向ける。アスカルティンも同じだ。災厄というには人間の匂いがし過ぎて、人間というには中心部が機奇械怪に巣食われ過ぎていて、機奇械怪というには魂の気配が濃すぎる。

 異様。その相手を敵として認定するのに時間はかからない。

 

 動けないでいるチャルを掴み、一度引くアレキ。道中でモモも拾い上げ──蠢く金属片によって閉じようとしている入口を蹴りで破壊。そのまま通路へと退く。

 

 そんな三人を一応見送った……りはしないスファニア。何も関係なく突撃槍を金属片へとぶつけ、それを砕いていく。

 

「おら、よ!」

「……それを狙っても、意味は無い。俺だ。……俺の中心を狙え」

「あぁ!?」

 

 金属片ばかりを狙って攻撃するスファニア。対し、彼が口を開く。

 

 彼が引き込んだマグヌノプスの本体。それを完全に封印する方法は二つ。

 一つは彼自身を封印に巻き込むことだ。だが、肉体という器を手に入れたのならば、マグヌノプスは考える事が出来るようになってしまう。試行錯誤ができるようになってしまう。それではあるいは、いつの日か封印が解かれる可能性がある。

 だからもう一つの方でなくてはならない。

 折角アイメリア・フリスが縫い付けてくれたのだ。《茨》によって、彼とマグヌノプスは引き剥がされない関係になった。

 

 殺せばいい。

 マグヌノプスが彼を内外から傷つけるのは、あくまで彼の意識を失わせるためだ。意識を失わせ、肉体の主導権を得る。そのために傷つけているから──殺しはしない。内側を巣食う機奇械怪や「精霊」にそういった手加減は無いが、ことマグヌノプスからすれば、彼に死なれると困る。

 何故か。

 それは勿論、フリスが行った処置のせい(おかげ)だ。

 胸ではない。心臓ではない。

 彼の魂に強く強く、《茨》の針が突き刺さっている。そこにマグヌノプスも縫い付けられている。

 

 だから、彼が死ねば。

 マグヌノプスも死ぬ。いや、逃れられなくなる、といった方が正しいだろう。生きてさえいれば模索できたやもしれない彼からの離脱方法を、彼の死によって不可に置きなおす。

 ミケルの処置、数多の「精霊」と機奇械怪、そして動力との融合によって器の広くなった彼の身体。それならば星の意思(マグヌノプス)をプールできる。

 ただの死体ならば弾け飛んでいただろう。ただの端末ならば切り捨てられていただろう。

 ただの凡夫なら、塗り替えられていただろう。

 

「見せてみろ──強くなった、お前たちの力を。俺を殺すに足り得るか──五年の歳月の集大成を」

 

 けれど、ここにいるのは英雄だ。

 武術に秀でるわけでも、発想に長けるわけでもない。

 ただの機械技師。ただ、意思の強かった男。

 

「よくわかりませんけど、それが望みなら──」

 

 アスカルティンの手先が変形する。鋭利に、且つ螺旋を描いて。

 そして──回転する。

 ほぼ機奇械怪であるとバレた時点から、アスカルティンは人間ぶるのをやめた。今までは体内に留めていた自己改造を、対外にも出すようになった。そのせいで恐れられる事は増えたけれど、アスカルティンを認めてくれる者が少しでもいるのだから、どうでもいいと。

 だからアスカルティンは、機奇械怪として──自己改造の研鑽を積んだ。

 

 ドリルだ。

 古今東西、古来より硬いモノをぶち抜くにはコレと、相場が決まっている。

 

「ど真ん中!」

 

 刺す。

 刺さる。だから、貫く。回転を繰り返すことで掘削を行うその機構は──けれど、流体に近い金属片の前に、止まる。

 掘っても掘っても前に進まない。

 アスカルティンは与り知らぬことだが、マグヌノプスも馬鹿ではなかった、ということだ。彼の意識を奪う以前に彼に死なれては困ると、外敵である奇械士達への攻撃、防御を開始した。その一つがこの金属片のコート。

 掘られても掘られても次の層が出来上がるから、いつまで経っても掘削しきれない。

 そして、また彼が余計なことを言わないようにだろう、彼の顔を覆っていく金属片。

 

「きを、つけろよ──この金属片、は、機奇械怪にとっても……ゾンビにとっても、猛毒だ」

「ご忠告どうもありがとうございます災厄さん! が、ごめんなさい。そういう事に気を付けられる子じゃないので──無駄になりますね」

 

 言い切ってから、ぐにゃりと口角を引き上げるアスカルティン。理性のタガが外れた事が一目でわかっただろう。五年が経とうとこの辺は変わっていない。一応日常生活で表に出ても人を食べようとしなくなった、というくらいのお淑やかさは手に入れたが、それだけだ。

 アハ、なんて笑みと共に、アスカルティンが人間とは思えない動きをし始める。

 機奇械怪であることを隠さなくなったのは此方も同じ。というか、もっと()()。だって既にヒトの形ではないのだから。

 

「アハハハハ──ッ!」

 

 腕が増え、爪が増える。足が増え、関節が増える。センサーが各所に生え揃い、姿勢制御用の翼が生える。

 機械の化け物。その名に相応しい姿となったアスカルティンが、彼を乱雑に攻撃し始める。

 

 その横で。というかど真ん中へ。

 

「モード・エスレイム! ぶっ壊せ!」

 

 突撃槍がぶち当たる。

 零距離インパクト。対象が硬ければ硬い程威力を増す、という性質を持つこのモードは、アスカルティンの攻撃に対し強度を上げんとしていた金属片にあまりに効果的だった。

 衝撃、轟音。彼の全身を覆いつつあった黒が波打ち、いくつかがパラパラと剥がれ落ちる。

 

「──まだだ、撃ち込み続けろ! この程度じゃ俺は死なねえぞ!」

 

 衝撃は彼の全身に行き渡っている。だけど、死なない。どれほど傷をつけられても、生き延びるために死に難くなった彼は、そしてマグヌノプスが延命行為に入ってきている彼の身体は、この程度では死なない。

 勝負だ。

 彼女らが彼を殺すのが早いか、彼がマグヌノプスに負けるのが早いか。彼は耐え続けるだろう。どれほどの攻撃を受けても、鋼の意思でマグヌノプスを抑え込み続ける。

 だから勝負だ。

 

 彼女が立ち直るのが、どれほど早いか。

 未来は──もう少し、先に。

 

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