終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
突如として出現したギンガモール。
それに対し突入したチャル達奇械士とは別に、これを攻撃するモノがあった。
ホワイトダナップだ。
南部区画、東部区画を犠牲に作られた兵器群、ホワイトダナップの側面に備え付けられた砲門。想定されていた「災厄」ではないものの、無数のタトルズの出現、襲撃によって苦汁を舐めさせられたことは記憶に新しい。
砲撃許可が下りるまでにそう時間はかからなかった、ということだ。
既に半壊状態に等しい姿で現れたギンガモールに対し、ホワイトダナップからの集中砲火が浴びせられる。また、遠隔攻撃のできる奇械士も攻撃に参加しているし、調整屋や武器屋の作った簡易携帯大砲を撃っている近接奇械士も多い。
中にいる者のことは考えないその怒涛の攻撃は、けれど信頼から来るものだ。
たった五年。
たった五年で、四人の奇械士は最強に登り詰めた。アリア・クリッスリルグもケニッヒ・クリッスリルグも追い抜かして、四人のチームが最強の名を手にするに至った。
その称賛、その期待ゆえに、破壊を躊躇する者はいない。
……唯一気が気でない様子なのは、ホワイトダナップの守護に残ったエクセンクリンである。
彼の娘、モモは戦闘者ではない。機奇械怪としてある程度の護身術は覚えたようだが、それでも根っからの奇械士達と比べると劣る。
それが、エクセンクリンの制止も聞かずにギンガモールに突入してしまったのだ。
気が気でない。怖い。
エクセンクリンはただ、怖かった。また失うのではないかと。
──と、ギンガモールから反撃が来る。
砲弾か、瓦礫か。とかく完全な球体ではない何かが放たれた。それは東部区画に着弾し──かける。
「まぁ……今は、信じるほかないか」
着弾はしなかった。
エクセンクリンが受け止めたからだ。西部区画には彼の妻もいるのだから、当然そこへ向かいかねない攻撃の全ては通さない。ホワイトダナップの守護とはそういうことだ。
フリス程広い範囲ではない。フリス程強い力場は持たない。
だが、ことホワイトダナップの構造に関していえば、フリスよりエクセンクリンの方が識っている。どこが弱いか。どこなら迎撃可能か。どこに人がいなくて、どこに味方がいるか。
味方。
エクセンクリンは笑う。思考に笑う。
「人間を愛するようになって四百と少し。……もう私は、人間を味方とさえ思えるか」
大半の上位者が見れば、エクセンクリンをして壊れたと言うのだろう。ケルビマもそうだ。あれも壊れたと言われてしまうだろう。
フレイメアリスを疑う事の出来ないエクセンクリン。だけど、誰の影響で、かはわかり切ったことでもある。
果たしてそれを、悪と捉えるか否かは。
「私は、どちらでも構わないよ、フリス。だから──満足の行く結果を選ぶと良い」
ただ友人としての言葉を。
グレイブの刃は穂先にしかない。ただし、槍と違って先端以外でも斬撃が可能なため、穂先でさえ敵を捉えることができたのならダメージを与えられる。
捉えられたのなら、だ。
肌を揺らす呼気の響き。強く踏み込むその姿を目は捉えられるのに、武器を振り下ろした頃には消えている。効率が足りないのだと気付く前に、機械の腕が切断されたのがわかった。とりあえずそれを念動力で掴みなおし、再度くっつける。
風圧。攻撃だ。背後から迫るそれは僕の中心を狙うもの。
全力の、全身を使った振り抜き。だから初速を参考にしてはいけない。途中から加速するとわかっているのだから、予め余裕をもって避ける必要がある。──問題は、僕の身体が武人用のものではない、ということだ。武人系の入力。発される出力信号に対し、身体がついていかない。
槍とは突く武器だ。だからこれを直撃されたところで、僕の身体が両断される、ということはない。初めから骨も何もない身体だ、骨折を気にする必要もない。
だけど、愚策だと感じた。
今余裕をもって避けることは愚策だ。策を用意していると言ったヘイズが、そんな愚直な打撃をしてくるとも思えない。
──なら、無理矢理動かせばいい。
念動力で自らの身体をぐりんと反転させる。
先程掴んだ残骸の腕をヘイズの槍に合わせる感じで、さらにグレイブを緩衝材にすることで十字を作る。
打撃。
……読み通り、なのだろう。単なる打撃で粉々にまでなった残骸の腕。さらに血肉のグレイブが中心でぽっきり折れてしまった。もし残骸の腕が僕と繋がっていたら、こっちの肉体にまで衝撃が来ていたことだろう。証拠になるかはわからないけれど、背後の壁に、外が見える程の大穴が空いているくらいだから。
今のは武術だ。しかも、僕の見たことの無いもの。アクルマキアンで生まれ、アクルマキアンで死んだ"英雄価値"と見た。成程それなら僕が知らないのも無理は無い。
「おいおい、今のまで知ってたのか?」
「まさか。初見だよ。だけど、武人系の入力が僕を助けてくれたみたいだ。勘ってやつさ。嫌な予感がしたから、肉体で受けなかった。今のは気とか勁とか、そういう類の技だね?」
「ああ、知らねえだろ。お前がアクルマキアンからいなくなってから開発された武術だからな」
笑みが零れる。
やっぱり、付け焼き刃の技術でどうにかなることはないのだと思い知らされる。腕も武器もいくらでも作れるけど、同時にいくらでも壊されるのだろう。ヘイズだって上位者だ。疲れる事を知らず、集中力が切れる事もない。
一体幾つの隠し玉があるかは知らないけど、これほどの余裕だ、日が暮れても尽きないくらいはあると見た。今の技だって攻略できたってわけじゃないしね。
悪くない。
武人系の入力が為された上位者というのは、こういうヒリつきの中を生きていたのか。
それはなんというか随分と。誰か教えてくれたらよかったのにさ。
「──もう、いいかな」
「あん?」
「十分楽しんだって事だよ。武人系の入力。武術を用いた鬩ぎ合うような戦い。確かに楽しいし、まだまだ余地がありそうだ」
だけど。
「そういうのをやるのは人間だよ。僕らは彼らから、完成された技術の上澄みを掠め取るだけでいい」
また、ギンガモールの残骸が集結する。
それは腕を形作るけど、グレイブは作らない。ただ、その手をヘイズに翳して。
「さて──これはマグヌノプスにもした質問だけど」
「……!」
僕の手に何かが集束していく。
念動力。否、単なる力場が、こうもエネルギーのように集束することなどない。
ならばこれは何なのか。
「これは、なんだろうね?」
放つ。
瞬間、ケルビマとのぶつかり合いの時よりも激しい斥力が生まれる。ギンガモールをぐちゃぐちゃに圧し潰しながら、色を色とも取れぬ砲弾がヘイズに向かう。
一度は止めようとおもったのか。受け止めようと思ったのだろうか。彼はその槍を砲弾に向け、即座に無理だと断じた。彼からは見えていたのだろう。その砲弾が近付くにつれ、景色さえもが歪んでいっていることに。
空間を捻じ曲げるほどの力場。その砲弾。
受けるのではなく逃げるのが最善手として──けれど気付くだろう。
彼の身体が固定されている。何にって、念動力に。避けられると知っているのなら、避けられないように掴むのは当然のことだろう。
「ッ──クソ」
光を弾く斥力の砲弾がヘイズに直撃する。
不壊とされる上位者の身体も簡単にぺしゃんこにする砲弾は──けれど、消える。
直後、僕の
「ッ、ケルビマ!」
「わかっている!」
転移とは、見えるところから見えるところにしか飛べない。飛ばせない。
それを、どうやって……。
ああ、いや。だから──透過か。さっきの打撃の瞬間に、僕の体内にマーキングでもしたのかな?
ケルビマとヘイズ。
二人の攻撃が、念動力を突き除ける攻撃が迫る。挟み撃ちだ。逃げ場はなく、その力は単純に加算される。外側からは二人の、内側からは斥力の。成程、僕がこれを使うことも込々か。
──けど、勘違いをしている。
残念だよ、ヘイズ。
「刺さっ──」
「そうだ。刺さっただけだよ、ヘイズ。──それが僕に、何かダメージを与えると──本気で思っているのかな」
念動力を突き除ける技。
これは確かに僕に有効だ。念動力を主として攻撃に使う僕は、それを突き破られたら手も足も出ない。
そして上位者の不壊属性とは念動力を基にしたものであり、僕を殺すのならその技術があれば十分だ。
で、だから、なんだ。
「今、僕の頭蓋に刺さっている君の槍と、心臓に突き刺さっているケルビマの刀。だからなんだ。だからなんだよ、ヘイズ。これが君の策かい? 笑わせてくれるなよ。僕を殺すんだ。惑星外生命体を、寄生虫を殺すんだ。アイメリア・フリスを殺すんだ──決して言うなよ。僕の前で、これが最後だ、なんて。万策尽きた、なんて」
でないと、殺してしまいそうになる。
頼むから。君の事は、お気に入りだと思っているから。
「その苦い顔をやめてくれないかな──殺したくなる」
「っ、うるせぇ、弾けろ!」
弾ける。爆ぜる。爆発する。
僕の頭蓋に突き刺さった槍の先端が爆ぜる。心臓に刺さった刀がバラバラになる。これにより胴体には大穴が空き、上顎から上が消える。
だから。
だから、なんだと、言っている。聞いている。
「今さラ──肉体の破壊デ、なんとカなると──?」
「──アントニオ!! ぶん投げろ!!」
何かが飛来する音。
それは先ほどヘイズが開けた大穴を通り──僕を圧し潰すようにして、落下する。
蒼。いや、ブルーメタリックの……立方体の、構造物。
これは。
「食い尽くせ!」
それが、開く。
悲鳴。怒号。助けを求める声。数多の知り合い──僕の知る全ての声が、僕に対し嘆きをかける。慟哭する。おいで、助けて、こっちにおいで、来て、フリス。フリス。フリス。
どうでもいい。そんな精神汚染でどうにかなる僕じゃない。問題は、発生した引力と無数の手が僕を引き摺り込もうとしている事だ。肉体でなく、魂を掴む腕。手。手。手だ。
「『悪魔』の時代ノ、……シールブロック!」
「……へぇ、そんな名前なのか。知らなかったぜ」
引っ張られる。引きずり込まれる。食われる。
上位者専用の、上位者という存在をどうにかするために作られた封印機構だ。「悪魔」の時代において、人間と悪魔が共同開発をした、自分たちを見下す者への対抗武器。その一つ。
こんなもの、どこに隠し持っていた。
「これでもまだ、だからなんだと言えるかよ、フリス」
「──ッ」
抗い切れぬ力が僕を引き込んでいく。
強い強い引力が僕を閉じ込めていく。
そうして閉じ行くシールブロックの、暗闇と光の隙間で。
満身創痍のケルビマとやりきった顔のヘイズが──僕を見送ったのだった。
まずいですねぇ。
というのがアスカルティンの感想である。未だ敵と交戦開始から数分。既に体内で敵の金属片の解析、その耐性をつけんと頑張っているのだが、結論から言うと「どうにも無理そう」。
金属片が「災厄」らしき男の顔を覆う前に、その彼自身が言った言葉。その金属片はアスカルティンやスファニアにとって猛毒だから気を付けろ、という助言。
モロにその通りだった。
解析のために剥がれ落ちた一枚を体内に入れてみたのだが、これがもう具合の悪い事悪い事。今の今まで頑張って解析してみたものの、UNKNOWNとERRORしか出ない。戦闘を機奇械怪に任せ、こうして理性で体内の改造等を行っているアスカルティンであるが、その機構の全てを結集してアンサーを出す。
無理ですね、これ。
排出する。この素材は原初の五機だの神の髄液だのとは違う、根本原理の異なるものだ。だから無理。
だから耐性も付けられないし、有効武装も生み出せない。
「スファニア! それ以上食らっちゃダメだよ!」
「うるせぇよ、ガキ! ……だが、気持ち悪ぃのは確かだな、クソ」
そしてそれはスファニアも同じらしかった。
この五年でスファニアという存在についてアスカルティンなりに調べてみたところ、生身の肉体を持っていたり、食事をして傷や体調が正常になったりする、という所以外は機奇械怪と変わらない。肉体を持つ機奇械怪、あるいは機奇械怪が機械の身体を持つゾンビなのかもしれない、という所に落ち着いた。
だから、これも同じだ。
この金属片は、そのものも、それによる攻撃も、どうやら本当に自分たちへは猛毒となり得るらしい。
正直なところ、スファニアもアスカルティンも回避をあまりしない攻撃スタイルであると言える。攻撃特化。自分が壊される前に相手を壊す戦法は、毒などの搦め手にめっぽう弱い。無論普段のアスカルティンであれば即座に自らを害するものを解析、耐性をつけることで事なきを得るのだが、そうもいかない今回はどうしようもないな、というのが感想だった。
なにより、だ。汚染された部分をパージできるアスカルティンより、スファニアが厳しい。彼女は痛みというものを知らないが故に傷つく事を避けない。金属片による斬撃も避けない。避けずに攻撃を続けているから、消耗も激しい。
どうやら食事をすることであらゆる傷や病魔が治癒するらしいその身体は、けれど食べ物のないここではただ弱っていくだけ。さらにスファニアがその危険域を自覚できないと来た。
一度退散もアリ、ですかね。
なんて理性アスカルティンは思っているのだが、機奇械怪な本能アスカルティンは果敢に攻撃を続けているので少し難しい。
この五年間で会得した裏技や切り札も所持しているが、ハイリスクハイリターンなそれを今使うべきかは微妙だと考える。
思考は数瞬。
結論。
「──チャルさん! アレキさん! 私達だけだとかなり厳しそうなので、できるだけ早く立ち直ってくれると助かります!!」
助けを呼ぶ、である。
さて、そんな救援は勿論聞こえている。
聞こえていて、だから急がないといけないのもわかっている。うじうじしている暇が無いのも理解している。
だけど、チャルの足は──震えていた。
「……モモさん」
「ああ。任せろ、とは言い難いが、チャルを抱えて逃げるくらいならできる」
「お願いします」
まだ無理だ、と判断したのだろう。
けれど「災厄」と直接対峙しているアスカルティン達を助けに行かないという選択肢を取る事も出来ない。だからアレキはモモへとチャルを任せ、踵を返す。
戦場へ。中心の部屋へ。
消えるようにアレキが立ち去った後に、チャルとモモだけが残る。
「……大丈夫、じゃなさそうだな」
「ごめん……ごめんなさい。状況はわかってる。私がやらなきゃいけない事もわかっている、のに」
おかしいとも思っている。
チャルは、だって、この程度のことでへたり込んでしまうようなメンタルの持ち主ではない。たとえ好きな人でも、たとえ誰も疑っていない人でも、躊躇なく銃口を突き付け、銃弾を放つことのできるような──異常とすら取れる強靭な精神の持ち主だ。
それがこうも、と。モモから見ても、そしてチャル自身からしても、おかしいと感じるものがあった。
果たしてそれは、彼女の淨眼の根源がアレ自身だから、というところに尽きるのだが──それを理解できる二人ではない。どれほど頭脳に優れようと、前提知識が無ければ辿り着けない。
「立ち向かうことも、難しいか?」
「……ごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。私も無理だ。アレには何か異様な気配を感じる。『災厄』の名に相応しいと思う。……あ、いや、だから、すまない。アレ……というのも失礼か。あの人は、チャルの父親、なのだったな」
「多分……ね。写真で見た通りだし、声も……想像通りだった。私が赤ちゃんの頃に死んじゃったから、本物かどうかは……お母さんじゃないとわかんないと思うけど」
でも。
でも、彼が浮かべていた、彼の心にあった"一番大切なモノ"は──どこまでも暖かな家庭。
チャルとニルヴァニーナの、とても暖かな憧憬。そこに手を伸ばす誰か。いや、視点を考えれば簡単にわかる。
アレが父親でないというのなら、なんだというのか。
死体が動いているだけ? 似せて作られているだけ?
それが違うと判断できる目。またこの眼は、チャルを苦しめる。知らなければよかった。知らなくてよかった事をチャルに教えてくるのだから。
「……そうだな。参考になるかはわからないが──それと、こんな時に話すことでもないとは思うが」
膝を抱き、カタカタと震えるチャルに。
その頭に手を置いて、撫でながら──モモが口を開く。
「私は機奇械怪なんだ」
「──……え?」
実は明かしていなかった真実。
別にわざわざ言う事でもないと、アスカルティンも特に何でもなく黙っていた事実を、ここで明かす。
「私は一度死んだ。ここでな。記憶は無いんだが……誘拐されて、機奇械怪と融合させられて、最終的には自爆して死んだらしい。自分のことながら伝え聞いただけの話で、信憑性も現実感も無い。だけど確実に、人間の私は死んだ」
ほら、なんて言いながら。
思わず顔を上げたチャルに、指先を見せるモモ。
そこに、金属があった。
「奇械士でもないのに異常と言える身体能力。サイキックについての深い造詣。まぁ、疑う理由はいくらでもあったのに、お前たちは疑わずに私を傍に置いてくれた。……だから、今のチャルに、私から言える言葉を贈る」
「……はい」
モモが機奇械怪だった、なんてことを即座に飲み込めるかと言ったらそんなことは無い。
ないけれど、チャルも思い当たる節はあったのだ。モモが例に挙げたこともそうだし、妙にアスカルティンと共に行動している事が多い事や、食の好みなんかも彼女と良く合致していた事。機奇械怪であると公言しているアスカルティンと同じ好みを持つことがどれほどあり得ないかを、当時のチャル達は知らなかった。
それ以外にも確かに、確かにと色々なものが湧いてくる。チャルが気付けなかったのは、偏にモモに嘘が無かったからだろう。騙している、という気さえない、純粋な心でチャル達に接していたから、気付くも何もなかった。
「あれは、父親の目だ」
「……」
「さっき言っただろう。私は死んだ。確実に。──だが、生き返った。機奇械怪として新たな生を受けた。わかるだろう? そんなものは紛い物だ。アスカルティンのように九割九分九厘が機奇械怪に侵食されている、という状態とは違う」
連続しているアスカルティンと違い、一度は断絶したモモ。
その違いくらい、チャルにもわかる。
「──それでも父は、私を愛してくれたよ。私ですら時たま思うんだ。本当に私は私なのか、って。私という記憶をデータとして打ち込まれた単なる機奇械怪なのではないか、人形なのではないかと。そう思うたびに、父は私を抱きしめて……『君はちゃんと君だよ、モモ』と。そう言ってくれるんだ。母もそうだ。二人とも私を抱きしめて、頭をなでて……ふふ、もうそろ三十にもなろうという女が情けの無い話だがな」
「……良い家族だね」
「ああ。胸を張って言える」
だから、と。
モモは……黄金色の笑顔をチャルに向ける。
「わかるんだ。あの人は確実にお前の父親だ。目でわかる。あれほど優しい目は、家族の親愛にのみ起こる色だと私は知っている」
「──……うん」
「確実に、絶対に、父親だ。あれが父親かどうかなんて悩む余地すらない。チャル、お前は普通の人には見えないものまで見えてしまうから、わかりづらいんだろう。感じ取り難いんだろう。けれど、アレキが即座に判断したように、私に見えたように──あの人は絶対にお前の父親だ。私が保証する」
それは、一見して酷な言葉のように見えた。
だってチャルは、父親かもしれないから攻撃できないと、そう震えているようにも見えたからだ。死んだはずの父親が「災厄」で、自分たちを大切に想っていたから立ち向かえないのだと──そういう風にも見えた。
そんな彼女に対し、アレは確実にお前の父親だと断言する行為は、常人ならばできないことだっただろう。
だけど、その言葉を発した者は「二人目」と認められた魂の持ち主で。
だから、その言葉をかけられた者は──"最新の英雄価値"とまで言われた魂だった。
震えが──止まる。
「……うん。ありがとう、モモさん」
「ああ」
「もう大丈夫。私はちゃんと、私の目であの人を見て……おやすみなさいを、言えるはず」
銀の瞳で見れば、彼の存在は強大に見えることだろう。当然、星一つ分だ。それを前に怖気づかない人間など、後にも先にもチャルの父親本人しかいないだろう。それくらい凄い事だ。人間が意思の力でマグヌノプスに勝る、ということは。
けど、チャルもまた別のアプローチで彼の存在を無視し得る。
チャルに入ったマグヌノプスはほんの指先少し分だけ。だから後は、チャル自身だ。
フリスが気に入ったソレは、異常なまでに強靭な精神性は──マグヌノプスに依るものではないのだと、ここに証明する。
「ユウゴ。リンリー。……ごめんね。あと少しだけ──手伝って」
温度は変わらないはずなのに、チャルは両手にあるオルクスが熱を持ったような感覚に襲われた。
「行ってきます、モモさん。安全なトコに隠れててね」
「ああ、行って来い。大丈夫だ、私は機奇械怪だから、機奇械怪には襲われない」
「あはは、そうだったんだ。──じゃ」
そう踵を返すチャルの瞳に恐怖は欠片も無い。
満たないものは、満たないもの同士で。
仕切り直しだ。