終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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奥義を使う系一般上位者

 無論、この程度でどうにかなるのなら、僕はとっくの昔……それこそ「悪魔」の時代にでも封印されているだろう。

 人類が「無理である」ということに気付けなかったのは、彼らと契約を結んだ悪魔に僕製のものが無かったからだろう。結局野良で生まれた悪魔では、己らの存在が人工物である、ということを知る由もなく、だからこそ上位者に立ち向かえると慢心した。

 なまじ知識があり、魂を代価とする契約を結べる種族だった、というのが大きいだろう。そこまでは僕は設計していないのに、自然とそういう道を辿った。イイトコロまで行った、というのはソレだ。魂の視認。そこから先の時代を冠するモノ達が辿り着けなかったアプローチ。

 けれど、悪魔は魂を糧にはしなかった。ただ集め、飼い殺す──あるいはそれを通貨として扱うようになる。

 

 オールドフェイス。

 これなるは僕が名付けたものでなく、悪魔たちが扱っていた通貨である。

 

「おい、フリス。聞こえてんな?」

「うん、聞こえているよ」

「……普通に喋れんのかよ。まぁいいが、取引だ。俺からじゃねぇ、モルガヌスからな」

 

 ブルーメタリックの立方体。シールブロックと呼ばれていた「悪魔」の時代の構造物越しに、ヘイズと話す。正直、こんなもの今すぐにでも出られる。マグヌノプスの封印の方が堅固なくらいだ。ただ、策を練ってあるとの話だったので、できるだけゆっくり出ようという魂胆なだけ。

 そんな中の話。

 

「取引」

「ああ。あっちの要求は、お前が握ってる上位者の人格の返還、だそうだ。幾つか持ってるんだろ? チトセとか、特にラグナ・マリアの上位者人格が一向に戻ってこねぇって言ってたぜ」

「肯定しよう。確かに僕は彼らの人格……というか概念体を有している。けど、それを返すかどうかは取引の内容次第かな。まさかここから出すことを、なんて言おうものなら──」

「言わねえよ。アイツは臆病者だが、馬鹿じゃねえからな」

 

 少し、考える。

 モルガヌスが僕に対しそういう取引を持ち掛けてくるかどうか、というところだ。アレは結構僕に近い嗜好をしている。つまるところ、アイツの収集癖さえ満たせるのなら、結果自体はどうでもいい、というもの。

 僕も面白ければなんでもいい、ってタイプだからね、結構似ている。

 そんな彼が、僕が押えた上位者の概念体を返して欲しいという理由。

 

 ま、簡単か。

 彼は知りたいのだろう。自身の支配から逃れた上位者に何が起きたのか。僕がわざわざ回収するような上位者にどんな変化があったのか。自分のところでじっくり調べたい。そんなところだ。

 普通の人間ならリスクを危惧して諦めるだろう事柄も、アレの収集癖はそれを許さない。欲しいと思ったものは集めずにはいられないし、知りたいと思った事を知らずにはいられない。更に独占欲まであるのだから終わっている。手の施しようがない、というやつだ。

 

 そんな彼が代価とするもの。

 

「空の神フレイメアリスについての話──だそうだ」

「……あはは」

「ああ、お前が呆れるのはわかる。俺も何を言ってんだと思ったもんだが、生憎俺は端末なんでね。大本の言葉は正確に伝えにゃならん」

 

 この惑星に神はいない。

 だけど、何故か誰もがフレイメアリスの名を知っていた。それを神の名として知っていた。マグヌノプスがアイメリア・フリスとして遺したが故──というわけではない。だって僕らは、時代が変わるたびに地表を焼き払い、リセットを行っている。

 端末マグヌノプスが口伝でその名を伝えて行ったのだとしても、たった一人では無理がある。

 僕がアクルマキアンで創作神話を作る前から、フレイメアリスの名は知られていた。

 

 何度も言う。

 僕はフレイメアリスじゃない。アイメリア・フリスではあるけれど、フレイメアリスじゃない。

 僕は神じゃない。──だけど、まるでそういうものが存在しているかのような痕跡が、余りにも多すぎる。それは多くを知る、裏を知る上位者にまで広がっている始末。

 

「断るよ」

「……だと思ったぜ」

「じゃあ、これで話は終わりだ。無いとは思うけど、僕にこの取引を持ち掛けるためだけに僕に挑んできた、とかじゃないよね?」

「まさか。んなことするくらいなら、普通に伝言するだろ」

「うん。良かったよ」

 

 モルガヌスが本当にフレイメアリスの正体を知っていたとして。

 それだけじゃ、上位者の概念体を返すには値しないかな。

 なんにも興味ないし。たとえ神なるものが本当にいたとして、いいじゃないか。悪くないよ、それも。

 

「それで、早くしてほしいかな。君も知っているだろう? 僕は割合短気なんだ。もしこの会話が時間稼ぎで、特に驚くべき策が何もないというのなら──すぐにでもここを出ていくよ」

「あー、もうちょっと待ってくれ。結構距離があんだよ」

「距離?」

 

 そんな折、ふと思い出したことがあった。

 

「君さ、そういえば念動力の使い方を忘れた、とか言っていたよね」

「ん? あぁ、ありゃ嘘だよ」

「うん。それはわかるんだけど──じゃあ、何にリソースを吐いていたんだい?」

「だからもうちょい待てって。もうすぐ来るからさ」

 

 ああ、やっぱりそこに繋がるんだ。

 さて──外界の様子が何もわからないこのシールブロックだけど、恐らくはどこかに運び出されているものと思われる。

 上位者の感知をも掻き消す仕組みは流石の悪魔だけどね。強度が足りないよ、かなり。

 

「俺はさ、人間は実験体にしか見てねえんだわ。ま、上位者みんなそうだろうけど」

「いきなりだね」

「アッハッハ、まぁ聞けって。いやまぁこれ以上言うことはねぇんだけどさ。──だから、俺の興味っつーのはまぁまぁ早期に、人間から離れた、って話でな」

「へぇ?」

 

 初耳だ。

 ヘイズとは長いけれど、そんなこと聞いたことも無かった。

 

「随分と昔から、俺の興味は上位者やモルガヌスや──お前にあった」

「それは、随分と奇特な趣味だね」

「調べなくてもわかり切っているから、か? だがよ、フリス。俺達だってもとを辿れば人間だ。まぁお前から見たら違うんだろう。モルガヌスの奴が蒐集した人格、死体、人間になれなかったもの、人間だったもの。真っ当な人間から上位者になったのは最初の十人くらいで、その後のはコスト削減のためにかき集められた量産品」

「やけに自分を卑下するじゃないか」

「卑下じゃねえ、事実だよ。──それでも、だ。俺が酒場を開いたら、自分の役割ほっぽりだしてまで様子を見に来る上位者が一体何人いたよ? マグヌノプスの甘言でコロっとひっくり返った上位者が一体何人いたよ。わかるだろ、フリス。あいつらは単なる端末じゃねえ、心のある人間なんだわ」

「人間かどうかはともかく、知的生命体であることは認めるよ」

「細かい奴だなぁ」

 

 まぁ、そうだね。

 端末端末といえど、完全なラジコンってわけじゃない。モルガヌスに完全に意識を乗っ取られていた上位者はラジコンだったかもしれないけれど、この惑星にいる約十万の上位者のほとんどは自らの意思で考え、行動している。

 勿論その姿は社会を回す歯車だとか、機構だとか、とかく色味の無い、味気のないものに見えるのだろう。傍から見たら、ね。

 けど、そういう上位者にも一応個性というものがある。会話ができる。

 

「だからずっと研究をしていた」

「それは、どんな?」

「どうやったらあいつらが、そしてどうやったら俺が、一個の生命体として再度自立することができるのか、をだ」

「ふむ」

 

 一個の生命体になる。

 つまり端末でなくなりたいと。果たしてそれは、マグヌノプスの甘言に乗った上位者と何が違うのか。

 

「アクルマキアンの奴らと一緒にしてくれるなよ? なりてぇって言ってるワケじゃねえ、どうやったらなれるかを模索する方に興味が向いたって話だ」

「うん」

「そして俺は、答えを見つけた」

 

 ──感知範囲に、何か。

 あり得ないくらい巨大なものが引っかかる。上空。天空。凄まじい熱量と速度、シールブロックの中にいるからわからないけれど、これは、外は轟音で埋め尽くされているのではないだろうか。

 

「俺達はネットワークに繋がれている。それを支配と呼ぶか繋がり、コミュニティと呼ぶかは勝手だがな。──これを断ち切ることが、その答えなのだと理解した」

「それは──そうだね。けれど、そのネットワークはアイメリアの組成を用いたものだ。君達が体内にアイメリアの破片を持つ限り、そのネットワークから逃れることはできない」

「だがよ、フリス。現に今お前──ネットワークに繋がってねぇだろ」

 

 確かに、確かに、そうだ。

 彼の時代の悪魔と人間による共同制作技術。シールブロックは念動力を遮断する。今の僕は転移や念動力、透過といった力を使えない。使えるけど箱の中でしか使えない、が正しいかな。

 そしてそれは、そのまま他の寄生虫(アイメリア)の認知から外れることでもある。

 

「なら、同じことをすればいい。──さっき言ったな。なりてぇってわけじゃねえって。だがよ──思いついちまったらやりたくなんのがサガっつーもんでな」

 

 全身から《茨》を出す。

 それがシールブロックを突き破り、破壊した。

 そして、外に出て……僕は久しぶりに絶句する。

 

「……こ、れは」

「あぁ、出て来たか。んじゃまぁそれも使うとして──見てろよ、フリス。これが俺の答えだ」

 

 ──(そら)を覆い尽くす茶色と黒の巨塊。それは赤熱していて、だから()()()()()()()ということがわかる。その背後にはブルーメタリック。先ほど僕が閉じ込められていたものと同じもの。

 

 あ。

 

「アッハッハッハ! 俺はお前の付き合い長いからよ──わかったぜ、『悪魔』の時代においてこういうもんが沢山作られた結果、お前がこれらをどうやって処理したのか!」

「……成程、僕の性格を見抜いていたわけだ」

「そうさ。お前はこの、シールブロックっつったか。とかくこの構造物や、これと同じ材質のもんを、地中深くに埋めるか、宙の彼方にまでぶっ飛ばすか、そのどちらかを選んだんだ。一々一個ずつ《茨》で潰して回んのはあまりに面倒だったから。だろ?」

 

 知り尽くされている。

 苦笑しか出ない。僕の無計画さも、僕の物臭さも、全部。

 

「最初は埋めてたんだろ。だが途中でそれすらも面倒になった。だから当時残っていたほとんどを惑星外に飛ばして、それでいい事にした」

「一応言ってくと、面倒になったから、というのはだいぶ後期だよ。最初は掘り起こされると時代錯誤になるから、って理由で埋めるのはやめたんだ」

「同じさ。破壊しなかったんだからな」

 

 それはそう。

 そして──ああ。やっぱり僕の目に狂いは無かったというべきか。僕の記憶はそのままだった。

 いいや、もっともっと進化していた、ともいえるだろう。

 

「君、念動力使えなくなったのが嘘と言っていたのは」

「コレを見つける前は、普通の()()()()()()()使()()()()()()()。奥義、あるいは最終手段。このメガリアにいる上位者を一度に全部殺せば流石のモルガヌスも出てくる。そこを狙うのはアリだな、ってよ。だが事情が変わった」

「地中かな、どこぞにあったこのシールブロックを見つけた君は、僕の思考をトレースして他を捜索。そして見つけたわけだ。宇宙に広がる無数のこれらを。成程、念動力を受け付けないこの鉱石も、けれど()()()()()()()()()()からそっちを掴めばいい」

 

 だけど、話はそう簡単ではない。

 僕の念動力の作用範囲はせいぜいが半径一キロメートルくらいだ。どこにいるのかがわかっていればもう少し、というかかなり範囲は伸びるけど、どこにあるのかわからないものを探すのならそれくらいが限界。感知範囲と同等くらいだね。

 ならば、ヘイズの感知範囲は。

 

「勿論だが、お前より少ない。──が、フリス。人間っつーのは凄いもんなんだよ。なんでもねぇ顔で、俺がぼやくように言った欲しいモンを作っちまえる奴らの集まりなんだ」

「人間?」

「そうさ。俺が酒場やってた頃に来た、"英雄価値"でもなんでもねえ人間さ。そいつらがくれたんだよ。作ってくれた。望遠鏡ってもんをな」

「……手渡し可能な望遠鏡で発見できる範囲に飛ばした覚えはないけれど」

「アッハッハ、馬鹿だなフリス。俺が欲しかったのは機構の方さ。あるいはNOMANSの頃にはもっとすげぇもんがあったんだろうが、その頃は宇宙に興味が無かったし、今探そうにもお前が全部遺棄しちまって探せねえ。だから人間に作ってもらった。レンズというものの仕組み、倍率を変更する仕組み、光に対する知識や理解」

 

 隕石が──降る。落ちる。

 聖都アクルマキアンより北東にある海へ落ちる。

 あそこは。

 

「それを真似て、俺は」

「念動力の望遠鏡を作り出したわけだ。成程ね、中々考えるじゃないか。そうして何年かけたのかは知らないけど、これほどの量を発見して集めて回った。遠かったものは自ら宇宙にでも行ったのかな。その辺まで行っても問題なく帰って来れることはアントニオが証明済みだしね」

 

 僕が狙いものじゃない。ヘイズは初めから「戦ってみたかった」だけで、僕を殺すことが主目的じゃなかったんだ。ケルビマの目的を利用していただけ、かな。

 落ちていく小惑星くらいの大きさはある隕石。これ、余波凄いけどそこんとこ考えてるのかな。

 

「ん? その顔はアクルマキアンとかどうすんだ、って顔だな」

「まぁね。あの時君が必死になってまで助けていた凡夫たちも死ぬと思うけど」

「アッハッハ、だから興味ねーって。実験体としてしか見てなかったのに、半数が機奇械怪になったんだ。その上ラグナ・マリアやホワイトダナップの人間とも混じっちまったからな、もう用はない」

「そうかい」

 

 冷たいわけじゃない。

 本当にそう思っているんだ。僕だってそうだけど、ヘイズはもっとパッキリさっぱり割り切っている。どれほどが死んだって実験優先だ。たまたま今までは、それが人間を保護するような動きに向いていた、というだけで。

 

「けど、良く見つけたね。()()()()()()()()()なんて」

「五年前のマグヌノプスの事件で、上位者殺しまくっただろ? その時にアイツらが還る方向ちゃんと覚えてたんだよ。そっから角度的に重なる位置を割り出して、新しく製造された奴がどっから来るのかも感覚研ぎ澄ませて、転移痕跡も洗って。結構難航したが、アイツの居場所はもう完全に抑えている。だから」

 

 落ちる。 

 衝突する。

 高波や地震などが来る前に、大気を衝撃波が走り抜ける。

 

 ──ま。

 

「ん、なんだよ守るのか?」

「だってホワイトダナップは僕の実験場だよ?」

「……守らなくてもエクセンクリンがなんとかすんだろ」

「無理だよ。エクセンクリンにホワイトダナップ全体は守れない」

 

 念動力の傘を作り、衝撃波を散らす。

 ギンガモールもついでに守る。必要なコトだ。

 

 そして着弾地点。海水は勿論、海底の地面までもが白熱と共にめくれ上がり、噴煙をまき散らし、周囲を灼熱の世界に変えて行っている。

 当然ながら、最初の犠牲者はアクルマキアンだった。爆風とか熱風とか以前の問題だ。地面がめくれ上がった事で、恐らくは人間も、そして機奇械怪も死んだんじゃないかな。上位者は……わかんないけど。

 あの分じゃ地下大聖堂も危ないかもね。まーあれは衝撃程度で壊れるものじゃないけど。

 

 さらにジグ、ダムシュ、エルメシア、フレメアと、アクルマキアン周辺の国々がどんどん……おや?

 

「へぇ!」

「うん……少し見直したかも」

 

 ジグとエルメシアは、健在だった。周囲が地面のめくれ上がりや爆風に飲み込まれている中、前者はサイキックの壁のようなものを、エルメシアは壊れかけだと思っていたシールドフィールドの出力をさらに上げて、それに耐えている。

 ……エルメシアはともかく、ジグのあれは……もしかして僕、ネタバレ見ちゃったかな?

 うん。考えない事にしよう。

 

 その後、地面のめくれ上がりは収まったものの、熱波と火砕流は止まらない。僕の念動力に守られているホワイトダナップは健在であるものの──それ以外が飲み込まれていく。

 クリファス、ネイト。再建邂逅。

 人のいないそれらも飲み込んで──そして、ホワイトダナップの住民の多くが逃げ込んだラグナ・マリアも。

 

 あはは、ホワイトダナップにいた方が安全だったね。

 

「──見えた」

 

 ヘイズが腕を突き出す。

 掴んだのだろう。ブルーメタリックを乗せる灼熱の地面が大きくたわみ、何かを包み込んでいく。

 そこに何があるか、なんて。

 

 ──"HAZE(噴煙)……!?"

「そういうことだ、モルガヌス! 俺はアンタに反意なんてこれっぽっちもねぇが──実験の一環だ、目ぇ瞑ってくれや!」

 ──"WAIT(待ちなさい)……! IF YOU(そんなことをしたら)……DO THAT(どうなるか)……!"

 

 ネットワークを伝い、意思がヘイズに送られているのが視える。前にチトセともやっていた通信だね。

 そしてそこから読み取れるモルガヌスの意思は、明らかに焦ったもの。

 

「そんなことをしたらどうなるか。わかってるぜ。行き場を失った念子の海は、拠り所を求める。つまり、()()()()()()()()()()()()。──俺達は全員フリスの支配下になるわけだ」

「いいのかい? 一個の生命体になりたいんだろう?」

「じゃあ聞くがよ、フリス。お前、俺達が欲しいか?」

「要らないかな」

「アッハッハ! だと思ったよ」

 

 そうだね。君達とか要らないから、僕はすぐにでもそれを切り離すだろう。また引っ付いて来られても面倒だから──そうさな、然るべき処置をする。

 それが君の望むものとは限らないけどね?

 

 ──"HAZE(ヘイズ)……WAIT(待ってください)……! FLEIMEARICE(フレイメアリスの)……TRUE IDENTITY(本当の姿を)……!"

「おいおい、一個端末の念動力で起こされた事象だぜ? 大本なんて名乗るくらいなら、跳ね返してみせろよ」

 ──"IT(それは)……"

「酷なことを言ってあげるなよ、ヘイズ。モルガヌスは大本だけど、上位者じゃないんだ。サイキックなんか使えないよ」

「ああ──そうだったな。臆病者ゆえに、自分を慕った十人を実験体にした愚か者」

 

 魂を念子の海に投じるほどの天才は、けれど上位者じゃない。

 だからこそ彼は、全上位者から同胞と思われていない。罵られ見下され、皮肉られ嫌味を言われ。

 

 あっけのない最期だけどね。

 まぁ、死ねずに、その中だけで完結するネットワークで、永遠を過ごし続けるといい。大丈夫、その閉じた世界なら、もう誰も君のものを取ったりしないから。

 

 ──"EIMERIA(アイメリア)……!"

「聞こえていないけど返事をしてあげよう。なにかな、モルガヌス」

 ──"I KNOW WHERE(私は知っている)……YOUR(あなたの)……"

「ああ、僕の本体の場所かい? うん、知っていても問題ないよ。でもまぁ褒めてはあげよう。マグヌノプスでさえ辿り着けなかったそこを君は発見した。凄い事だよ、おめでとう」

 

 肉片とか金属屑を集めて再構成した手や口で賛辞を述べる。

 で、君が出せるのは、その程度か。

 

 つまらないね。

 

 ──"──……──……"

「ん。あ、もしかしてもう閉じたのかい?」

「ああ。閉じたっつか勝手にくっついたっつーか。やっぱ理解できねぇ材質だな、あのブルーメタリック。高温になると勝手に融合すんのか」

「そういえばそんな性質だったね」

 

 して、移る。

 モルガヌスがネットワークから完全に遮断されたことにより、その網が拠り所を探し、僕の方へ寄って来るけれど──ぺしっと。

 叩き落す。

 

「あ……?」

「あはは、ヘイズ。君は一個だけ勘違いをしていたね。君は色々な想定をしていたのだろう。拠り所を失った念子の海が何を求めるか。まず僕を求めるのは正解だ。けれどそれを僕が拒絶する。それも正解だ。──じゃあ、僕にさえ拒否された念子の海がどこに向かうか。()()()()()()()()()()()()()()()()を見て、誰を選ぶのか」

 

 簡単だ。

 僕の本体を選ぶよ。だって元は同じものなんだから。

 

 ……なんてことをいっても、ヘイズにはもう聞こえていないだろう。虚ろな目をしたヘイズ。今頃ケルビマやエクセンクリンも同じ感じになっているはずだ。

 

 ヘイズは僕の本体が何なのかを知らなかった。

 僕が端末であることはマグヌノプスとの戦いで聞き及んでいた可能性はあるけれど、本体がなんなのかを探るまでにはいかなかった。

 ダメだよ、ヘイズ。研究に実験に穴があるまま答えを出しちゃ。

 それが、たとえば前提条件の覆るものであれば──簡単に結果が変わっちゃうからね。

 

「モルガヌスは臆病者だけど、天才だ。だから彼は気付いていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

 

 念子の海で僕に出会った時、彼は酷く怯えていたよ。

 僕がいたから、というのは勿論ある。

 けど、何よりも──その背後に。僕の背後にいるソレが、あまりにも恐ろしかったから、なのだろうね。

 あはは。

 

「ま、でももうちょっと待ってね」

 

 チョキン、と。

 切断する。《茨》で、その見えざる手を。

 

「──ぅ、は……ぐ、あ?」

「おはよう、ヘイズ。意識はしっかりしているかい?」

「……フリス……?」

「していないようだね。まぁ一度完全に混じったんだ、致し方のないことか。それじゃ、落ち着くまで少し眠っているといい。ケルビマも同じところに送ってあげるから、そこでゆっくりしていてね」

 

 転移させる。

 うん。いや、良かったよ?

 面白い催し物だった。少なくとも上位者で、支配されていることを苦にも思っていないくせにモルガヌスを封印しよう、なんて考えたのはヘイズだけだ。十万といる上位者の中で、ただ一人だけ。

 誇っていいさ。君が人間だったら"英雄価値"になっていたのかもしれないと思う程の行動力だ。

 

 ……悪くはないよ、悪くはね。

 

「あ、あとアントニオもどっかにいるんだっけ? ……ま、いいか。溶岩のしたに埋まったとしても、あいつならなんとかなるでしょ。死んでくれても問題無いし」

 

 さーて。

 ちょっと離れてしまったけれど、チャル達の方はどうなってるかなーっと。

 

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