終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
ヘイズとケルビマは、暗い洞穴の中で目を覚ます。
目を覚ます。いや、我を取り戻した、という方が正確な表現だろう。
洞穴。穴倉だ。文化のぶの字もない、原始時代に跳んだのではないかと錯覚する程何もない場所に、彼らはいた。
「う……ぐ、まだ……頭、いってェな……」
「なんだったのだ、先程の感覚は……」
まだ完全に快復はしていないのだろう、ヘイズもケルビマも、自らの頭を押さえて顔を顰めている。
そんな二人を見るのは。
「起きたか」
「……」
老人と少女。
おびえた様子で老人の陰に隠れる少女。その頭に手を置いた老人が、再度口を開く。
「ロンラウだ」
「あ──あぁ、そりゃ、わかってるがよ。……ロンラウか。で、そっちのちまっこいのは?」
「フェイメイだ」
「……人間、だよな?」
彼らは知らぬことだが、五年の時を経たフェイメイはそれはもう色気づいていて、美人になっていて、それでいて簡素な衣服……露出度高めの格好である。だから、絵面的にはあんまりよろしくない空間になっている……のだが、そこは上位者。間違いなど起こるはずもなく。
「そうだ」
「……ま、やっぱ上位者って奴も変わり続けるんだな。……で、ここは? なんで俺達はここに……」
「恐らくはフリスだ。俺も……よくわからんが、奴に負けた後、一瞬巨大な海のような空間に意識を飛ばされ、我に返った時には赤雷が体を包んでいた」
「それは奴の本体だ。……いい機会か。恐らく奴も、そのつもりでここへお前たちを飛ばしたのだろう」
フェイメイを守るように立っていたロンラウは腰を据えて、目を瞑る。
それを受けて二人も座って。
「大前提として──アイメリア・フリスは悪ではない」
「あん? 何の話だよ」
「黙って聞け」
「……」
厳かに語り始めるロンラウ。……なのだが、その隣にいるフェイメイの頭を優しく撫でてやっているせいか、厳格な老人というよりは孫思いのお爺ちゃん、みたいになっているのは本人のために言わないでおくべきだろう。
「アイメリア・フリスが寄生虫である、という事実はもう知っているな?」
「ああ。隕石に付着していた寄生虫。俺達の念動力の原動力っつーか、なんなら上位者全ての原点みてぇなもんだ」
「だが、フリスは寄生虫という割に、
言われて。
虚を突かれたように、ヘイズが呆けた顔をする。尚ケルビマは「そうだったのか……」なんて呟いているから、会話に参加できる段階に無いのだろうことがわかる。
「確かに……そうだな。アイツが寄生してんのは、どっちかというと俺達だ。上位者という存在に紛れて、そのフリをして……いやだが、そもそも上位者はアイツの力で」
「そうだ。フリスはメガリアに対し、何もしていない。隕石として着弾したことこそ『したこと』になるのやもしれんが、それ以外は特に大きな事をしていない」
「人間で実験することは大きな事ではないのか?」
「無い。人間が絶滅し、再開し、また絶滅し、再開する。スパンこそ短いが、それは自然においても起こり得ることだ。そも、その程度で星が不調を起こすのであれば、もう少し星側も人間を手厚く扱っているだろう」
そうだ。アクルマキアンに現れたマグヌノプスや、此度のマグヌノプスは、決して人間の味方ではなかった。
人間は二の次で、フリスの排除に動いていた。
「もう一度言う。フリスとは悪なる存在ではない。ならばなぜ、マグヌノプスはフリスを排そうとするのだろうか」
「そりゃ……悪さしてねぇからって、外部のもんであることに変わりはねぇから、摘み取ろうとしてんじゃねぇの?」
「ならば何故モルガヌスは見逃されていた? ヘイズ、貴様が奴を封印できたのだ。星の意思であるマグヌノプスができないはずがないだろう。そもそも奴は地中にいたのだから」
「……そうか、上位者も……外部のもの、扱いか。たとえ俺達の素材がこの星の人間だとしても……」
考えれば考える程、無い。
マグヌノプスがフリスを執拗に狙う理由が。むしろ地道にでも上位者を一人一人潰していった方が、メガリアにとっては益になるくらいだ。
三人は知らぬことだが、かつてマグヌノプスはフリスのことを病魔と、上位者のことを腫瘍と呼んでいた。果たして治療の難しい病魔と、比較的簡単に誘導でき、殺し得る腫瘍──どちらを優先すべきか、など。
「答えは簡単だ。マグヌノプスが善なる存在ではないから──というだけの話」
「星の意思が、善性存在じゃない?」
「そうだ。マグヌノプスが星の意思、メガリアの作り出した抗体であることは間違いないが、善なる存在ではない。単一の事しかできないのだ、奴は。これがもし、己で考える事のできる……それこそ人間のような存在であれば、もっと柔軟に動けた事だろう。だが、マグヌノプスは『フリスを殺すためだけに作られた抗体』。──ゆえに」
ロンラウが天井を見上げる。
石と土で固められただけのそこを。その先を。
「『フリスに由来しない力』には酷く脆い。フリスを殺すための端末に、フリスを殺す以外の力は無い」
「……まぁ、納得はできるが。それが俺達に何の関係が」
「黙って聞け」
「あー、へいへい」
ヘイズ達に視線を戻したロンラウが、またゆったりと音を紡ぐ。
「だが、今のマグヌノプスにフリスを殺す力は無い」
「まぁ、だろうな。アクルマキアンでも死ぬほどあっさり殺してたし」
「もしここで本当に……奴の目論見通り、あるいは今代の端末の願望通り、マグヌノプスが端末に縫い付けられるようなことがあるのだとしたら、その時になってようやく星は本腰を入れることだろう」
「今までは入れてなかったってか?」
「そうだ。違和感を持つことは無かったか、ヘイズ。この星は、あまりにも災害がないということに」
「……いや、他の星を知らねえからよ」
最初の十人。
モルガヌスが集めた最初の十人は、当然その時代を生きた人間だ。知識レベルで言えば、どの時代よりも先を行っている。
隣接する星々の地殻変動や天災を観測するにまでは至っている。否、それ以上、だ。
有人宇宙船──宇宙旅行とまでは行かないまでも、他の星へ向かわんとする計画が立てられるほどには、宇宙開発が進んでいた。だからこそモルガヌスがアイメリアの隕石に興味を持ったともいえるだろう。
「上位者や機奇械怪を原因とするもの以外で、地震や大嵐、噴火、洪水……そういったものに襲われた経験はあるか?」
「いやそりゃ……ある、だろ。パッとは思い出せねえが」
「無い。知識として、常識として入力されているものは、フリスが来る以前のものだ。フリスが来てからは、この星に災害らしい災害は一度たりとも訪れていない」
アイメリアの隕石。
それがこの星に降り注いだのは、紀元-550年と言われている。
つまり3099年の間、一度も災害が無い。ヘイズもケルビマも他の星のことは知らないまでも、それがおかしなことである、というのには気付けた。
「当然だが──マグヌノプス一人を送り込むより、災害を起こす方が、フリスの邪魔はしやすい。星の意思たるマグヌノプスと端末たるマグヌノプスを使い、地道に奴を殺す方法を模索するより、そちらの方が手っ取り早い。だが、今まで星はそれをしてこなかった」
「エネルギーの問題か? んなでけぇことやらかすんだ、尋常じゃないエネルギーが必要だろう」
「そうだ。星は今まで
だが。
「だがもし、此度の件を経て──マグヌノプスでは無理だと判断したのなら、ついに星は本腰を入れるだろう。今度こそアイメリアを排そうと動く。わかるか、アイメリアを、だ」
「……俺達も対象か」
「そうだ。むしろ、俺達が最優先に狙われるだろう。一人、また一人と潰される。だが、還るべき場所は貴様が封印してしまった。だから戻るのは──」
「あの悍ましい大海、か」
もし。
もしも。
「『フリスに由来しない力』でマグヌノプスが倒され……星による上位者の駆逐が始まった時。その時は、恥も外聞も捨ててフリスを頼れ。奴に回収してもらえ。でなければ、奴の本体に取り込まれ──全てが無に帰すことだろう」
「……じゃあ、あれが本体か」
「今回はフリスがお前たちを切り離したようだがな。いいか、フリスは悪なるものではない。星にとっても、そして上位者にとっても、だ。俺達はフリスによって変質させられる存在だが、必ずしもそれが悪であるとは言えない。モルガヌスという手綱が無くなった以上、霧中を導いてくれる存在は必要だ」
多分、それは、フリスから言われたら頷く事の出来ない話だったことだろう。
フリス自身も言い出さない事だっただろう。
多分。本当に多分、それくらいには……ヘイズやケルビマに、情を持っている。消えてほしくないと思う程度には。
「一応聞くがよ、ロンラウ」
「なんだ」
「大前提だ。もし──この戦いで、なんらかの間違いがあって、フリスが殺されたら……世界はどう転ぶと思う?」
「……それはあり得ない。あり得ないが、もし、あるとしたら」
──アイメリアの本体が降臨する、最悪のケースになるやもしれんな。
風穴が空いた。
僕の中心。胸の部分になるのかな、肉体じゃなくて概念体の方への痛烈な打撃。
「──ぐ」
思わず膝をつく。膝とかもう無いけど。
背後からの攻撃。気配がわからなかったのは、感知をジャミングされているからだ。そんなことはどうでもいい。
何より、今。僕は何を受けた?
ダメージ自体はそこまででもない。だけど確実に「僕」にダメージが来た。そんなこと、初めてだ。今までで一度も無かった。この3099年の間に、一度も。
「効いた……?」
「ッ、離れろ!」
とりあえず、全方位に《茨》を出して周囲を弾く。
攻撃が通った事に、誰よりも本人が驚いていたのだろう、少しの間呆けてしまっていたメーデーを古井戸が連れて退いた。
浮き上がる。
肉体を構成することより、これを解析したいからだ。
「……今のは、何かな」
「あはは、教えると思いますかぁ? フリス、これが、私が考えた──あなたを殺す方法ですよぅ」
現れる。《茨》の内側に、透明な何か……機奇械怪モドキ達が転移してくる。
彼らはそれぞれに己が武器を持ち、それを振りかぶり──僕を攻撃した。
斬撃、打撃、衝撃、突撃。
そのどれもが僕の概念体に干渉する。あるいは《茨》をも穿つ。
壊すのは容易だ。だけど、少しでも壊した瞬間に消える。フレシシが転移させているのだろう、それで、どこかで修理しているのかな? 成程、機奇械怪モドキだからこそできる芸当かもしれない。機奇械怪より弱い素材で簡易に作ってあるから、修復素材をいくらでも用意できると見た。
ま、そんなこともどうでもいい。
何を受けているのか。
「……成程、オールドフェイスか」
「流石、もう気付いちゃうんですねぇ」
「あはは、連撃しすぎだよ。攻撃に混ぜて時折、とかの方が良かったんじゃないかい?」
オールドフェイス。
オールドフェイスで……武器を作っている。まさか、加工法を見つけたのか。あれは「悪魔」が高度文明を築いた人間に解析されないよう、様々なプロテクトをかけた上で生み出したもの。世界共通硬貨、なんて呼ばれていた時代もあったけど、だというのに誰も製法を知らない……そんなコインだったんだけどね。
成程、成程、成程。
悪くないじゃないか。サプライズだったのもポイント高いよ。
「悪くないよ、フレシシ。さぁ次の隠し玉を見せてくれ。ああ、この程度じゃ僕は死なないよ。流体に穴を開けて、それがダメージになると思っているのなら大間違いだ」
ほとんど原形をとどめていない腕を大きく広げて、高らかに言う。
この程度じゃないだろう。まさか一発芸だけでは終わらないだろう。フレシシ。古井戸。アルバート。ピオ! あああとメーデー。
もっと魅せてくれ。もっとだ。
「じゃあ、こういうのはどうさね?」
ぺたり、と。
概念体の身体に、冷たいものが触れる感覚があった。見れば、僕の腹部にあたるところに、古井戸がその左脚を当てている。
「──震脚、ってぇの、知ってるかいね」
衝撃。
僕を踏み抜いた古井戸は勢い収まらず、CARが造った空中の道までもを破壊する。あはは、それ砲弾とか防げるものなんだけどね。
「ちょっと古井戸さん、やりすぎですよぅ!」
「すまねぇすまねぇ。ピオ、やべぇのは拾ってやんな! ちょいと俺は、こん中で奴さんと戦ってくるからぁな!」
「承知しました。ご無事で」
落ちる。
浮遊しているはずの僕も落ちているのは、引っ張られているからだ。どうやら古井戸は全身に砕いたオールドフェイスを塗り付けているらしい。
そのまま、未だ続いている火砕流の中に入る。普通の人間なら死ぬと思うんだけどね。呼吸できなくて。
「ハハハハッ! ようやくマトモにやり合えんなぁ化け物!」
「あはは、何、もしかして今まで手加減でもしていたのかい?」
「そりゃあねぇ。でないと、巻き込んじまう。それは本意じゃない」
「面白い事を言うじゃないか。僕の身体をこんなにしておいて、本気じゃなかった、なんて」
踵落とし。
左後方から出て来た彼は、何を言うでもなく僕の肩に踵を落とし、概念体諸共その肉を弾き落す。
その威力たるや。
隕石でもぶつかって来たんじゃないかと思うほどの衝撃があったよ、今。
いや……というかさ。君、本当に何者?
「君、本当に何者だい?」
「さぁね。俺もそれを知りたくて旅してたんだぁが、いつの間にか世界がこんなんになっちまった」
「確か古井戸は、物心着いた時、近くにあったものから名付けた、んだっけ?」
「良く知ってるなぁ、話した事ねえってぇのに」
「それ、どこの話だい? どこの国?」
縦横無尽だ。いや、もっと三次元的だ。
周囲を流れるように飛んでいく瓦礫や岩石を蹴っているのだろう、驚異的な速度で僕に接敵しては攻撃し、通り過ぎ、また別の方向から攻撃が飛んでくる。こんな状況になることなんてないはずなのに、こういう環境で戦い慣れている……そんな感じがする。
英雄。紛う方なき英雄なのは間違いない。
だけど、あまりにも異質だ。英雄というのはその時代に見合ったものになるのに──彼からはどの時代も感じない。
「さぁな。それすらもわからねぇのさ、俺は。どこを歩いたか、海を渡ったのか、それすらも覚えていない。ただ古井戸という名があって、だから俺は旅をした。そんだけさね」
「君は……まさか」
「なんて無駄口もここまでだ。ケリ、つけようじゃねぇの」
大きく上に蹴り上げられる。
その勢いで火と岩の濁流から脱した僕は──それを目にすることになる。
「……あはは」
砲門。砲塔。
全長八メートル、口径九一四ミリメートル。
元NOMANSにして、最初に融合種となった機奇械怪。融合プラント種『グローリー・タンク』がメインウェポン。超長距離を狙撃するものであり──ホワイトダナップの奇械士協会が島外作業員という制度を導入するに至った主因。
その奥に装填されたるは、黄金の輝き。オールドフェイスの集合塊。
これなるは輝きの砲弾。装備するは高級汎用給仕型人造人間。
その背をアルバート、フレシシ、そして数多の機奇械怪達に支えられ──ただ真っすぐに僕を見つめている。
「流石、古井戸さん。寸分違いなく、です」
「撃ちなぁ! ピオ!」
「了解」
物凄い衝撃波が広がった。目に見える程のそれは、雲を割る程。
吐き出されるは、撃ち出されるは金色。わかっているのだろうか。いや、わかっていてやっているのだろう。恐らくジグにあったありったけのオールドフェイス。それがヒトの魂であることを承知でやっているのだ。
だから僕に効くと。そうでなければ効かないと。
魂を砕いて体に塗って、魂を加工して武器にして、魂を砲弾として僕を殺す。
素晴らしい。
「なら僕も、礼儀を尽くさないと」
教えてあげよう。
上位者という言葉の意味を。
今ここに生成する──ヘイズのメテオフォールで死んだ数多の命。この大陸の、否、星にあった数多なる命を集束し、同じものをここへ織る。
それは壁。それは硬貨。「悪魔」が愛したコインの原型。
オールドフェイスの砲弾には、オールドフェイスの防壁で対抗である──!!
して、結果は。
「ま、当然だね。ジグの人口、歴史。それがどれほど積み重なっていたとて、大陸全土に近い規模には敵わない」
僕の勝ち、だ。
いやー。
大人げなかったかな。でも彼らの最強、みたいなものだったからさ。同じ土俵で、けれどより強いもので防ぐのが礼儀だと思ったんだよ。
「……無理でしたかぁ」
「いや? すごくいい線行ったと思うよ。僕が概念体の状態でオールドフェイスを掴んだりコイントスしていたりしたことを覚えていた、あるいは知っていたんだね。それをヒントにここまでの武装を作り上げた。結構驚かされたし、期待も超えた。良かったよ、フレシシ」
「……でも、もう終わりなんですよぅ。万策尽きましたぁ。だから……」
「殺す、って? あはは、フレシシ。確かに僕は最終手段とか奥の手、みたいな言葉が嫌いだ。でもそれは、満足していない状態でそういうことしてくるからなんだよ。僕は何にも驚いてないのに、いきなり『かくなる上は!』とか言ってそれを出してきて、結局通じなくて、それ以上が無い。そんなものに興味が出るはずないだろ?」
フレシシが連れて来た軍団の被害は相当だ。
発射の衝撃で壊れた機奇械怪モドキも少なくないし、何より転移や念動力の使い過ぎだろう、フレシシとピオ自身も動力不足が目に見えて現れている。
唯一アルバートと、そしてひょいひょい岩石を飛んで帰って来た古井戸だけは余裕そうだけど、それ以外は満身創痍もいいところだ。
それに対し、僕もそれなりのダメージを負っている。概念体は穴だらけだし、肉体はほぼ無いに等しい。今の僕は飛んでる塵芥を寄せ集めた土人形みたいなものだね。
で、肝心の満足度だけど。
「良かったよ。悪くないとかじゃなくて、本当に良かった。メーデーのサプライズ、オールドフェイスの加工、古井戸の健闘、そっち四人の連携もそうだし、何よりオールドフェイスをこんな風に扱うのが素晴らしい。わかってるんでしょ? これ、人間の魂だよ? よくもまぁ武器にしたり砲弾にしたり、そうもぞんざいに扱えるね。感心するよ」
「誰にも見つけられずに荒野に放置されてる方が、よっぽどぞんざいですよぅ」
「あはは、それは言えてる」
だから。
パン、と手を叩く。
「見逃そう」
「……それは」
「言葉通りだよ。僕に反抗してきたフレシシ。戦いを挑んできた古井戸とピオ。ついでにアルバートとメーデー。それ以外の機奇械怪モドキ達。君達は凄く頑張った。よく頑張った。だから、殺さないでいてあげる」
十分だ。
フレシシの用意した、三百余年をかけて用意したショウが素晴らしかった。ならそれでいい。
「アルバート。君の力でここにいるみんなを未来に飛ばすといい。そうだな、百年後くらいかな? あ、ごめん猶予持って三百年後くらいにしといて。そのくらいにはまた人や機奇械怪が暮らせるような惑星環境に整えておくから」
「……らしいけど?」
どうする? みたいに。
肩をすくめたアルバートが、フレシシ達へ向く。
あ、そっか。
アルバートはもう未練が無いんだ。マグヌノプスがここで死ぬってわかってるから。まぁワンチャン死なないとしても、縫い付けられてもう出てこなくなるってわかってるから、あとは今を生きる存在のために動いている、って感じかな。
「生きたいか、生きたくないか、だよ。フレシシ。別に逃げるとかじゃないんだ。ここで未来を選択したとて、僕は君を軽蔑しないし、見捨てない。また三百年後、久しぶりだね、なんて言って……その時に栄えている文明とかに溶け込んで、また一般人をやろう」
「俺は、良いと思うぜ、フレシシの嬢ちゃん。生きてこその物種だ。こんだけ用意して、こんだけ死ぬ覚悟をしたのに、ってぇのはわかるけどなぁ、まぁ次の機会を狙えばいいだろうさ」
「……」
古井戸とピオは、一歩引く。
「──が、生憎と俺は未来にゃ興味なくてぇね。悪いがこの辺りでお暇させてもらわぁな」
「あの古井戸さん。今私結構な衝撃ダメージを負っているので、あんまり無茶したくないのですが」
そして──そのまま、後ろに。
CARが作った足場から、ふらりと後ろに。
「んじゃ」
「ちょ、待」
落ちていく。
塵芥と岩石と炎の飛び交う地上に、なんでもないかのように。
……彼らの出自については、今度ちゃんと調べてあげるとして。
「どうする? 君が決めることだよ、フレシシ。ここで玉砕するのも良いさ。だって君が稼働してからずっとずっと考えていたことだろう? それが失敗したんだ、そのショックは大きい。悪くないよ、それも」
「──何が悪くない、よ。お前は私が──」
「うん、少し待っててね、メーデー」
念動力で掴む。うん、もうチャフも消えてきてるね。
しかし、まったく。
君が榊原ミディットだったころに見せた、ランプリーの時のあの"英雄価値"はどこにやってしまったんだろうね。
あはは、まぁ、あの時だろう。
機奇械怪に魂を売った時さ。あの時、君は自身を失ったんだ。それがわかったからフレシシも、特別な身体、とかじゃなくて普通の機奇械怪モドキにしたんだろ? 英雄だと思って引き取ったら違った、って。そんなところだ。
「……フリス」
「うん。何かな」
「私は、死にたくないです。あなたの事を怖がったまま──この関係を続けたいと、そう願います」
「おっけー。じゃ、アルバート。お願いして良いかな?」
「君も出来るだろうに……」
「できるかできないかで言ったらできるけどさ。君も、誰かのためならまだ力を使いたいって思えるんじゃないかな」
「……ふふ。ああ、そうだね。……それじゃ、一つだけいいかい、フリス」
「うん。聞こう」
アルバートはフレシシの肩を抱く。
そして、笑顔で。
「ケルビマさんに伝えておいてほしいんだ。──ボクは手に入れました。見つけ出しました。だから──未来予知。当たらないよう死力を尽くしてください、と」
「ケルビマ……でいいのかい? 君達どんな繋がりが」
「ふふ、ちょっと前に、少しね。──じゃ」
消える。
アルバートと──フレシシが。
二人、だけが。
「え……」
「あ、え?」
「我々は……」
「俺達だけの世界というのは、どうなるんだ!」
「フレシシさん!? どこへ消え……いや、転移か? サイキック部隊! 探せ、探せ!」
──……。
アルバートも……なんか、よくわかっているというか。ちょっと上位者っぽい思考になってるのかな、彼女。
眼球だけをゆったりと動かして、念動力で掴んでいるメーデーを見る。
「あはは、見捨てられたね」
「……!」
「そんなに驚くことかい? だって要らないだろう。ただ復讐心という入力をされただけの人形なんか。君、勘違いしているようだけどね、君は榊原ミディットでも、メーデーでもないよ」
「な……にを」
「君は、フレシシが吸い出した君のメモリーチップを基に構成された再現AIさ。恋人を殺された、という憎悪だけを刻み込まれた誰かさん。彼女の事だ、余計な記憶は消しているんじゃないかな。君の家族のこととか、奇械士としての記憶とか」
ああまぁ、戦闘記憶は残しているだろうけど。
それ以外の余計なものを、わざわざ彼女が入力するとは思えない。
「覚えているかい? 君のもとの口調。思い出せるかい? ケイタ・クロノアとの出会い。忘れていないかい? 君の妹のこと」
「い……妹? 嘘だ。覚えて……覚えていない。そんなものが、私に……」
「あははっ! 嘘嘘、君に妹なんていないよ。いるのは後継機だし、完成体だし、姉だし」
じゃ、もういいかな。
自身の家族構成も完璧に思い出せないようじゃ、本当に粗悪な入力しかされていないのだろうこともわかる。
ま、フレシシ人間嫌いだしね。
「そうだ……あいつ、アイツを殺しさえすればいい! そういう目的だったはずだ!」
「殺せ! あの化け物を殺せ!」
「できるわ、だって、だって私達──人間だった頃より優れているんだから!」
「殺──ぺっ?」
ぐしゃ。
潰す。慈悲なく。
他のNOMANSも潰す。そして。
「……一応、聞いておこうか。君はどうしたい? 生きたい?」
「
念動力に捕まえられた、動く事もままならないガラクタが、笑っていた。
その言葉。懐かしいね。
「あなたはあなたの慈悲で──」
「首を断つのかい?」
「砕け散るのよ」
急激な熱量の上昇。赤熱どころか白熱にまで至るその身体。膨張。
膨れ上がり、脈動し、その身を捧ぐ。
これは。
「死ね、キューピッド!」
自爆──。