終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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出会い系一般上位者と一般機奇械怪

 やはり。

 もう"英雄"とは言えない二人では、マグヌノプスに対して戦闘し続ける事は難しかったらしい。

 チャル達がスファニアを起こし、アスカルティン達と合流、衣服などを整えてから向かった時には──二人は満身創痍だった。

 彼女らが出ていく前とほとんど変わっていないマグヌノプスに対し、ケニッヒもアリアも傷だらけ。互いの武器は砕けていて、回避に専念している……そんな状態だった。

 

「ケニッヒさん!」

「……あぁ、ありがたい、と言いたいところだが……」

 

 アスカルティンが作った槍と、プラスして余った素材の戦斧を二人に渡すも──これ以上戦いを続けても、と。

 見遣る。

 黒い金属片を噴き出しながら、部屋に戻って来た五人を警戒するソレを。

 

「私とスファニアさんにとってアレが毒であることに変わりはありません。油断はしないようにしますが、どうしても攻めあぐねます。あ、モモさんは早く出て行ってください危ないので。……で、主戦力はケニッヒさん、アリアさん、チャルさん、アレキさんにならざるを得ないのですが……」

「ああ……まだやれるさ」

「行くしかないものね」

 

 無理だろうと、誰もが思った。

 御年三十六。人間という個体で見ればまだまだ若い二人も、戦士という括りで見れば高齢だ。

 だけど。

 だけど、それなら、二人は何のために五年間を過ごしたと言うのか。

 

「ま──死に場所には丁度いいってこった」

「最後にフリスに会いたかった、なんてのは……贅沢よね」

「はは、珍しいな、アリア。お前が弱音を吐くなんて」

 

 無造作に斬りかかる。突く。

 アスカルティンが加工した疑似上位者封じの合金。それにより作られた武器は、マグヌノプスの金属片に大きなダメージを与える。パラパラと剥がれるそれがその威力を物語り──そしてすぐに修復される黒が絶望を与えてくる。 

 そう、この武器が来る前から、色々な事を試している。どうにか誘導して敵の攻撃を敵の身体に当てるとか、部屋に激突させるとか、薄くなった場所に攻撃を入れるとか。

 けれど、ダメなのだ。

 再生力が高すぎる。機奇械怪にはない即時再生とでもいうべき機能が、基本的に強い一撃を得意とする奇械士の天敵過ぎる。

 

 そして。

 

「う──ぐ、っと」

「……本当に厄介」

 

 伸縮自在の触手。金属片を数多繋いだそれは、突きや斬撃を放ち、そして鋸状であるから傷口も深くなる。

 

 正直、厳しかった。

 アレキのような神速のヒットアンドアウェイをしたところで、チャルのような縦横無尽な弾丸を放ったところで、結果は同じ。 

 

 奇械士だけではどうにもならない──そんな雰囲気があった。

 

「……!」

 

 だから、奇械士以外が来たのかもしれない。

 逃げずに、そして待たずについてきたのは、ちゃんと理由があったのだろう。

 

 掴む。掴んだ。

 右手を前に翳し、ぐ、と。

 それで、それだけで、マグヌノプスの動きが止まる。

 

「モモ?」

「早く、やれ! 私の弱いサイキックでは、そこまで長くは止められない!」

 

 好機。勝機。

 チャルとアスカルティン以外には、何故モモがサイキックなんてものを扱えるのかはわからなかったことだろう。だが、それがまたとないチャンスであるという鼻は利いた。それだけで十分だ。

 

「モード・エスレイム」

 

 一番速かったのはスファニアだ。

 敵が毒の塊であるということに露ほども臆さず、最速で突っ込み、零距離のインパクトを叩きこむ。ぱらり、と剥がれる金属片は、しかし再生しない。

 翳す手を増やしたモモが、押し寄せようとする周囲の金属片を抑えているのだ。

 

「っ!」

「らぁ!」

 

 次に動いたのは二人。アレキとケニッヒだ。

 疑似上位者封じの槍で、今もてる限りの威力を一点に叩きこむ。

 今ばかりは兄に倣った突きの姿勢を取り、不壊たるテルミヌスをほぼ同一の個所に刺し込む。

 突撃槍、長槍、刀。

 長柄三つの突きは、最も深くまで金属片の層を抉ったと言えるだろう。

 

「三人とも、どいて!」

 

 ならばそれを逃すアリアではない。

 遅れた分、その最中に溜めに溜めた力を解放する。三人が退くことも認識しない内に振るわれたその戦斧は、果たしてエスレイムよりも大きな衝撃を与えたようにも見えた。轟音、どころか、マグヌノプスに包まれた彼が少しばかり後退する程の衝撃。

 代償はあった。聞こえたのはケニッヒくらいか。

 アリアの腕から、割れるような、砕ける音が。

 

 だが、甲斐はあったはずだ。

 何故なら──。

 

「チャル!」

「行け!」

 

 露出していた。

 金属片に覆われていた中身が。彼が。

 彼女の父親が。

 

 ああ、しかし。

 そろそろ限界なのは、マグヌノプスではなく──モモの方。

 これほど過去の己を呪った事は無いだろう。モモは護身程度にしかサイキックを練習しようとしなかったから、効率に粗が多いのだ。これがもし、対フリスを想定したような訓練を受けていたら、もう少し長く、強く止められただろうに──限界だった。

 弾かれたように、弾き飛ばされるようにモモの腕が飛ぶ。

 

 だから、彼女も腕くらい捨てて良いと思った。

 猛毒。体内に入ったら機能停止する可能性があるくらいのそれを、掴む。押し戻ろうとする金属片を、その縁を掴んで、こじ開けるように広げる。既に手首から先が侵食され始めているから、すぐにでも腕をパージしなければならないだろう。

 だが、でも、だけど、まだ。

 アスカルティンだ。これは本能か理性か。あるいはどちらもか。

 

 さぁ、正念場である。

 チャル・ランパーロ。果たして彼女はその銃口を──父親に向ける事が出来るのか。

 

「モード・ティクス」

 

 誰も心配していなかった。その精神性をこそ、フリスは"英雄価値"と定めたのだから。

 それは生命を死滅させる弾丸。父親が生命であると定めたからこそのそれは。

 

「全部撃て、チャル」

「っ──エタルド、テルラブ!」

 

 それが無ければ、もしかしたら負けていたかもしれない。

 その助言が無ければ、彼の機奇械怪の、その動力炉が動き出して……全く違う結果になっていたかもしれない。

 けれどチャルは聞き届けた。死に体の父親の声を聴いて、躊躇せず、即座に行動できた。

 

 死が広がる。

 ガクンと崩れ落ちるチャルと、その眼前で朽廃していくヒトガタ。

 中心部からボロボロと崩れ落ち、「人間」も「機械」も、そして「精霊」も、その絶対的な力が食い尽くしていく。

 どれほどの痛みだろうか。生きたまま朽ちていく、というのは。

 でも、それでも、彼は──エストは、意識を失わない。

 自らが死ぬその一瞬までマグヌノプスを引き留め続ける。

 

 だから、マグヌノプスも、だ。

 

 動けなくなるその瞬間まで抵抗し続けるのは当然だった。

 

 まず手始めに、最も近くにいるアスカルティンとチャルを。

 腕をパージしたアスカルティン。体力の九割を使い切ったチャル。アスカルティンだけなら逃げられる。だが、チャルを抱える腕がない。チャルは動けない。アレキに助けを求めるにも時間が足りない。スファニア、ケニッヒ、アリアが二人に手を伸ばす。

 足りない。当然足りない。

 だからその凶手は、至極当たり前に二人の頭部を貫いて。

 

 

「見苦しいよ」

 

 

 赤雷が走る──。

 

 

+ * +

 

 

 彼方。

 ホワイトダナップでも、ギンガモールでもない場所にいた。いる。

 

「やぁ、エスト」

「フリス」

 

 あそこまでやったんだ。ちゃんと頑張った。

 それを相手に、殺された相手に、星の意思なんて大それたものがそんな悪あがきをするのは面白くない。

 ただ殺すため、ならともかく。

 チャルの中に逃げようとする、なんて──あはは、僕が許すわけないだろう。

 

「最期の言葉はあるかい?」

「元より死人。これ以上は蛇足だろうさ」

 

 もういい、と。

 エストは笑う。ざわめくマグヌノプスが、それでもと僕に殺到するけれど。

 

「さようなら、稀代の英雄」

「──そんなんじゃないさ、俺は」

 

 ティクスとエタルドの朽廃が──彼を完全に消し尽くす。

 別れの言葉も何もない。ただ目の前で英雄が死に。

 

「それじゃあ、マグヌノプス。君に居場所を与えてあげよう。──もう死んだ、誰もいない、何もない星だ」

 

 地球、というんだけどね。

 

 ざわめくそれに、蠢くそれに、念動力で推進力を与える。

 エストの魂に縫い付けられたマグヌノプスは、そのまま、そのまま。

 

 星海の涯に──。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ただいま」

「ッ!」

「おっと、剣呑だね。って、あそうか」

 

 今の僕、継ぎ接ぎの、ホントに化け物みたいな見た目だっけ。

 えーと、えーと。

 そうだ、皮膜(スキン)があるじゃないか。アレは素材大して要らないし、これで覆って。衣服もちゃんとして。

 

 はい。

 

「これでいいかな?」

「……お前なぁ。先に中身見せておいて、今更外面綺麗にしたって誰も油断なんかしねえよ」

「油断? そんなものをしてほしいわけじゃないさ。ただ、人間はグロテスクなものをあまり注視したくないだろう?」

「流石フリスさん。配慮の場所が変」

 

 酷いなぁ、ようやくのご対面だっていうのに。

 でもま、それだけマグヌノプスが頑張ったってことだろう。頑張ったというか、悪足搔きが凄かったというか。

 

 全身傷だらけのクリッスリルグ夫妻、体力のほとんどを失ったチャル、両腕の無いアスカルティン、動力の八割以上を使い果たしたモモ。

 

 無事なのはスファニアとアレキだけか。

 

「どうする?」

「どうする、とは」

「いや、今から戦うかどうかって話さ。僕としては万全の君達と戦いたいからね。少しばかり予定を遅らせるのも悪くないと思ったんだ。特にチャルは一度ゆっくり休んだ方がいいだろうし」

「それは……」

 

 流石の僕も、ラスボス連戦はどうかと思うタイプだ。

 何より彼女らはまだ世界の様子を知らない。クリッスリルグ夫妻は知っているみたいだけど、他のみんなは世界が終わりを告げた事を知らないままで戦っている。

 そんなの、つまらないじゃないか。

 

「うん、じゃあ決定。休養は三日くらいあれば十分かな。それじゃ、束の間の休息だ。存分に楽しんでほしい。本当に最後の最後の休息だからね。やり残しがないように」

 

 鳴らす必要はないけれど、指を鳴らして赤雷を走らせる。

 全員をホワイトダナップに飛ばして、そしてギンガモールもどこぞへと追い払って。

 

 僕も、消えた。

 

 

 

 

 

 えー、そんなことをすれば当然。

 

「フリス。君はいつもそうだ。無計画に予定を決めて、無計画で相手を振り回す。私もね、そろそろ怒るんだよ。特に今回は色々連絡しなすぎだ」

「いや、あの。世界がこんなになったのは僕のせいじゃなくて」

「確かに満足のいく結果を選ぶと良い、とは言ったけどね。これじゃあ実験どころじゃないし、時代のリセットにしても荒業過ぎる。何よりまだ何も終わっていない!」

 

 ガミガミガミガミ。

 いつもの転移でしか入れない部屋に、僕らはいた。

 

 僕とエクセンクリンと、そしてケルビマとヘイズ。

 さらにアスカルティン、モモ、ガロウズ。結構な大所帯。

 

 ただエクセンクリン以外の五人は僕が叱られているのを遠巻きに見ているだけ。そろそろ助けてくれないかな。特にヘイズ。

 

「あの……お父さん。そろそろ本題に入った方が……」

「ああモモ、もしかして君は救世主かい? そうだな、君が選ぶなら、次代の、」

「モモに何かしたらタダじゃ済まさないよフリス」

 

 ……面倒だなこの親子。

 

 で。

 

「何はともあれモモの言う通りだよ。今回ばかりはちゃんと時間がないんだ、有意義な会話をしよう」

「……はぁ。わかった。わかったよ。……それで、マグヌノプスについては完全に解決した、という認識でいいのかい?」

「うん。今頃暗黒の海を飛んで、あと七年くらいで荒廃した惑星に辿り着くはずだよ」

「それについて深くは聞かないけど、まぁわかった。……で、何故君との戦いにモモが出なければならないのか。詳しく説明してくれ」

 

 当然議題はそれだ。

 つまり最後の戦いについて、各々思う所があるのだとか。

 

「待ってくださいお父さん。私は自分の意思で……」

「『災厄』たるマグヌノプスは倒せた。他ならぬモモ、お前の活躍が起点になったと聞いている。凄い功績だ。それで十分だろう? 五年後に現れ、ホワイトダナップを破壊し尽くすと謳われた『災厄』を君は退けたんだ。だのに、何もわざわざこの化け物と戦う必要はないよ」

「で、ですが、当初予定されていた敵はフリスだったと皆から聞いています」

「それが違った、というだけだ。いや、そうだったとしても、君じゃ話にならない。『災厄』とフリスは全く以て系統が違うし、そもそも君にサイキックを教えたのはフリスだろう。いやフレシシとガロウズかもしれないが、結局は同じこと」

「ですが……」

 

 親子喧嘩、になるんだろう。

 モモはモモで何か変質しているようだけど、確かに彼女程度では僕には勝てない。というか彼女はブレイン役で抜擢したから、戦闘に向かないのは当然だ。

 その点、背後……腕を修復したアスカルティンを見遣れば。

 

「……なんなら私も戦わないでいいならそれでいいかなって思ってたりします」

「そんな感じはしていたよ」

 

 アスカルティンはもう"こちら側"に近い。

 近いと言うか、ほぼそう、というか。

 そんな彼女にとって、僕とガチバトルをする、なんてのは悪手でしかない。

 

「僕が勝とうが、チャル達が勝とうが、どの道この時代はもう終わる。ホワイトダナップとエルメシア。この二国だけで、この災禍を乗り切ることはまず無理だ。残された人類がどうにか繋いで、けれど繋ぎ切れずに滅びていく。けれど、唯一」

「皮肉にも、あの偽キューピッドの言う通り……人間と機械が手を取り合った存在だけが生き続ける、ですよね?」

「そう。アスカルティン。モモ。あと古井戸とピオもかな? そういう互いが互いへと踏み出した者だけが、自己改造の果てにこの地獄を生き抜いていく。人間側で、あるいは機奇械怪側で足踏みしているのなら、それはもう朽ちる運命だ。理由はわかるよね、ガロウズ」

「ほほ……動力が得られないから、ですなぁ」

「正解だ。モモとアスカルティンにとっては『そんなことはない』と思うだろう。なんせ世界に動力は満ちている。だけどガロウズや、あるいは地上の機奇械怪にとってはそんなことないんだよ。この災禍に適応するための自己改造だけで動力を使い切り、有機生命が死滅しているから補充も出来ない。融合と進化、けれどジリ貧だ。指導者は今頃頭を抱えている頃だろうね」

 

 折角ミケルに作ってもらった指導者たる機奇械怪だけど、果たしてこの逆境を生き残れるかどうか。

 炎熱と塵芥の嵐は自然な感じで抑えていくつもりではあるけれど、それまでに死んでしまったら、まぁそこまで、ということで。

 

 新人類は二人。

 うん、新たな神話を描くにも丁度いいね。

 

「じゃあ本題だ。機奇械怪諸君、上位者諸君。──ここからの身の振り方を決めてほしい」

 

 僕と敵対する、つまり奇械士に付くのか。

 僕と宥和する、つまり傍観に回るのか。

 あるいは僕側に付く、でもいいけどね?

 

「俺は、もう手は出さん。負けた。それで終わりだ」

「ん-、俺ももういいかね。モルガヌスは封印できたが、一個体になるってわけじゃねぇって結果も出た。なら適当な所でアイツを解放するなり他に身を寄せるなりして、また時代の人間とよろしくやるよ」

 

 ケルビマ、ヘイズ。

 上位者二名は傍観。まぁ、だろうね。彼らはもう僕と戦う意味が無い。ケルビマにはホワイトダナップの守護という名目があったけれど、僕を狙ってホワイトダナップを壊さんとする「災厄」……つまりマグヌノプスがいなくなった今、僕をどこかに追いやる理由も無くなったわけだ。

 

「ほっほっほ、儂もパスですじゃ」

「いいのかい? 君は君で、何か用意していたようだったけれど」

「ネタバラシをしますと、儂は姉上が勝った場合において、それをひっかきまわしてやろうとしていただけでしての。ほほ、機奇械怪だけの世界なんてつまらないものに興味はありません故」

「ということで……チャルさん達には非常に申し訳ないんですけど、私もパスです。いいじゃないですか、別に。フリスさんを倒さなくても……別にフリスさん、ホワイトダナップを壊したりしないでしょう?」

「あはは、まぁね。もう人間も数少ないし、実験対象には向かない。どっちかというとエルメシアになるかな、対象は」

「なら、いいです。私はここで、残った人間達と一緒に……まぁそれができなければ適当に暮らします。私の家族もラグナ・マリアで死んじゃったと思いますし」

 

 らしい。

 ガロウズはともかく、アスカルティンもさっぱりしている。ま、最初から新人類(アスカルティン)には聞いていないんだけどね。彼女とモモは、僕からして壊す気がサラサラないし。

 

「モモ」

「ぁ……う」

「……じゃあ、こういうのはどうだ。フリス、聞きたいことがある」

「僕がチャルを殺すかどうか、かな?」

「ああ。モモとアスカルティンが行かなかった場合、スファニア、チャル、アレキだけが君と戦うことになるだろう。あるいはクリッスリルグ夫妻もか。そうなった場合──君は彼女らを殺すのかい?」

「積極的には殺さないよ。死んじゃう可能性はあるけどね」

 

 そもそも僕がチャルと戦いたがっているのは、彼女の真髄ともいうべきブラックボックスな部分を見たいがためだ。彼女に強さなんて期待していない。

 加え、アレキのサイキック対策も気になるし、スファニアも……ちょっとまだ気になっていることがある。

 

 ただ。

 

「クリッスリルグ夫妻については保証しない。多分二人は死ぬ気でかかってくるから、僕もそれに応えることになるだろう」

「そうかい。……そういうわけだ、モモ。たとえ君がここで身の安全を取っても、君の友達が死ぬ確率は低い。いいだろう? 私と母さんと共に、三人で暮らそう。今度こそ……守るから」

 

 エクセンクリンの懇願。

 彼としては、そうだろうね。だけど。

 

「……ごめんなさい、お父さん」

 

 モモはそれを、振り払う。

 

「どうして……」

「……ギンガモールで、私は私に再会しました。お父さん、あなたが遺した記録に出会いました」

「!」

 

 ああ、だから変質した感じがしたんだ。

 ケルビマも見る目を変えている。そう、彼の片腕を吹き飛ばした彼女。

 

 成程、それでアスカルティンが疑似上位者封じを壊せたわけだね。自爆機構を……なるほどなるほど。

 融合というか、迎合したんだろう。しかしよくあの爆発で……。

 

「あなたが引き留めても、あなたが忘れてしまった事をやり遂げます。……ごめんなさい」

「──なら、力づくで」

「やめろ、エクセンクリン」

 

 頭を下げるモモに、恐らく念動力で縛り付けようとでもしたのだろう。

 エクセンクリンが、けれどケルビマに刀を突きつけられる。

 

「……どうして君が止めるのかな」

「あの時は名を呼ぶことも、呼ばれることもなかった。その後悔、失意の果てに死んだ"英雄"に、余計な真似は許さん」

「ありがとうございます、『兄上』」

「呼べるようになったのだから名前で呼べ」

 

 ちなみにだけど、勿論モモも壊す気はない。

 ちゃんと戦いはするけど、それだけだ。新人類だからね、彼女も。

 

「ちょ──何通じ合ってるんだ人の娘と!」

「ふん、お前にはわからないことだ、エクセンクリン」

「そうですね。お父さんにはわからないことです」

「み、認めないからな!? 歳も全然違う……」

「あれ、お二人とも年齢そんなに離れてないですよね。確かケルビマさんの肉体年齢って相応でしたし」

「い、いや、確かに離れてはいないが、そういう意味で言ったわけでは……」

「どの道お前は機奇械怪だ。婚姻を結ぶのであれば、形だけになるが」

「ほ!? ケルビマ様が行間を読んだ……ですじゃと!? 言外に言われたことになんら頓着を示さない天然物代表のようなケルビマ様が!?」

「アッハッハ、別に良いんじゃねえか? どうせこの世界じゃ子を成したって育てきれねぇだろうし、結婚するだけして、そういう余生を過ごすのもアリだろ」

「だから認めないって言ってるだろ!?」

 

 途端に騒がしくなった室内。

 うんうん、いいね。これも青春だ。

 

 それじゃ、モモ以外は傍観ということで。

 

「結婚式を開くなら呼んでくれると嬉しいな。それじゃ、僕は行くから。モモ、チャル達によろしくね」

「あ──ああ、よろしくもなにも、だが……じゃなくて、結婚などまだ考えてない!!」

 

 転移する。

 いやー。

 若いっていいねぇ。

 

 

+ * +

 

 

 

 風吹く丘にアレキはいた。

 眼下に広がる赤と黒の塵芥の嵐。アレキ達がギンガモールで戦っている間に、世界は終わったらしい。

 今こうしてホワイトダナップが無事でいられるのは、ホワイトダナップが高空にあったこと、そしてフリスが張ったシールドが主因だという。

 ただし、既に引継ぎは終わっているとのこと。フリスがいなくなっても兄ケルビマとモモの父であるエクセンクリンによって、このシールドフィールドは保たれ続ける。

 

 だから殺しても問題ないと言われた。他ならぬ兄に。

 

「……殺し得る、か」

 

 ケルビマは届かなかったという。

 ヘイズという奇械士と共闘し、けれど無理だった。そんな相手なのだ、フリスは。

 

 それを殺せるか。

 殺し切れるか。

 否、そもそも──倒す、で止まるつもりだった。だってそれが、もっとも傷が小さいから。

 

「もう、いいんじゃないか、と……」

「ここ……すげー場所だな」

 

 素振りを続けている時の事。

 隣に来たのは、スファニアだった。

 

「元はチャルのお気に入りの場所。ここは世界が見渡せるから好き、だったんだけどね。今は」

「ああ。めちゃくちゃだ」

 

 珍しい組み合わせであると言えるだろう。

 普通はここにチャルかアスカルティンのどちらかがいる。この二人だけになったのは、アーチェルウィリーナと戦ったあの時くらいだ。

 

 だからアレキは、何気なしにスファニアの横顔を見た。

 

「……何か嫌なことでもあった?」

「ん? なんでだ?」

「泣きそうだから」

 

 その顔は悲嘆に染まっている。

 アレキが見て、思わず優しい声になってしまうくらい、彼女は泣きそうだった。

 

「……嫌なことは、あった」

「珍しい。あなた、そういうの気にしないと思ってた」

「俺も思ってた。……けど、思い出しちまったんだ。俺の役割」

「役割?」

 

 スファニアは、ああ、と頷いて。

 

「俺さ、ずっと俺が誰なのかわからなかった。スファニア・ドルミルって名前以外何も覚えてなくて、だからヘイズから教えてもらった事が全てで……でも、ギンガモールで、マグヌノプスの攻撃を受けて、気付いた」

「マグヌノプス……。あの金属片の名前、だっけ」

「ああ。俺さ、実は」

 

 風が吹く。大きく風が吹く。

 スファニアの言葉を隠した風は、けれどアレキには伝わっていて。

 

 驚愕に染まるアレキの顔と──今まで一度だってしたことが無い、スファニアの苦い顔。

 

「……ダメ、そんなこと」

「ごめん。幸せにな」

「……」

 

 最後の時は──ひたひたと。

 

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