終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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二つの恋模様と、偽物を作る系一般上位者

 ミディット・サカキバラは一般奇械士(メクステック)だった。

 幼馴染であるケイタ・クロノアとは奇械士になった六年前からずっと共にいて、コンビとしても、そして若いカップルとしても協会内では有名だった。

 それが崩れたのは、つい最近のこと。

 大型機奇械怪『ランプリー』。島外作業員となったのは三年前のことで、ベテランの風格が出てきた、なんて揶揄われる事も多くなってきた時の討伐対象。注意すべき相手ではあれど、対処法を知っていれば問題なく倒せる相手。だから想定通り、ブリーフィングを欠かさず、万全を期して挑み、あと一歩の所まで追い詰めた。

 

 そして、ミディットは──半身と共に、己の人生をも失うこととなる。

 

 

 

「メーデー。メーデー? ちょっと、聞いているの?」

「……いや。呆っとしていた」

「えぇ? もう、しょうがない……もう一度話すけど、」

 

 ミディット改め、メーデー。

 それが新たな名。下から半分の無い自分には相応しい名だと思っている。

 

 8月16日。

 約束の日の一日前。

 微妙な関係なれど、同じ敵を持つ者として仲良くはなった二人──年下の少女ら二人は、しっかりと島外作業員の資格を手に入れた。これまた最年少での獲得であり、勿論その裏には血の滲むような努力があったことを知っている。

 

「明日の調査の件。アリアさんとケニッヒさんをリーダーに構成された十人の調査班。その中でも六人と四人に小班を分けて調査をする。そこまではわかってるでしょう?」

「勿論」

「ええ、事前に打ち合わせはしているからね。それで、貴女の班員は三人……つまり少人数側を貴女に担当してもらう。メンバーは」

「アニータ、レプス・コニシ。……そして、ケイタ・クロノア」

「なに? ケイタさんに何か思う所があるの? ……あぁ、先日の任務失敗の件なら、あれは仕方のなかったことよ。アクシデントにしても対応できることとできないことがあるし、あれを責めるようなことは、」

「責めてなんかない。……いいから、続けて」

 

 キューピッドの拠点である可能性があるとされている港湾国家ダムシュ。

 そこへ向かう調査員として班に組み込まれ、その中の小隊長として──ケイタと共に行動する。

 運命とか偶然とかではない。キューピッドに仕組まれた、ということでもない。単純に島外作業員の戦力バランスを考えて、爆発的な強さを得た己と、中堅クラスのケイタはコンビとしては難しくとも班員としては組みやすいのだ。

 そも、政府側からの派遣員として一人で来た己の方が異端。そこにちょうど相方を失ったケイタがいるのだから、組まされるのは不思議ではない。

 

 不思議ではなくとも、思う所はあるが。

 

「今回の調査は未知数があまりにも多い。できるだけ現地の人間と敵対せず、協力関係を結ぶこと。可能であれば之を助ける事も命じられているけれど、これに関しては()()()()()()よ。班員の命を危険に晒して、までではない。いい? たとえ貴女の出身国であっても──知り合いがいたとしても。貴女はもうホワイトダナップの奇械士だから、守るべきは仲間。これを念頭に置いて頂戴」

「……わかってる」

 

 奇械士は国を守るものだ。本来こういう風に外部へ調査を赴くことはあまりない。

 そして、その例外たる調査において、守るべきは国ではなく互い……仲間になる。欠けは許されない。互いを助け、援ける事で高め合い、強敵とされる大型機奇械怪を倒す。

 己は出身地をダムシュと設定されているからこういう釘を刺されるけれど、正直、ダムシュに対する思い入れなど欠片も無い。それは当然、己はダムシュ出身ではないのだから。

 それでも傍から見れば情に突き動かされると見られてしまうだろう。奇械士は機械じゃない。冷酷には成り切れない。もしかしたら──仲間より生き延びた人々を優先するかもしれない。それは当然の懸念だ。これを強く否定して怪しまれる必要はないし、必要以上に固執して心配される意味もない。

 ただ淡々と、わかった、と。そう言っていればいい。

 

「オイ、アンタ」

「……」

「アンタだよアンタ。ちょいとごめんな、ランビ。俺はコイツに言っとかなきゃいけないことがあるんだ」

「は、はぁ。構いませんけど……」

 

 ブリーフィング担当者のランビにストップをかけてまで話しかけてきたのは──ケイタ。

 何があっても、名前が変わっても。

 彼への好意を忘れたことはない。

 

 そんな彼が、ひた向きな目を己に向けてきている。

 

「俺は、構わねえ」

「……?」

「アニータとレプスがどういうかはわかんねえけど、俺は構わないって言ってるんだ」

「……何の話?」

 

 彼と向き合う。

 それはまだ、できていない。この珍妙な仮面越しでさえ、目を合わせられない。自分のものとは全く違う声が震えないかを一秒一秒確認しなければいけないし、手が足が、全身が弛緩しそうになるのを気を張ってこらえなければならない。

 抱き着きたい。泣き出したい。

 でも──できない。キューピッドの手によって生き返った己は、身体の半分を機奇械怪とする己は。

 もう。

 

「だから、俺は良いんだよ。アンタダムシュ出身なんだろ? だったら絶対知り合いがいる。知り合いじゃなくても助けてぇって思う奴はいっぱいいんだろ。それを無視しなくて良いって言ってるんだ。アンタが来てから一か月くらいだが、アンタが悪い奴じゃないのはここにいるみんなが知ってる。どんだけ喋んないように頑張ったって、どんだけ顔や声色を隠したって、なんつーか……優しさ、みたいなのが滲み出てんだよ!」

「おぉ、ケイタさん言いますねぇ~」

「流石センパイ、女の子の扱いはお手のもゴ」

「馬鹿アニータお前馬鹿、デリカシーってもんを覚えろ馬鹿!」

 

 ……どうやら隠れて聞いていたらしい二人……同じ班員で、ミディットであった頃は後輩だった二人がニヤけ顔でケイタを茶化している。

 自分も、雰囲気を緩めそうになった。

 だから好きなんだ。彼は、どこまでも甘いから。弱い自分が許せないくせに、その弱さを捨てない。絶対に。甘さと罵られようと、大人になれと叱責されようと。

 ずっと前から、彼は変わっていない。

 

「……構わない。ダムシュが崩壊した時、私の知り合いは皆死んだ。残っているのは顔も名も知らない民だけ。……それに、私は国を捨てたんだ。彼らを守る資格もない」

 

 それは──政府側から追加された自身の"設定"。

 曰く、ダムシュ滅亡によってメーデーの知り合い、親類は全て死に、メーデーだけが命からがらそこを逃げ出し、ホワイトダナップに拾われた。生き残りの懇願も、メーデーに縋る手も払い捨て、メーデーはダムシュを捨てた。

 ……らしい。些か悪役に寄り過ぎているように思うのは、キューピッドの趣味……ではなく、政府側の内通者の趣味なのだろう。それはもう、この一か月ほどで理解している。

 

「うるせーな頑固カボチャ! いーから、俺は構わねえだけだって言ってんだ! ──自分の守りたいモンを優先しろ。……それは絶対、後になって、ずっと残り続ける後悔になるから」

「センパイ……」

「あ、一応俺もス! 俺も気にしないんで、メーデーさん、いざとなったらダムシュの人達を守ってあげてくださいス! 俺ももう自分で自分を守れるくらいには強いスから!」

「レプスずるい! 私も守ってもらわなくたって戦えるしー」

 

 ああ。

 やはり、楔になってしまっている。トゲになってしまっている。

 心苦しい反面──どこか嬉しがっている最低な自分がいる。

 

 ケイタは、私の事を。

 ……忘れてはいないのだと。

 

「わかった。これ以上は何も言わない。緊急時には己の心に従う。……これでいい?」

「ああ! んじゃ、ランビ! ブリーフィング邪魔して悪かった! 続けてくれ」

「はーい。……ね? 気の良い人でしょ、ケイタさん。大丈夫ですよ、今回の調査もきっと上手く行きます」

「……貴女より、知っているつもり」

「はい?」

 

 それが、噓偽りの塊であるメーデーという誰かに対する優しさでも。

 今は──嬉しかった。

 

 

+ * +

 

 

 刀を振る。

 戻し、振る。

 単なる素振り。幼少から一日たりとも欠かしていない練習。

 握る刀は変わっていけど、己自身が変わる事はない。ただ、無心──。

 

「アーレキっ」

「へぁ!?」

 

 ……訂正、無心になんてなれていなかった。もっと精進しなくては。

 

「チャル……もう、突然抱き着かないで」

「えへへ、アレキすっごく集中してたから、どこまでやれるかなーって」

「その言い方だと……これ以外にも何かしてた?」

「うん! 変なダンスしてみたり、一緒に素振りの真似してみたり、クラッカー鳴らしてみたり。でもアレキ全然気付かないんだもん。それじゃあすぐにやられちゃうよ?」

「……害意が無いから気付かないだけ。それに、チャルからされることを……拒んだりは」

「はい、コレ」

「つめたっ!?」

 

 頬に当てられたのは、アイスキャンディ。

 べたっとした感触。少々やり過ぎじゃないか、と思う心は、それを差し出してきた右手についた円形の茨のような紋様に抑えられた。

 差し出したチャルも気付いたのだろう、わざわざそれを持ち換えようとする。勿論、その前に受け取った。

 

「……とうとう明日だね」

「ええ」

 

 地上に降りるのが、ではない。

 既に己もチャルも、地上での機奇械怪討伐には参加済みだ。島外作業員の資格を取ってから、幾度か程度ではあるが、大型機奇械怪との交戦を経ている。

 成程、確かに自分は井の中の蛙だったな、と。何度も何度も先輩となる奇械士達から調子に乗るなと釘を刺されてきたが──アレは嫉妬などでなく、本心だったのだな、と。そう理解した。理解せざるを得なかった。

 それほど違う。

 資料で知ってはいても、相対してわかる異質さ。ホワイトダナップに来る機奇械怪など可愛いものだ。

 地上の機奇械怪は皆、飢えに飢えている。人間を食料としてしか見ていない。敵ではなく、捕食対象。

 

「アレキ、怖い?」

「え?」

「だって、アレキ……手、震えてるよ」

 

 言われて気付く。

 アイスキャンディを持つ手が、震えている。

 ……天才だと言われてきた。そも、己は奇械士になるべくしてなった人間だ。剣道家の家系に生まれ、戦闘者として育ち、当然のように機奇械怪の知識を身に着け、その資格を取った。天才だと、誉れだと言われた。言われてきた。

 笑ってしまう。

 だって、隣にいる少女の方が。

 戦闘センスも──その胆力も。

 

「大丈夫だよ、アレキ」

「……チャル」

「なんてったって、アレキは私が守ってあげるからね!」

「調子乗り過ぎよ。そんなだと、またフリ……また何もない所で転ぶでしょ」

「えぇ、まだそれ覚えてるの!? 最初だけじゃん、あれ!」

「だって印象的だったもの」

 

 どうしてか、彼の名を出すのが憚られた。

 チャル・ランパーロ。突然機奇械怪と戦い得る武器を渡され、それを使いこなし、学力も身体能力も低位と言わざるを得ない状態から一気に己の傍まで駆け上がって来た少女。

 そして彼女の友人の、フリス・クリッスリルグ。

 

 天才だと言われてきた。

 ……けれど、そんなことはないと理解した。ただ今まで、周囲にいなかっただけだ。

 本物が。

 

「言っておくけど、本気だからね」

「何が?」

「だから、私がアレキを守るって話!」

「……無理よ」

「無理じゃない!」

「無理。だって私がチャルを守るもの」

 

 キューピッドに埋め込まれた"種"。アリア・クリッスリルグに浸された"毒"。メーデーを覆い隠す"弱味"。

 ──全部、私が。

 

「じゃあお互い守れば、最強?」

「そんな簡単な話じゃないと思うけれど」

「でもフリスが言ってたよ。硬すぎる防御は何よりもの攻撃になるかもね? って」

「かも、じゃない」

 

 彼女の口から彼の名が出ると、ズキりと心が痛む。

 出さないで欲しい、なんて傲慢な願いが脳裏をよぎる。

 

 フリス(こいがたき)

 否定しない。私は、アレキは、チャル・ランパーロに恋をしている。それがたとえ、罪悪感や使命感から来るものでも──否定はしない。

 

「ね、チャル」

「なに?」

「フリス君のどこが好きなの?」

「──え?」

 

 だから、ちょっと。

 踏み込んでみることにした。

 

 

 

「え、え……え? い、いや、好きとかそういうわけじゃ……」

「嘘。絶対好きでしょ。フリスの前だと、チャルはなんていうか……乙女になるし」

「ちょ、ちょっともう、からかわないでよー!」

 

 上気し、紅潮した頬も。

 激しく動く瞳も。

 あわあわと震える唇も、バタバタと動く手足も。

 

 自覚したら、否定しなくなったら。

 ああ──全てが愛おしく見える。

 

「フリス君とは、いつからの付き合いなの?」

「う……普通に、学校入ってからだよ」

「そうなのね。なんだか長年の付き合い、って感じがしたから」

「……フリスはね、最初は……どこか不思議な雰囲気で、近寄り難かったんだ」

「今も、じゃない?」

「今は柔らかくなった方だよ。……エンジェルの時に死んじゃった、ユウゴとリンリー。あの二人とは前から付き合いがあってね。それで、三人で突撃したの。窓の外を見るとか、読書をするとか、勉強をするとかでもなく……ただクラスの様子をにこにこ見てるだけだったフリスに、どーん! って」

「それは……フリス君、びっくりしたでしょうね」

「ううん。フリスは『やぁ、どうしたんだい、ユウゴ、リンリー、チャル』って。まるで昔からの友達かのように、さっきまで話をしてたんじゃないかってこっちが錯覚するくらい普通に返してきたよ」

 

 怖くないかしら、それは。

 という言葉は飲み込む。

 

「話してみたら……フリスは普通の男の子だった。不思議な雰囲気なんかない、ちょっと頭が良くて、ちょっと周りが良く見えてる子。優しくて……でも、どこか一歩引いたような、そんな男の子」

「……そう」

「さっきアレキ、今も、って言ったよね。不思議な雰囲気は今もだ、って。違うの。本当に私達といた時は、その雰囲気は消えてたの。……戻って来たのは、エンジェルが現れたあの時」

 

 フリス・クリッスリルグ。

 その名の通り、クリッスリルグ夫妻の子。

 クリッスリルグ夫妻といえば、その見た目にそぐわぬ怪力無双のアリアと、正確無比な攻撃と流麗な槍捌きのケニッヒという、強さの象徴に名高いコンビとして有名だ。最強には届かずとも、二人をして弱いと言える奇械士はいないだろう程に。

 その子供が、フリス。

 けれど彼は奇械士になる気はないと言った。

 

 死が隣にいた頃に戻る気はないと。

 

「……戻してしまったのね」

「うん。多分、そうだと思う」

 

 エンジェルが学校に現れるまで、フリスがただの学生になれていたというのなら。

 彼が地上にいた頃の、あるいは全てを諦観し、達観したかのようなあの雰囲気を強制的に起こしてしまったのは、やはり己のせいなのだろう。

 あの時、エンジェルが出現する事に気付けていれば。最も近くにいたのだから、もっと早く駆け付けていれば。

 

 あるいは二人は、平和な世界のまま──。

 

「私の、フリスの好きな所はね」

 

 ──揶揄いつつも、どこか違ってくれ、と願っていたことが、唐突に肯定される。

 ああ、やっぱり。

 チャルは、フリスが。

 

「……お父さんみたいな所」

「お……父さん?」

「うん。……人に話すの初めてだから、なんか恥ずかしいな」

 

 それは。

 少しばかり、想定していた答えと違った。

 お父さん。それなら、それは……果たして本当に、恋愛感情なのか。

 

「私ね、お父さんいないんだ」

「……それは、薄々気付いてた。チャルの話には、その……お母さんのことしか出てこないから」

「あ、バレてたんだ。うん、そう。私にはお父さんがいない。死んじゃったんだって。私が生まれる前に、機奇械怪にやられちゃって……遺体も残ってなくて」

 

 そういう人間は、ホワイトダナップには多く存在する。

 チャルもその内の一人だったか。

 

「だから、お父さんってわかんなくて。ちょっと憧れてたんだと思う。……それで、フリスに出会って。この子はすっごく落ち着いてて、私達を……なんだろ、本当のお父さんみたいに見守ってくれてて。その知識量もだけど、なんだか本当に年上で、包み込んでくれてるみたいな、うーんと、平等に見てくれてる、みたいな……」

「包容力がある、ってこと?」

「あ、それ!」

 

 もし。

 もし、この子の抱く、フリスへの感情が……親愛に近いものならば。

 

 まだチャンスはある。

 

「そんな感じ。フリスはね、不思議な雰囲気が出るようにはなっちゃったけど……でも、ずっとずっと変わらないから、安心できるの。フリスと話すと、あぁ、帰って来たなぁ、って思うっていうか……」

「なにそれ。まるで熟年夫婦ね」

「ふ、夫婦!? けけけけ、結婚とかはま、ままだ早いかな、って……」

 

 墓穴を掘ったな、と思った。

 自分の言葉が自分にダメージ。

 

「……必ず調査、成功させましょう。それで……ソレも取って、フリス君とチャルと、私と。それから、みんなの心の傷が晴れたら……本当の意味で、学校も再開して」

「うん。日常を取り戻す、ってやつだよね! 頑張るぞー!」

 

 残り一齧りとなったアイスキャンディ。

 それが、溶けて。

 

 ポトりと落ち──。

 

ふぇーふ(セーフ)!」

「……流石に行儀が悪すぎ」

「あたっ」

 

 る前に、チャルが口で受け止めた。

 

 可愛い。

 じゃなくて。

 

「そろそろ協会に戻りましょう。最終確認をして、今日は夜更かししないでちゃんと寝ること。寝坊したら置いていくから」

「しないよ~!」

 

 たとえ、命を賭してでも。

 この子を日常に返す。それだけは、心に誓って。

 

 

 

+ * +

 

 

 

「完成だ……」

「おー。凄いですね。そっくり!」

「子供サイズの動力炉を探すのに苦心した事以外は大体順調だったね」

 

 目の前には、赤茶けたコートを来た、鳥の仮面の子供と、その背後に同じ格好の女性の姿をした機奇械怪がある。まだ動力源が無いから動かないけど、これはキューピッドとしてダムシュに放つつもりだ。

 分類は、融合オーダー種キューピッドかな。キューピッドの使う転移機能は、実はアモルの……融合サイキック種アモルの機能だった、という設定で。

 この機奇械怪は僕らの声を通せるスピーカーを付けている他、ある程度は行動を操り得るようにしてある。そうじゃないと百余計なこと言うし。

 ダムシュが今どうなっているかはわからないけれど、TOWERとキューピッドで良い感じに奇械士を襲って、あとの流れはキューピッドに任せるつもり。奇械士を殺すか、殺されるか。はたまた毒電波を飛ばすTOWERを先にやるかもしれない。

 なんでもいい。どうなっても悪くはない。あぁ、アモルはキューピッドの補佐だから、あんまり戦わせる予定はないよ。

 

 最終的にどうなろうと、シールドフィールドから出ようとしたら、どーん! だ。

 外界への、全体への入力になりかねない機奇械怪を箱庭から出すつもりはない。働き次第で如何を考える、なんて言葉を捨てて来たけど、その可能性は1%にも満たないと言えるだろう。

 

「……それじゃあそろそろ行こうか、フレシシ」

「はい。あ、お弁当作ったんですけど要りますか?」

「うーん。……貰っておこうかな」

 

 軽口を叩きながら。

 つい先ほど見送った両親たちを追って、というか先んじて、僕らもダムシュへ転移する。ダムシュに張ったシールドフィールドは機奇械怪の転移は防げるけど、僕らのものを防げるほどの性能じゃないからね。

 

 さて、どうなったかな──と。

 

 

 

「おー」

「うーん。予想は超えられなかったみたいですね」

「まぁ、最良を掴み取ったとはいえるんじゃないかな、野良の機奇械怪にしては」

 

 TOWERは健在。

 機奇械怪は前より増えている。そして。

 

「生かさず殺さずを学習したのは、それなりに評価が高いよ」

 

 ──TOWERの頂点。

 そこに並べられた、身体の一部の無い人間達。

 箱庭において、この閉鎖空間において。

 機奇械怪達は互いに争い合うのではなく、分け合うことを選んだのだ。そして最も力のあるTOWERに動力源を預け、少しずつ、少しずつ。

 死なない程度に、奪って行く。

 TOWERが使い切ることは許さない。それをするのなら、機奇械怪は連携してでもTOWERを壊すだろう。TOWERもまた、己の耐久性能を理解している。

 うん。

 うんうん。

 フレシシの言っていた機奇械怪の"個"。

 

 確かにあるらしい。

 生き延びたいという本能が。

 

「人間は全滅かな?」

「あそこにいるもの以外は、生体反応はありませんね」

「それは残念だ。土壇場で覚醒して、みたいな事を期待していたのに」

「フリス、そういうのは物語の中だけですよ」

「前はいたんだけどなぁ」

 

 人間側はその全てが捕らえられ、ああして人間の原木になっている。

 まぁ価値のない存在だ。死んでくれてもいいし、動力源になってくれても、あるいは何かの偶然で助かってもどうでもいい。

 

「ま、これで当初の目的……キューピッドが過去にいたかどうか、はわからなくすることができたね」

「あの状態じゃ、助け出されても言葉は発せないでしょうからね」

「それに、嬉しい事に……食料供給は足りていないと見た」

「あの人数だけじゃ、ダムシュ全体の機奇械怪の動力源にはなり得ませんよ」

「うん。だから今もどこかで起きているんだろう。機奇械怪同士の生存競争が。──そこに奇械士が十人も入ってくるんだ。ね、一般機奇械怪。それは、どう見える?」

 

 聞かれたフレシシは、にっこりと笑って。

 

「勿論、ご馳走です」

 

 そう、言い放つ。

 

 ──さて、チャル。

 そういう感じだよ。君への強化はいくらかした。オールドフェイスにモード・エタルド。

 けれど、それさえも覆い隠す……覆い尽くしてしまう程の飢えた獣たちが、君を待っている。

 

 どうか、願わくは。

 

 君の無傷の生還を──心より。

 




TIPS
奇械士(メクステック) / Mextech
 
 機奇械怪に対抗し得る知識と身体能力を持つ人間側の戦士。武装は様々で、純粋な武具から機奇械怪から奪った機械など様々。給料はかなり良い。
 基本ツーマンセルで育てられるため、男女のペアはそのまま結婚することも少なくはない。
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