終末世界でガチ上位者が一般人やってる話 作:MORGANSLEEP / 統括導光
雑念。
刀を振る腕がぶれる。まっすぐ振り下ろす事に苦労するなど、何年ぶりだろうか。
ようやく全ての戦いが終わった。
キューピッドを名乗る機奇械怪……フレメアの亡霊との生存競争。一体どれほどの犠牲が出たのか計り知れないこの戦いは、「災厄」と「黒幕」が倒れることで終止符を打った。
──多分、それが原因だったのだろう。
なんせ「災厄」の正体は、星の意思なるものに操られたチャルの父親だったのだから。それにとどめをさしたのも、また。
彼女の心労は想像もつかないし、その心の傷はすぐにでも癒せるものではない。
だから、なのだろう。
彼女があの思い出の丘で死んだように気絶していたのは。
ようやく起きた彼女の記憶が……どこか曖昧になっていたのは。
そのせいなのだろうと、振り払うためにもう一度刀を振るう。
──"夢妄の涯て、苦壊を斬り裂く境界の刀"
「テルミヌス……」
今、己が振るっている刀の銘だ。
今は亡き皇都フレメアを探索している時に見つけたものであり、そこからずっと相棒として共に在ったモノ。サイキック種の念動力……力場を切り裂くことのできる力を持っているため、サイキック種やオーダー種にはめっぽう強く出る事の出来る武器。
そして、もう一つ。
「魂を、乗せる……」
少しばかり、何かが吸われる感覚。
瞬間、テルミヌスが世界から浮く。異彩を放つ。今の今までこの星のものだったテルミヌスが、違う世界のものになった──そんな感覚に囚われる。
この五年間で獲得した、手に入れた、ものにした。それがこの技術だ。
それもすべて、「災厄」を斬るための。そして「黒幕」を滅するための。
振る。降ろす。
ブレていた斬線が直線となり、その斬撃は大気を割る。
──雑念。
「……はぁ」
雑念だ。
チャルの様子が気になる。剣になど集中できるはずもない。
三日、会っていない。
この五年間、それぞれの修行のために遠く離れる事は多々あったけれど、その時でもずっと心は繋がっていた。遠征帰りには互いに抱き締め合って再会を祝い、時には互いの家に泊って土産話で夜を明かすこともあった。
それが……戦いが終わってからの三日。
たった三日会っていないだけで、寂しくて寂しくて……苦しくてたまらない。
それは、でも、当たり前だろう。
ようやく終わったのだから、喜びを分かち合いたいと思うのは普通なはずだ。それができなかったのだから、燻るのもおかしくはない。
けど、やっぱり。
やっぱりそれだけではないのだ。
「好きな人、か」
当然、自分だと思っていた。
というか、お互いに何度も好きかどうか確認したし、キスをすることだって少なくなかった。常識の範囲内でスキンシップをすることもあった。
自他ともに、公然に。
チャルとは付き合っていた──はずだった。
だからこそフラストレーションが溜まる。
「フリス」
……口に出すだけで、自分のものとは思えないほどの憎悪が湧いてくる。
まるで昔からイライラさせられてきた相手であるかのように、にっくき仇敵であるかのように。
憎い相手。では、ある。そう。
恋敵だ。それも突然現れた、チャル以外誰もその存在を知らないダレカ。姓はクリッスリルグだというけれど、当然クリッスリルグ夫妻に覚えはなかったし、もう一つの姓であるというカンビアッソにも誰も反応しなかった。
誰も知らない、チャルの……好きな人。
剣筋がぶれる。
……雑念だ。振り払えない雑念。
「誰……本当に」
「あ、いた」
「……ああ、アスカルティン。どうしたの?」
一瞬で消す。纏っていた、殺意をも思わせるだろう気配を。
こんなもの、仲間に向けるものではないから。
「チャルさん知りません?」
「……ごめんなさい、もう三日は会っていなくて」
「あ、そうですか」
「どうかしたの?」
「ん-、確定情報が無い状態で言うのはちょっとアレなんですけど」
言い渋るアスカルティン。
これは、確実に何かあった。ので詰め寄る。戦闘時じゃないアスカルティンは真面目なので、口止めされている事などを零そうとしない。たとえ身内相手であっても、だ。なんでも過去少しばかりの失敗をしたから、らしいのだけど。
けど、こうやって逃がさないよう詰め寄って、揺さぶれば。
「どうか、したの?」
「あー。いや、その……チャルさんが行方不明でして」
「行方不明?」
「今日銃器を扱う奇械士の定例会があるんですけど、無断欠席で……家に連絡したら朝方出掛けたっきり帰ってきていない、周辺住民……といっても極少数ですが、その方々に聞き込みを行ったら、なんでも西部区画の公園で見かけたとかんとか。そこまで行って、今度は私の鼻で追いかけたら、南部区画に行っている……みたいなんですけど、途中で途切れてて」
そこで、一旦捜索をストップして、もう一度聞き込み……他の奇械士にチャルの行方を聞いて回っている、らしい。
一人の作業量じゃない。普通に偉い。
それはまぁ、アスカルティンが非常に高い移動性能や捜索性能を持っていればこそ、だけど。
「南部区画……兵器群か」
「はい。でも誘拐とかありえないと思うので、誰か何か知ってないかな、と」
「そうね。チャルに限って誘拐は……誘拐犯の方がどうにかなると思う」
「ですよね」
もう、私達は奇械士協会における最強の名をほしいままにしている。
それに手を出す存在があるとするならば。
する、ならば。
「……フリス」
「フリス? あ、なんでしたっけ。気絶後のチャルさんがずっとうわ言みたいに呟いてるって名前」
「好きな人、らしい」
「え゛。……あの、勘違いでなければ、お二人は付き合っていませんでしたっけ?」
「そのつもり……だったのだけどね。チャルは、違ったらしいから」
少しばかり言葉に棘が出てしまうのは仕方がない事だと思う。
浮気どころの話じゃないのだ。あんなに堂々と他者の名を口にして、それを好きな人だと言って……私へ向けていた愛情を完全に断ってしまっているチャルに、など。
無論友達としての親愛は感じるけれど、やっぱり明らかに違う。
「で、その人がどうか……って、もしかして?」
「ええ。私達が彼女から目を離した一瞬のうちに、そのフリスなる人物が彼女に何かをしたとか考えて……洗脳なりなんなりで。そうした時、もしチャルがフリスと再会していたのなら、そのままついて行ってもおかしくはない。だって彼女はソイツと付き合っている、ことになっているのだから」
「うわぁ……って、そう考えると南部区画はうってつけ過ぎますね。あそこはルイナードと繋がってますし。言っちゃなんですけど、そういう洗脳系のおクスリとかは……ありそう」
そうだ。
いつか、兄に連れていかれたルイナード。そこで私はアブナイ飴玉を貰いかけた。
ああいうのが溢れている場所だ。そうやってチャルも……と考えると。
ふつふつ、怒りに似たものが湧いてくる。
「ええ。……アスカルティン」
「あ、はい。勿論お供しますよ。私、最終決戦行けなかったんで」
そう、最強と謳われた私達は、けれど四人揃っての最強、という意味合いが強い。
私、チャル、アスカルティン、そしてスファニア。この四人が最強──だったのだけど、アスカルティンは「災厄」と戦いのあと……つまり「黒幕」との決戦時に動力炉の不調を起こし、代わりにモモが入る事となった。
アスカルティンはそれに対して負い目を覚えているらしいのだ。
……誰も欠けずに勝ちで収めたのだから、気にしなくてもいいと思うのだけど。
「とりあえず匂いの途切れたとこまで案内します。そこからルイナードを調査するか、それとも別に行くかはお任せしますので」
「ええ、お願い」
待っていて、チャル。
必ず連れ戻して──もう一度言わせるから。
──"ずっと前から好きでした"
って。
ゴウンゴウンという音を鳴らし、設備が稼働を始める。
時折噴き出る蒸気と沸き立つ気泡。球体の水槽の中に満ちた黄緑色の液体が、ただそれだけで仄かに光っている。
何から何まで、フリスと調査に来た時と同じ。
なればこのミケル・レンデバランはあの教団の関係者、だろうか。だとしたら、普通に犯罪者だけど。
「時に、チャル・ランパーロ」
「はい?」
「先程は神についての問答をしたが──次は、神の肉体、あるいは素体についての話をしよう」
「肉体……ですか?」
「器、と言った方がわかりやすいかね」
いえ、そもそも「神」っていう存在があんまり馴染みないのでわかりやすさとかないですけど。
という言葉は飲み込む。
「神……フレイメアリスは、アイメリア・フリスという者を否定するために生まれた存在。誰が産み落としたのか、は一度置いておく。今話したいのは、何故すぐに接触してこなかったのか──何故すぐにアイメリア・フリスを否定しにかからなかったのか、という所だ」
「はあ」
「私はこれを、出来なかったのだと考えている。というかそう聞かされている」
「誰に、ですか?」
「神に、だ。私は生まれる前……母の胎からこの世に生まれ出でる前に、神の声を聞いている。ふむ、そのトチ狂った者を見る目は慣れっこだが、まぁ聞きたまえ。私は言われたのだ。胎児の頃、『
一歩下がる。
いやもう一歩下がる。
「ああ、そういう反応ももう慣れている。だが事実だ。神フレイメアリスは太古から存在していたが、肉体を持っていなかった。君が調べた痕跡は、文字通り奇跡……アイメリア・フリスが言及したことによって一時的に肉体を得た結果であるのだろう。正確に言えば、言及したから
「フリスが……そうだった、としたから、過去が変わった?」
「まさに神の領域だろう? 私達人間では最早理解も出来ん領域だ。だが、それでも彼の神は、自らの肉体を用意することができなかった。アイメリア・フリスが『フレイメアリスには肉体が無い』とでも発言していればそれも違ったのやもしれないが、そういうことをしなかったのだろう」
だから、フレイメアリスは他者を頼るしかなかった。
ミケルさんはそう続ける。
少々どころではなく荒唐無稽だし、この科学の時代には考えられないほどファンタジーでオカルトな話だけど……私も散々経験してきているし。
「そこで、だ。私は器を作ろうと躍起になった。まぁ君の想い人がそのアイメリア・フリスな時点で私は敵の体を作る協力者、のような立場になってしまっているが、仕方のないことだと思ってくれ。だって神だぞ。赤子の私も子供の私も、学生の私もそこからの私も、ずっとずっと神の器作りに専念した。妄言だと妄想だと罵倒されても作り続けて……そして少しずつ、神の器に辿り着き始めたのだ」
「ミケルさん、疲れてるんですよ……って言いたくなりますけど、実際に見て来たので何にも云えない……」
「はは、だろう? 散々妄想だと叩かれたが、やはり本当にいたのだ、神は。ああいや、今はそれはどうでもいい。とかく、神の器だ。話を戻すぞ、チャル・ランパーロ」
脱線に脱線を重ねた話が戻って来る。
何かの作業をしながら、ミケルさんは真剣な目で問う。
「神の器。君は、これがどういうものであると考える?」
「……"英雄"」
「ク……ハハ、いきなり階段を飛ばすのはやめたまえ。初めは『幽霊とか……』とか、『強い機奇械怪ですか?』とか、見当違いとは行かないまでも全然当たっていないところにいくものだぞ」
「ううん、もっと……だから、"強い機奇械怪を宿した英雄たる人間"……になるのかな」
「うむ、生徒に向いていないな君は」
いやだって。
私は答えの半分を知っているから。
お父さん、という実例を見てしまっているから。
「まぁ、スピーディーに話を進めるのもいいだろう。そう、神は器を欲していたが、何でもよかったわけじゃない。ただの人間ではダメだった。機奇械怪と融合したただの人間でもダメだった。機奇械怪だけでもダメだった。強い人間……英雄でも、強い機奇械怪でも、神は宿らなかった」
「幽霊も試したんですか?」
「クク、幽霊は物のたとえだ、チャル・ランパーロ。私が実際に試したのは『精霊』……この呼び名も作った後から知ったものだがね」
「『精霊』……」
また、ファンタジー。
というかファンタジー過ぎる。
「そして唯一の成功例が」
「──お父さん。エスト・マグヌノプス……ですよね」
「……ああ、そうだ。なんだ、気付いていたのかね?」
「気付いたのは本当にさっきですけど」
ミケルさんは言っていた。
自分は協力者だと。そしてミケルさんの今までの話と、お父さんのことを考えるに……それが一番噛み合う。ミケルさんがまだ失敗を続けている、とかならわからなかったけれど、彼は「研究が一つの終わりを迎えた」と言っていたから、成功したのだということもわかっていた。
神を降ろす実験。
その被験者。
「ああ、怒らないでほしい。私はあくまで協力者……つまり望まれて、」
「大丈夫です。お父さんは助けて、とは言いませんでしたから」
「そうか。……だが、一応謝罪は入れさせてくれたまえ。私は単なる協力者でありながら……一応、本当に一応、欠片程度はエストと友人であったと思っている。しかし、私は私の目的とエストの目的のために、彼を見殺しにした」
ミケルさんはやるせない表情で首を振る。
「私は……このように、人間の死を悼めるような性格ではないし、そのような立場でもないのだがね。陳腐な表現になるがあの英雄に心を打たれたというべきだろう。そして……今こうして動いていることが、その弔いのためでもある」
「あはは、大丈夫ですよ、ミケルさん。お父さんは後悔無く逝きました。それは──お父さんを殺した私が、保証します」
「なら……良いのだが」
本当に慣れていないのだろう。
自身が友を悼んでいる事そのものに困惑している様子で、ミケルさんは頷く。
「──さて。また話を戻すぞ」
「はい。空の神フレイメアリスの器。つまり、最適だったお父さんが死んでしまったから、フレイメアリスは新たな器を探している、ってことですよね?」
「クク──話の理解が早過ぎるぞチャル・ランパーロ。少しは説明させたまえ」
「ごめんなさい。でも、私は早くフリスに会いたいので」
「ク、愛ゆえ、か」
「はい」
断言する。
恥ずかしがることじゃない。ようやく両想いになれたんだから、隠さずに生きていくつもりだ。
──だけど、だからこそ。
「一つ目」
「ッ!?」
声が聞こえた時には遅かった。
私の隣を駆け抜けた一陣の風。それは私の眼前にいたミケルさんに辿り着き、その首を──。
「──ク、馬鹿め、騙されたな! それは人形だ!」
「チャルさん! 助けに来ました!」
「チャル・ランパーロ! その水槽だけは絶対に守り通したまえ! アイメリア・フリスとフレイメアリスを共に引き摺りだすための大切な装置だ!」
両側の声。
私は、腰のホルスターに入っている普通の双銃を抜く。
ユウゴとリンリーじゃない、オルクスじゃない……ただの銃だ。
「二つ、──!?」
それを、二発。
今まさに、水槽へと繋がるパイプを斬ろうとしていたアレキと、目の色を変えて暴れ出そうとしていたアスカルティンさんの足元に撃つ。
……なんで来ちゃうかなぁ。
「チャル……なんで」
「私はフリスに会いたい」
「今の声の人はフリスさんじゃないんですか?」
「違うよ。彼はミケルさん。フリスは今、こことは違う所にいて、危険な目に遭っているから……助け出すの」
ただの銃でも、構わない。
というかオルクスの特別さはピーキーすぎて、身内相手に使うものじゃない。だから普通でいい。
しいて言えばテルラブがほしかったけど。
動こうとした二人の眼前に、もう一度弾丸を放つ。
「それ以上これに近づかないで、二人とも。──近づくなら、撃つよ」
「アレキさん、これ……」
「ええ。完全に洗脳されてる」
──何かすっごい勘違いをされている。
あー。これは凄く大変かもしれない。アレキとアスカルティンさん。そんなの、どっちも思い込みの激しさNo.1コンビだ。トリオだとスファニアさんも入る。
何を言っても、どんな説明をしても聞いてくれなそう。
「思い出して、チャル。私と愛し合った日々を!」
「無いよ、そんなの!」
「思い出してくださいチャルさん! 私達に報告書を押し付けて、二人でアクルマキアンの大衆浴場へデートしに行った時の事!」
「だからそんなの──は、一回あったけど、別に付き合ってたとかじゃないから!」
ただでさえ身体能力特化の二人を相手で、しかも守る戦い。
二人が遠距離攻撃を得意としていないのは不幸中の幸いだけど、果たしてこの双銃でどこまで守り切れるか。
ミケルさん、早くしてください。
「──峰打ちで眠らせる」
「え゛、アレキさん峰打ちとかできましたっけ」
「ぶっつけ本番!」
踏み込み。見えない。いつもなら見えているアレキの踏み込みが見えない。
見えないけど──彼女が踏み込んだ後の最終位置はわかる!
「!?」
発砲、ではなく前蹴り。
二人に比べたら貧弱な蹴りであることは認めるけれど、私だってこの五年間身体を鍛えたんだ。
それが的確に喉を捉えるような蹴りであれば、流石のアレキも防御せざるを得ないだろう。
次、背後に二発。
隙をついて近づこうとしていたアスカルティンさんに牽制。
……悪手だった。
彼女の雰囲気が変わる。変わったのを肌で感じる。
「アハ」
人間らしい動き、人間の常識内の動きから、機奇械怪らしい動きに変わるアスカルティンさん。
それを、今度は牽制でなくしっかり撃つ。そうじゃないと読まれてしまう事を知っている。
「こっちを忘れていない?」
「忘れてないよ、アレキ」
刀の峰による殴打をしようとしてきたアレキへの防御。トリガーガードに指を引っかけて、くるくる回しながら打撃を銃身で受け止める。ただしアレキの力には対抗しきれないので、そのまま肩を落として姿勢を低くして、彼女に寄りかかるようにローリング。
場所を入れ替わるような形になりながら、ワンチャンス、彼女の刀を蹴り落とせないか頑張って……無理だと判断。撤退。
この攻防の隙にまたアスカルティンさんが水槽を壊そうとしているので射撃。
うん。
「──無理です! ミケルさん!」
『ク、流石に無理か! よかろうチャル・ランパーロ! 増援だ! 敵ではないから安心したまえ!』
ガシャンガションゴション。
何やら古めかしい音を立てて、周囲の壁から機奇械怪が沢山出てくる。
覚えのあり過ぎる光景。やっぱりミケルさんはあの時の。
『クク、クククハハハ! 何故か沢山作ってあった機奇械怪! どこぞから依頼でも入ったのだろうが、覚えが一切ないと来た──ならばここで使い切るのもアリだろう! 在庫処分セールという奴だ!!』
あの穏やかなミケルさんはどこへ行ったのだろう。
もう完全に悪役だ。
「──チャル、あなた機奇械怪と……ううん、まさか教団と!?」
「わ。……アハ、凄い! 思い出した! 久しぶりだね──うん。私が私とくっついた理由の人!」
ぞろぞろ出てくる機奇械怪は、けれどミケルさんの言う通り私を狙わない。
基本種、特異種から融合種まで各種様々な機奇械怪。それが水槽を守るようにして布陣を固め──まるで指示を待つかのように、そのカメラで私を見る。
というか、本当に待ってる。
「え……えーと、じゃあ、殺したりケガさせたりするのは無しで、あ、勿論食べるのもダメ。で──なんとしてでも、二人を水槽に近づけないで!」
──咆哮が上がる。爆音、轟音だ。
地下だから余計に響き渡るそれは、ビリビリと大気を揺らす。
まるで機奇械怪の指導者にでもなったような気分だった。
「チャル……そこまで深い洗脳を」
「きっとビヤクを使われて、あんなことやこんなことをされたんだよ!」
「あ、あんなことや、こんなことを!?」
「そうそう! だって私がされたもん! それで、最後はハダカにされて、あの水槽に入れられて……なんかぐちゃぐちゃしたのに漬け込まれてね?」
『何やら沢山の誤解が発生している気がする──が! 概ね合っているので否定はしない! 因むと私はそういう展開は好きだと言っておこう──今とは関係のない話だがね!』
ミケルさんのいる方向に一発撃っておく。
気のせいでなければ「ぬぉ」みたいな短い悲鳴が聞こえたような気がするけれど、気のせいだと思うから気にしなくていいだろう。
──さて、大所帯になったけれど。
「フリスを引き摺りだすまで、邪魔はさせないから!」
だから早く帰って来てよ、フリス。
でないと、無理矢理引っ張り出すからね。
いや。
いやぁ。
「困ったね」
「
「認めるわけがないだろう? ただ、攻めあぐねているのも事実だな、と」
思っていた数倍の時間が経ってしまっている。
僕はフレイメアリスに触れられない。近づくのも少し不味い。だから機奇械怪やらNOMANSやら、何なら前時代の遺物を再現して攻撃するしかない。
フレイメアリスは僕に触れたらいい。それで大体勝ちだ。ただしスペックが足りないのだろう、今の所僕に追い縋れていない。加え、遠距離攻撃は僕の真似をするしかない。
千日手という奴だ。
ただし、少しだけフレイメアリスが有利。何故って僕を一撃死させられる可能性があるからね。
「君こそ諦めたらどうだい? 無理だよ、今の君じゃ。僕には追いつけない」
「
互いに退く気なし、か。
仕方がない。
まだ住み着く予定の星に対してやることじゃないけど、もう少し出すか。
なんでもないことかのように、手のひらに光る玉を発生させる。
「よいしょ……っと。あはは、これ何かわかるかい?」
「
「うん、正解。じゃあ」
ぽい、っと投げる。
それは放物線を描いてフレイメアリスへ向かい。
極大の爆発を引き起こした。
「……可能性として、地軸に影響を及ぼすかもしれないから、あんまりここでは使いたくなかったんだけど……平気みたいだね。流石メガリア、大きい星だ」
困ったとは言ったけどね、手詰まりじゃないんだよ。
あはは、黒幕ムーブをするんだ、誰もが絶望するような、もっと強大な力だって持っているとも。でも自分の攻撃で自分の好いている星や構造物壊すとか馬鹿らしいだろ?
正直ヘイズにも同じことを思っているんだけどね。もう少しやりようなかったのかな、って。
「
「それは今更過ぎるな。しっかし君も中々死なないね。もしかして僕が死ななければ死ななかったりするのかい?」
「
「あ、そこは普通に答えてくれるんだ」
正直もっと簡単に倒せると思っていたから……ちょっとイライラしている。
何で僕がこんな少年漫画的展開に巻き込まれなくちゃならないんだ。僕が見たいのは青春ラブコメアクションストーリーだって何度言ったらわかるのか。
あーあ、今頃外ではチャルとアレキが奔走しているんだろうな。チャルが僕を探し回って、そのチャルをアレキが追っかけまわして。
アレキ的には僕がいない今のタイミングは大チャンスだ。全ての戦いが終わった後なんだから、こう、昔を振り返りながらのしんみりした空気で、再度告白……とかやりたい頃合いだろう。心ここにあらずなチャルの肩を掴んで、無理矢理振り向かせて無理矢理キスとか、そういう展開に持っていきたいんだろう。わかる、わかるよ。今アレキの行動が手に取るようにわかる。
反対にチャルはアレキの事を気にかけていられない状況だ。だって僕が全然帰ってこないんだから。「ちょっと待ってて」どころではない時間が過ぎている。いや本当にごめんねという気持ちはあるよ。でもだってフレイメアリスがしつこいんだもん。
チャルにとってアレキはやっぱり友達で、付き合うとかの段階にはなくて……だからアレキからのチャルへの気持ちはしっとりとした重いものなのに、チャルがあっけらかんとしているから、そこで差圧のすれ違いが起きて……。
うわー、もしかして僕今それ見逃そうとしてる?
おいおいおいおい、五年、いやそれ以上だ。
今一番いい所じゃん!!
なんで僕こんな変なのと戦ってるんだよ!!
「イライラしてきたな、本気で」
「
「もう、いいか。メガリア。君を気遣って使っていなかった力を使うよ。君が悪いんだからね。君がこんな面倒な神を遣わしたから、こうなったんだ。僕のせいにしないでくれよ?」
「
どうせチャル達と60年くらい過ごして、彼女らが死んだら……そこでこの時代は一旦ストップだ。リセットして、次の時代になる。
その時にまぁメガリアの環境が一変していたって誰も気付かないさ。人間が住めたらそれでいいんだよ、地球環境に似せる必要なんてない。
よーし言い訳完了!
そうだよ、僕があれこれ考えてても、どうせ上手くいかないんだ。
無計画に行こう。それが一番だ。
「それじゃあ、フレイメアリス。この世に手を振る覚悟は常にしておいてね」
「
辛うじて保っていたヒトガタから、どろりと透明なものが出てくる。
それが、じゅるりと伸びて、フレイメアリスの中心に突き刺さった。
それは──フレイメアリスの機能によって分解されていくけれど、すぐに修復される。
修復の際に集まってきているのは、周囲のキラキラ。
「
「正解だ。だってこれだけ溢れているんだ、使わない手はないだろう? 今までは変換するにとどめていたけどね──そっちがそのつもりなら、もうガンガン使わせてもらうよ」
メガリアが稼働するためのエネルギー。
それを僕個人のために使う。あるいはいずれ、この惑星のどこかに支障が出てくるのだろうけど……。
知らない知らなーい。
「このまま君を吸い尽くしてしまおう。好きなだけ否定するといい。僕は君をも肯定してあげるからね」
あはは、なんて笑って。
食い合いが、始まった。