終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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VERY VERY SHORT……


水を差すのは悪いことだと覚えた系一般人

 古井戸曰く、このパイプロン・ポイントに辿り着くまでの記憶は曖昧だそうで。氷塊を蹴って海を渡って来ただとか、飲まず食わずで砂漠を越えてきただとか、機奇械怪と戦ってたら大陸を四つ越えていただとか。

 まぁまぁ信憑性のない武勇伝……彼自身はそう思っているわけではないのだろうけど、そうとしか聞こえない昔話にすこしばかり辟易としてしまう。

 "英雄"ならやりかねないのが難しいポイント。

 常識的に考えられない、お伽噺のような、誰もが思い付かなかったことをやるのが"英雄"だ。

 

 ふむ。

 そういえばヘイズが"英雄"の発生原理について何かいっていたような。

 

 確か──。

 

「古井戸」

「ん?」

「君は、親しい人とか、過去にいたかい? あぁ、ピオ以外でね」

「引き合いに出される理由がわかりません」

「わからないなら考えてて。で、どうかな」

「親しい……っつーと、関り合いになった奴ってことだぁよな?」

「まぁ、そうなるかな」

「いねぇなあ」

 

 いない、と。

 古井戸は言う。一人もいないのだと。ピオと出会う前の古井戸は、誰とも会うこと無く各地を放浪していたのだと。

 

「人間に会った記憶もないねぇ。上位者も然り」

「それをおかしいとは思わなかったんだ?」

「まぁ……そうだなぁ」

 

 おかしいでしょ、普通に。

 明らかにおかしい。けれど、古井戸自身も嘘を吐いているとかではなく、本当にわかっていない、覚えていない、というように見える。

 ……このアプローチにこれ以上の進展は無さそうだ。

 

「質問を変えよう。古井戸、君は"毒"という言葉をどこで知ったんだい?」

「"毒"? そりゃ、機奇械怪と戦ってる時だよ」

「ピオと出会う前に、言葉を解す機奇械怪と遭遇していたとでも?」

「……いや、そんなけったいなモンに会った覚えはねぇなあ」

「ほとんどの機奇械怪は人間の言葉を使わないよ。使うのは人間上がりの機奇械怪か、人間に歩み寄らんとした機奇械怪、そして僕がそうあるようにと作った機奇械怪だけだ」

 

 だから可能性としては、過去に人間上がりの機奇械怪に遭遇していた、というのはあった。今本人から否定されたけど。

 

「会話ログを遡る限り、古井戸さんは"毒"以外にも"種"や"罅"の存在も知っていました。それは私と出会ってすぐの会話ログ……つまり、私が機奇械怪の詳しい生態を教えていない時期になります」

「だそうだけど、さて古井戸。君はどこでこれらの言葉を知ったのかな」

「んー」

 

 古井戸はポリポリと後頭部を掻いて、そして言い難そうに口を開く。

 しかめっ面で、自分でも疑問に思っているかのように。

 

「言葉にすんのは難しいんだぁがね。識ってたんだよ、昔から。機奇械怪……とりわけその特異な力については、学んだってぇよりかは、……ある程度の知識が備わっていた、植え付けられていた……ってぇ表現になんのかねぇ」

 

 植え付けられていた。

 なるほど、なるほど。

 

 得心が行く。だってその言い方は、まさに"入力"だ。

 経験したことのない記憶や知識。学んだ覚えのない叡智。うろ覚えになることのない、はっきりとしたイメージ。

 上位者が自分たちに行う"入力"──それに他ならない。機奇械怪へのそれとは違う、文字通りの入力だ。

 

 となると。

 

「……僕は君の脳から情報をみることができる。古井戸、僕を信用するかい?」

「あ? なんだよ、そんなことできんならハナからやぁれっての。今までの問答なんだったんだぁってぇね」

「あはは、驚いたな。躊躇無しか。君は僕のこと警戒しているものだと思っていたんだけど」

「敵なら警戒する。だぁが、今のお前さんから害意は感じ取れねえのさ。純粋に俺達の出自を調べる気でいる。何より、あの嬢ちゃんといる時間を割いてまでこっちに来てんだ、害するつもりがあんなぁら不意打ちで潰してるだろうよ」

 

 ……なんというか。

 僕の無計画さや突発的行動を一切無視した信頼に……すこしばかり驚く。

 僕をよく知る者であればあるほど、僕ならやりかねない、と思うのが普通だろうに。

 

 あはは、僕そこまで人間の味方じゃないよ?

 

 でも。

 

「うん。約束する。傷つけることはない。君も、それでいいかな、ピオ」

「何故私に……。……構いません。古井戸さんが決めたことですから」

「わかった」

 

 それじゃあ、と。

 古井戸の頭を掴む。かつてロンラウにした時と同じだ。

 アイメリアの扱う"魂の言語"が空間に溢れていく。

 

 さて──。

 

 

+ * +

 

 

「お前は誰だ」

 

 小部屋。あるいは独房。前面が檻となっているそこ。

 血臭と腐臭、排泄物と死骸が一緒くたにされて部屋の隅に置かれている。

 

「知らねえ」

「お前は誰だ」

「お前こそ誰だ」

「知るかよ、んなもん」

 

 そういう小部屋が、無数にあった。縦に横に、いや上下にも連なる小部屋の集合体。

 そこに彼はいた。

 

 否。

 

「俺が誰か、お前が誰か」

「はン、そんなもん知ってる奴がいんのかい?」

「いるわけねぇだぁろ。なんせ全員──」

 

()()はいた。

 無数に広がる小部屋に一人ずつ……彼がいる。幼くはない。今の姿のままの彼。

 

「同じなんだから」

「違いねぇ」

「ハハッ、新入り。そういうこった、だからその質問は無駄ってもんさぁな」

「誰なんだ……お前は、お前たちは」

 

 ドサりと、彼が倒れる。

 ヒヒヒと笑っていた彼は、けれどぐりんと目を剥いて……尚も笑う。

 

「ヒヒヒ……限界だぁ。次の奴によろしく頼まぁ」

「頼まれてもねぇ。俺だってあとどんくらい保つか」

「まぁそういうなって。手向けくらい、嘘を吐いてくれたっていいじゃぁねえの……ヒヒヒ」

「……あばよ」

 

 倒れたかれは、そうして次第に喋らなくなって……動かなくなった。

 ドッと笑いが起きる。ヒヒ、ハハと嘲るように誰もが笑う。

 唯一、新入りと呼ばれていた彼だけが、戸惑ったように声を荒らげた。

 

「お前ら、おかしいぞ!? 人が死んだってのに……!」

「何言ってやがる。良く見ろよ、そいつを」

「え……あ?」

 

 急速だった。

 動かなくなった彼が、黒ずみになっていく様は。渇いて萎れて、萎びて乾いて。そうして、小部屋に転がる排泄物や死骸と見分けが付かなくなる。

 

 新入りが、恐る恐る自らの手を見た。

 今度はクツクツという笑いが起きる。

 新入りはへなへなと腰を下ろし……その尻に触れた柔らかいものに、全てを悟る。

 

「体力は温存しとけ。寿命はギリギリまで使いきれ。ヒヒヒ、こうやって喋ってることさえ無駄だ。生きたいなら効率を極めなぁよ」

「俺達はもういいからぁな。飽いた飽いた。次のに任せて、俺はとっとと死にてぇもんだ」

「ハハハッ、そういう奴ほど長生きすんだよなぁ」

「違いねぇ」

 

 彼らの目に、生気はない。

 

「お前らは……誰なんだよ……」

「お? まだ言うか。今回の新入りはしつけぇなぁ」

「わかってんだろい、もう」

 

 見る。集中する。

 新入りに目線が集まる。

 

「お前は俺だよ、新入り。だから、なぁ」

 

 目の前の小部屋で、彼が笑う。

 

「お前こそ誰だ」

 

 彼らは──。

 

 

 

 

 やぁ。

 良い夜だね。

 うん。そうだよ。

 これは君がやったんだ。

 この惨劇は、君が一人でやったんだ。

 

「……やっぱり地球……だけど」

 

 臆すことはない。

 君はこれから英雄になる。

 今君が殺した十万人は、罪人だった。

 女子供? 関係ないよ。男だろうが女だろうが、老人だろうが若者だろうが。

 

 全員、感染者(罪人)だ。

 

「……成る程」

 

 そうだよ。これから、半月と経たない内に、彼ら彼女らは化け物になっていた。化け物になって、人類の脅威になっていた。

 それを未然に防いだんだ。それを英雄と呼ばずしてなんと呼ぶ?

 

 君のその力は、人類を救うんだ。

 だからおいで。

 その力の使い方を教えてあげよう。

 

 君、名前は?

 

 ……何故、その手を、私達に向けて──ギャァッ!

 

「傀儡には、ならねぇよ」

 

 

 

 

 

「なんでだ……なんで俺は、歳を取らねぇ」

「それはお前が止まっているからだ」

「ッ、誰だ!」

 

 ふぅ。

 人間の記憶というのは機奇械怪のそれと違って煩雑だ。時系列もめちゃくちゃだし、モデリングできるほど多くを覚えていない。

 何もかもが曖昧な中で、ようやく入力があったとされるだろう記憶に辿り着いた。

 

「私は……そうさな、神とでも呼ぶがいい」

「……来るのが遅ぇってぇな。もう神に願うやつも、祈るやつも、崇めるやつも奉るやつも……みーんな死んじまったぜ?」

「そのようだ。正確にはお前が殺した、だが」

「俺がやんなくたって戦争で死んでたさ。馬鹿な話さぁな」

「……故に神として、お前に裁定を下す」

 

 えーと、で。

 古井戸はいいとして……こいつはなんだろう。上位者やアイメリアの宿主……じゃない。

 どっちかというと。

 フレイメアリスに近い、ような。

 

「なんだよ、殺してくれるのか?」

「否だ、私でさえお前は殺せん。異空間にいる自らの同一存在。それらに自らの負傷や老いを肩代わりさせる不老不死の儀式の産物。ここで幾度お前を殺そうと、お前ではないお前が死ぬだけだ」

「おいおい、俺はんな外道染みたことした覚えはねぇぞ?」

「その事実を知るものはお前に殺された。お前を傀儡にせんとしていた者たちだ」

「あー」

 

 意思の集合体。ただ、星の意思というには色々なものが明瞭過ぎる。

 生まれてから3000年経ってたフレイメアリスでさえあんなに不安定だったのに、こいつは……。

 

「で、裁定ってぇのは?」

「お前の記憶を封印し、別の星へ送る。これならば病魔でも負傷でも老化でもなく、事実上の死をお前に与えられる」

「……いいねぇ、そりゃ。是非やってくれ」

「躊躇無しか」

「お前さんが敵なら警戒するがよ、害意の欠片も感じ取れねえんだ、だったらいいだろ」

 

 ああ。

 本当に古井戸だ。

 

「そうか。ならば、行おう。安心しろ。同じ道を辿らぬよう、あちらの星におけるある程度の常識は授けておく」

「おいおい、人を常識知らねえやつみてぇに言うじゃねぇの」

「事実だ。常識があれば、惨劇は起きなかった。違うか?」

「……違いねぇや。じゃ、やってくれ」

 

 光る。輝く。

 古井戸は光となって、遥か彼方に飛んでいく。恐らくその方向にはメガリアがあるのだろう。

 

「すまない。私にもう少し力があれば……」

 

 神を名乗った男は、その光の先を見る。

 

「せめて、次なる地では対等足り得る者でも見つけて、幸せに暮らせよ……フリード」

 

 まるで父親のような、そんな顔で。

 

 

+ * +

 

 

 古井戸の頭から手を離す。

 

「ん、もう終わりか?」

「うん、大体わかったからね」

「本当ですか? まだ五分と経っていませんが」

「怪しいところをピンポイントに探ったからね。どこに何があるのかわからなかったピオとは違うよ」

「……それは、私の記憶領域が整理整頓されていない、と?」

「あはは、受け取り方は人それぞれだよね」

 

 さて。

 まぁこれで、大体の事情はわかったわけだけど。

 どこから話したものか。

 

「……やめた」

「は?」

「うん、やめにしよう。君の出自はわかったけど、話さないでおく」

「……理由は聞いても?」

「ま、彼がどこの誰かは知らないけどさ。せっかくもう手に入れているものをむざむざ壊すのは気が引けるよねって話」

「……もっと具体的な言葉ぁ使え」

 

 恋人を見つけて、幸せである彼に……わざわざ罪の記憶を思い起こさせる必要はない。

 それに。

 

「知らないことがあった方が、世界って楽しいよ、古井戸」

「知らねぇことばっかの世界で、自分っつぅほんの一部を知りたいと思うのは普通だろうがい」

「僕、ネタバレって嫌いなんだよ。自分がされたら嫌だからさ」

「俺は嬉しいんだぁが」

「君の気持ちなんて僕が慮るわけないだろ」

 

 うん。

 久しぶりに言うけど、僕は感情のプロフェッショナルなんだ。

 そのプロフェッショナルが、これは隠しておいていい真実だと判断した。

 

 あ、でも。

 

「ピオ、はいこれ」

「……フラッシュメモリ?」

「うん。その中に入ってる歌を聞けば、君の不具合は解消されるよ。修正パッチみたいなものさ」

「ありがとうございます……ですが、何故歌形式で」

「僕なりのオシャレだよ」

「……チャルさんの前ではあまりオシャレを意識しないことを推奨します。変にカッコつけるとろくなことにならないと思われますので」

「あはは、うん、余計なお世話だね」

 

 文句は纒・エルグに言ってほしい。

 僕のセンスじゃないし。

 

「それじゃ、僕はそろそろ行くよ」

「本気で教えてくれねぇのかぁよ!?」

「私達ここに置き去りですか」

「うん。再出発だ。思い出の場所から、なんてエモだろう?」

「エモ……?」

 

 おや、ピオには若者言葉は通じなかったらしい。

 あはは、そろそろ知識の入れ時じゃないかな。でないとすぐ置いていかれるよ。もうすぐ人間は絶滅するとはいえ。

 

 それじゃ。

 お幸せに、ってね。

 

 

+ * +

 

 

「ホントに行っちまいやがったぁな」

「ですね……」

 

 フリスの去った元丘陵地帯。

 パイプロン・ポイントの陰で、二人。

 

「ってなわけで、唯一答えに辿り着けそうなやつから情報が出ねぇと確定したわけだが」

「……では、私もこの修正パッチは使わないで置きます」

「そりゃまたなんで」

 

 フラッシュメモリを圧縮空間へと閉まって、ピオは笑みを浮かべる。

 

「古井戸さんがご自分の出生を知った時に、私もこれを当てます」

「だぁからなんでかって聞いてんだよ」

「私の世界だけ一歩先につまらなくなるのは嫌だからです」

「はぁ?」

 

 ピオは立ち上がる。そして対面に座っていた古井戸の──その横に、ちょこんと座った。

 

「なんだいね、暑苦しい」

「ピオの表面温度は28℃です。むしろ快適かと」

「そういうこと言ってんじゃぁねぇのよ」

「もっと冷えることも可能ですが、如何いたしましょうか、ご主人様」

「うひぇ、その呼び方むず痒いからやめろって言ったはずだぁが」

「肝が冷えた、でしょう?」

「うっせぇ」

 

 そんな感じで。

 人間と機奇械怪なアンバランスででこぼこな二人は末長く……本当に末長く、幸せに暮らしましたとさ。

 

「次はどこ行くかねぇ」

「行ったことのない場所がいいです」

「んじゃあ」

 

 一拍。

 

「火山か」

「氷河とかどうですか」

 

 なお、やっぱり二人の気は合わないものとする。

 

「どっちも行けばいいさな」

「はい」

 




NEXT SHORT SHORT……
CHAPTER……SCHOOL LIFE……?
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