終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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スクールライフかどうかはさておき日常系一般人

 今更ながらの当然の確認をするけれど、人類はもう絶滅の危機に瀕している。というか秒読みだ。

 ()()()、人々は絶望していなかった。

 少しでも希望があったのならそれに縋ろうとはしただろう。ありえない可能性だったら無理を悟って絶望しただろう。

 けれど、ここまで無理を直接突きつけられると、人間というのは早々にあきらめがつくものらしく。

 

 残り少ない一般人と奇械士は、全てを無視して日々を過ごせているようだった。

 

「というか、みんな、人類の存続のために戦っていたわけじゃないからね」

「そうなのかい?」

「守りたい家族とか人がいて、あるいは復讐心で。それだけだよ、奇械士なんて。人類の存続ー、なんて大層な正義は掲げてなかったかな」

 

 身も蓋もないけどね、と。

 隣に座るチャルが言う。

 

「どうでもいいじゃん、自分が死んだ後の事なんて」

「確かに、私も……チャルとの子が成せなくなった以上、どうでもいい」

「元から成せないけどね?」

 

 最近のアレキはどこか壊れてしまったらしく、発言が素っ頓狂に過ぎる。戦うことが無くなったから、元の天然さのみが残されたというべきか。

 壊したのは僕? いやいや、チャルでしょ。責任転嫁反対。

 

「人類そのものなんか感じ取れないし」

「あはは、その発言聞いたらエストが悲しむよ」

「わかんないけど、お父さんは多分『それでいい』って言うよ」

「あー、言いそう」

 

 エストは人類にマグヌノプスは不要だとして、その切除を行った。けどその人類がもう続ける気力を失っているとあれば……果たして、とか思うけどね。

 でも、確かにエストなら、チャルの選んだ道を否定することはなさそう。

 

「……しかし、今さら学校生活とは……むず痒いな」

「惜しいよね。うちの学校制服制だったらよかったのに」

「……それは、この歳になって再度制服を着る私を笑えるから、か?」

「うん」

 

 そう、ここは学校だ。

 がらんどうの学校。人がいるのはこのクラスのみで、さらに言うと人はほとんどいない。

 アレキとチャルだけだからね、純粋な人間は。

 

 僕の周囲にアレキとチャル、そしてモモ。

 少し離れたところに、スファニアとアスカルティン。

 たったこれだけだ。

 授業だって大したことはしていない。知識を溜め込む意味がないからね。

 だからまぁ、習いたいことがあったら、エクセンクリンとかを適当に呼んで授業させて、あとは疑似スクールライフ、って感じ。

 

 僕とアスカルティンとスファニア以外はみんな大人に成長しちゃってるから、学校は学校でも大学感が強い。

 ちなみにアスカルティンは自己改造で大人になることもできるけれど、本人曰く「非効率」とのことで、彼女は子供のままだ。「スファニアさんを置いていくのも偲びないですし」という理由もあるらしいけど。

 

「制服かぁ。他の学校でやってるの見たことあったけど、私は一回も着たことないなぁ」

「奇械士の装備は制服みたいなものじゃない?」

「多種多様が過ぎるかな」

 

 アレキとチャルの目が僕に向く。

 ……?

 

「着てみたいのかい?」

「着てほしい」

「あはは、じゃあ作らせようか」

 

 手元の鈴を鳴らす。

 転移光。そこから出てくるのは、人影。

 外で生き埋めになってた上位者は大体回収したからね、今僕の手元には数多の"英雄価値"の入力値が保管されている。

 

 ただ、自分に入力するのは面白くない。

 

 ので──。

 

「制服を作れ、と。……確かに承りました。死ね、フリス」

「全員分ね。ああ、サイズは」

「では、お嬢様方。あちらの教室にて採寸をいたしましょう。ここにはケダモノがいますから」

「いや君も特に変わら、」

 

 キッとこちらを睨む女性。

 ……君、精神まで女性になったのかい?

 

 

 

 

 

 横臥チトセ、ジュナフィス、リンゴバーユ他。

 ラグナ・マリアにいた上位者たちはみな、今のホワイトダナップに開放してある。

 それらがいない人間を補っているというか、必要な役割についているというか。

 

 だから、チトセだったらフレシシの代わりに僕のメイド、みたいな。ジュナフィスだったらホワイトダナップに残った数少ない子供たちの相手、とか。リンゴバーユだったら……まぁ彼は特に役割ないから、徘徊老人とか。ガロウズとなんかやってるんじゃない?

 

 そういう感じで、上位者の人格リソースは有効活用されている。

 モルガヌスから解放されているから、自分のやりたいこと──人間を害さない範囲で──を謳歌している者も少なくはない。

 世界がこんなだからね、上位者ももうやることないんだよ。

 ……その誹りで、というべきか。好奇心オンリーで世界滅亡を引き起こしたヘイズは肩身狭め……に思えて、彼のあの性格だ。揶揄はされても「アッハッハッハ」で済ませている。マイペースだね。

 

「フリス」

「ああ、着替え終わったんだ」

「うん」

 

 そんなことをつらつら考えていたら、みんなが戻ってきた。

 相変わらずの仕事の速さだ。布の生成とかは機奇械怪組も手伝ったのかな。

 

 なんにせよ。

 

「どう?」

「かわいいよ、とか僕が言うと思うかい?」

「全然」

「まぁ、変じゃないよ。昔の光景を思い出すな、ってくらいかな」

 

 僕に芸術的センスを求めないでほしい。

 無いんだから。本当に。

 

「あ、チトセ。まだ行かないで」

「ア?」

「うわ怖いなぁ。もうちょっとメイドっぽくしようよ」

「お嬢様方ならともかく、なんでテメーにメイドらしく振舞わなきゃならねぇんだよタコ」

「君、ラグナ・マリアにいたころより口悪くなってないかい」

 

 ぶつくさ言ってるチトセを無理やり座らせる。

 他、チャル達生徒組も席について。

 

「──はぁ。なぜ学生用の制服を着させられて……先生役をやらなければならないんだ、私は」

「君があれからどれほど理解したかのテストを兼ねているからね」

「……わかった。真面目にやろう」

 

 スクールライフといえば、授業。

 生徒が集まったので、授業が始まる。なぜか女生徒用の制服を着せられて、けれど壇上に上がったモモにが、覚悟を決めた目で口を開いた。

 

 今日習うことは──。

 

「では──魂というものについて、授業を開始していく」

 

 上位者が終ぞつかみきれなかったものについて、である。

 

 

 

 

 

「まず、はじめに……魂とは何か。……そうだな、アスカルティン。答えてくれ」

「魂は私を私たらしめるものです」

「ふむ。それも正解だが、ほかに言い方がある。……そうだな、ではアレキ。お前は何だと思う?」

「……記憶?」

「いや、もっと単純でいい。チャル、わかるか?」

「うーん。……思い出、とか」

「それは同じだ」

 

 やっぱり人間組は言語化が難しい様子。

 機奇械怪組のように手に取るようにわかる、って状態じゃないからね。

 

 そんな中で、スファニアが手を挙げる。

 

「お、やる気があるな。ではスファニア、頼む」

「魂はエネルギーだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「うむ、正解だ」

 

 魂はエネルギー。

 大正解。

 

「魂とは二層構造になっている。まず、中心核。これをコアと呼び、これは原動力を生み出す装置であると同時に、エネルギーそのものでもある」

「エネルギーそのもの……」

「ここに記憶や感情といったものがまとわりついて、人格となる。それが外側の層だ。ゆえに記憶や人格が同じでも、魂が別物である、あるいは存在しない、ということは大いにあり得るわけだな」

 

 外側の層はいくらでも模倣ができる。感情も記憶も数値でしかない。だから、まるで生前の姿と同じような、生前の存在を思い起こさせるような行動をとるレプリカ、も簡単に作れるわけだ。機奇械怪としてね。

 それはたとえば間宮原ヘクセンであったり、吸血鬼たちであったり。

 取り戻す前のモモもそうだったね。

 これらは決して生き返った、とは言えない状態だし、そういうのを察知できる存在には一目でわかってしまう空っぽの人形に近い。

 

「機奇械怪はそのエネルギーを自らの動力に変えて生きる。機奇械怪が生物を取り込むのは魂を取り込みたいからであり、肉体なんかは副次的なものに過ぎない。また、たとえば人間が体をバラバラにされたとしても、各部位に魂というのはある。正確には浸っている……流れている? 血液のように全身をめぐっているエネルギーだから、切り落とされた瞬間に消えるわけじゃない、というべきか。とかくそういう理由で、バラバラにしても動力の抽出はできると──……いうのは、チャルやアレキには不快な話か」

「あ、ううん。気にしないで。どうせもう戦うこともないだろうし」

「そうね。機奇械怪がそういう生態をしているのだとして、それを直せというつもりもない」

 

 魂はエネルギーだ。

 だけど、電力とかみたいにすべてがすべて同じエネルギーということではない。周波数とでもいえばいいのか、個人差というものがしっかりあって、だから他人の魂じゃ代替にならない。その周波数を均一化してフォーマットにしたのがオールドフェイス、なんだけど。

 機奇械怪がオールドフェイスでオーバーロードできるのは、他人の周波数値が一切入っていない状態のエネルギーを即座に取り出せるからだ。オールドフェイスは食べやすくて飲みやすい栄養剤って感じだね。

 

「なら……機奇械怪が魂を獲得する瞬間というのは、いつになるのでしょうか」

「魂を獲得する瞬間?」

「はい。アスカルティン様、モモ様は機奇械怪です。融合、浸食から機奇械怪になったアスカルティン様はその機奇械怪に魂を使われているはずですし、モモ様に至っては初めから機奇械怪。メモリーチップ(記憶)を外側の層であるとするのならば、お二人はどのようにして中身()を得たのですか?」

 

 チトセの疑問。

 それについて、二人は。

 

「私は明け渡してないですよ。自分の中に入ってくる機奇械怪とお話をして、共存を選びました」

「私は……フリスと話をしていたら、自然と」

 

 視線がこちらを向く。

 これはさすがにお手上げか、モモも。

 

「いくつか方法がある。たとえば、自分の魂を再獲得する方法。これは最も簡単だね。自分の魂を誰かに保管してもらっておいて、模倣した体に宿らせる。それが第一」

 

 エクセンクリンがやろうとしていたことだ。

 

「次に、自分から呼び込む方法だ」

「呼び込む……」

「エネルギーに対し、感情が自分から働きかける……第二ではあるけれど、同時に稀有なケース」

 

 これができないから、機奇械怪……というか「人類を脅かすもの」はステージを上げられなかった。

 そしてモモが自然とやったことでもある。

 自身の魂に対し、模倣の身でありながら、強く「自分はここだ」と呼び込んでそれを己がものとする。これが魂の獲得法の二つ目。

 

「アスカルティンはそもそも失っていないから別の話として、もう一つの例はスファニアだ」

「俺?」

「そう。君はゾンビ……つまり死者だ。一度死んでいる。けれど魂は持っている。君はただ『ゾンビ』の時代のゾンビであるから、という理由だけじゃなく、魂のほうが君をつかんで離さなかったから、という理由で魂を再獲得している」

 

 スファニア・ドルミルはマグヌノプスと同等の存在としてあるものだけど、それ以前にゾンビである。能力としては星の意思の代替、アイメリアの特効薬であるのだろうけど、スファニア・ドルミル……あるいはその名前ではない誰かの魂は保有している。

 死体が魂を保有する。それは上記二つの獲得方法以外の、もう一つのアプローチがなければ成立しない。

 

「魂が自ら感情を手放さない。死を認めない。コアという意思なきエネルギー塊が、それでもスファニア、君という記憶の欠落を拒否した。それが第三の獲得法であり──君の異常性でもある」

「簡潔にまとめろ、フリス」

「魂の在り処は全身、魂を取り戻せるかどうかは個人の資質により、スファニアは異常。そんな感じかな」

「言い方が悪いよ、フリス」

「いや……俺が異常なのはわかってるから、いい」

 

 なんだか。

 僕の大本と戦った後くらいから、スファニアはずっとしおらしいんだよね。

 元の彼女ってこう……「知るかよ!」みたいな。「うるせえ!」みたいな。ヘイズをさらに悪化させた、理性のないヘイズ、みたいなのだったのに。

 

 チャルを見る。

 首を振る彼女。アスカルティンは……こっちもか。

 アレキだけが何か心当たりのありそうな顔を。

 

 ……こういうの、女の子たちだけで解決したほうがいい奴じゃない? 僕、今までだったら引っ掻き回しに介入したけど……今はそういうのやる気ないから、ほら、ね?

 

 スクールライフに悩みはつきもの。

 友達同士で解決してきなよ。

 

「というわけで、魂というのは──」

 

 真面目に授業をしてくれたモモには悪いけれど、こっちのほうが気になっちゃったかな。

 ということで、久方ぶりにテルミヌスの盗聴機能をONにして。

 

 

 

+ * +

 

 

 

「別に大した話じゃねーよ」

 

 ぶっきらぼうに、吐き捨てるように。

 昼休み、スファニアのもとへと集まった少女らに、そう告げる。

 

「スファニア・ドルミル。この名前さえも植え付けられたもので、本当の俺がどういうやつだったかは思い出せない。俺なんかいなかったんじゃないか、とか思ってたよ、さっきまで。……まぁ、違ったみてーだけど。なんにせよ……俺は俺である自信がない。だから……なんつーか、お前らと一緒にいても、不安……いや、違うな、……悪い、わかんねぇ」

「あー、まぁ、私にはわかりますよ、それ。私も私が私か、とかそれなりに自問自答しましたから。まぁ私は私じゃなくても私は私っていう結論にたどり着いたんで、もう悩んでないんですけど」

「それはたぶん、あなたにしかたどり着けない結論」

「あはは……アスカルティンさん以外が言ってたら、何言ってるんだろ、になるかな……」

 

 アスカルティン。

 人間から機奇械怪になった──もう99%どころではなく、100%機奇械怪なアスカルティンも、似た境遇にあるのだろう。ゾンビ。あるいは星の意思。アイメリアへの特効薬。様々な役割を押し付けられたスファニアと、神の嬰児としての贄を担わされたアスカルティン。

 

「……俺は俺、か」

「はい。まぁ、なんというか、そうではなかったとして、でも変えられないじゃないですか。選択肢としては、ここから死ぬか、生きるか。それだけなんですよ。で、死ぬとか私論外なので……だから、よくないですか? 私が何者でも、人間でも機奇械怪でも、そのどちらでもない──たとえば"新人類"でも"次なる源"でも、どうしようもないから、私は私です。アスカルティン()がアスカルティンじゃなくても、私です」

「……相変わらず、ヘンに説教臭いよな、ガキ」

「そろそろ私をお姉さんだと認めたらどうですか」

 

 アレキとチャルにはわからない話かもしれない。

 彼女らには生身がある。それは、彼女らが彼女らであるという何よりもの証拠だ。「体が覚えている」なんてのは陳腐な言い回しだけれど、それが何よりもの自身となる。

 血の通わない体を自身だと思えないのは当然で、記憶さえもなければ殊更に。

 

「……じゃあさ、スファニアさん」

「ん」

「遊びいこ?」

「……遊び?」

「うん。今さ、フリスがいろいろやってくれたみたいで、北部区画のゲームセンターとかも動いてるからさ、そういうとこで遊ぼうよ」

「あー……チャル。よくわからねぇ。何が"じゃあさ"なんだ」

 

 え、わからない? なんて笑って。

 チャルは、そしてアレキも巻き込んで言う。

 

「今でいいじゃん、自分の根拠なんて。私たちもう大人だけどさ、せっかくこういうの整えてもらったんだし、今のスファニアさんを私たちで作ろうよ。アイメリアが~とかゾンビが~とか知らないよ。奇械士の仕事に付き合わせちゃったこの五年間ですら要らない。これから学校生活して、毎日楽しく過ごしてさ、それでいいじゃん。スファニア・ドルミルはそういう存在になりました! じゃダメ?」

「なんか……チャルにしては、陳腐」

「ひどい!?」

「そうですね。チャルさんってもっと突拍子もないこと言うイメージがあったんですけど。やっぱり見抜く目、みたいなのを失って変わったんでしょうか」

「そ……それは、ちょっとその節があるから何も言い返せない……」

「おい、今度はチャルが落ち込んだぞ」

 

 ずぅんと落ち込むチャル。実際彼女が気にしていたことではあったのだ。

 チャルは明確に"特別"ではなくなった。"英雄"ではなくなった。発言があまりに普遍的な……それこそフリスやユウゴ、リンリーと学生生活を送っていたころに戻ったのではないかと思うほど、普通の女性になっている。

 アレキのような天然さもなければ、アスカルティンのようなぶっ飛んだところもない、スファニアみたいな物憂げな雰囲気も、モモみたいな吹っ切れた空気もない。

 本当に普通の、ただの女の子。

 

 それが今のチャル。

 

 なぜ彼女がそうなったかと……どこぞの上位者に言わせるのなら「必要がなくなったから」であり、「マグヌノプスじゃなくなったから」になってしまうのだろう。

 英雄という存在そのものがもう時代に要されていない。だから特異な精神性も必要がない。

 平和になった証だ。

 

「でも……フリスが変わらず特別なだけに、置いてかれるような感じが……」

「何をいまさら。オルクス失ったあとだったのに、見事フリスさんを振り向かせてみせたんじゃないですか。あの時のチャルさんだってちゃんとフリスさんと対等でしたよ。というか、そういう一筋でも脈のある素振り見せると」

「チャル、今からでも私に乗り換えない?」

「乗り換えない……」

「アレキさんもなんで振られるってわかってて突っ込むんですか」

 

 でもまぁ。

 そんな普遍的な、普通のやり取りでよかったらしい。

 スファニアの口の端。そこに笑みが戻ってきていることに、果たして彼女自身は気づいていたか。

 

「チャル」

「うぅ……あ、なに、スファニアさん」

「行くの、ゲームセンターじゃなくてもいいか」

「ああ、いいよいいよ。別にどこでも。みんなで一緒にいられるだけでいいからね」

「やっぱり普通……」

「アレキさん、その辺にしないとなんでもなく嫌われますよ」

 

 スファニアは、だから。

 とある店の名前を提示する。学生らしくはないけれど、自分らしい場所で、皆を連れていけるところ。

 

「ちょっと知り合いのとこにさ」

 

 ハハッ、なんて笑って。

 

 

+ * +

 

 

 

「居酒屋『アドベントすこやか』……?」

「中々……意味の分からない店名してますね」

「あぁなんだ、連れていきたいところってヘイズの店だったのか」

「別にお前は呼んでないけどな」

 

 どうやら青春の一ページを刻んだらしいスファニアが、放課後、チャル達を連れていきたいといった場所。特に呼ばれてないけど当然のようについて行ってみれば、そこはヘイズの居酒屋。

 性懲りもなくというか、ヘイズはもうアクルマキアンの時点で人間観察なんか終わっているはずなのに、ホワイトダナップで同じような居酒屋を開いている。

 ここは上位者がよく訪れる他、普通に人間な……なんならヘイズが上位者だと知らないお客さんまで来るくらいには繁盛しているらしい。

 

「むむ……年齢的には問題ないんだが、学生服で居酒屋……」

「モモ、君って時たま古風だよね」

「こら、フリス。それ女の人に言うセリフじゃないよ」

 

 そうかなぁ。

 古風と古臭いは別だと思うんだけど。

 

「よぅらっしゃい……ってなんだよお前らかよ」

「なんだよとはなんだヘイズ。客だぞ客。飯と酒持ってこい」

「はぁ? スファニアお前、酒なんか飲んだことねーだろ。なんだ、フリスか? 余計な事焚きつけやがって」

「ところが僕じゃないんだよこれが。スファニア発案でね、ついでだから、チャルとアレキが飲んだらどうなるかも見たいなって。特別に機奇械怪組にもアルコール効くよう細工しといてあげたから、存分に楽しんでほしいな」

「あの、本人の許可なくそういう内側弄るのやめてくれませんか」

「道理で……。さっきから妙に原因不明のエラーが出ていると思っていたら、それか」

 

 まぁまぁ、なんて言って席に着かせて、適当に注文をしていく。

 いやほんと、学生服でこの光景は中々だね、確かに。世が世なら……まぁ世が世じゃないしいいか!

 

「お酒、飲んだことないからちょっと怖いかも……」

「酔った勢いでキスとかしてくれてもいい」

「ごめんねアレキ。一番遠いところに座るね」

 

 相変わらず壊れているアレキ。というかもうブレーキ踏むのやめたよね君。

 

「酒か……前はそれなりに飲んでいたが、機奇械怪になってからは初めてだな……」

「アルコールとか一瞬で分解しちゃうのが普通なんで、フリスさんの酔えるようにした、が怖くて仕方がないんですけど。あの、私っていうか私の中の機奇械怪は普通に人間食べるので、やばかったら動力炉壊さない程度にバラしてくださいね。歯止め利かないんでホント!」

「フリス、俺も効くのか?」

「効きたい?」

「ああ。どうせなら酔ってみてえ」

 

 じゃあこれもサービスだ。

 一時的にスファニアの脳を生前と同じようにして、でも痛覚とかはちゃんと切って……みたいな結構細かい作業をやって。

 

「じゃ、ヘイズ。お代は僕が持つから、じゃんじゃんね」

「馬鹿言え、最初から金なんて取ってねぇよ」

 

 そうして、スクールライフ……には到底結びつかない大宴会が始まった。

 

 

「フリス、フリス」

「ああ、うん。そうだね」

「うん。あのね、あのね、フリスはね、もっと私にべたべたしてよくてね」

「うん、うん、そうだね」

 

 犬のしっぽを幻視する。

 チャルは一杯で最大限まで酔っぱらった。そっからずっとこの調子。

 僕の隣で、あのねあのね、と「如何に僕がカップルとしての行動をしてくれていないか」を熱弁している。面倒くさい。

 

「うぅ……チャル……私が悪かったから、うぅ……うぅぅうう」

「そうか、アレキ、わかったからテルミヌスを振り回すのはやめよう。ヘイズの店が危ない」

「あの時縛り付けてなければ……チャルは、チャルは」

 

 こっちは泣き上戸。五年前のことをいまさら後悔してずーっとうじうじしてる。うん、面倒くさい。

 

「そもそもの話をしますけど、おかしいんですよ! 次なるステージとか、オーバーロードとか! 名前だけ! 教えられても! わからないものはわからないって!! 何度言ったら!!!」

「うんうん、ごめんねそうだね」

「っていうかごはんたりない!! オールドフェイスじゃ味変できない!! ほかのごはんつくって!!」

 

 アスカルティンは怒るタイプ。機奇械怪まで怒るタイプ。うんうん。

 

「父は……そろそろ子離れするべきなんだ。本当に。最近はシールドフィールドを張っているからって、疲れたよ~なんて言って抱き着いてきて……嫌ではないが、わ、私も夫を持つ身として、そろそろ……!」

「うわエクセンクリンそんなことしてるのかい? 引くよ普通に」

「いや、良い父だ、良い父なのだが!! こう、そろそろ子離れしてくれないと、こう!」

 

 モモは愚痴るタイプ。でもまぁまぁ正当なコト言ってる。エクセンクリンにはドン引きだよ。

 

「おい、フリス。酔えるようにしろって言っただろ」

「うん。やったよちゃんと」

「全然酔えないぞ」

「生前から君は酒に強かったんじゃないかな」

「嘘だろ。生前の自分とか一番知りたかったことなのに、こんなとこで出てくるんじゃねえよ」

 

 そして悲しいことに、スファニアは酒豪だった。もとから耐性がありすぎるみたいで、全然酔えていない。みんなと楽しく酔いたかったんだろうけど、いや本当にかわいそう。

 でもここで僕が脳をいじっちゃったら、それこそアイデンティティに関わるだろうし……あと僕も僕以外が酔ってる、みたいな地獄に付き合いたくないし。

 

「マトモなのが今僕と君とヘイズだけだし、ちょうどいい機会かな」

「何が」

「君、過去を思い出したいかい? ゾンビになる前の、生前を」

 

 カウンター奥、グラスを拭いていた音が止まる。

 ヘイズは知っている。

 今僕の手元に、スファニアの過去──生前の数値があるということを。

 

 きょとんとして、一瞬、憂愁を帯びて。

 でも、スファニアは牙を剥くようにして笑う。笑った。

 

「……いらねーよ。そんなもんもらっても、どうにもならないだろ。俺は俺だからな」

「うん。それは良い選択だね」

 

 要らない。

 なら、それでいいだろう。わざわざこの子が誰か、何者か、なんてのを口に出すようなことではない。

 謎は謎のまま。スファニアはスファニアで、ほかの誰でもない。

 

 からんころんと、入り口のドアベルが鳴る。

 

「よぉ! 来たぜ、ヘイズー……って、なんだぁ? フリスがいる!」

「ふぉふぉふぉ、これはまた……ハーレムですな?」

「てめぇフリス、オレがそこそこ頑張って下準備してたところを……学生引き連れて居酒屋とかなめてんじゃねーぞオイ!」

「いやみんなもう年齢的には大人だから」

 

 ラグナ・マリア組の上位者が。

 

「お、今日はいつになくにぎわっている、よう、……ケルビマ、また今度にしよう」

「む? なぜだ? 別にヘイズなら、この程度の人数捌き得るだろう」

「け……けるびま、どの……? あ、そ、その、これは不貞を働いているとかではなく、フリスは教師と生徒の関係でっ! あ、いや、それもダメなような」

「待てモモ、君……なんだその恰好は! その恰好は、ちょっと待ってくれたまえ、今写真を」

「おい、エクセンクリン。人の妻の写真を勝手に撮るな」

「君の妻である前に私の娘だぞ!?」

 

 今度はエクセンクリンとケルビマが。

 

 ぞろぞろ集まってきて……ふむ。

 

 最近動いていなかった、無計画の食指がぴょこんと動く。

 

「おい馬鹿フリス、何やろうとしてるかは大体わかるが余計な事すんじゃ、」

「あはは、君も巻き添えだよ」

 

 さすがの危機察知能力だ、ヘイズ。

 けど今の僕は止められない。だってほら、ちょうどよくさ、手元に「酒豪の数値」なんてものがあってさ。

 

 上位者酔わせたらどうなるかとか──ちょっと面白そうじゃない?

 

 ヘイズと、そしてチトセの制止の声。

 当然聞かない。聞かないで実行するは、魂の言語による入力。

 

 

 ──無論。

 その後ヘイズの居酒屋が更地になったことなどはまぁ、語るまでもない話。

 

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