終末世界でガチ上位者が一般人やってる話   作:MORGANSLEEP / 統括導光

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失望する系一般上位者

「……はぁ」

 

 ため息を吐く。

 まったくつまらない結末だった。

 

 僕が何年生きてると思ってるんだか。僕が何度人類の滅びを見たと思っているんだか。

 何度も繰り返す。何度も何度も。そのたびに期待する。何度も何度も。

 

 飽きはしなかった。

 

 だって、絶対に同じにはならない。

 完全なコピーを眺めるでもない限り、必ず差異は生まれる。それの観測だけで十分楽しめる。

 

 でも。だからこそ。

 

「君ね。あの時、半身を失った君に機奇械怪の半身を与える、なんて大手術を僕がいとも簡単にやってのけた時点で、気付くべきなんだよ。『あぁこの施術、前もやったことがあるんだな』って」

 

 地面に臥せる、人間だったもの。

 四肢を、いいや全身をバラバラにされた、機奇械怪だったもの。

 

「だから当然いたよ。君みたいに機奇械怪に命を捧げて、機奇械怪の力を得た人間。君みたいに暴走するんじゃなくて、自我を残す者もいた。つまりまぁ、英雄の類だよね。君みたいな価値のない人間とは違う、少しでも機奇械怪に影響を……入力を残した英雄」

 

 つまらない、つまらない。

 面白くない。

 この状況は大声で言える。悪い。

 折角生かしたのに。折角愛にすれ違う環境を作ってあげたのに。

 

 自己犠牲?

 そんなくだらないもので終幕か。

 

 そんなありふれたやり方で、終わりか。

 

「今の君は、ミディットか、メーデーか。あるいは名もなき機奇械怪か。どれでもいいけどね。その程度で僕の予想外を捉えるなんて馬鹿らしいにもほどがある。なんで機奇械怪なら僕を倒せると思ったんだ。それって結局、機奇械怪は人間より優れてるって思ってるってことだろ。あのね、それは違うよ」

 

 機奇械怪が人間より優れている。

 そんなはずがない。

 感情の無い、愛を覚えられない、いつまで経っても成長も進化もできない機奇械怪。僕に作り出されてから、僕が携わったフレシシ、ピオ、キューピッド、アモル以外……種別さえ増やすことのできない出来損ない。

 人間は違う。人間は簡単に変わる。思想に触れて、本を読んで、悲劇を経て、幸福を得て。

 簡単に別人になる。簡単に種別を増やす。そうして増えるんだ。増えて増えて、新たな段階に辿り着く。英雄、偉人、傑物。かつてはいた。素晴らしい人間達がいた。毎日のように僕の予想を超える人間達がたくさんいた。

 それがどうだ。今はどうだ。

 

「君は逃げるべきだった。ケイタを連れて、アニータとレプスを連れて。僕は追わなかったよ。そもそも君達が攻撃してきたから迎撃しただけだし。逃げて、そこで正体を明かせばよかった。それで、確かに多少は動揺するだろうけれど、危機的状況、死地においては団結の鍵になれただろう。愛を確かめ合えば、それだけで生きようとする……生きて帰ろうと思う希望になっただろう。縋れるものになっただろう」

 

 人間には未練というものが必要だ。

 それが無ければ死んでしまう。それが無ければ簡単に命を捨てる。

 幸福な日常、あるいはそうではない日常。愛した相手。あるいは殺したいほど憎い相手。大切な家族。あるいは自由への憧れ。

 なんでもいい。なんでもいいんだ。なんでもいいから、未練が必要だ。

 未練さえあれば、人間はどれほどの死地にあっても生きようとあがく。ここで死んでたまるかと、埒外の力を発揮する。

 そしてその縋る先が愛情なら、愛した相手なら──無類の強さにまで発展する。

 

 なんでだ。

 

 なんで、捨てちゃったんだ。

 

 もしかして、自分を英雄だと──勘違いしたのか。

 

「そうだとしたら、あまりにも滑稽だよ、ミディット。君じゃチャルに遠く及ばない。アレキにも及ばない。君は──凡人だ」

 

 反応はない。

 かつてはここで、「……それでも」と立ち上がる者がいた。今にも死にそうな身体を起こし、凡才であることを自覚しつつも、最後の最後まで抗わんとする者がいた。

 ミディットに反応はない。

 

「君の生に価値は無かった。君の余生に意味はなかった。メーデーとして生きた君は、何一つ残さない。残せない。君はいなくてもよかったんだ、ミディット」

 

 お願いだ。

 懇願する。

 どうか起きてくれ。どうか目を覚ましてくれ。

 どうかこの言葉に奮い立ち、僕を口汚く罵って──最後の輝きを見せてくれ。

 

 ミディットに反応はない。

 

「……終わりだね。それじゃあ、殺すけど……何か言い残すことはあるかい? あぁ、喋らなくていいよ。思うだけで、僕に伝わるから」

 

 ミディットだったものの、頭部。

 それを。

 

 

 

「──気が変わった、と言ったら。その手を降ろす気はあるかい」

「……」

()()()()

 

 語る。笑う。

 微笑みかけるは、隣。

 

 その手の翳す先は、ミディットだったものの頭部パーツ。

 

「アモル、と。呼ばないんですね。誰が聞いているかわからないのに」

「だって今の君はアモルじゃないだろ。君は今フレシシだ。フレシシとして動いている」

「……そんなことまでわかるんですか」

「わかるよ。それで? その手を降ろす気はあるのかな、フレシシ」

 

 フレシシは。

 静かに、首を横に振る。

 

()()は私が貰います、フリス。あなたがその足を降ろしても、降ろさなくても、私はそれを転移させる。フリスの知らない場所に」

「ふむ。それならやめた方が良い。僕は"どこから転移してきたのか"はわからないけど、"どこに転移したか"、はわかるからね。今それをすれば、君の計画は台無しになってしまう」

「っ……」

 

 だから、と。

 念動力でミディットの頭部パーツを浮かして、そのままフレシシの元へ送る。

 

「ほら、君のにしていいよ。転移で送るなら、ダムシュを出てからやるといい。僕の感知範囲は知っているだろ?」

「……わかりました」

 

 うんうん、いいよ。

 それは悪くない。良い傾向だ。

 

「それじゃ、アモル。そっちの三人はどうしたい?」

「いえ、キューピッド。そちらの三人に興味はありません。強いて言えばケイタさんの頭部が欲しいくらいですが」

「わかった」

 

 ぶちり、どさり。

 それは簡単に千切れて、多量の血液を出す。

 だから千切り取った方の断面に機奇械怪としての施術をして。

 

「はい、どうぞ」

「……ありがたく」

「うん。まぁ対になっていた方が見栄えはいいしね」

 

 さて──それじゃあ、この若い奇械士は。

 

「キューピッド。提案が」

「なにかな」

 

 耳を傾けて。

 ……その悪辣な作戦に、ちょっと引く。いや、そういうのもアリだとは思うけどね。これをフレシシが言ってるって思うと……まぁ昔はよく使われていた手法か。

 

「それじゃあ、今日はここまでにしよう。何も一日で終わらせることはない。凡人は死んだけど、英雄が残っている。それはとても素晴らしいことだ」

「セーフルームはどうしますか?」

「この辺の地下に適当にシェルターを作ってあげよう。殉死したメーデーとケイタの功績だ」

 

 まだだ。

 こんな凡人なんかじゃなくて、もっと。

 もっと価値のある人間を。もっと輝きある人間を期待している。

 

  

 

 

 

 

 

「……時間だ。うんうん、それじゃあね、君達。実によく頑張った。実によく耐えた。ご褒美に、今日は退いてあげよう。僕もこんな身体じゃ恰好がつかないからね」

「逃げる気……!?」

「おいおい、強がるなよ。いや、君にとっては普通なのか。でもそっちの子、もう死にそうだよ」

「!」

 

 飛行型機奇械怪を散らせていく。天空のシールドフィールドに貼り付かせたり、TOWERの側面に戻したり。

 一瞬にして晴れ渡った空はもう黄金色。

 そしてピオに抱かれるチャルは、かなり蒼褪めている。

 それもそのはず、生命力と体力を根こそぎ奪われた状態で、飛行できなくなって跳躍にシフトしたピオの腕の中にずぅっといたんだ。三半規管揺さぶられまくって死の危険に晒されまくって、生きた心地がしていなかったことだろう。

 彼女を抱いたピオも同じ。

 いやぁ、彼女がいたことは驚きだけど、何より驚きなのは前に見た時よりチューンアップしている、ということだ。何か他の機奇械怪を取り込んだのか、あるいは他の理由か。

 とにかくピオに関しては結構予想外で評価が高い。

 

 そしてそれは、所有者たる古井戸も同じ。

 

 というか彼は何。

 アモルは一応フレシシの増殖機だ。なんで一応なのかというと、ピオよりもさらにデッドコピーだから。サイキックはほとんど使えないし、その他機能にも粗がある。ただし肉弾戦に秀で、体内に発生させた念動力で埒外の破壊力を出す超パワータイプ。

 それとマトモに戦えているというか、なんなら圧している。無手で。

 なに? あれ、もしかして英雄の類かな?

 

「ッ、キューピッド!!」

「なにかな」

「次は、必ず殺す。──覚えてなさい」

「わー……」

 

 アレキはそう言って。

 チャルを抱くピオを抱いて、TOWERの側面を駆け下りていく。

 根元で父ケニッヒがそれをキャッチ。そのまま、母アリアのいる方へ。

 

 同じくしてTOWERの中腹から古井戸が飛び降りる。いや飛び降りていい高さじゃないけどね。

 

「いや。今のさ、明らかに悪役の台詞だよね。すぐ負けるタイプの」

「キューピッドは物語が好きですねぇ。私には全霊の憎悪を込めた言葉にしか聞こえませんでしたけど」

「……ボロボロじゃないか、アモル。古井戸はそんなに強かったんだ?」

「みたいですね。識別できませんでしたけど、多分何か仕込んでます。機奇械怪ではない何かを」

「成程ね……」

 

 そういうカラクリか。

 

「調査隊の犠牲者は二人だけ、か。いやぁ、我が母ながら凄まじいね。あの量の機奇械怪から無価値二人を守って戦いきるか」

「対して機奇械怪側の被害は相当ですよ。ケニッヒによって撃墜されたもの、アリアによって割断されたもの。次いでアレキさんに溶断されたものと、ピオの武装で落とされたもの」

「全体の何割くらい?」

「一割くらいですね」

「それは……凄まじいね。ほぼ二人の力で国規模の土地に蔓延る機奇械怪の一割を壊す、とか」

「まぁ機奇械怪達も動力源の減少で弱っていた、というのも大きいかと。万全の状態だったらこんなに削られません」

「一般機奇械怪としての意見かい?」

「はい。贔屓目に見てます」

 

 いつも通りの会話に、少し笑う。

 先ほどの険悪……いや、一触即発みたいな空気はない。当然だ。僕らは割り切りと切り替えが早いからね。

 それでも、面白いと思う。悪くはない。

 

「それじゃあ夜が明けるまで待とうか。人間は寝ないといけないからね」

「はい」

 

 どうか、安らかな休息を。

 価値ある者達に安眠を。

 

 

+ * +

 

 

「そうか……」

 

 調査隊の面々は、その報告に沈んだ顔を見せていた。

 メーデー、ケイタの両名が殉死。

 敵はキューピッド。どういうわけか、二体目がいたらしい。

 

「……だが、この地下シェルターを見つけてくれた。これは二人の功績だ」

「そうね。安心して夜を過ごせる場所は、必要だもの」

 

 二人が残したのは、地下シェルターに繋がる階段。

 キューピッドの撃破は不明。その前にアニータとレプスの意識が落ちてしまったからだ。

 何故彼女らが生きていたのかはわからないが、キューピッドが殺す価値無しと判断したものという結論になった。

 

「とりあえず、今日の報告をしておくぜ。まず、俺が戦いながら中身を見て回った場所だ。あのアモルとかいうのはタワーと呼んでいたな」

「『TOWER』は前の時代にもあった機械ですね。……いえ、申し訳ありません。続けてください」

「ああ。タワーの内部は機械だらけだが、特に攻撃される、とかはない。ただ足場は悪ぃな。突入するなら気を付けろ。んで……最上階には何かある。そっちに行こうとするとアモルの攻撃が激しくなったんでねぇ、確実に何か……あるいは弱点みてぇのがあるんじゃねぇのかな」

「弱点? 何の?」

「まさか、キューピッドの?」

「いえ、水を差しますが、それはあり得ないかと。機奇械怪が他の機奇械怪によって遠隔で抑圧、操作されることはありますが、強化される、ということはありません。いえ、統率を取ることで強くなることはありますが、単体の機奇械怪の強化装置にはならないのです。よってその何かを壊した所でキューピッドが弱体化することはまずないかと」

「……だ、そうだ。んじゃまぁ、弱点じゃなくともそれに準ずる何かがあるんだろうよ」

 

 最上階に何かがある。

 アモル……キューピッドの隣にいた機奇械怪が守る程の何かが。

 それは有益な情報だった。

 

「アリア、襲ってきた機奇械怪の強さはどれくらいだった?」

「そこまでじゃないかな。一匹二匹は大型機奇械怪がいたけど、それだけ。明日はワイユーとケンにも戦ってもらおうかなって思ってるよ」

「わかりました」

「死力を尽くします!」

 

 決してそれだけ、なんてことはないのだが、ケニッヒも「それだけか」と思ったし、古井戸も「なら安心だな」と思った。

 ここに弱者の立場になれる発言者はいない。

 

「アレキ。チャル。お前たちはどうだ」

「……私は問題ない。けど、チャルが……」

「あ、大丈夫……寝れば回復するから。……だから、ごめんなさい。作戦会議、聞かなきゃ、だけど……」

「いや、寝てくれ。アレキもだ。チャルのその弾丸がキューピッドにも効くことが分かった。今回は致命傷には至らなかったようだが、今度はもっとダメージを与えてからやれば必ず殺せる。決定打は変わらずチャルだ。だから寝ろ。リーダー命令だ」

「ふぁい……」

「私は別に」

「寝ろ」

「……はい」

 

 圧に屈する。

 どこか笑顔で圧をかけてくるフリスと似たものを感じて、アレキは心の中で笑いを零す。

 

「アニータ、レプス。つらいとは思うが、」

「はい。ここが頑張り時ですよね。センパイのためにも、泣いてなんかいられません」

「馬鹿アニータお前馬鹿……ってあれ、珍しくマトモな事言ってる……」

「今頃二人仲良く地獄に……」

「馬鹿天国行かせてやれよ馬鹿」

 

 強がってはいるが、大丈夫そうだ、とケニッヒは判断する。

 であるならば、残る問題は。

 

「……ピオ。キューピッドクラスの機奇械怪は、どれほどの頻度で生まれる?」

「あんなの自然には生まれませんね。そも、知っての通り機奇械怪というのは融合過程で巨大になっていくものです。私より小さくて私より強い機奇械怪で融合種となると、人為的に生み出されたものとしか思えません」

「人為的か。……じゃあ質問を変える。キューピッドを一体作るのにかかるのは何年くらいだ?」

「聞きたいのは、キューピッドがあと何体いるか、ですよね」

「ああ」

「それなら一々そういう面倒な質問に答える事はありません。というか人が機奇械怪を製作する時間なんか知りません。そして、私には周囲の機奇械怪がどこにいるか、何体いるかを検知する機能があります」

 

 それは。

 それは、この状況において比類なき強さを発揮する機能だ。

 だが。

 

「……逆探知の可能性がある、か」

「はい、その通りです。ですので今は使いません。使うとしたら明日、戦いが再開した時です」

「わかった。その時、たとえキューピッドがどれほどいたとしても、正確に報告してくれ。百でも千でも、だ」

「了解しました。なので古井戸さん、ちょっと外に出ましょう」

「……話聞いてたか? それを使うのは明日だ。今じゃない」

「ああいえこちらの話です。大丈夫、戦闘はしません。ただちょっと出てくるだけです」

「ってぇわけだ、ケニッヒの旦那。また後でな」

「あ、オイ!」

 

 ピオと古井戸が出ていく。

 ケニッヒが額に手を当て、アリアが心配そうに見る。

 

 お開き、の空気だった。

 

「とにかく、各自、今日はゆっくり休め。そんで明日からバリバリ働いてもらう。わかったな!」

「はい!」

 

 こうして。

 夜は静かに、更けていく──。

 

 

 

 

 

 

「で? なんだいね」

「古井戸さん。大変なことに、オールドフェイスが足りません」

「あん? ダムシュに入る前に補充しただろう」

「さっきはだいぶ見栄を張りましたが、この国全土をスキャンするには機能のオーバーロードが必要です。そのためにはオールドフェイスが必要です」

「ちなみに無しでやるとどんくらい狭まる」

「あのとんがり屋根の家までくらいですね」

「狭ぇなぁ」

 

 古井戸は後頭部を掻く。

 長いことピオと共にいるが、古井戸もピオの全機能を把握しているわけではない。

 その上、ピオは基本嘘を吐かない。機奇械怪ゆえに、本当のことしか言えないのだ。それを、見栄を張った、などと。

 

 これが成長かね、なんて。

 独り言ちる。

 

「わぁったわぁった。オールドフェイス探し、手伝えばいいんだろう。ったく、できないことを自信満々に言うんじゃないよ」

「申し訳ありません。あの敗戦ムードは断ち切らなければ、と思いまして」

「……ま、確かにな。二人。十人の中の二人さ。でけぇだろうなぁ」

「数字じゃないですよ、古井戸さん。人と人とのつながりは、数字じゃないです」

「は、機奇械怪のお前さんにそれを説かれちゃ、そろそろ本当におしまいかね、俺も」

 

 静かな夜を二人、歩く。

 どういうわけか、機奇械怪がいない。キューピッドの言っていた退く、とはそういうことなのだろうか。

 

「……キューピッド。どうだいね、勝てそうか?」

「あの時私達と交戦した個体なら問題ありませんね。問題はメーデーさんとケイタさんを殺したという方です。ケイタさんの遺体、あちらの地面に埋められていました。冒涜的かとは思いましたが、掘り起こして確認したところ、傷だらけの身体と……致命傷と思われる、斬首に似た痕跡。傷はどうでもいいのですが、斬首の方が……その、かなりマズいです」

「鋭利か」

「いえ、引き千切られていました。つまりキューピッドの念動力で引き千切ったものと」

「……人間の首を引き千切る威力か」

「はい。それを当然のように行使できるなら、人間の方々に勝ち目はないかと。無論私も無事では済まないでしょう。念動力は照準とかないので、視認された時点で終了です」

「そりゃ、やべぇな」

「はい。やばいです」

 

 視認されたら負け。

 それはどの機奇械怪よりも強い。今回の作戦のように背後を取れたとしても、こちらも一撃で殺さなければ攻撃者は確実に死ぬ、ということだ。

 チャルが一撃で仕留めなければ。

 あるいは彼女を運ぶピオも、チャルも、死ぬ。

 

「……逃げるか?」

「本気で言ってますか、それ」

「だって俺達には関係ない話だろ、これ。あのアモルとかいうのがピオと同型機っぽいってだけで追って来て、こんな危険に巻き込まれるたぁ思って無かったよ」

「それは……そうですが」

 

 葛藤が生まれるのはピオの方。

 ピオは、古井戸に死んでほしくない。そう考えている。

 ならばここで古井戸が無様にも情けなく逃げてくれるのなら。

 

「それでもい、」

「あれ? ……そいやよ、俺達が見た時……あの二人のうち、アモルの方だけが機奇械怪だった。そう言ってたよな、お前さん」

「え、あ。……はい、はい。そうです。そう言いました」

「だけど、キューピッドは機奇械怪だった。お前さん、そういうの間違えないだろ」

「……ふむ」

 

 言われてみればそうだ。

 あの時、古井戸に連れられて隠れた時、自身のスキャンは確実に判断した。

 片方が機奇械怪で。

 片方は、恐らく人間。よくわからない、が正しいが。

 

「……キューピッドは、二体だ。お前さんらが相手をしたのが、後から造り上げられた一体。そんで元のキューピッドは機奇械怪じゃなく──」

 

 夜だ。

 だから暗かった。けれど、雲が晴れて──月明りが地に根を下ろし始める。

 

 少しずつ露わになっていく瓦礫。かつては整備されていた地面。

 

 そこに。

 

「っ、古井戸さん!」

「……おいおい」

 

 いた。

 二人。赤茶けたコートを来た、鳥の仮面の、二人。

 

 キューピッドとアモルが、そこにいた。

 

 

+ * +

 

 

「よぉ……何用だ、黒幕さんら」

「あぁうん、警戒しなくていいよ。殺す気はないから。というか、称賛をね、しにきたんだ」

「称賛?」

 

 ピオと古井戸は臨戦態勢だ。

 うんうん、それでいい。一瞬も気を抜かないのは良い事だ。

 何より古井戸の姿勢が素晴らしい。僕が念動力を使おうとしたらすぐにでも瓦礫に隠れられるようにしている。ピオを抱えて、砂を蹴って。

 視認されたら死。さっきの話を聞いていたけれど、戦闘経験値が凄まじいね。背後からの攻撃だけじゃなく、瞬時に様々な接敵方法を考えている。

 

 間違いない。

 彼は、英雄の類だ。

 

 ……だけど。

 

「おめでとう。君は真実に辿り着いた。そうだよ、僕は機奇械怪じゃない。特異な力……サイキックを扱うからって人間達は勝手に僕を機奇械怪にした。いや、機奇械怪を操るから、かな。とにかく人間達は、未知のものを己らと敵対する機奇械怪に繋げてしまう癖がある。仕方のない事だけど、真実ではない。それを、君は推理だけで辿り着いた」

「いやぁ、推理だけじゃないさ。コイツはピオと言ってね、機奇械怪なのさ」

「知っているよ。なんなら彼女の出自も知っている」

「!」

 

 逃げの姿勢から。

 攻めの姿勢に変わる。

 

 身を隠すものだけじゃなく、攻撃手段の構築をしている。

 いいね。いい。

 君は、昔はたくさんいた人間達だ。

 

 だけど、君は。

 

「是非とも君には活躍して欲しい……んだけど、ごめんね、この戦場には要らないや」

「ッ、古井戸さん!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だから、と。

 手を翳す。

 走るのは赤雷。ピオが古井戸を庇う。古井戸はそのピオを自身の後ろに隠そうとする。

 

 うーん、愛だね、これは。

 流石だ。

 

「殺しはしないと言ったよ。──だから、つまり」

 

 二人を包むは転移光。

 移動先は──どっか。

 

「邪魔なの邪魔なの飛んでけー、ってね」

「あの、キューピッド。流石に雑で可哀想です」

「大丈夫大丈夫。溶岩地帯とか氷山地帯には飛ばしてないから。どっかの荒野だよ。ダムシュから遠く離れた、ね」

 

 うん。

 これで良し。

 

 この実験は、箱庭の中で、『TOWER』、『数多の機奇械怪』、『調査に来た英雄ではない奇械士』がどう成長し、どう乗り越え、どう変わっていくかを見るためのもの。

 初めから英雄で、もしたった二人だけだったとしても全てを解決してしまえるような奴は要らない。

 そういうのはまた今度、世界とかを巻き込んだ未曽有の実験とかやる時に参加してよ。それなら歓迎するからさ。

 

「……けど、あれってさ、やっぱり」

「はい。まぁ、恋ですよね。成就はしてないようですが、確実に恋する乙女でした」

「うんうんうんうん。古井戸の方は鈍感主人公って感じだし、ピオも自分の気持ちに気付いてない感じだし。いいね、いいね。あれはいずれ愛になるよ。もうなっているかもしれないけれど」

「……そういうフリスは、ないんですか。恋とか愛とか」

「あはは、誰にするのさ」

「人間とか、機奇械怪とか」

「本気で言ってる?」

「いえ。ただ……フリスは、ずっと独り……身なのかな、と思いまして」

「うわ、ヤだなその言い方。そりゃ僕は上位者だからね、ずっと独りであってるけどさ」

 

 さて、と。

 踵を返す。別に転移で帰るから帰路も何も無いんだけど。

 

「帰るよ、フレシシ。決戦は明日か、明後日か。とにかく今日はこれで終わりだ。本当にね」

「はい。ちなみにお夕飯は要りますか?」

「なに、港湾国家だから海の幸たっぷりとかだったりする?」

「いえ、特に変わりませんけど」

「じゃあ要らない」

 

 転移する。

 

 ああ。

 誰もいなくなった瓦礫の中で──オールドフェイスが一枚。

 キラりと輝いていた。

 

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