白雪に染る夜叉   作:ほがみ(Hogami)⛩

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9話 夜叉

遺跡内に響きわたる高音の鉄の音。六花が推と呼ばれた女性の攻撃を弾いたことにより、生じた強烈な風がパイモンと蛍を容赦無く襲う

 

パイモン「うわっ――!!!」

 

体が軽いパイモンは飛ばされかけるが、精一杯蛍の服を掴んで飛ばされないように努力していて、蛍は頑張ってその風に流されないように足を踏ん張る

六花たちが起こした強烈な風は10秒ほど続き、やがて土煙を巻き起こしておさまった

 

―しかし、依然剣戟の音は続く。高い金属音は遺跡中…否、地上である青墟浦にも届いていることであろう

六花は休むこと無く、推の攻撃を弾き返す。難なく弾き返すその様は、まるでその攻撃を経験しているかのようであった

 

六花(なぜだ…なぜお前が―――)

推「………」

六花「――伐難っ!!」

 

六花の渾身の一撃が推の仮面に直撃する

その瞬間、土煙ははて、推と呼ばれた女性の仮面は半面だけ砕け落ち、その顔が露わになる。絶世の美女といえるほどの美貌。世を歩けば男が群がると行っても良いほどその美貌は美しかった

 

だが、六花はその美貌に囚われなかった。なぜなら、彼女は仙衆夜叉の一人――水の夜叉、伐難であるからだ

 

伐難は仮面を破壊されたことにより一時距離をとる

蛍とパイモンは六花に駆け寄り、剣を共に構える。パイモンは六花が先程言った言葉を六花に聞き返す

 

パイモン「六花、さっき言ってたことって…」

六花「さっき言ってたことか?」

蛍「伐難って聞こえた。でもそれって――」

 

六花は静かに声を放つ

 

六花「そうだ。仙衆夜叉の一人、水の夜叉"伐難”。かつてこの遺跡で魔神の下僕もろとも封印した夜叉だ」

伐難「………」

 

伐難は虚ろな目でこちらを見てくる

戦闘する――というよりもなにか指示を待っているようにも見えるその姿は、不動であった

静寂。その言葉がこの空間を制覇する。何も動かず、ただ聞こえるのは布が擦れる音のみ。六花は立ち尽くす彼女を見て昔のことを思い出す

 

 

仙衆夜叉と共に過ごした記憶。伐難や応達とコンビを組んで戦った記憶。この遺跡で伐難と共に魔神の下僕を封印した記憶

 

 

伐難『ねぇ六花みてみて!これ可愛い!』

 

可愛らしい笑顔で笑ってきた彼女

 

伐難『六花、浮舎の兄者しりません?』

 

兄貴分の浮舎に試合を挑もうとしていた彼女

 

伐難『えへへ…金鵬にいたずらしちゃいましょうか』

 

いたずらしちゃおうとこっそり言ってきた彼女

 

伐難『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!み"ん"な”ぁぁぁぁぁ…』

 

 

彼女と出会ってから彼女と経験したことすべて思い出す

だが今、実際に目の前にいるのは…そのような彼女ではなく、魔神に意識を奪われ、傀儡となってしまった彼女である。その違いに六花は歯を食いしばる

 

あの時、我が助けていれば――あの時、我が変わりになれば――

 

無意味な後悔が六花の体の中を這いずり回る

その時――六花の耳に伐難の声が聞こえた気がした

 

伐難『雹蕾―――』

六花「伐難―――?」

パイモン「?どうしたんだ六花?なにか呟いていたけど…」

六花「―彼女の声が聞こえた気がする。我の名を呼んでいた…」

 

パイモンは再びわけがわからないような顔をする。話を聞けば、六花以外の人には聞こえていないようだ。もしかしたら、六花が聞こえた声は六花自身が生み出した幻想で、本当のものではないのかもしれない

だが六花は――その声を再び聞こうと精神を集中させる

 

伐難『――――雹――――』

六花(聞こえた――!ならば――)

 

モヤめいているが六花には確実に伐難の声が聞こえていた

六花は更に集中し、その声に意識を集める

 

伐難『――雹蕾――――おね――届いて―――』

六花(もっとだ――もっと集中を―――)

伐難『雹蕾!!』

 

 

 

 

 

 

 

完全に伐難の声が聞こえたとき、六花は遺跡の中ではなく、謎の空間にいた。海底にドーム上の空間ができていて、溺れることはない。その空間は痛みや業瘴の苦しみなど無く、全てが心地のよい空間であった

六花が辺りを見渡して見ても旅人の姿がなく、ただ空間の中央に女性が立っているだけであった

 

六花はその女性に近づく

 

艶のある透き通るような水色の髪、懐かしい立ち方をしている彼女は―――

 

 

六花「…伐難」

伐難「やった…私の願い…届いたんだ…」

六花「あぁ。届いたとも」

伐難「久しぶり――雹蕾」

 

涙ながらに笑顔を作る伐難は、以前と全く変わっていなかった

久しぶり――そう言われた六花は、伐難の名を口に出す

 

六花「(せい)。済まなかった…あの時君の代わりに我が――封印すればよかっ――」

伐難「あなたと私がもし反対になったら…璃月――いや、テイワットは崩壊しちゃうよ?」

六花「―――」

伐難「夜叉のなかでも飛び抜けて強いあなたがミュルクスの傀儡になったら…」

 

伐難の言っていることは正しい

当時、六花は仙衆夜叉に選ばれるほど強かった夜叉だ。しかし、帝君の誘いを六花は断った。理由は"いらない期待を背負ってしまう"からだった。選ばれることは名誉である。がしかし六花は断った。そのせいで、留雲やほかの仙人からは恥ずかしがり屋の変な夜叉だ―と言われているのだ

 

帝君の誘いを断ること自体、おかしなことだ

帝君に忠誠を誓う夜叉なのにどうして断るか。その逆恨み(?)で六花は当時命を狙われる事もあった

そんな人が魔神に操られたらと思うと、自分のこととはいえ恐怖に六花は思った

 

伐難はすこし笑顔になって六花に話しかける

 

伐難「…積もる話もあると思うけど、今はそんな話をしている暇はないよ」

六花「どういうことだ?」

伐難「私がこの空間を構成する時間はもうわずか―――だから現実世界で私を助けて雹蕾」

六花「助ける…ってことはまだ死していないのか?!」

 

伐難はコクリと縦にうなずく

六花は安堵の声を漏らす。傀儡にされたということはもう死していると誤認していたからだ

伐難は続けて六花に自分を助ける方法を話していく

 

伐難「私は生きたままミュルクスに操られてる。ミュルクスの業瘴が私を蝕んで今も消えそうなの」

六花「どうしたらいい。我にできることはないか?」

伐難「ミュルクス本体に私を蝕んでいる業瘴のコアがあるの。それを破壊して―――わたしに―――取り――」

 

伐難の声にノイズが混ざる。残された時間はもう本当にわずかしかないのだろう

六花は精一杯伐難のノイズが混ざった声から、伐難が言いたいことを抽出し、伐難の願いを叶える努力をする。それは懺悔の思いか。もしくは彼女に対する恩返しなのか。それは誰にもわからないが、ただ一つ。どうやっても変わらない事実があった

 

伐難は生きている。今もなお業瘴に飲まれ、苦しみあがいている

 

それを我は助けなければならない。魔神戦争時代から――いや、それ以上前からの家族を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍「六―――!―花―――!六花!!」

 

ぼーっと立ち尽くす六花に向かって蛍は声をかけ続ける。しかし、六花は不動で動こうとしない。パイモンが頭に乗ってゆらゆらと揺らしてやっても、魂が抜けたように動こうとしない

蛍は少し、不安に思った。なぜなら今六花が動かないのは、いつもみたいな悩んでいる姿とは違うから。魂が抜けたように動かないということは、蛍も経験したことがなかった

 

??「ふっふっふ…やっと効いたか。我の支配が!

蛍「支配…だって…?」

 

蛍が呟くと、赤い髪の女性は高らかに口を開いた

 

??「そうだ。我が歌のトリコになったのだ!これで支配権は我のもの!つよいと思ったが…ただの人であったか。さぁ!いけ!推よ、あやつを破壊するのだ!

伐難「………」

 

命を命じられた伐難は遺跡守衛のように命令に従う

六花の命を狙って――六花の存在を抹消するために――

しかし六花は不動。すこしも動こうとしない。だが伐難は着々と迫ってくる。伐難の手には先程も見た水鋭利なの爪。蛍には防げないあの攻撃を無防備な六花に与えようとしているのだ

 

蛍「っ―――!!!!」

 

蛍は雷電将軍と戦ったときのような勇気を振り絞り、六花の前に立つ

―彼に助けられた――その思いを返すために蛍は剣を構える

 

しかし、伐難の速度は雷鳴よりもはやく、構えたときにはもうすでに人が会話するくらいまで迫ってきていた。もうむりだ――蛍はそうおもった。今までそんな苦労よりも今この瞬間が一番くるしい。死というものが間近に近づいているという恐怖。助けがないという恐怖。すべての恐怖が混ざって後悔になる

 

 

 

 

 

蛍「――まだ…ここはゴールじゃないのに…」

 

蛍の悔やんだ声は伐難の鋭利な爪が空を裂く音にかき消された

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