白雪に染る夜叉   作:ほがみ(Hogami)⛩

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10話 守るための名

――我は雪の山で生まれた仙獣であった。生まれてからというもの、我はずっと一人。厳しい寒さの中、我は空腹で倒れそうであったが、雪を喰い、雪に染まり、必死に食いつないでいた

 

しかし、その日々も長くは続かない

 

我は途中で猛獣に襲われ、死を覚悟するほどの怪我を負った。全身が激痛に襲われ、意識が朦朧とし、もうだめだと思ったその時――我に救いの手が差し出されたのだ

それは優しい手であった。怪我を負った我を介抱し、怪我が治癒できるまで付き添ってくれた。優しい料理、暖かな肌。そして愛情というものをくれた

 

―我は一人ではなかった。なぜなら彼女がいたからだ

 

 

「今日からあなたの名前は雹蕾(ハクライ)!」

 

 

柔らかな笑顔で我に名をつける彼女。その時、我は決心した

―我がこの者の盾となり剣となろうと。戦うことが苦手な彼女に変わり、我が彼女に降りかかる災難を払おうと

彼女は不運なことにかなりの災難が降りかかる。それをすべて我が払う。我はそれが苦とは思わなかった。なぜなら、彼女は我の主であり、彼女を守ることは我にとって誇りであったからだ

 

雹蕾「勝手に抜け出されては困ります!我の援護もなしに…」

「だってだって!あなたがいっっつも助けてくれるから私も、それになにか返さなきゃって――」

雹蕾「だからって―――いや、感謝いたします。ですが――我は我が主と共にいるだけで十分なんです。これ以上、あなたに何かをもらったら…」

 

他愛もない話。

されど大事な話。

我にとってはそれが至福の時間であった

 

ある日、彼女は契約の魔神と対談することになった。その魔神は契約に一番の重みを置き、絶対に破らない魔神であった。我は彼女についていこうとするも、彼女は「この人は安全よ。大丈夫」と我に言った

契約の魔神は「不安なのであれば、そこでこの子と見ていればいい。俺も戦う気はないからな」といって、水色の髪の女の子をこちらに向かわせた

 

女の子はこちらをみて「こんにちわ!」と可愛らしく挨拶する。我もそれに応じ「こんにちわ」と返す

 

その後、彼女たちは奥蔵山の頂上にある机のような岩で対談を始め、我らはそれを少し離れたところから見ていた。少しの間黙って見ていたが、シビレをきらしたのか女の子は我に話しかけてきた

 

「名前はなんていうの?」

雹蕾「我の名は雹蕾。彼女の盾となり剣となるものだ」

瀞「ふーんそうなんだ!私は(せい)。夜叉の名前を伐難っていうの!あなたの夜叉の名前は?」

 

夜叉の名前―と瀞は言った。我には夜叉の名などない

そもそも名が二つあることなんてあり得るのかと我が瀞に聞くと、瀞は「夜叉には二つ名みたいなのがあるんだよ。私だったら人に名乗るときの名は瀞。人を守るときの名前は伐難って感じ」と返答した

 

―ならば…我の人に名乗る名はなんなのだろうか

 

人を守るときの名が夜叉の名であれば、我の夜叉名は雹蕾であろう。しかし、名を名乗るときの名は…我にはない

 

雹蕾「名の由来を聞いてもよいか?」

瀞「うん!夜叉の名はね、"俗世の苦を伐し、難を解せよ”って意味なの。瀞はね〜"清らかな心で人を守る"って意味だって」

雹蕾「清らかな心…まさに君みたいだな」

 

我は瀞を見ながら微笑む

瀞は我の笑顔を見て可愛らしく微笑む

 

対談が終わったあと。瀞と我はじゃあねと手を振って共に別れる

我は主に「仲が良くなってよかった」と言った。彼女はそれが目的だったのかもしれない。その後、我は夜叉の名の由来・意味を聞いた

彼女は困ったような顔をしつつ、我に教えてくれた

 

「雹蕾の意味はね。"氷のように冷たくとも、雹のように人に害をなそうとも、それはまだ蕾で、いつか花を咲かせるときが来る"…ってことよ」

雹蕾「長い―」

「しょ、しょうがないじゃない!私はあの人のようにねーみんぐせんすないんだから―」

雹蕾「――ありがとう」

 

我が突然感謝を伝えると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた

 

我にはこの名だけで良い。主につけられた名を我は大事にする

 

この名は我が守る大事な人のために呼ばせる。他の誰にも呼ばせない。これは我が我に契約した不変の契約―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夜叉(われ)の名は、雹蕾。我の名前を侮辱するのであれば―――容赦なく殺す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「さぁ!いけ!推よ、あやつを破壊するのだ!

 

命令された伐難は棒立ちする六花を抹殺するため、その手に構えた鋭利な武器を構え、突進してくる

蛍は棒立ち状態の六花を守るため、六花の前に立ち、その身を呈して守ろうとする

ギュッと目をつむる蛍。伐難のあの速度では蛍は一撃を弾くこともままならない。だから、せめてでも―と蛍は思い、痛みに備える

 

後悔。その念は死したら残らない。なんの念も残らないのだ。あの時楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと全てが無垢の海に浮かぶ泡のように消えてゆく

 

蛍はそれを嫌だと立ってから思ってしまった

だが、六花を見殺しにすることは出来ない。この選択しか無かった

 

蛍「――――?」

 

いくら時間が経っても痛みは来ない

痛みもなく殺されたのか―あるいは―などと根拠の無い考察ばかりする。しかし、その考察が間違っているということを、すぐに知ることになった

 

ゆっくりと蛍は目を開ける。そこには霜のようなものが全身に張り付いて動かない伐難の姿があった。蛍の目と鼻の先には伐難の爪がもう数センチというところで止まっており、間一髪という言葉が1番マッチする

 

蛍「助かっ…たの?」

 

 

蛍が放った言葉は、白霧を纏いながら空へと消える

パイモンは寒いと言って身震いを起こす。辺りを見れば、ドラゴンスパインのフィンドニールのように冷気が目に見えるくらいに白く宙を舞っている

 

蛍はこの寒さを知っていた

つい最近、感じたこの寒さ…ドラゴンスパインのような寒さではなく、淑女のような寒さでもない。だか、確かに感じたことのある寒さ

それは数時間前、六花が申鶴から聞いた留雲借風真君の悪口(?)に反応した時のものと同等だった

 

蛍の隣からスっと抜けるように六花は出てきた

その姿は、いつもの六花とは少し違っており、どこか勇気、希望に満ちているような姿で、それはまるで雷電将軍との戦闘の時に、目狩り令にて没収された人の願いを背負った蛍のようであった

 

六花はそっと凍った伐難の手に触れ、何かを願うように目をつむった

 

六花(待っていてくれ…すぐに助ける)

 

赤髪の女性は六花が動けたことに衝撃を受け、声を飛ばす

 

??「な、何故だ!なぜ我の支配がー

六花「あのくらいで我を支配できると思ったか?」

 

軽く笑った六花は蛍の方に少し歩み、六花が考えた作戦を伝える

―とても簡単だ。六花が赤髪を攻撃し伐難を襲っている業瘴の核を破壊する。いいタイミングで蛍が伐難に風で拡散反応を起こす。そうすれば、伐難を助けることができる

 

もちろんリスクはあるだろう。拡散時に凍結状態が解除され、伐難が暴走する可能性がある。最悪の場合、全滅し、璃月が崩壊する可能性すらある

 

六花は伐難が暴走する可能性を考慮し、蛍に一枚の札を預ける

 

蛍「これは?」

六花「我の傀儡の力を凝縮させた札だ。お前の力を増幅させる効果がある。もし伐難と戦闘になっても戦うことが出来るだろう」

蛍「こんなにいいもの…貰っちゃっていいの?六花は大丈夫なの?」

 

六花の身を案ずる蛍に六花は優しく微笑む

我のことは大丈夫だ、自分の身を案じろと言わんばかりのその表情。初めて会った時とは全然違うその顔に、蛍やパイモンは少し驚いた。冷淡で冷たい人であった彼の顔が今、こんなにもにこやかになっているからだ

 

六花は伐難を見て業瘴の気配を辿る

伐難から伸びる業瘴の糸は、赤髪の女の胸部に伸びている。あそこに伐難を支配している業瘴の核があるのだろう

 

六花「行くぞ、歌の魔神"ミュルクス"。今度こそ現世に戻れなくしてやろう」

魔神「くっ…行け!我が下僕よ!

 

赤髪の女ーもとい魔神ミュルクスがそのようにつぶやくと、地面からヒルチャールが出現し、六花を襲い始める

六花はいとも容易くそのヒルチャール達を排除し、ミュルクスの胸部に剣を突き刺そうと剣を前に出すが、ミュルクスはまたもやヒルチャールを召喚し、六花の攻撃を防ぐ

 

六花「…相変わらずだな。その戦い方」

ミュルクス「相変わらず?我は貴様とは初対面のはずだが?――」

 

その瞬間、六花の剣がミュルクスの胸部を穿いた

 

六花「そのよく喋る癖も貴様らしい」

ミュルクス「しく…じった…ガァァァァァァァァァ!!!

 

濁流のように漏れ出す業瘴。六花は今だというタイミングで、蛍に合図を送る。合図を受理した蛍は風の元素爆発を使い、伐難に竜巻を当てると、黒いモヤの業瘴が拡散されて行った

 

竜巻が霧散し風になり、業瘴が拡散されて消滅する。だがしかし、伐難はいまだ虚ろな目をしていて、正気に戻ったとは言えない風貌であった

まさかと六花が思った瞬間、ミュルクスが伐難に命令した――すべてを破壊しろと。

その命令に従うように体を動かし始めた

 

六花「何故だ…核は断ったはず!」

ミュルクス「ふはははは!あまいな!体に残ったもののことを忘れたか!

六花「ちっ…そうか!」

 

伐難は目の前にいた蛍に襲い掛かる

蛍は驚きはしたものの、その攻撃を難なく避けることが出来た。その後も伐難は獣と見間違うほどに攻撃してきたが、蛍自身も驚くほどにすべて簡単に避けることが出来た。それどころか、伐難の攻撃が少し緩やかにも見える

 

蛍は伐難の攻撃を躱しつつどうにか耐えていた

六花はどうしたら伐難を救うことが出来るか。再び同じような行動をとるか

 

―いや、それでは完全に業瘴を排除することは不可能だろう。ならばどうするか。夜叉である六花がすべきことはただ一つ

 

――六花の儺面を以って伐難の業瘴を断ち切る

 

六花「旅人っ!!!!」

 

そう決意した六花は、蛍に自分の難面を投げる

旅人は何かを悟ったかのようにその面をキャッチし、伐難にその面を隙があるときに顔に取り付ける

 

牙を剥いた獣のようなその面。色は白に近い蒼白で目元には赤いメイクのような紋様が入っている。額部分には魈みたいな紋様が赤く晶蝶のような形をしているようにも見える。魈の面と画期的に違うところは、角が短いということだ。どちらかと言ったら角ではなく耳のようにも見える

 

 

伐難「キャァァァァァァァァァ!!!!

 

 

面をつけた伐難は地面に膝をつき、悲鳴を上げて苦しむように天を仰ぐ。それと同時に伐難の体から業瘴が抜けていく。次第に、伐難の表情は回復していき、苦しそうな表情から安らぎの表情になった

そして伐難はそのまま地面に倒れそうになり、それを蛍がキャッチした


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