旅人side
蛍はいつも通りデイリー任務を終え、冒険者協会へと足を進める。受付のキャサリンとは、いつもと変わらない挨拶をして報酬をもらう
ー今日は討伐系統の依頼が多かったからか、普段よりもモラが多い。パイモンは「頑張ったご褒美に何か食べに行こうぜ!」と食事を誘ってくるも、蛍は内心(自分が食べたいだけでは…?)と思ってしまった
2人は万民堂へと足を運ばせ、香菱に料理の注文をする
香菱「ー少し待っててね!!」
パイモン「おう!…ひひっ。ここにいると、なんだか瀞を思い出すな!」
蛍「そうだね。ここが初めて瀞とご飯を食べた場所だし、それにあのインパクトは忘れられないよ」
特性激辛肉。今では当たり前のように並んでいる激辛シリーズは全て伐難が試食、アドバイスをして成り立っているものだという…
伐難は辛いものに耐性があるらしく、絶雲の唐辛子もパクパク行けるのだとか?でも本人は好んで食べるということはしていないそうだ。なぜなら、辛さ云々より変な味がするらしく、それが苦手なのだそうだ
そんなことを思っていると、香菱が料理を運んできた
香菱「おまたせ!新商品、炙り魚のピリ辛仕立てだよ!」
パイモン「お〜!待ってたぜ!うーん!いい匂いだな」
蛍「これも瀞との共同料理なの?」
香菱「そうだよ。でも、これは瀞さん向け…というか、一般の璃月人向けの味付けだけどね」
パイモンは1口炙り魚を頬張る。その途端、パイモンはほっぺが落ちるかのような可愛らしい表情を見せた。その表情からして本当に辛さは抑えられているのだろうと蛍は確信し、パクっと炙り魚を頬張れば、口のかなで魚が踊り出すかのような濃厚な魚の風味と、その魚を支えるかのようにピリ辛なタレが絡み合っていてとても美味しい
蛍「ピリ辛って言うけど、そこまで辛くないんだね」
香菱「もっと辛さを足したい時は言ってね?追加の辛味ソースをかけてあげるから」
蛍「ありがとう。でも私はこれくらいがちょうどいいかな」
蛍は再び魚を1口食べる
しばらくして食事を終えると、そこに煙緋が何か困った様子で現れた。その姿は誰かを探しているかのようで、挙動不審―まではいかないが、怪しいような動きをしている。煙緋がそのような挙動なのは非常に珍しく、ホタルであっても新鮮であった
煙緋は探している挙動の中、蛍を見つけこっちに駆け寄ってくる
煙緋「旅人ちょうどよかった!今人を探していて…」
蛍「お、落ち着いて…ほら水」
煙緋「ありがとう――ふぅ」
水を飲んだ煙緋は一息つき、蛍に伝える
煙緋「ここに瀞さんは来なかったか?」
蛍「私が来るときにはいなかったよ。香菱は見てない?」
香菱「ここ最近は見てないかな…何かあったのかなって心配してはいるけど…」
煙緋「そうか…彼女に伝えなくちゃならないことがあったんだが…ここにも来ていないのか」
―ここにも。と煙緋はそういった。そのことからしてかなりの場所を駆け巡ったと予想できるが、それほど重要なことなのだろうかと蛍は少し考える
すると煙緋は蛍に一緒に来てくれないかと頼むと、蛍は急ぐ必要のある用事はないからいいよと回答する
煙緋「それじゃあ一緒にいこう。もう璃月港で瀞さんが行きそうなところは行ったんだが…なんにも進展がなくてな…」
パイモン「じゃあ璃月港にはもういないってことかな?うーん…瀞が行きそうなところ…無妄の丘とか奥蔵山か?」
蛍「申鶴とか甘雨にも聞いてみたいね」
煙緋「甘雨先輩か…甘雨先輩なら知っていると思うが、忙しいだろうし…申鶴さんは私とはあまり関わりはないしなぁ…」
蛍「ピンばあやには聞いたの?」
そういえばピンばあやも仙人だったと気付き、仙人ならば伐難と関わりはあるだろうと思いついた蛍は煙緋に聞く。すると煙緋は「ばあやには聞いていないな…」と言ったため、蛍一行はピンばあやの元へと向かった
その途中に数日間瀞を見ていないことについて蛍は考える。なにか重大なことが起こったのか、もしくは魈のように妖魔と戦っているか。だが、六花曰く伐難は魈とは違い、耐久性に優れているのだとか。もし伐難が妖魔と戦っているのであれば時間がかかる。そのためここにこれていないのかと予想する
だがあくまで予想だ。ほんとうの理由はわからない。最悪の場合でなければいいが…と蛍は心から思う
玉京台
玉京台に到着し、蛍たちはピンばあやを尋ねる。するとピンばあやはまるで待っていたかのようにお茶を差し出し、話をしようじゃないかとゆっくりと話しかけてきた
それはまるでこれから話すことがわかっているように――
ピン「よく来たね子どもたち。今日聞きたいのは瀞についてだね?」
パイモン「なんで分かるんだ…」
ピン「ほほっほ!実をいうと瀞から託されたものがあるんじゃよ」
そう言うとピンばあやは壺から一枚の手紙を出し、それを蛍に渡す
蛍はそれを広げてその内容を見る
―旅人さんへ。お元気でしょうか?この間の祭りは大盛況で楽しかったですね。私や六花、魈も陰ながら楽しんでいました。さて、私は少しの間、留雲のところに行ってきます。理由は教えることが難しいのですが、心配しなくても大丈夫です。私がいきなりいなくなり困っている人が現れていると思います。なので旅人さん、私は長い休暇を取っているとお伝え下さい。すぐには戻れませんが、必ず戻りますのでご安心を
それではまた会える日まで…
煙緋「休暇を取っているのか。それでは頼むことができないな」
パイモン「そうだな。どんな依頼なのかはわからないけど、オイラたちにできることならなんでもするぞ!な!旅人!」
蛍「………」
蛍はその手紙を呼んで違和感を感じる
この手紙の感じからして、伐難はみんなに迷惑をかけたくないような…そんな感じがしている。迷惑をかけないようにみんなと距離を開ける…苦しんでいる人がよくやりがちな行動だ。もし伐難が苦しんでいるのならば、助けてあげたいと思う
だが、集中しすぎているせいか、蛍はパイモンから呼ばれていることに気づく事が遅れ、なんの話だっけ?と聞き返した
パイモン「大丈夫か?なんだかボーってしてるけど…」
蛍「大丈夫だよ。で、なんの話?」
パイモン「オイラたちで瀞に依頼された事をやるんだ!いいだろ?」
蛍「やること無いしいいよ。それで…どんなことをすればいいの?」
煙緋は依頼を蛍に話す
それは蛍にとって簡単なことばかりであった
煙緋「旅人がいてくれて良かった。それじゃあまた」
そう行って煙緋は帰ってゆく
早速取り掛かろうかと思ったその時、ピンばあやは六花に声をかけた
ピン「旅人、少しよいか?」
蛍「…伐難の事だよね?」
ピン「ほほっほ。察しが良くて助かるのう。実を言うとな、伐難は業瘴を患っているんじゃよ。それも魈や六花とは比較にならないくらいの巨大な業瘴をな」
ピンばあやの話を簡単に話すと、夜叉は本来から業瘴を患うものだが、定期的に発散しなくては体の中から蝕まれてゆく。伐難は業瘴を定期的に発散していたのだが、それよりも業瘴の増加スピードが早く、どうしたらいいかわからない状況になっていた。だから今回、俗世を離れ、留雲や他の仙人と合同でどうにかできないかという話になったのだった
そして業瘴を払うには本人の心の状況も大事であり、
ピン「だから伐難の見舞いに行ってはくれまいか?そうすれば伐難も少しは心が休まるかもしれないからのう」
パイモン「でも…瀞は心配かけたくないんじゃないのか?」
ピン「伐難は人を思う子じゃ。人には迷惑をかけたくないのじゃろうが、その本心は寂しがっているのかもしれないのぅ。だから会いに行っておくれ」
蛍「うん。わかった」
そういって蛍は伐難に会いに奥蔵山に向かう
どれほど苦しんでいるのかは蛍には想像ができない。もしかしたら動けないほど苦しんでいるのかもしれない。それだけでなく、寂しさという苦しみも背負っている可能性もある
蛍はその苦しさを少しでも和らげたいと思った
だが、蛍は知らなかった
その夜、あの優雅な仙鳥が自身よりも強い力を持ったものに恐れ慄き、自らの仙府をあとにする事件が起こることなど、知るよしもなかったのだ
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