―夜叉。それは自らの主の命に従い、その契約の通りに自身を働かせる者たちのことである
ある人はこの世の魔を滅するため、その身が業瘴に蝕まれても戦い続ける
またある人は自らの主を護るため、自らの主が愛した人々を護るために戦い続ける
だがそれは契約をした者が自らの自我を保っているからであり、その約束を忘れていないからである
もし、その契約したものが自我を失い、その契約を忘れることになってしまえば…その後はどうなるかはその者にも誰にもわからないのだ
例えばかの仙衆夜叉のように―――
――瀞side――
目が覚めると、瀞は真っ黒な空間にいた
それは冷たくも暖かくもなく、なんとも言えない空間であった。例えるならば精神の世界…とでも言ったらいいのだろうか。特別明るいというわけではないが、真っ暗というわけではない。自分の体は見えるし、辺りを見渡すこともできる。だが、見渡しても真っ暗なものは真っ暗なままだ
―どうしてここにいるのか瀞は考える。たしかここに来る前は留雲のところにいて業瘴の手当をしていたはずだった。そして、夜になり身を休めようとしていたはずだった
ここはなんなのだろうか。もし、瀞の夢の中なのであればなぜこのような夢を見ているのだろうか
『――久しぶりね。瀞』
瀞の声によく似た鋭い女性の声が空間に響き渡る
瀞はその声に聞き覚えがあるも、あり得るはずのない声だと思った
『―ありえない?それは何故?』
瀞の心を読むかのように彼女は声を響かせる
その様はまるで螭龍に対抗する岩王帝君かのようであり、瀞の心をすべて透かしているのかもしれない
彼女はまたも声を続ける
『―もうすでに失くなったモノだと思ってた?もう自分とは離れたものだと思ってた?残念。私はあなたが居続ける限り生存する。あなたの業瘴が私を生き続けてくれるの』
彼女は鋭い声でふふっと笑う
その笑い方に瀞は懐かしさを覚えつつも、彼女はかつてともにした彼女ではない事がその言葉の中に入っていた
彼女の名前は――濫。魔神戦争時代に出会ったもうひとりの瀞である
彼女もまた岩王帝君と契約を結んだ夜叉の一人であり、隠れた仙衆夜叉の一人であった
瀞が危機に瀕した時、彼女は現れて瀞が安全に療養できる環境を作っていた
だが彼女は力を行使し続けた結果、自らが使う業瘴に耐えきれず、瀞の中で消失した…はずだった
濫『―不安?私が行きてて不安なの?』
瀞(そういうわけじゃ…)
濫『―まぁいいわ。あなたは今苦しんでいる。私に課せられた契約は《瀞を護る》こと。なら私の出番じゃない?』
瀞(だめ…今のあなたじゃ私を護ることは出来ない!)
そう瀞がいうと、またも濫は笑う
濫『あなた今自分の状況に気づいて無いでしょう?』
瀞(…私の状況?)
濫『―今貴方は業瘴に侵されてる。業瘴は私の力の源…大丈夫、あなたが復活するまで私がアナタの変わりになってあげる。私ならあなたができないこともできるわ。あなたが嫌な事、あなたが拒否することも"全て"やってあげるわ』
それを聞いた瀞は少し恐怖を覚える
彼女は純粋で、言われたことを素直にやる。それはなんの比喩もない言葉通りの意味である。なぜなら今まで帝君の命をなんの異論も抱かずに行動し続けてきている。それほど彼女は命じられたことに純粋なのだ
逆に捉えれば、それは純粋すぎると言い換えられ、瀞が嫌な事、拒否すること全てをやるということは、つまり瀞が心から守りたい人々が傷つく可能性もないとは言えない
瀞(まって!濫…!)
言葉は虚無の空間に消え、濫にはその言葉は届かなかった
このままでは璃月どころか岩王帝君にも迷惑をかけてしまう。瀞はそれはダメだと思い、体を動かそうとするも、鎖で繋がったかのように体は動かず、体は不動であった
―叫ぼうにも叫ぶ程の力はなく、ただ息が盛れるのみ
瀞(…どうしよう…助けて…六花…旅人…)
―その時、伐難の頭上に光が灯る
それは心が休まるように温かく、体にまとわりついた重いものが無くなっていく感覚を覚える。そしてその光は、髪の長い女性の姿に変わり伐難に優しく触れる
触れられた伐難は重いモノから完全に解き放たれ、体が楽に動くようになった
瀞(あなたは………)
『――すべての母として、私はあなたを助けます。そしてあの子を助けてあげなさい』
瀞は光の女性が手をかざすのと同時に水で構成された仙獣の姿になった
変身した瀞はそのままその空間からは消え、残ったのはその光の女性のみ。その女性はその空間で一人言葉を発する
『――瀞は気づいていませんが…この空間は彼女の中にもとからあったものでは無いですね…もとからあったのかもしれませんが、もしかしたらあの子が…』
濫は痛む瀞の体を動かし寝ている状態からムクリと体を起こし、手を開閉させて意識と体を馴染ませる。体は昔と変わらず自由に動くが、言語機能が些か機能していない。声は出せるのだがあまり凝った言い方は出来ず、簡単な単語しか話せない
―長い時から目覚めた後であるため、その弊害なのだろうか。じきに治るだろうと濫はその弊害を放置しておく
少し歩いて見ようと体を立たせた濫は異様な感覚を取る。それはまるで殺気を持った何者かに包囲されているかのようで、気分が悪くなった
これも長年の弊害かもしれないと思ったため一歩踏み出すと、濫の足元めがけて仙力を持った矢が飛んでくる
その行為から、弊害などのものでなく完全にこの身を滅しようとしている者の攻撃であると判断した
濫(久々の戦闘だから――私を楽しませなさい!)
濫は体の中にある業瘴を纏わせるかの如く開放し、飛んでくる攻撃を業瘴の炎で燃やし尽くした
そして攻撃してくるモノを本能的に壊すべく、昔のように――契約に従い、瀞が――なるようにその手に赤く大きな鉤爪を形成し、ニヤリと口角をあげた
UA20,000人+お気に入り100人突破を記念して記念作品を作りたいと思います!アンケートの期間は伐難の伝説任務終了までとし、他にしてほしい事などあればこの話の感想などに書いていただけると嬉しいです!
伐難の伝説任務はまだまだ続くよ?