「うっ……」
目を覚ますとそこは見知らぬ天井であった。否、"この体は"覚えている。ここがどこで、どんな場所なのか。誰が住み、誰が来るのか
しかし、その心は違った。複雑な感情の中、少女は体を起こす
「我は確か……」
何故ここに寝ているのかを思い出す。糸を手繰り寄せるように、その体から得られる記憶と心から得られる記憶。集中してその記憶たちを整理する
―少女の名は蒼炎。そして心で感じている者の名は申鶴。そしてこの場所は璃月のどこかにあるという仙人の里で、数多の仙人がここに住んでいる。留雲借風真君や理水畳山真君。削月築陽真君もここで過ごしているという記憶がその体にはある
申鶴(しかしどうして…この感じからするとここは過去なのか?それとも記憶なのか?)
蒼炎の体はまだ幼く、不思議な感覚もある
体を起こそうとしたら少し体が痛む。よくよく観察すると、体には包帯が巻かれており、どこかで怪我をしたのだと思い出す
すると、水色の少女が現れ、「どうして起きたの?」と一言。その少女は優しく接してくれて、看病してくれている人なのだろうと察する
申鶴『すこしお水を飲みたくて…』
少女の口が勝手に動く。申鶴は意識していなかった。おそらくこの世界、この見ている景色は記憶のものであるため、直接手出しは出来ないのだろう
――申鶴は看病してくれている少女に見覚えがあり、じっと見つめる。母のようなその笑顔、優しそうなその目…それはあの人に似ていた
申鶴(瀞…なのか?)
とても似ているのだが、少し幼さを感じさせる瀞は少女の目の前にコップを差し出し、その中に水をチョロチョロ…と入れてあげる
瀞「はい。ゆっくり飲んでね」
申鶴『ありがとう…青のお姉ちゃん』
少女はゆっくりと水を飲むと、体が少し軽くなり、痛みが引いていく
力が戻る感覚というのが表現として最適な感覚であり、飲んでいる水は一般的なものではないことがわかった。仙人の里であるからかその水も仙力を持っているみたいだ
すると、玄関の方から瀞によく似た少女が食べ物を持って入ってきた。しかし瀞とは違い、髪は黒で先にかけて赤くグラデーションされており、目つきは瀞とは反対で怖いという印象を持つ
―申鶴はその感覚をつい最近感じたのを思い出した
だが、その声はその時感じた恐怖とは裏腹に、安心できる話し方であった
黒瀞「起きたのね。ほら、これ食べなさい。今取ってきたものだから安心して」
申鶴『ありがとう黒のお姉ちゃん…』
感謝をした少女はその食べ物を食べる。その間、その黒い瀞について申鶴は考えていた。彼女は何者で、どうして瀞に似ているのか。そして以前感じた恐怖感と相対するその安心感。以前襲われたモノとは違うものなのだろうか
瀞について申鶴はまだ知らないことが多い。この体の記憶でも特に目立った記憶はない。近くの優しいお姉さんといった記憶。その隣の黒い瀞についても同様
黒瀞「でも不憫ね。その年で業瘴に見舞われるなんて…」
瀞「業瘴は体を蝕む…私達でも厳しいところはあるけど、蒼炎は――」
黒瀞「きついわよね。私もまだ未熟だから業瘴を引き受けることは出来ないし、時間が許してくれるならもっといい対応ができるのかもしれないけど、生憎今は力のある仙人はすこしでかけているし…私達がどうにかするしかないわ」
黒い瀞は少女の頭を優しく撫でる
その瞬間、少女に猛烈な眠気が襲ってきた。申鶴もその眠気に引き寄せられ、意識を保つことが難しくなってくる…まだあの空間にいたい。まだ瀞たちと話がしたいと心が言っていてもその体は休む事を願っている
瀞「眠たくなったの?……やすみ………で…」
瀞の声が徐々に消えていきやがて聞こえなくなった
「ちっ…余計な事を」
『これ以上…あなたの好きなようには…させない―――!』
「でもどうやって我を止める?お前は我の業瘴に支配されている。それ故その制約を自らの手で解放することなど出来ないはずだ―ほら、どうだ?」
『っ―――』
「痛むだろう?大人しく我の言うことを聞くが良い。そうすれば、お前が望む世界を作ってやれる」
『わ…たしは…』
「瀞の苦しみがないような世界を作る。そのためには、徹底的に問題を排除しなければならない。これはお前の希望だろう?」
『ちが…そんな願いのために――私は彼女を守ってきたんじゃないわ…!』
「その決意もどこまでかな。すぐに我の業瘴に支配されるだろう。そうすればお前はその願いを叶えることができる」
『くっ……貴女を殺す――!』
申鶴(今のは……)
記憶の世界から戻ってきた申鶴は誰かが言い争うような会話を聞いた
それは聞き覚えのある声と聞き覚えのない声。聞き覚えのある声は記憶の中で会話した黒い瀞の声であったが、聞き覚えのない方は記憶の世界の記憶を辿っても判断がつかない。本当に知らない人である可能性が高いということであろう
申鶴(話の内容からして…黒い瀞が操られているような印象を受けたな。もしかしたら、我を襲ったのは操られている黒い瀞なのではないか…?)
助けてあげたいという意識はあるが目の前は真っ暗であり、何も見えない
それだけでなく、動かそうとする体も全く動かない。それはまるで凍った鎖に繋がれているような感覚とも言える
申鶴(くっ……力が抜けていくようだ…)
抵抗すればするほど体力が失われていく。抵抗せずに助けを待つのが最適なのだろうか
しかし助けは本当に来るかすらもわからない。現実はどうなっているのだろうか。襲われてからどうなったのか、それは申鶴にも他の襲われた人にもわからないことである
申鶴「助けに来てくれ………旅人」