ほがみ⛩って名前です。見なくても別に先生は怒りません。見てくれたら嬉しいなってだけの話です
では本編へ
碧水の原の湖に浮かぶひとつの島。魈はそこでいつもと変わらずに妖魔の退治をしていた。月夜に照らされしその姿は、懐かしの仙衆夜叉のみんなと共に戦った時の姿のようであった
―妖魔を退治し終わり、魈は近辺の危険がないことを確認すると、その場に座り込み、瞑想を始める
最近は出来なかった瞑想。しかしやらなくては刻々と業瘴が体を蝕み、正気を保てなくなってしまう。瞑想をすることによって、自分は何者か。なんのために生きるのかを改めて実感させるのだ
魈(…………)
辺りには揺れる水面の音、風の心地よい声、草木が囁きあうかのような草の擦れる音だけが魈の耳に届く
―いつもは望舒旅館の頂上にて瞑想するが、今日は趣向を変えてその場で行っている。それも悪くは無いと魈は1人思う
すると、何者かの足音が聞こえ始める
人か。獣か。妖か
目を瞑った状態の魈には判断がつけにくい。頼れるのは、五感の2つである感覚と聴覚。それ以外は使えない
魈(…人型…1人か?…ヒルチャールよりも大きい…妖魔の気配が少しあるな…弱い妖魔に取り憑かれた人か?)
「魈」
突如呼ばれたその名に、魈はリアクションを返す。目を開いて目の前にいるモノの正体を確かめれば、それは見た事のある女性であった
仙衆夜叉が1人、水元素を使う夜叉伐難。数百年前と変わらず、その姿で魈の目の前に立っていた
だがしかし。魈は少し警戒していた
その伐難からとてつもないほどの業瘴を魈は感じ取っているから。少しならばまだわかる。魈でさえ積りに積もった業瘴を完全に封じ込めることは出来ないからだ
そう思いつつ、魈は警戒をしながら伐難に問いかけた
魈「…なんのようだ」
伐難「会いに来たくなっただけ。それ以外に理由必要ある?」
魈「…こんな夜中にか?」
伐難「夜の方が探しやすいし、心地いいから」
何気ないような会話
しかし魈にはわかっている。この伐難は本物ではない可能性が高いことを
そこで魈は少し探りを入れてみる。今目の前にいる伐難が本物なのかどうか…偽物であれば…
魈「心地いい?この前は夜は好きではないと言っていたのに、心地いいのか?」
伐難?「そ、それはね…」
魈「確かに今日は月が綺麗な日だ。だか、こういう日こそ妖魔は活性化しやすい。いくら夜叉とはいえ、1人で出歩くのは遠慮しておけ」
伐難?「大丈夫!私なら全部倒せるもん!」
自信満々に語る伐難に確信を突く問いを投げた
魈「私なら…か。業瘴の影響はどうした?」
伐難?「…え?」
魈「業瘴の影響でお前は本来の力を出すことが出来ないはずだ。その身に刻まれた業瘴は体を蝕み、かつての力も出せなくなっている。なのにお前は全て倒せると回答した。それも見栄をはっている用ではなく、心からそう思っているようであった」
伐難?「………」
魈「―問おう。"貴様は誰だ"」
魈が吐いた言葉はざわめく草木により姿を消す。そして虫の音が、魈と伐難の耳に届き、辺りが月が雲に隠れた影響で少し暗くなる
伐難は未だ不動。一言も話さず、そこにいるだけ。魈はその態度を見て確信した。これは伐難では無い
再び月が地上を照らすとき…伐難の瞳がギラりと輝いた。そしてニヤリと口角をあげ、八重歯を見せる
その姿は、伐難ではなかった
青かった髪は毛先にかけて赤く染まり、服もそれに乗じるかのように赤く染まる。優しさがあったあの瞳は血のように紅く、他者を見下すような鋭い目つきになっていた
伐難?「あーあ…バレちゃった。貴方って鋭いのね。でもいいや。貴方はここで死ぬ。それが運命」
魈「戯言を。貴様は所詮伐難の幻影。その力は夜叉には及ばず、ただの影でしか無い」
伐難?「本当にそうかな?」
魈「…何が言いたい」
ニヤリと笑った伐難に対し魈はさらに警戒を強め、手に和璞鳶を装備する
ここに来た理由は魈に会うため。そして伐難は「あなたはここで死ぬ」と言ってきた。つまりは、ここで魈を殺害するつもりだろう。その姿、その様子からして魈を殺すことなど簡単であるとでも言うかのようであった
伐難?「私は"私の力"を手に入れた。なんの制約もなしにね」
―なんの制約もない。つまり業瘴の制約を受けていない。それすなわち全盛期の伐難と同等。いや、それ以上なのかも知れない。かつての伐難は魈よりもすこし強いといった実力で、魈を倒すなんてことは出来なかった。なのに今、この場にいる伐難は確実に魈を殺せる算段がある―もしくは実力があるのかもしれない
伐難?「それじゃ、はじめましょ?あなたの最後の物語を――!!!」
魈「っ――!」
甲高い金属音が空気を震わせる
突如攻撃してきた伐難に魈は和璞鳶でその攻撃を弾く。伐難はその両手に大きな紅い爪を備え、次々に攻撃を魈に浴びせる。それは確実に魈を殺害しようとしているモノの姿であった
魈はひたすらに攻撃を弾き、伐難から距離をとろうとするも、すぐにその距離を詰めてきてまた同じ体勢になる
―押され続ける。このままでは負けてしまう
魈はどうにかしなければと思い、儺面をかぶり戦闘を始めた
伐難?「やっと本気になってくれた…うれしいわ!」
魈「はぁはぁ―貴様…何者だ…」
伐難?「私は
魈「そんなはずない…だって」
―伐難の実力は魈と互角であり、昔手合わせしたときも勝敗がつかなかった。その伐難の影であるのなら。伐難そのものであるのなら――実力はあまり変わらないはず…数値で表すなら、昔の伐難と魈は1:2くらい
しかし、今目の前にいる伐難と魈を数値で表すと…10:1。それも魈の素早さを含めた値であるため、変動することはない。目の前にいる者が本当に伐難の影ならば…彼女はそれほどに実力をつけていたということだろう
伐難?「あの子は弱かった。だから私がきたの!これなら…あの無名夜叉にだって勝てるわ!」
魈「無名―夜叉…?」
分からなそうに聞く魈に伐難はあざ笑うかのような笑顔を見せた
伐難?「知らないの?あの厄災のとき、層岩巨淵で最後まで人間と共に戦ってた無名の夜叉――自分の名前も自分の家族すら忘れて―無様な人。確か雷の力を使っていたそうな…」
魈「まさか…そんなわけは――貴様、ホラを吹くのもいい加減にしろ」
伐難?「なに?怒っているの?ならあなたに何ができるの?」
魈「貴様――???」
伐難に向かって歩もうとするも、魈は動くことができなかった
足元を見てみれば、そこには黒い水のようなものが魈の足に纏わりついていて、それが魈の行動を抑制しているようだ。と、その瞬間…魈は徐々にその黒い水に飲み込まれていく
それはまるで沼地のように…ズブズブと沈み込んでゆく。風の力を使ってそこから出ようとするも、何故かその水は拡散することはできず、魈は虚しく水に飲まれてしまった
伐難?「魈でさえこれほどのちからなのね…正直期待外れ。長年戦ってきた歴戦の夜叉でさえこんなんなら…現代の人が楽しめないのも納得だわ」
伐難は水溜りに手をかざすと、その水溜りから紅い水晶が現れる。それをよく見てみると、中には先程戦った魈が入っている。その水晶を月にかざすと伐難はこういった
「あなたに会うのが待ち遠しいわ―――瀞」
その後、何もなかったように伐難は消え、そこにはいつもの風景が戻ったのであった