パイモン「お、オイラには見えないけど…なんだか異様な気配を感じるぞ…!」
蛍「これはただものじゃない…早く始末しなきゃ、璃月全体が危ない」
そう言って蛍はその木を注目し、弱そうな部分を見つけようとする
しかし近づこうとすればするほど、胸が締め付けられるように苦しくなる。まるで体の中の力を抜かれるように――蛍が近づくと同時に、その木も段々と自らは行きていると言わんばかりの煌々しさを放つ
それをみたパイモンは心配するが、パイモンにはなにがどうなっているのかあまりわからない
―とその時。木の方から何者かが歩いてこちらに向かってくる
かすむ目でその人を見ようとするが焦点が合わず、誰だか判断しづらい
「人の身でありながら…どうやってここまで?」
パイモン「お、お前は―!」
瀞(濫!?でも昔と違う…まさか…?!)
瀞は今できる全力を使って蛍にかかる業瘴を身に受けると、目のかすみが取れた蛍は間近でその人を目にする事になった
―その人は黒い瀞であり、目つきは鋭かった。そして黒い瀞の後ろの方に例の黒い炎はくすぶっていた
濫「問おう、人の子よ。貴様はどのようにしてここまできた」
蛍「残った痕跡を辿ってここまできた――」
濫「そうか…”この体”を完全には制御出来ていなかったか…なんともまぁ夜叉の体は複雑なものだな」
パイモン「この体って…業瘴は人格も乗っ取れるのか!?」
濫?「鋭いな小さき子。この体、濫という名の夜叉はもう存在しない。我の業瘴で完全に消え去った。もう少しすれば我も体を再生できるしな」
そう口にしてその女性は踵を返した
蛍はその女性を追いかけようとするも、体が思うように動かず、追いかけることが出来ない。それに気づいた女性はこちらを振り返りニヤリと口角をあげてこういった「行方不明になっているものを助けたければ、追いかけてくるがいい。できるものならな」と煽るように言い放った
瀞『旅人さん、一度深呼吸してください…業瘴を受けたまま行動するのは危険です。私も精一杯がんばりますが、私にも限りがあります…』
蛍「うん――すぅ………はぁ…」
深呼吸すると、少し気が楽になる。蛍の呼吸のタイミングに合わせて瀞は業瘴を消散しているようだ
それから何分か経ち、蛍の中に溜まっていた業瘴はほとんど消散した。落ち着いた蛍はその植物を観察すると、根本の部分に秘境の入り口のような門が見える
瀞の力を使って業瘴の気配をたどると、先程の女性が通ったと思われる足跡も見え、その門に向かっていることがわかる
蛍「あそこに行こう。パイモン、あれ見える?」
パイモン「ん?あそこは……昔に行った地下遺跡が崩れたところじゃないか?」
蛍「そうじゃなくて…なんか門みたいなのがあるの、見えない?」
パイモンはうーんと唸る。やはりパイモンには見えていないようだ
なにかパイモンにあっても悪いと思い、蛍はパイモンに後ろに隠れててもらってその門に向かって進み始めた。進めば進むほど体が重くなっていく。それはまるで体にドロがかかっているかであった
―間違いない。このさきにやつはいる。そしてあの言葉が正しいのなら…この先に行方不明になっている人たちがいるはず
門の目の前に立つと、その門に引き寄せられるかのような感覚が蛍を襲う。少しでも油断したら、深淵に引き込まれる。油断してはならないと、その心に決意した
―だが、そのときは突然だった
その深淵と例えるのに等しい扉が暗く光ったかと思うと、その門が突如開き、昔鍾離とクンジュともに行った若陀龍王の入り口に引き込まれるときと似ている感覚があった
パイモン「うわぁ!!な、なんだ?!引き込まれる!」
蛍「うっ――引き寄せられるっ――!」
瀞(これは――!)
その直後、三人はその門の中に引き込まれてしまった
突如引き込まれた蛍たちは禍々しい洞窟のような空間に放り出され、ドスンと尻もちをつく
イタタタとつぶやく3人。気づけば瀞もその身を得ていて、あの水の狐の姿はなくなっていた
瀞「どういうこと…なんで私…」
パイモン「なんだか気持ちの悪いところだな…旅人はこんなのをさっきからみてたのか?」
蛍「うん。見えてた――って、パイモンにもこの景色は見えているの?」
なんだか不思議なところだなと思う蛍だが、瀞のことも気になる。どうして今、瀞の体が戻ったのか。水の狐の体は精神体であるとも言っていた。その体ではなく、いつもの人の姿になっているということは、体を手に入れたということなのだろうか
そのことを瀞に聞くと、瀞もわからないといった表情を浮かべ、考える様子を見せた
瀞「…この体。まだ肉体ではないみたいです。精神体でありますが…かなり確立することができています。おそらくこの場所が私をそうしているのでしょう…」
蛍「業瘴が溜まる場所にある謎の秘境…業瘴が瀞の体を再構築したってこと?」
瀞「そう考えるのが妥当でしょう。とにかく先に進みましょう。早く行かないと――嫌な感じがする」
そう言って瀞は歩き始めた。その背を追うようにパイモンと瀞はついて行く
この黒と紅の禍々しい空間は、まるでナニカの口のようにその3人を飲み込んでしまった。その傍ら、先程蛍たちに顔を見せた女性は不気味にほほえみ、その光景を見ていた
?「―無様なものよ。自ら業瘴の海に飛び込むとな。このセカイから抜け出す方法はない。このセカイで我の力の糧となるがいいぞ…」
一つ。女性につながる管のような業瘴に力の塊が走ってきて、女性の中に入っていく
その瞬間、女性は酔いどれの心地の良い感覚と似た感情をその身に感じた
―あぁ。ついに念願の復活を果たせるのかと。再び自らが歌うこの"歌"をテイワット中に響かせることができる―その女性はその瞬間を心から待っていた。少し前に封印を解かれたものの、宿敵にその胸を穿たれ、その身を"この場所"で失った
幸い、伐難に付着していた業瘴が伐難の中に潜む濫と反応して、濫の体にて再び復活することができた…
?「この体ももう要らんな」
どさっ…と瀞の体が地面に落ち、代わりにその場に立っていたのは、赤髪で背が高く夕日を背負うような服を来た女性であった
その女性は自らの体をまじまじと確かめるかのように確認する。手を開いたり閉じたり。そして小さな声で発生練習したりと、いろんなことを試していた
?「ふぅ…やはりこの姿は落ち着くな」
そう言ってその女性は業瘴の壁に消えていった
残されたのは、横たわる瀞の姿。瀞の体には今何も入っていない
否、入っていたものはもう業瘴によって壊れてしまったのだ。長年瀞を支えてきたその体は消えかけの松明のようにか弱く、今はもう灰燼に帰すように燃え尽きかけているだけなのだ
―誰かがそこに新たな薪を焚べてあげなければ、潰えてしまう
彼女はもうそこまで付きかけている状態であった
長年の業瘴は瀞のためと思えば苦ではなかったが、今はその瀞もいない。願いは空回りし、その願いを叶えるための力のみが濫の体で燃え続ける
濫(…………)
意識はもうない。あるのはその心に残った燃えカスのような願いだけ
妹である瀞を幸せにするという願望のみが残っている。
そして彼女は―――――
―――夢を見た
――嫌な夢であった
―みんなで過ごした自分の故郷が侵略者によって燃え盛る思い出したくもない夢
しかしそれは確かな希望を持つ最初の種火であった
濫という名を持つ前の少女はただ一人の妹を護るためにその華奢な手を引いて安全な場所に連れて行こうとする
しかしその侵略者はただ己が願いの、私欲のためにその力を使っていた
―なにが神だ。なにが全ての人は救済されるだ。バカバカしい
本当に神がいるのであれば今ここで助けてほしい
この災厄の輪廻から私達を救い出してほしい
だがその願いは幾度叫んでも届くことはない
なぜなら神は"すべての人に平等"だから
一人に加担してしまえば、もうひとりに加担することはできない
一人に味方すれば、もう一人にしてみれば敵になってしまう
そう、"平等"は"機会”でしかないのだ
故に神はこの幼い少女達に救いの手を差し伸べることはできない
否、しないのだ
ならばどうするべきか。瀞の姉としてどうするべきか
そんなものとっくの昔に決意している
「神が助けないのなら…私が瀞を助ける―!もう悲しむことがないように――!」
―濫を蝕んでいた業瘴が濫に魅せた夢は、消えかかっていた濫の心の中に沈んでいた願望に再び熱を灯し、烈火の如く燃え始めた
それは濫が生きる証である炎で、業火であるが心優しい温まる炎であった