私は最近、どっちにも手がつけられてない状態でして…辛いです
崩壊を始める洞窟から逃げる四人。早く逃げなくては助かる者も助からないだろう
走りながら蛍は思い出す。行方不明の人はどこへいったのかと。もし、この場所に囚われているのならば、早く助けなくてはならないと
蛍「魈、この洞窟に捕まっている人を見なかった?」
魈「見たぞ。だが、安心すると良い。我が先に地上へ戻しておいた」
蛍「仕事が早いね…ありがとう」
魈「…別に。我は頼まれたからやったまでだ」
少し照れくさそうにつぶやく魈
しかしそんな中でも崩壊は進み、焦りが生じる。自由になった業瘴は次第に形を作り、蛍たちに襲いかかってくる。それはまるで逃しはしないと歌の魔神が言っているかのようで、恐怖さえ覚えるも、倒しつつ先に進んでいく
瀞「―往生際が悪い!」
魔物「ギャァ…」
倒した魔物からは何も出ず、ただ霧のように消えてゆく
魈「早く先に進むぞ」
瀞「うん!」
出口であろう場所に向かって頑張って走るが、なぜか来た時よりも複雑な道となっていて困惑する
魈が進んだ道も、蛍たちが来た道も全てなくなっていて、新たな道となっている
―不安はあるが進むしか未来はない。後方は崩壊していて、どうしようにもないから
『逃さぬ…逃さぬぞ…』
崩壊する音に紛れて聞こえる歌の魔神の声。
憎悪。執念。嫌忌―それらすべての思念は一つの集合体となり、業瘴に交じる。はるか昔からの魔神の野望は死してもなお潰えることなく旅人たちに襲いかかる
…正直言ってしつこい。例えるなら、別れたカップルの一人がもう結婚している人に復縁しようと呼びかけているようにしつこい
だが、それはもう終わる
この洞窟とともにその魂は永遠に青い炎で燃え続け、もう一生現世に戻ってくることはないだろう
――落下してくる岩石を左右に避けながら先に進む
徐々に来た道のように変化しており、もうすぐで出口だと直感が言っている
魈「…貸せ」
蛍・瀞「え?ちょ――!!!」
いきなり二人の手を取った魈は、蛍を抱えあげて瀞を方に乗せる状態になる
そしてかなりのスピードを出して後方の崩壊から差をつける
パイモン「もうすぐ出口だ!」
パイモンの声で一気に駆け抜ける
もうすぐ出口――と思ったのも束の間。たどり着いた先は何の変哲もない壁であった
それをみて瀞は思い出す。私達は物理的に入ってきたのではないことを
蛍「どうしよう…」
次第に崩壊は迫って来る
逃げ道のないこの空間をどのようにして逃げるか。魈は槍で壁を攻撃するが、謎の力で弾かれる。それを見た魈は察した。「この壁はここにいるものでは壊すことは愚か、傷をつけることすらままならない」ことを
―これは普通の壁ではない。業瘴で作られた壁だ。魈たち夜叉には妖魔を祓う力は有れど、業瘴を祓う力は無いに等しい。あったとしても自分の中に溜まった業瘴を祓う程度しか持てないだろう
魈「っ―――」
瀞「魈…それと旅人さん。あなた達だけでも逃げてください」
パイモン「え?!でもどうやって…」
瀞は両手を差し出し、目の前に大きな水の塊をつくりだす
それはまるで子を包む聖なる水のようで、目が惹かれるものであった
瀞「これに入ってください。これなら業瘴を弾いて外に出ることができるでしょう」
魈「…お前はどうする」
瀞「どうにかする。きっとどうにかなるから」
蛍「どうにかなるって…そんなの――」
―犠牲になるという意味――
そう蛍が言葉を発しようとした瞬間。頭上の天井が崩れてきた
ハッとしたのも束の間。考える間も無く次第に天井は迫ってくる。逃げるまでの時間は残り少ない。魈と旅人だけなら逃げれるかもしれないが、水の力を凝縮させた瀞もこの場に居るため無駄な動きは避けたい
―魈の攻撃なら天井を防げる?それは否。その天井が一枚の板のようなものであれば防げたかもしれないが、この天井は洞窟のようなもの。層岩巨淵のように業瘴が固まって出来た洞窟のような場所なのだ
故に魈がそれを防ぐわけにも行かない。だがこのままわけにも行かない。右往左往する思考を焦らせるかのように天井は迫ってくる
蛍「くっ…」
もうダメだと思い目をつむった瞬間――突如岩が砕け、崩れた天井から外の光が見えた
パイモン「なにが起こったんだ…?!」
「間に合って…良かった…」
声が聞こえた方を向くと、瀞によく似た姿の少女が立っていた
髪は毛先にかけて赤く、インナーは真っ赤に染まっている。しかし瀞のような優しい目ではなく、少し厳し目の目だが…
魈「お前は―――」
瀞「濫…!」
瀞は少女に駆け寄り、懐かしむように挨拶を交わした
濫「積もる話はあるけど―まずはここを脱出しなさい。みんな巻き込まれちゃ、元も子もないわ」
魈「だが我らは幽閉されている。以前と違ってこの不安定な業瘴を我は祓うことなど出来ないぞ」
濫「あなたに出来なくても私にならできるわ。私の力は業瘴を祓えるから。瀞、その水を貸しなさい」
そう言われて瀞は濫に水の塊を渡す。水の塊を手に取った濫はその水に自分の力を込めてその水に炎を纏わせた
水なのに炎で燃えているという不思議な現象。それはこの世のものとは思えないほどきれいなものであった
夜叉である彼女たちだからこそできる技なのだろう
―とその時。後方の方から勢いよく崩れてくる音が聞こえ始めた。もう時間は長くはないのだろう
濫「ここはもう沈むわ。だから早く逃げなさい」
瀞「濫はどうすn――ちょ―――!」
瀞が言い終わる前に濫は水の塊の中に三人を格納する
なにか言いたいように瀞は水の塊の中で声を上げるが、濫の耳には届かない。だけど、瀞の言いたいことはわかる。なんたって自分の妹なのだから
濫「そうだ、忘れないうちに渡しておくわね」
そう言って濫は手を差し出すと、手のひらが光輝いて、その光が瀞の胸の中に入っていく。光が完全に譲渡されると濫の体はすこし透明となり、今にも消えそうにそこに立っていた
光の正体は、瀞の肉体と濫の業瘴を祓う力の塊。つまり伐難としての力を完全に渡したと言うこと
その真意を悟った瀞は必死に水の塊から出ようとするも、濫が加えた炎によって遮られる
瀞『ちょっとー!濫!!!』
濫「ごめんね。助かる方法はこれしかないみたい」
そう言って濫は指をシュッっと上に切った
すると瀞たちが入った水の塊はふわりと宙を舞い、頭上の光を目指して上昇していく
―遠ざかっていく濫に向かって瀞は、必死にその水から出ようと藻掻くも、出ることは出来ない。魈も自分の力を使ってその水を発散させようとするも、一向に散る気配はなく、無惨に消えてしまう
魈『っ――二度も助けられたのに、我は助けられぬとは―!』
瀞『どうして…私のたった一人の妹なのに…―また失うなんて…』
蛍『……』
号哭は水に響く
濫を思って下を見た瀞は、業瘴が洞窟という形を成さずに波のようになって濫を飲み込んだを目撃する
その時の濫の顔はニコッと笑っていたのかもしれない。だが、瀞はそんなことよりも唯一人の妹を失った感情のほうが大きかった
瀞『濫―――!!!』
瀞は精一杯のちからで水の壁を押す
―失ったものを取り返さなくては
――もう二度と失いたくないから――
――『やめなさい。あなたは一人で生きれるでしょう』――
瀞「……うるさい」
――『私の役目は終わったの。これからはあなたの出番よ』――
瀞「…終わってない」
――『なんでわからないの?』――
瀞「…わかってないのはそっち」
――『優柔不断で罰を与えることも出来ないくせによく言うわ』
瀞「だからこそ――
その時、瀞が力をかけていた水の壁が壊れ、瀞は一人宙に放り投げられる
―これはチャンスだ。帝君が与えてくれたチャンスなのだという気持ちを持った瀞は一直線に欄がいたところに落ちていく
それをみた魈がまずいと思って後を追うとするも、蛍からそれを止められる
魈『どういうつもりd――』
蛍『行かせてあげよう。実の妹のために助けに行ったんだよ?』
魈『―――』
魈はなにも言わなかった
蛍が旅をする理由を知っているから。離れ離れになった兄を探して旅をしているという事実を知っているから何も言わなかったのだ
蛍『大丈夫、きっと戻ってこれるよ』