一足はやく現世に戻った二人は、助けに行った瀞のことを心配しながらその場で待つ
業瘴の門は主が消えたことにより霧散。そこにはいつも通りの景色が広がっていた
魈「……」
崩れた門をじっと見つめる魈。何も考えていないように見えて、おそらく彼も瀞の帰りを心から心配して待っているのだろう
…青虚浦に流れる心地よい水の音が二人の耳に流れる。だが、その音は二人にとって悲しい様な音に聞こえる
「降魔大聖」
背後から魈の名前を呼ぶ人の声が。聞き覚えのある声に、魈はゆっくりと振り向く
そこにいたのは、人の姿となった留雲であった
魈「留雲…」
留雲「まず礼を言おう。妾の弟子の救助感謝する」
魈「いや…我は―――…我は仲間からの頼みを果たしたまでだ」
魈は少し悲観の声を漏らしながらそう答える
だが、留雲はその言葉を否定する。たとえ他人から頼まれたものであっても、魈がやった事実は変わらない
助けたのは他でもない魈なのだと
魈「…だが、我は助けられなかった…」
留雲「瀞のことか?」
魈「あぁ。あいつは脱出する最後に自身の家族を救うために業瘴の中に飛び込んだ。我は…」
留雲「悔やむ必要はない。あやつはそういう娘だ。妾でも止めることは不可能だっただろうな」
――出会いは帰離原を駆け抜ける風のように。
幾度の時を共に過ごそうとも、ふとした時に風は駆け抜けて自分の下から離れてしまう
それは仙人であれば避けられない事実。変えられない世界の天理。共に過ごした友人は塵と化し、姿が消えた友人を目にしてきている者たちではあるが、その事実を事実と認めたくない
「…あの、悲しんでるところ申し訳ないんだけど…」
突如足元から瀞の声が聞こえた
ふと足元を守ると、そこには蛍の手ほどの大きさの水の塊が青い光を点滅させて放っている
留雲はそれをヒョイッと拾い上げ、目の前に出してそれが瀞なのかを確かめるように話しけた。すると水の塊は、私こそが瀞だと言い放った
仙力を使い果たしたことによって、自分の姿を確立できなくなったためこのような姿になっているそうだ
瀞「少し安めば元の姿に戻ります。それと――”彼女”から言いたいことが――」
水の塊から青い光がすぅっと消えて、代わりに赤い光が灯った
そこから瀞と似たような声が聞こえてくる。優しげな瀞と違ってすこしきつめな声質が
「みんなごめんなさい」
留雲「その声は…濫か?」
濫「えぇそうよ。業瘴に飲まれていたとはいえ、私が傷つけたことには変わりない。ごめんなさい」
蛍「無事で良かった。それと…助けてくれてありがとう」
その言葉に濫は困惑する
なぜ自分がお礼を言われるのかわかっていないようだった
濫「…ありがとう…?―――お礼を言われるようなことはしてないわ。私はただ………」
魈「お前のおかげで我らは脱出できた。我からも礼を言う。二度の救助感謝する」
濫「……」
留雲「濫よ。業瘴に冒されたお主がやったことは夜叉として良くないことだが、そんな最中でもお主は人々を救った。それだけでお主の罪は晴れたのだ。もしそれでも自分を悔いるというのなら―――夜叉として人々を救えばよい。かつての帝君に誓ったようにな」
それを聞いた濫は黙り込み、次第に水の色が消えて瀞に戻った
留雲の言葉に感化されたのだろうと瀞は語るが、真相が定かではない
瀞を胸元にしまい込み、人の姿から鳥の姿に留雲は変身して蛍達に口いう
留雲「さて、妾はもう行くとする。申鶴のこともあるしな。瀞は妾のとこで預からせてもらうぞ」
パイモン「おう!お前も傷ついてたし早く休めよ〜!」
バサバサと大きな翼を羽ばたかせて留雲は自分の仙府へと帰っていった
魈も次第に帰るようで、色々あったから休んでほしいと蛍が言うと、魈は少し顔を背けて「お前もな」と言って去ってしまった
すべてが終わった青虚浦に流れる水の音がパイモンと蛍と包み込み、二人の行方を追いかけるかのようだった
パイモン「なぁ旅人!万民堂の料理食べに行かないか?」
蛍「唐辛子マシマシで頼もうか」
パイモン「げっ…それは厳しいかもな…」
一度翻った水はもとに戻ることはない。だが水は再び結合してまた新たな水になる
二人の命運は、その再び結合したところから始まっていくのだろう
これにて瀞の伝説任務を終了です