五等分の魔術師 〜正義の味方と五月の味方〜   作:渋川ジュン

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アーチャ・キマタ・ディオス

 

塾講師のアルバイト面接から帰宅してきた五月。「受かるといいわね」なんて二乃が言ったあと、彼女はこう切り出してきた。

 

「それで? 五月はあいつのことが好きなワケ?」

 

「ち、ち、違います!! 男の人はもっと長い時間を掛けて見定めるべきですから!」

 

結局、ソルティアは晩御飯を食べずに帰宅した。二乃が「来週、私たちの恩師がやって来るから。ついでにアンタも来なさいよ」と言った途端、「わかった。では続きは来週にしよう」なんて言い残して去っていったのだ。

 

「そもそも、私に恋愛というのはよくわかりませんし!」

 

「そうよね。アンタを数週間で落とす男なんている訳がないわ」

 

二乃は安心したように手を振った。

 

「でも、私は二乃好みの顔だと思いますよ。彼、イギリス人とのハーフみたいで」

 

「あれはいくら何でも不気味すぎるわ。五月は感じないわけ?」

 

二乃が含みを持たせた言い方でそう述べるも、五月にはどうもピンとこない。少し眉間にシワを寄せて、彼女は言った。

 

「ラングくんはそんなにおかしい人ですか?」

 

「……アンタがそう思うならそれでいいわ。というか、私はフーくんを諦めた訳じゃないから」

 

「そ、それは……!」

 

「ただいま」

 

微妙な雰囲気を払拭するがごとく、三玖が帰宅してきた。

 

「ちょっと三玖。どこに行ってたのよ」

 

「買い物。あと……いや、何でもない」

 

三玖はどこか虚ろな目をしている。五月は不審に思ったのか、

 

「どうしたのですか、三玖」

 

「秘密裏にフーくんへの誕プレでも買ったのかしら?」

 

「ち、違うよ。公園に寄ったら……変な人に遭遇したの」

 

三玖の顔色がみるみる悪くなる。

 

「青髪で、背が高くて……見間違いじゃなければ……服が血だらけだった。金髪の外国人も……いた」

 

「そ、それって!」

 

二乃が立ち上がって反応する。

 

「すぐに逃げたから大丈夫だったけど……気づかれてたら、どうなってたかわからない」

 

「三玖、五月。二人はここに居なさい。私、心当たりがあるわ」

 

そうして、二乃は早々に家を出て行こうとした。

 

「待ってください、二乃!」

 

五月がその後を追いかける。

 

「ダメ、行ったら……!!」

 

「二乃を戻しに行ってきます! うっ、走るのが速い……!」

 

「待って……あれは危険……」

 

その場に取り残された三玖は二人を呼び止めようとしたが、疲れからかソファに倒れるように眠ってしまった。

 

*

 

「……例の女がいねェ!」

 

大剣を引っ提げた長身の男は、返り血に染まった体を晒してそう言った。

 

マクリード・サヴィオ。隠しきれない狂気は、親譲りのものだろう。

 

彼は異常者だった。青髪、オッドアイ、魔力を大剣に全振りし、実現させた圧倒的な破壊力。並の人間なら、触れただけで消滅してしまうほどの威圧感。

 

根源派(オリジン)のナンバー2でもある彼は、手下が中々例の女を捕獲してこないことに痺れを切らして、自らこの町にやって来たのだ。

 

「気を感じなくなった……結界が張られたのか? クソ……結界ごとブチ壊してやるか!」

 

「その必要はない」

 

「あ?」

 

サヴィオは振り向きざまに大剣を振り翳す。大きな公園の中であったが、植えてあった木が真っ二つに折れてそのまま地面に落ちた。

 

「……フッハハハ!! 今の反応の遅れを見るに、お前は過大評価のようだな。所詮弱者による評価なんてアテになんねェよ。雑魚!」

 

すべり台の上に飛び移ったソルティアは、静かに魔力を貯めながら、その戯言に耳を貸してやった。

 

「会ったのは二回目だな、ソルティア・ラングフォード。だが今はお前の相手をしてる場合じゃねェ。……知ってるか? 信じられねぇ程の魔力を持った一般人がいるって話をよォ! 超堪んねぇよなァ!! しかもそれっぽいのを殺したのに、どれも全然魔力足りねーの! ったく、つくづくツイて……」

 

その斧は、神をも手にかける(アーチャ・キマタ・ディオス)

 

──話を聞いて損した。

 

ソルティアは無空間から大きな斧を取り出すと、そこに魔力を込め始めた。

 

「会ったのは二回目、か……ほざけ。一々有象無象など覚えとらんわ」

 

「あん──だと!!!」

 

サヴィオは顔を真っ赤にすると、詠唱を始めた。

 

我に一切の翳り無し(アンティレス)故に天物に一切の不足は無し(ペルフェクト・ソイ)──」

 

大地が揺れる。

 

大剣が唸る。

 

魔力が全て剣先に雪崩れこんでいく。

 

「うらァ!! 死ねェ!!!!!!」

 

そして放たれる、大剣による波動。公園ごと破壊しようかという莫大な威力の斬撃が、ソルティアの全身を捉えた。

 

「大人しく尻尾を巻いて逃げてりゃ良かったのによ!! ついでにテメェからも魔力を頂くぜ!!」

 

フハハハ!! とサヴィオは高笑いをする。

 

ソルティアは有象無象の声などに耳を貸したことに後悔した。

 

それはそうとして──こいつはここで殺さないと、駄目だ。

 

導け(ギーア)

 

今、ここで全てを出し切る。

 

五月の為ならば、寿命が縮まることくらいどうってことない。当然だ。

 

導け、魔王の目覚めを(ギーア・エルクィッド)!!」

 

最狂の斬撃を、最強が弾き返す。

 

「くッ!?」

 

それどころか、何倍、何百倍の威力を持って、サヴィオの身体を飲み込んでいく。

 

それは希望であり、皆を導く気概だった。

 

それは悲しみであり、亡くなった時は多くの人が涙した。

 

それは絶望であり、彼の統治は王と呼べるものではなかった。

 

しかし、それが何だというのだ。

 

神をも殺す神器の力。

 

魔王が残した、世界最強の宝具。

 

「くっ!? ク、クソがッ────!!!!」

 

──その斧は、神をも手にかける(アーチャ・キマタ・ディオス)

 

それがサヴィオのみならず一つの公園を吹き飛ばすことなど、容易なことだった。

 

*

 

「……ッ」

 

ポッカリと空いた穴の中で一人、ソルティアは血を吐いた。

 

やはりこの宝具は体力を消耗する。本来人間なら持ち得ない力だ。これくらいの代償で済むのならむしろ本望──

 

「ちょっと、ソルティア! 何してるのよ……!!」

 

すると、部屋着姿の二乃が駆け寄ってきた。

 

ソルティアは口から血を垂らしながらも、二乃に「待った」をかける。

 

「ニノ、気にするな……俺は大丈夫だ」

 

「で、でもアンタ、血吐いてるわよ!? 大丈夫なわけないじゃない!」

 

ソルティアは斧を無空間に消滅させると、ゆっくりと立ち上がった。

 

「そんなことより……お前は何しにここに来た」

 

「何しにって──三玖から教えてもらったのよ。公園でバトルしてる不審者が二人いるってね」

 

きっとアンタだと思って──そう言って、二乃は俯いた。

 

「どうしても見たかったのよ。その、『魔法』ってやつを」

 

「お前が来ても出来ることなどない。いいか……俺が寿命を犠牲にしていなければ、お前は巻き込まれて死んでいた」

 

「……!」

 

「それだけじゃない。ここで俺が実力を出し惜しみすれば、この街に住むみんなの命が危なかった。しかし俺は一向に構わん」

 

ソルティアは立ちすくむ二乃の頭に手を置くと、通り過ぎながら言った。

 

「それでイツキが笑えるのなら、本望なんだからな」

 

その目には一点の曇りも無かった。

 

よろけた身体を晒して、それでもまるで「幸せだ」と言わんばかりの表情。

 

「そ、それでいいの……?」

 

二乃は立ち尽くして、そんなことを訊く。しかし気づけば既にソルティアはその場から消えていた。

 

──目から汗が吹き出るのは何故だろうか。その理由は自分にもわからなかった。

 

*

 

「こんばんは。ソルティアー?」

 

「……なんだ。今は事後処理で忙しいのだが」

 

ソルティアは黒いヘアスプレーを吹きかけようとしていた手を止めた。

 

「五月ちゃんのお護り、ご苦労様」

 

「好きでやっていることだ。気にするな。それよりも……久し振りだな」

 

ひとり暮らしの部屋にズカズカと上がり込んでくる女を見て、ソルティアは皮肉めいた声で言った。

 

「『あかいあくま』」

 

どうしてアンタは素直に呼んでくれないのかしらね、と言って衛宮凛はソファに座った。

 

「それに年上よ? 少しは敬語を使ってくれたっていいじゃない」

 

「家族に敬語を使う理由があるか。それに──お前の本性を知ってなお敬う輩がいるとすれば、それは人外のやることだろうな」

 

「どうしてこうも失礼な物言いが出来るのかしらね……」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「けなしてんの!」

 

黒髪ロングの女性はツッコミを終えると、出された紅茶に口を付けてみる。そして、すぐに顔をしかめた。

 

「ちょっと。一般的な紅茶の数億倍不味いわよこれ」

 

「仕方ないだろう。あのサーヴァントの淹れる紅茶と一緒にするな」

 

見たことのない白髪の弓兵の姿を思い浮かべながら、ソルティアはそんなことを言う。

 

「それより……士郎さんは来てないのか」

 

少しだけ寂しそうな顔を浮かべて、彼は凛の反対側に座った。

 

「ええ。それがどうかした?」

 

「俺が唯一手放しで尊敬できる人だからな。久しぶりに会ってみたかったんだ」

 

「……来たのが私で悪かったわね」

 

まぁいいさ、と言ってソルティアは座り直した。

 

「そういえば、時計塔のロードがアンタに会いたがってたわよ」

 

「ほう──悪いが、魔術師同士の戯れには微塵も興味が湧かん。それに、人の魔術を解き明かして骨抜きにしてしまうような人種とは間違っても顔を合わせたくない」

 

 

「とにかく、今はイツキを守ること。それに専念するさ」

 

「へぇー……ソルティアってさ」

 

凛は悪い顔を浮かべて言った。

 

「五月ちゃんのこと好きでしょ」

 

「んなっ……!? そそそ、そんなわけが無いだろう!!」

 

「なんてわかりやすい……」

 

凛は嬉しそうに喋った。

 

「まぁ理由は何にせよ、困ってる人を助けることは良いことよ。今、間違いなく世界で一番強いわね」

 

お世辞は結構、と言ってソルティアは突っぱねる。

 

「常に魔力は枯渇気味だ。そもそも、俺の魔術は似ているようでお前らのそれとは違う」

 

「まぁいいじゃない。これからも五つ子ちゃんを宜しくね」

 

ソルティアは五月と二乃の顔を交互に思い浮かべると、口元を引き締めて言った。

 

「あぁ。任せろ」

 

その瞳は頼もしく、責任感に満ち溢れていた。

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