五等分の魔術師 〜正義の味方と五月の味方〜   作:渋川ジュン

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六等分の花嫁

「なぁ、一ついいか」

 

「なんでしょう?」

 

中野家のリビングに、五つ子と風太郎が集まった。久々の再会に胸を躍らせる諸君。しかし風太郎にはどうしても気になることがあった。

 

「お前誰だよ!」

 

「くっ……バレたか」

 

「むしろバレないとでも思ったのですか?」

 

服はそのままで、金髪ポニーテールのウィッグを被っていたソルティア。ガタイがよく背も高いため、心底気持ち悪かった。

 

「折角ですから、ラングフォードさんも入れて私たち六つ子になりましょう!!」

 

「何言ってんの四葉!? こんな奴と姉妹になるなんてゴメンだわ!」

 

「そうです! ラングくんが付け入る隙などありません!」

 

「ちょっと……嫌かも……」

 

「ソルティアくんが妹はちょっとねぇ」

 

「散々な言われようだな!!」

 

ウィッグを外したソルティアは思わず苦言を呈す。一方で、隣に座る風太郎は済ました顔で言った。

 

「むしろこの罵倒で済んでいるだけマシな方だ。俺なんか家庭教師始めて早々に催眠薬飲まされたんだぞ」

 

「な、なんのことかしらねー……」

 

「ニノ……」

 

ソルティアが蔑んだ目で二乃を見た。

 

「さて、話を戻すぞ」

 

そう言って、風太郎がパンパンと手を鳴らす。

 

「まずお前。誰だ!」

 

「ええっ!? 上杉さん、ラングフォードさんを知らないんですか!?」

 

「知らねーよ!! 何故だかお前ら五つ子は知ってるみたいだがな!」

 

「ソルティア・ラングフォードくん。私と同じ学部の男の子です」

 

五月が代わりに紹介する。

 

「呼び方は何でもいい──貴様、フータローと言ったか?」

 

「お、おう。そうだが」

 

ソルティアは気丈に振る舞っているが、魔術師特有の不気味さはどうしても拭いきれていない。「魔法が使える」というあり得ない前情報を二乃から聞いて来てみたが、やはり間違っていなかったようだ。

 

二乃もまた焦燥していた。この前のように「魔法」を繰り出すのか──ゴクリと唾を飲み込む。

 

そして、彼が放った言葉とは……!

 

「イツキと一緒に映っているプリクラの男はお前で間違いないな?」

 

「え……?」

 

風太郎から変な声が出た。

 

「いや、ま、まぁそうだが……」

 

「そうか」

 

ソルティアは深いため息をついてから、こんなことを訊いた。

 

「何円払ったんだ?」

 

「いくら何でも失礼すぎるだろ!! ……もう聞いてるかもしれないが、俺はこいつらの家庭教師をやっていたんだ」

 

「ほう」

 

「それで……給料が出たから、妹と一緒に買い物をしに街に行った。それで妹にねだられて、それだけだ」

 

ふむ……。いまいちピンと来ない表情でソルティアは頷く。

 

「まぁ良かろう。仮にこんな男に彼女でもいたら、俺は殺意の波動に目覚め──」

 

「風太郎くんは彼女いるよ? それもすぐそこにね」

 

一花がそう言うと、他の三人も一斉に四葉を指さした。

 

「えっ!? ま、まぁ……そう、ですけど」

 

「貴様ッ……!!」

 

「ラングくん、落ち着いてください!」

 

五月が割とマジな顔でソルティアをなだめた。

 

「まぁ冗談だ。二人で幸せになるといい」

 

「情緒不安定なのか……?」

 

「場を和ませただけだ」

 

「あはは。これは和んでる……のかな?」

 

一花はそう言いながら、ソルティアの顔を凝視する。

 

端正な顔で(一応)ユーモアもある。なのに何故か、彼に全く魅力を感じない自分がいた。

 

もちろん隣に風太郎がいるから、というのもある。だがそれを差し引いたとしても、彼は不気味な雰囲気を持っていた。これと毎日のように過ごすことのできる五月はやはり何かおかしい。

 

一方、四葉は全く気づいていない。どっちかと言えば風太郎に久しぶりに会えた喜びのほうが勝っているようだ。

 

「よし、それじゃあ重い話を続けるのもあれなので、王様ゲームでもしましょうか!」

 

「ほう?」

 

四葉の声に反応したのはソルティアだった。

 

「なんだそれ?」

 

「無知!!」

 

風太郎が叫ぶ。

 

「お前世間知らずすぎるだろ!」

 

「フータローくんもやったこと無さそうだけど?」

 

一花がからかうようにそう呟く。

 

「ま、まぁ確かにそうだが……」

 

「じゃあ説明しますね! 王様ゲームのルールは簡単! ジャンケンで勝った人が、その場にいる人全員に何でも命令できちゃうのです!」

 

「「何でも……!?」」

 

「なんで二乃と三玖が反応してんだよ! なぁ、ソルティアだっけ? お前何しにここに来たんだ?」

 

危ない遊びが始まる前に、風太郎は横に座るソルティアにそんなことを訊いた。

 

「何しに、か……強いて言うならお前に会いに来た」

 

「は?」

 

「高校在学中に五つ子の家庭教師を引き受け、自分と生徒それぞれの学業を両立させた実力者だ。せめて人となり程度は分かっておきたかったのだ」

 

多少なりとも威厳を持ったその声に、風太郎は頭を掻いた。

 

「いや、そう言われると……照れるな」

 

「そういうことだ。前にイツキもこう言っていたな──『上杉くんは、私の理想ですから』……と」

 

「……!」

 

風太郎は、昔のことをまるでつい最近起きたことかのように思い出した。

 

『君って、私の理想なんだよ。それだけ伝えておきたかったの』

 

「いつも堅い表情をしてるイツキの顔が、少しだけ柔らかくなったんだ。……プリクラにも『ずっと友達』って書いてあったな。これからも仲良くしろよ」

 

「お、お前に言われなくたって……そんなのわかってる」

 

風太郎は額に汗をかきながらそう返した。

 

……なぁ。ソルティアにとって、五月って何なんだ?

 

その言葉は、喉に突っかかって出てこない。

 

「はーいそれじゃあ始めますよー! 王様じゃんけん、じゃんけん──ポン!」

 

「げー!! よりによってコイツ!?」

 

男二人で神妙なやり取りをしていたすぐ後に、王様じゃんけんがスタート。

 

勝者は──

 

「私の一人勝ち──みたいですね」

 

五月。

 

*

 

「結局、一花が某映画出演時のツインテール姿に変装、二乃が文化祭の時の衣装で踊りを披露、三玖が戦国武将の人名だけで会話、四葉と俺がカップルらしく手を繋ぐこと──」

 

風太郎が状況を整理した。もはやカオスすぎて言語化するのも憚られる。

 

「五月ちゃん、ちょっとこの格好は……」

 

「私なんて踊りまでさせられたわよ!」

 

「龍造寺隆信」

 

「と、とても恥ずかしいです……!」

 

いや、まぁここまではいい。

 

顔を真っ赤にしながら、風太郎はそう独りごちる。

 

「だが五月!! まだソルティアに何も命令していないだろう!」

 

「うっ……そうでした」

 

五月はバツの悪そうに答える。

 

「私が……ラングくんに命令……」

 

「ちょっと五月ー。私たちには音速で命令したくせに、こいつには出来ないってわけ? ふーん……やっぱこいつのこと──」

 

「わかりました!! 命令します!」

 

五月は覚悟を決める。ビシッとソルティアを指さして、真っ赤な顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『五つ子ゲーム』で、私を当ててください──!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五月の命令から、20分後。

 

同じワンピースを来た同じ顔の姉妹が、ソルティアと風太郎の前に現れた。

 

「当ててくれますか? 私が五月ですよ」

 

「わ、私です! 惑わされないでください!」

 

「いや、私こそがホンモノの五月です!」

 

「……ほう」

 

ソルティアはニヤリとした表情を浮かべた。

 

そういうことか。本当に顔がよく似ている。ルックスだけでは判別は到底つかないだろう。

 

「ま、魔力で当てるのはナシですよ?」

 

「ご冗談を。そんなセコい真似をするのはフータローぐらいだろうな」

 

「おいちょっと待て聞き捨てならねえぞ」

 

冗談だ、と言ってソルティアは五つ子に視線を移した。

 

──同じ顔。同じ服。それでも彼女らにはそれぞれ異なる癖がある。

 

言葉ではうまく言い表せない違い。

 

「先に言っておこう。イチカとヨツバはまだ関わったことがあまり無いからわからん」

 

「……まぁ私は五月なので」

 

「関係はありません」

 

当然五つ子ゲームなので、二人が脱落することはない。五月が当てられるまで、五月のフリをするだけだ。

 

「フハハハ……やはり貴様にはこいつらを見分けるのはまだ早かった、って訳か!」

 

風太郎が早くもマウントを取り始める。

 

「黙れ。貴様は野草でも食っていろ」

 

「あの……彼女持ちと分かってから俺への当たりキツくない?」

 

ソルティアは集中している。いくら彼が観察眼に優れているとはいえ、まだ五月と出会ってから数ヶ月の身である。

 

風太郎は同じ頃、まだ文字や服装でしか姉妹を判別できていなかった。

 

(やはり、ラングくんと言えどもまだ早かったでしょうか)

 

本当の五月は一番右端に立っていた。服の袖をギュッと掴んでいる。

 

(私は何か勘違いをしていたのかもしれません……でも、お願い)

 

他の四人が好き勝手に自分の真似をしている中、五月は心の中で願っていた。

 

(ラングくん。私を……見つけて)

 

「よし。分かった」

 

しばらくの沈黙を経て、ソルティアは真顔でそう言った。

 

「あ、言うの忘れてた。お前! もし間違ったら五月に二度と近づくんじゃねぇぞ!」

 

「!?」

 

突然の煽りに本物五月が反応するも、ソルティアは風太郎の方を見てこう言った。

 

「あれだけ当てられると豪語していたんだ。それぐらいの罰、なんてことないよな?」

 

「わかった。黙れ」

 

「はい」

 

気を取り直して──ソルティアが姉妹の方を向く。

 

「では発表しよう。俺の答えは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前だ」

 

赤い頭の上に、ソルティアがぽんと手を置く。

 

左から三番目の五月は思わず顔を逸らした。

 

「……」

 

最低。

 

やっぱりこいつに私たちを見分けるのなんて早かったんだわ──

 

「お前がニノだ」

 

「……!?」

 

二乃はソルティアの顔を見上げた。

 

「え、嘘……!! 間違えたわけじゃなかったの……!?」

 

目を見開いている二乃。他の四人もまた舌を巻いた。

 

「なんで……私が二乃ってわかったのよ」

 

「顔が喧しい。以上」

 

「失礼よそれ!!」

 

二乃がぽこぽことソルティアの腹を殴る。しかし鍛え抜かれた肉体の前では無意味であった。

 

「それじゃあ、スピーディーに行こう。左から二番目のお前はミク。理由はうまく言えんがなんとか分かった」

 

「す、すごい……正解」

 

ウィッグを外して、三玖の姿があらわになる。

 

(……っ)

 

一方、五月の心臓はバクバクだった。自分で命令しておいてなんだが、ソルティアなら見つけてくれると思っていた。

 

しかし実際は結構な時間を掛け、おまけに照れ隠しからか二乃から順に当てていく始末。

 

上げて落とすなんてことはよくある。

 

別に期待なんか……してない。

 

「そしてお前が本当のイツキだ。簡単すぎて拍子抜けしたぞ」

 

ソルティアは、五月の頭の上に手を置かなかった。

 

「……!!」

 

抱き締めた。

 

右端に立っていた五月を、彼はぎゅっと引き寄せたのだ。

 

「〜!」

 

「ちょっとソルティア! ウチの妹に何してんのよ!」

 

「──すまん。俺で我慢してくれ」

 

五月はソルティアの胸にしがみついた。誰にもこんな泣き顔は見られたくなかったからだ。

 

「……っ」

 

何故泣いているのか、自分でもよくわからなかった。

 

「そ、そういうことね──あんた、意外に男前じゃない」

 

「まあな」

 

「否定しろよ」

 

風太郎のツッコミが入る。まるで興味のないふりをしておきながらも、彼はソルティアの身体に隠れる五月の姿が気になって仕方なかった。

 

「君なら……見つけてくれるって、信じてたよ」

 

「…………!!」

 

今度は、驚くのはソルティアの方だった。

 

敬語じゃない五月の言葉なんて、初めて聞いたからだ。

 

「『愛さえあれば見分けられる』……嘘じゃなかったんだね。本当にありがとう」

 

「俺を試していたのか──やれやれ。舐められたものだ」

 

ソルティアは風太郎の方を振り返ると、微かに口角を上げてこう言った。

 

「これでもお前は俺を認めないのか? 元家庭教師」

 

「……見直した。口だけじゃなかったんだな」

 

ソルティアは五月から体を離すと、

 

「まぁな。ただ一つ言わせてくれ。俺はひと目見た瞬間、右のイツキが本物だとすぐにわかった。ただニノとミクが本当に似ていてな──降参しようかと思ったぞ」

 

「ちょっと! こんな薄い顔と一緒にしないでくれる?」

 

「二乃の顔がうるさすぎるだけ……」

 

「うるさいって何よー!」

 

二乃と三玖が言い合いしている中、一花と四葉は五月の涙を拭いていた。

 

「良かったね、五月!」

 

「べ、別に嬉しくて泣いているわけでは……!」

 

「しっかし驚いた……久しぶりに帰ってきたと思ったら、知らねえ男が五つ子ゲームに正解してやがる」

 

「五月ちゃんが泣くのなんていつぶりだろう? やっぱり私の妹は可愛いなぁ!」

 

一花によしよしされて、五月はプンスカと怒る。

 

「もう子供じゃありませんから! 私は前に進んでいます、むしろ私が一花を撫でてあげたいくらいです!」

 

いつの間にかいつもの口調に戻っていて、ソルティアは少しばかり落胆した。

 

しかし、素はタメ口なのか……良いことを知ったぞ。

 

「そういえば、明日お母さんの墓参りに行くんだっけ?」

 

四葉がそんなことを口にする。

 

「四葉。お客さんの前ですよ」

 

「あぁっ、ゴメン!」

 

しばらく黙っていたソルティアが、ふと口を開いた。

 

「一つ聞いておきたいのだが……」

 

かつてなく真剣な表情の彼に、一同は不審な雰囲気を感じ取った。

 

和んだタイミングでの威圧感。一花はこれがどうしても好きになれない。

 

「お前たちのお母さんは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──いつ亡くなった?」

 

奇妙な質問。

 

「わ、私たちが小学生の時……かな?」

 

一花の答え、ソルティアは安心して呟く。

 

「そうか。もしかすれば、イツキの魔力の正体が解明できるかもしれない」

 

「……本当ですか!」

 

五月が顔を明るくしてそう言った。

 

──これは、最強の魔術師が女の子を助ける物語。

 

敵はまだ、五月を捕らえる機会を虎視眈々と狙っている。

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