五等分の魔術師 〜正義の味方と五月の味方〜   作:渋川ジュン

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「ごときす」購入しました。

五月ルートが楽しいです。


音信不通

 

「あ、もしもし──」

 

七人でしばらくのんびりしていると、ソルティアが電話に出て何やら喋り始めた。

 

「悪い。長くなりそうなので、玄関で話す」

 

軽く右手を上げた後、ソルティアはドアを開けて暗闇に消えた。

 

「何の電話だろう……」

 

「きっとホスト関連よ。あの性格、実に似合ってるわ」

 

「二乃、ラングさんに当たり強いですね!?」

 

二乃と四葉が話している隙に、一花は寝落ち、三玖はトイレに行った。

 

「……」

 

沈黙の二人。

 

残された、五月と風太郎。かつての恋人に、五月は若干気まずそうにしながらも勇気を振り絞って声をかけた。

 

「う、上杉君!」

 

少し大きい声だったからか、風太郎の体がビクッと震えた。

 

「な、なんだよ」

 

「その、ラングくんのことなのですが……」

 

五月がそう言い出すと、風太郎はフフッと笑った。

 

「な、何がおかしいのですか!」

 

「ビックリした。肉まんを買ってきてくれと駄々をこねられるのかと思ったからな」

 

「上杉君にとって私って何なんですかー!」

 

「食いしん坊、真面目、不器用。以上だ」

 

久しぶりに会ったのに酷い……と五月はぼやく。

 

「は、話を戻しますね。それで、その……ラングくんとは数ヶ月程度の付き合いしかありません。けれど、──」

 

五月の言わんとしていることがわかったのか、風太郎は小さく息を付いた。

 

「そうか。別にいいんじゃないのか? プリクラも剥がしたみたいだしな」

 

「そ、それは……」

 

スマホカバーに視線を移して、風太郎は言ってみる。

 

「もちろんわかってる。お前も前に進んでるんだな」

 

「!」

 

思いのほか優しいコメントに、五月は思わず風太郎のおでこに手を当てる。

 

「……熱があるんですか?」

 

「ねーよ! まぁその、なんだ。慎重な五月がこれだけ恋してるんだ。そんなもの、誰が止められるって言うんだよ」

 

「!」

 

その言葉に、五月は思わず胸を押さえた。

 

バレてたんだ……。

 

「もう、上杉君は変なところで鋭い……」

 

「はは、悪かったな。実際、あの男はそんなに悪い奴には見えないぞ。……ちょっと人垂らしなところが気に食わんでもないがな」

 

「それはあなたの言えたことではありません。この五つ子キラー、キス魔!」

 

「おい、やめろよ! ……昔の話だ」

 

フフ、と五月は笑いを噛み殺す。やはり上杉君と話すのは楽しい。

 

『ずっとともだち』──らいはちゃんは予言していたのかもしれない。

 

「上杉君。これからもよろしくお願いしますね」

 

「お、おう。宜しくな!」

 

「なんの話……?」

 

「私もわからないわ……」

 

二乃と三玖がこしょこしょ話している。それからすぐに、ソルティアが電話を終えて入ってきた。

 

「済まない。突然知り合いが部屋に押しかけてきたので、俺はこの辺で失礼する」

 

「こんな時間に客人ですか。大変ですね」

 

「……今は俺も、人のことを言えん」

 

それじゃ、と言ってソルティアは退出しようとする。

 

「ま、待ってくれ!」

 

そう言って足を止めさせたのは、風太郎だった。

 

「五月を───よろしく頼む」

 

立ち上がって、頭を下げる。こんなことに意味があるのかといえば無いだろう。

 

ソルティアは一瞬真顔になって、フフッと笑い出す。

 

「あぁ。当たり前だ」

 

「……また来てください、ラングくん!」

 

五月が笑顔で手を振っている。ソルティアは小さく会釈をして、そのまま踵を返した。

 

「私たちの五月を悲しませるんじゃないわよー」

 

「気をつけて……」

 

「また遊びに来てくださーい!」

 

つかの間の平和を満喫し、ソルティアは満足そうに頷いた。

 

──結局、明日には日本を出国するなんてことは、最後まで言い出せなかった。

 

*

 

「はるばるブリテンまでご苦労。ミスター・ラングフォード」

 

舞台はイギリスの時計塔。来賓が通される応接室にて、長髪の男性が魔術師を出迎えた。

 

「貴公とは一度話がしたかった。貴重な学生の時間をこんなことに使わせてしまって申し訳ない」

 

「お気遣いありがとうございます──ロード・エルメロイⅡ世」

 

ソルティアは普段のカジュアルな服装ではなく、魔術師の時に用いる礼装を身に纏っていた。染め直すのをやめた金髪と黒いコート。長身の為か様になっている。

 

「時計塔の重鎮ともあれば、頭がお固い人なのかと思っていましたが……士郎さんから伺っていた通り、随分と腰が低いんですね」

 

「見えすぎる世辞も考えものだぞ、ミスター・ラングフォード」

 

エルメロイは大きなため息をつくと、足を組んで座り直した。

 

「君は他の魔術師とほとんど関わりを持たない。故に連絡を取るのには大変苦労した──さて、本題に入らせて頂く。君の住んでいる町に常軌を逸した量の魔力を持っている女性がいると聞いたが、それは本当かね?」

 

「はい。ですが、彼女は確実に魔術師ではありません」

 

「ほう。そう言い切れる根拠は何だね?」

 

「単純にイツキ・ナカノは魔術を知らない。多少なりとも交流がありますから、そのぐらいは心得ておりますよ」

 

うむ……エルメロイは顎に手を添える。

 

「彼女を教会に匿っておく、という手もあるが……そうなると君をここに呼んだ意味が無くなる」

 

「なるほど──先生の言いたいことが分かりましたよ。嫌という程にね」

 

ソルティアの発言に、エルメロイはお手上げだ、と言わんばかりに両手を広げた。

 

「話が早くて助かる。要は────『X』を始末しろという話だ。しかし懸念点もある……一旦纏めよう。その一、ミスター・ラングフォードの魔力は常に枯渇気味である。その二、例の宝具は人間が扱うには神性が高すぎる。特に後者は時計塔でも議論が重ねられている。何故人間が某魔王の宝具を扱えているのか……頭の固い老人だらけでは結論は出そうにもない。時計塔の権威はどこに行ったのやら」

 

ソルティアは彼の話を聞きながら、思わず感心した。

 

なるほど。少しばかり年を召したが、時計塔のロードは柔軟な思考力と飛び抜けた洞察力を持っている。

 

自分がまるで全て見透かされてしまうような──この男と長く話すのは危険だ。

 

「そこで提案だ。九月に根源派(オリジン)を根絶やしにする。そこでマキリの老人を討つ──つまり、掃討作戦を行おうと考えている」

 

「俺一人では不安だという話ではなかったのですか?」

 

「その点についでだが、私の世話役でもあるグレイを派遣しよう。君と同じくらいの年頃の女性だ。きっと、良いサポートをしてくれると思う」

 

話は終わりだ、と言わんばかりにエルメロイは席を立った。

 

「待ってください。それでは根本的な解決にならない。仮に奴らを駆逐できたとしても、第三勢力が五月の魔力を標的にする可能性は十二分にある」

 

「……君ならそう言ってくれると思っていたよ」

 

エルメロイはソルティアの方を向き直すと、意味深な表情でこう述べた。

 

「ミス・ナカノの魔力を君に全て移すことが出来たら──それは合理的な解決となるだろうな」

 

「……そ、それって」

 

「あぁ」

 

 

「君が責任を取れる男であるのなら、それが最善策だ」

 

*

 

「驚いちゃったねー。まさか五月の好きな人がいきなりイギリスに行くなんて……!」

 

「どさくさにまぎれて何を言うのですか四葉! ……まぁ確かに、突然の話ではありますが……」

 

一応五月の携帯にはしばらく帰ってこないとの旨のメールが送られてきてはいたが、寂しいものは寂しかった。

 

「……」

 

ペンを持ってテーブルに向かう五月。しかし、全く手が動いていない。

 

(五月、ラングさんが居なくなってからわかりやすくテンションが下がってる……)

 

悪目立ちしているリボンの姉は、突然立ち上がった。

 

「よし、五月! ラングさんに電話を掛けてみよう!」

 

「どういうことですか!?」

 

「そのまんまの意味だよ! きっと向こうも喜んでくれるって!」

 

五つ子で唯一の彼氏持ちからのアドバイス。かれこれソルティアが居なくなってから二週間。五月もかなり寂しくなっていたので、割と迷うことなく電話を取り出した。

 

「『ご飯食べさせてくれないと困ります!』とか言ってみようよ!」

 

「嫌です!!」

 

そう言いながらも、ポチポチとソルティアの電話番号を入力。

 

五月の手は若干震えている。

 

「出てくれるでしょうか……」

 

プルルル。

 

プルル。

 

ガチャッ。

 

「……! ら、ラングくん────」

 

「お掛けになった電話番号は、現在使われておりません」

 

無常にも響く、テンプレートの声。

 

五月はリアルに膝から崩れ落ちた。

 

「こんな思いをするなら……花や草に生まれたかった……!」

 

「泣かないで五月!! きっとあの人は戻ってきてくれるよ!」

 

ハンカチを差し出しながら、そう励ます四葉。

 

その言葉のおかげか少し心を立て直して、五月は立ち上がった。

 

「……そうですね。私には、彼を信じて待つことしか出来ませんから」

 

魔術師という特殊なポジション。

 

いつ命を落としてもおかしくない、そんな危険な職業。

 

それでも五月は彼の無事を信じていた。

 

「……ソルティア、くん」

 

窓から見える、夜空の満月を見ながら。

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