マキマとは同期だった。銃の悪魔が世界をめちゃくちゃにしたあの日、私は公安に拾われデビルハンターとして生きるようになった。経緯は憶えていない。あの日以前のことも覚えていない。ただ確かなのは、マキマと私は公安での研修を共にした同期だということだ。
~ 一ノ瀬ヨツナの遺書より一部抜粋 ~
「チェンソーん悪魔ぁ?」
張り巡らされたバリケードテープを踏み抜け、緊急事態に溢れ返った雑踏で鬱陶しげに返事をした。周囲の騒がしさから語勢を強めたが、自然と携帯電話を握る手にも力がこもった。すると隣に並んでいた後輩が警告をするような目つきでこちらを睨んだ。これで何度か携帯電話を壊したことがあるから、あまり良い顔をしないのだろう。
私は立ち止まると、周囲を憚るように口を小さくすぼめて「ほんで?」と尋ねた。すると平坦な言葉遣いで電話の向こうの彼女はこう言った。
『回収に行くんだけれど、ヨツナの力が借りたくって。どう?』
「どうって、そない簡単に言われてもなあ……」
口から出るのは自然とため息だった。遠慮がちに視線を揺らめかせると、横目に映るのは悪魔の死体だ。
「うちも仕事や、それも京都。そっちは関東やろ? すぐには行けん」
『京都か……』
彼女は残念そうな声色で呟いた。あんまり見ない反応だったから、少し意外で言葉を続けた。
「そっちでどないかならんの?」
『うーん』
電話の向こうで数秒考えてから、『できないわけじゃない』と一言、彼女は告げた。
聞いて私は安堵したようにこう返した。
「ほなええやん。うちいらんやろ」
『……あまり人員が割けないから少数精鋭の方が助かるんだけどね。それに機密事項だから身内じゃないと』
「機密事項? 変なん巻き込まんといてや」
私が冗談っぽく言うと、マキマは相変わらず大人しい反応を見せて、それから電話の向こうで数秒考え込んでから『最近ゾンビの悪魔を確保したから、それを使うことにする』と言い、『また飲みに行こう』とだけ言って電話を切った。ほんま自由なやつ。
こうして度々電話はかかってくるが、今となっては空にしたビールジョッキの数より「飲みに行こう」と言った回数が多くなってしまった気がする。マキマは中間管理職だし、私は使いっ走りだし。お互い良い人生じゃないなと口角が上がった。
右手だけ使って器用に携帯電話をポケットへ収納し、空いた方の手でタバコの煙を吸った。再び歩き出して、フワリと前に煙を吐き出した。
「……にしても、チェンソーん悪魔なあ」
彼女が度々意味ありげに話す悪魔の名前。その正体、能力、未だ解らぬものばかりであり、聞いたことすらない名前だったから存在さえ疑っていたが……発見したうえ回収ときた。悪魔に対する一般的な処置の“討伐”ではないことからして、なにやら妙案であるらしい。それなら私が戦力として呼ばれるのにも納得できる。
そいつが悪魔退治に有用な悪魔なのか、知性があって協力できるのか、それとも別の理由があるのか。……近頃本部の方では悪魔や魔人を編成した部隊が実験的にではあるが動いていると聞く。もしかすればチェンソーの悪魔とやらは知性の高い悪魔なのかもしれない。交渉は彼女の得意分野だろう。となれば私が負わされることになりそうだった役目というのはあくまで護衛、あるいは保険ということか。
(せやったら少数精鋭っちゅうんも納得いくなあ……大人数で行っても、警戒させてまうだけやし)
そんなことをおぼろげに思いながら、煌々と灯るタバコの火を指で消し潰した。
「……まぁ、今は仕事や」
考えることは多いが、彼女がこれから仕事だというのなら私もこれから仕事だ。もっとも、既に半分は終えたと言ってよいのだが。
眼前に広がる光景にため息をこぼしながらも、その血溜まりに踏み込んだ。
「あぁ~なんやこれ? 広島風お好み焼きの悪魔とちゃうか」
「ちゃいますよ。……広島風とか言うてたら怒られますって」
交通規制の掛けられた道路の上には、焼きそばのようにちぢれたハラワタが大量の血と共に散乱していた。随分な惨状だ。これが人の血なら大事件だが、しかしそうではない。
私はロングコートと携帯電話を部下に預け、靴が汚れるのを気にすることなく血だまりの奥へぐんぐん進んでいく。腕まくりをすると傷一つない真白な細腕が太陽光を反射した。それからぐっぱーぐっぱーと大袈裟に指を動かし、身体の調子を確かめる。
そうしてやっと、慣れた手つきでナイフを取り出し握れば、華奢な腕を深々と怪物に突っ込んでやった。
「うぇ、ようやりますわ」
「あほ。こんぐらいできやんで、なにがデビルハンターや」
軽口を叩きながら数度ナイフを動かす。堅い膜を切ると、熱く粘性のある血液が噴き出した。さらに奥に手を伸ばすと、強い反応を手の内に感じた。肉塊ごともぎとり、それを胸の前までぶっこ抜いた上で検分する。ぐにゅぐにゅとして妙に弾性があるのが気持ち悪い。なるほど、今回はそれなりにあるようだった。ぐちゅぐちゅと指先を回すと堅いものに触れる。
「ほれ、銃の悪魔の肉片や」
小指の先ほどしかないそれを摘出し放り投げると、後輩が慌てたように身を乗り出して宙を舞う肉片を掴んだ。
それを見て大きな声で笑ってみせる。この程度なんてことはないのだと主張するように。
「クロやんナイスキャッチ!」
「ちょっ、真面目にやってください!」
「すまんすまん」
血溜まりのなかを歩きながら全体の安否を確認しつつ、それぞれに命令を出していく。今回の仕事は『銃の悪魔の肉片の回収』に他ならない。いま公安が最も欲しているものを集める。私は肉片の回収を専門とした内閣府直属のデビルハンターだった。
主人公の容姿
髪型はローポニーテール(ポニテを下の方で結んだ形)。髪色は黒。目つきが悪く、慢性的な睡眠不足から目の下に隈ができている。銀縁の丸眼鏡をかけている。
体格は小柄で、スーツの上からロングコートを羽織っているが、服に着られているという印象が強い。ポケットにはライターとタバコを常備している。
黙ってると、めっさ暗そうで怖そうな人……。
続きはでき次第アップロードします。