「おはようさん。パワーちゃん起きとるー?」
アキくんが療養している間、私はデンジくんとパワーちゃんの世話係を任されていた。天童や黒瀬はマキマのもとで書類作業やら人事やらでてんやわんやのようなので、比較的手の空いていてデンジ・パワーの二人組と面識のある私が自然とその役割を負わされていたのであった。
人の面倒を見るのはいつものことだったので、雑用に近い役割ではあるもののこの仕事を任されたことに悪い気はしなかった。それに彼らはよく食べるので、それもポイントが高い。体は大きいのに、その生活ぶりは子供のようで、面倒見がいがあるのだ。
とはいえなにかわざわざ作ってやれるほど時間の余裕があるわけでもないので、日に三度、朝昼晩になると適当な飯を買って家に行き、それを与えてやるのだった。
彼らが飯を食っている間に洗濯やらなんやらを済ませ、しばらくして仕事場に帰る。初日こそ食べ物の好き嫌いで衝突したが、三日もすれば上手な扱い方が分かってくる。
「うぇ〜今日の朝はなんすか〜?」
ポロシャツ姿のデンジくんが、寝癖の強い髪を触りながら扉を開けた。
「商店街でメンチカツ売っとったからそれ。あと豆腐」
「トーフ? なんじゃそれ!」
すっかり私は“食べ物を持ってきてくれる人”として認識されてしまっているらしいが、懐かれる分には悪くない。
食べ物が入った袋を机の上に置くと、それをパワーちゃんがはしたなくガサゴソと漁っていた。咎めようかとも思ったが、(まあ、魔人のすることやしなあ)と言葉を引っ込める。
「……んー、なんすか? そのクーラーボックス」
「! ああ、これ?」
食べ物の入った袋を机の上に置いたのには理由があった。それはパワーちゃんから注意を逸らす目的によるものなのだが、デンジくんには簡単に気付かれてしまった。
「ま、後で分かるよ。飯入っとるとか、そういうんやないで」
「ふぅん」
それはそうと、パワーちゃんはメンチカツの入った紙袋を脇に抱えながら、パックに入った豆腐を取り出していた。
「真っ白じゃなあ。美味いのか?」
「なんだパワー、おまえ食ったことねえのか」
「ある! この四角いやつにトーフと名付けたのはワシじゃからなあ!」
彼女は虚言癖があるので息をするように嘘が出る。デンジくんもそれはよく分かってるらしく、彼女の発言を疑うように眉根を寄せていた。
「ま、なんでもいいけどよお。飯が食えるなら」
「デンジくんはいっつも腹ぺこやしね」
「はぁい! 俺腹ぁ減ってます!」
パワーちゃんは豆腐パックの開け方がわからないのか、ブヨブヨとするその表面をつつきながらこう尋ねてきた。
「ブヨブヨしとるのー……なんじゃこれ?」
「んー、畑の肉?」
「肉!」
聞くや否や、パワーちゃんは血から作り出したナイフでパックの表面を十字に切り、豆腐を手づかみし口に放り込んだ。
豆腐は柔らかいから、ボロボロと手からこぼれて机を汚している。漏れ出た水で服もビシャビシャだ。……どうせ昨夜も風呂には入っていないのだろうし、後でシャワーでも浴びせてやったほうがいいだろうか。
「うぇええ〜……味がしにゃい……」
「栄養はあんねんけどなあ……醤油とかネギとかと一緒に食うと美味いんやけど」
「ネギは野菜じゃぁ……食わん……」
豆腐は味噌汁用にもう一つ買ってあったので、デンジくんにはそれを出してやろうと思いながらキッチンの方に向かった。
料理はしないといったが、気が乗るとこうしてキッチンに立つこともある。
「メンチカツでも食うとき。デンジくんは掃除しとってな」
「げぇ……パワーお前自分でやれよ」
「ワシは汚しとらん……!」
「お前なぁ……」
ここ数日、いつものように聞いている会話。耳を傾けて微笑みつつ、私はその笑顔を絶やさずこう言った。
「せや、デンジくんにパワーちゃん。今日は飯食ったら一緒に外行くから、お出かけの準備しときや」
「? 外っすか」
「せや。うちが一緒におったら危ないこともないやろいうことでな、外出の許可出たから、ちょっと仕事や」
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「……お前達100点だ」
岸辺さんは振り返ってそう言った。
反して、デンジくんとパワーちゃんは不可思議そうに彼の方を見ていた。
先の襲撃を受け四課の強化を試みようとしたマキマは、古くから公安に所属している岸辺さんに“指導”の依頼をしたのだった。
つまり私はそういった依頼を受けていない門外漢なワケだが、昨日話をした折に誘われ(またデンジ・パワー二人と顔見知りなこともあり)こうして指導に合流することになった。
今朝家に行き飯を食わせ、そのまま待ち合わせの墓地までやってきた。人気のないところを選んだのだろうが、修行に適した場所かと言われると首を縦に振れない。
「俺は最強のデビルハンターだ。でもって」
岸辺さんはスキットルを持った手で私を指差した。
「こいつは俺の次に強いデビルハンターだ。最強の俺達を倒せる悪魔は最強なワケだから……お前達が俺達を倒せるようになるまで、お前達を狩り続ける」
「コイツ頭が終わっておる!」
「な〜。こいつヤベーっすよヨツナさん」
「じゃ、構えろ」
そう言って岸辺さんは懐に手を入れ、特に表情を変えることなくデンジくんらの方に歩みを進めた。
デンジくんらは状況を上手く把握できていないのか面倒くさげだが、良くも悪くも倫理観がないからか一応の臨戦体制を気だるく整える。
(あ、デンジくん死ぬな……)
認識の甘さがあるようなので、少し声をかけてやろうとしたところでデンジくんの胴体から脳天にかけてナイフの応酬が繰り出される。
そこで動揺することなくパワーちゃんがトンカチを振りかぶるが、一閃、喉元を切り裂かれた。
「ああ〜、早すぎません?」
「まずは二だ。一ノ瀬、俺より多く殺せば晩飯奢ってやる」
「うーん、カウント今からにしましょーよ。ずっこいですって」
持ってきたクーラーボックスの中に敷き詰められた血液パックを開き、地に倒れ伏せた二人の口に注いでやりながら返事をした。
「うげぇ……鉄ん味がするぅ」
すっかり傷の治ったデンジくんは上体を起こした。パワーちゃんは死んだふりをしていたので、私は無理に彼女の背中を押し上げる。
「早く立て。こっちは待たないぞ」
かなりスパルタな指導に、私は呆れたように息を吐いた。
「はぁ……ええ店連れてってくださいよ」
そう言いながらナイフを取り出す。二人には悪いが、これが彼らに対する指導なのだから仕方がない。
まあ時間もあまりないようだし、それに彼らは直感に頼る戦いが得意なようだから、基礎を鍛えるよりはひたすら経験を積む方がいいのかも知れなかった。
(ただ岸辺さんが殺したいだけかもしれんけど……)
そこのところは……考えないようにする。