(デンジくん視点)
「うめえ、うめえ」
「あちゅい〜……!」
家に帰るとホッとしたからか、玄関のあたりでぐっと身体が重くなって、そこから身体中についた血をシャワー浴びて洗い流すだけで体力が限界だった。だから食べ物が用意されてあったのはすげーありがたかったし、ぐつぐつになるまで火をかけりゃ良かったから余計な頭を使わないで済んだ。
そうしてなんとか用意した豚汁を食べていると、欲張って豆腐を口いっぱいに頬張ったパワーが熱そうに口をあんぐり開けていた。ぐつぐつ沸騰するまで火を通していたから、豆腐はめちゃくちゃに熱い。それを冷ますことなく大量に食べようとしたのだから、ああやって湯気で前が見えなくなるほど口の中が熱々になるのは仕方ないといえばそうだった。
「はふはふ、……冷ませっつったろ?」
「うええ〜! とうふとってぇ」
口を開けたまま喋っているので何を言っているのかよく分からなかったが、嫌そうに涙を流してるあたり豆腐をどうにかしてほしいらしかった。
ったく、しょうがねえやつ……。
アキがいない分、いつもの二倍こいつの面倒見てやらなきゃならねえ……。魔人ってのはどいつもこいつもこうなのかね? 俺も人のことは言えねえが、それでもちっとは俺の方がまともな気がした。
「吐けばいいだろ、吐けば。ほら台所」
捨てるのはもったいなかったが、つっても他人のゲロを食うほど落ちぶれちゃいねえ。……うっぷ、嫌なこと思い出しちった。今じゃあの夜のことは思い出したくもない悪夢だ。頭ん中が泥みてえに最低になるから、さっさと気分を切り替えねえと。
いま頑張って考えなきゃならねえのは、明日のことだ。明日、また俺たち二人は殺され続ける。けどそうなるのは嫌だ。でも嫌って言ったってどうにかなるわけじゃねえ……。自由に生きるには自分達の力でどうにかしなくちゃならねえんだ。
「しかしよぉ、明日はどうする? 相手はあのジジイとヨツナさんだぜ?」
まだ口の中に熱さが残るのか、パワーはコップの水をガブ飲みしてからこう言った。
「男の方はワシに策がある! ワシの頭脳を使って考えたが、あやつは老いとるから動きがまだ遅い! 奇襲する!」
「奇襲だあ? あの平地で?」
「アホか! わざわざ相手の陣地に行くバカがおるか! ここで待ち伏せる!」
ここっつうと、このアパートか……。まあ確かに、隠れるところはあるし、連携だって練習を何回かすりゃあ取れそうだ。
「いいな、それ!」
「じゃろう? もっと褒めてもよいぞ!」
なんか行ける気がしてきた……! やっぱ俺たち頭が良くなってんだよなあ。今まで頭脳戦してこなかったのが不思議なくれえによお。
ま、できるようになったんならこれからすりゃいーや。
しっかし奇襲、奇襲ねえ……。
「俺たち二人いるんだからよ、前と後ろで挟んだらなんとかなるんじゃねーか? 同時に行きゃあ傷くらいつくだろ」
「名案じゃなあ……! ワシもそう言おうと思っとったところじゃ!」
「ホントかぁ?」
ずるずると豚汁を啜る。肉が入ってるから美味え。なにより汁物だから身体があったまる……。
今頃ヨツナさんは焼肉食ってんのかなあ……。マキマさんも、どっかで美味いもん食ってんのかもしんね……。
「問題はヨツナさんだよ、あの人は頭使っても勝てる気しねえぜ」
「ウーム……」
すっかり豚汁も食い終わって、腹も一杯になったけど、それでもヨツナさんに対してどうするべきかがどうしても思いつかなかった。
それに最近気付いたことだが、飯は腹一杯になるまで食うとなんだか眠くなる。朝っぱらから気絶しては殺され気絶しては殺されの連続で疲れてるのもあってか、すげえ眠くなってきた。
パワーのやつも必死に考えてるようで、いつの間にか寝てた。
「……あ!」
だが、そこで俺は足りない頭で考えた!
頭のいいやつに勝てねえなら、同じくらい頭のいいやつに聞いてみればいいってことに!
っつうわけで、俺はヨツナさんに電話をかけることにした。
『……はぁ、なるほど? それでうちに電話してきたんか』
「そっす」
時間は九時過ぎでまだ寝る時間でもないからか、まだどこかで飲み食いしているのだろう。前に行った飲み屋みてえにガヤガヤした音が電話越しに聞こえてきた。
『ふうん……なあデンジくん。一つ聞きたいことあるんやけど』
「なんすか?」
『うちから見て、デンジくんってどういう立場やと思う?』
不思議な質問だ。ヨツナさんから見た、俺……?
いっつも俺、食う飯もらって、家事洗濯教えてもらって、たまに料理教えてもらって……。パワーに限っては風呂入れてもらって服着せてもらって、飯食わせてもらってた……。
「うーん……子供?」
『ちゃうわアホ! 敵や、敵! 今日散々殺し合ったやろ! 殺し合う親子がどこにおんねん!』
「あーなるほどなあ」
『ホンマに分かっとるんか? ……ま、ともかくうちらは敵や。つまり、うちがデンジくんに戦い方教えるゆうんは、敵に「自分はこうやったら倒せますよ〜」って教えるんとおんなじやっちゅうこっちゃ』
んー、まあ確かに、今日は散々殺されまくったしなあ。
ほとんど気絶してたから記憶も飛び飛びだが、確かに考えてみりゃ敵なのか。
眠気がだいぶ強くなってきたので、ぽやぽやと重くなってきたまぶたを擦りながら考えてると、少し声を小さくして秘密話みたいにヨツナさんはこんなことを言ってくれた。
『……っちゅうてもや。うちも今回の指導に関してはどうかと思うところもある。せやから、ちょっとだけやけれど助言したるさかい、よう聞いときや』
「いいんすか?」
『分からんけど、まあええやろ。もともとうちは指導に来たわけやしな。……せやけど、なにもかも教えるゆうわけやないで? ヒントやるだけやから、ちゃあんと自分で考えや』
よう聞きや、と念を押してヨツナさんは話した。
『デンジくんの身体は特殊や。他の人と違う。……その違うところは必ず君の武器になる。せやから、そこをどれだけ有用に、突飛に活用できるかが勝敗の分かれ目言うても過言やない』
「なるほど……俺ん身体……」
『せや。……これ以上はなし!」
ほなな、と、それだけ言ってヨツナさんは電話を切った。
俺ん身体、他のやつとは違うところ。
ああ! 閃いた! これならいける!
やっぱ頭使わねえとダメだよな〜!
(ヨツナ視点)
呆れ、ため息をついて、私は暖簾をくぐり店の中に戻った。
カウンター席に目を向けると大きく酒を煽る岸辺さんの姿が。焼肉屋は一度出て、本格的に飲もうと居酒屋へ場所を移したのだ。
携帯電話を懐にしまって席に着くと、「なんて言ってた」とこちらに目を合わせることなく彼は尋ねてきた。
「どうやったら勝てるか、教えてほしい言うてましたわ」
そう私は丁寧に答えた。そして彼を倣うように大きくジョッキを傾けた。話の内容は近況報告や上の動向など、仕事の話ばかりである。まあ仕事しかしていないのだから世間話のような話の種は少ない。せいぜい美味い食い物の店の話をするくらいで、こんなの酒を飲みながらでないとやってられない。
こうして酔っていないとオンオフの切り替えが難しいのだ。
「なにか助言してやったのか」
気になるのだろうか、咎める様子はないが重ねて訊いてきた。
私は一瞬答えるか迷ったが、まあ知られたところでデンジくんらに有利不利のある話でもなさそうだったし、なにより岸辺さんならある程度想定はつけてあるだろうから話すことにした。
「ま、遠回しにですけど、君らん身体は特異やねんからその特異さ活かして戦え言いました」
「そうか。まあ九十点ってところか」
「……あとの十点は?」
「あいつらに遠回しな言い方をして素直に伝わるとは思えねえ」
「あ……」
確かに、と言葉が小さく口から漏れた。
デンジくんら、ちゃんと理解してくれてたらええんやけど……。
アニメ良かったですね!