マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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人情

 デンジくんたちの飲み込みは早く、アドバイスを曲解する癖はあるものの一週間もしないうちに以前とは見違えるほどの成果を見せ始めた。

 二対二ではさすがに分が悪いとのことで、二日目からは岸辺さんと私とで交代交代に組み手の相手を務めていたのだが、それでもやはり私たちがデンジくんらよりも強いことに変わりはなく、彼らは一方的に嬲られ続ける苦戦を強いられていた。

 だが彼らも負けてはいない。繰り出す打撃、斬撃の中には次第に際どい攻撃が増え始め、連携も徐々に重みのあるものへと変化し、フェイントであったり自傷を顧みないカウンターが織り交ぜられるようになったりと、デンジくんらの攻め手は時間と共に複雑さを増していった。

 

 そこでようやく気付いたのだが、彼らは戦いの中で頭を使おうと努力していた。それも自然とそうできるようになったというわけではなく、意識的に行っているようなのだ。的確に弱点を狙うようになったし、足を引っ掛けようとしてきたりなどの搦手もおぼえ始めた。

 きっと戦闘における才覚はあるのだろう。素の身体能力が優れているのもそうだが、なによりこの危険を顧みないメチャクチャな訓練が彼らには非常に効果的なようだった。

 

「どうです、二人は」

「まずまずだな。想像よりは良い」

 

 痛みをバネに。恐怖を力に。

 私自身、彼らの成長は実感している。危ない瞬間は何度かあったし、私のナイフも数度躱されることがあった。急所をずらされ殺し損ねることもあった。

 成長は著しい。どんどん良いところを伸ばして、どんどん強くなっている。

 

 数日経つと、デンジくんは片手だけをチェンソーにする術を身につけ、その翌日には片足だけをチェンソーに変えていた。瞬間的にチェンソーを繰り出すことで間合いを伸ばしたり、あるいは高速で移動したりと、力の応用まで見せるようになった。

 

 パワーちゃんも血を多くは使いすぎぬよう、自分のもの以外の血を操作する方法を編み出した。元々止血をするために血を固めたりするようなことはやっていたらしく、その応用として相手を切り付けたときに流れ出た血を用いてより傷口を広げたり、血溜まりから槍を生み出したりと、その力は多岐にわたる。

 たくさん血を飲み悪魔としての力を強めれば出血させずとも内側から刃を出すなどの芸当が可能らしいが、現状それを許すことはできないのでその応用ということだろう。

 

 そんなこんなで彼らは自分達の持ち味を生かしつつ戦闘の経験を高めていった。

 

「っ!」

 

 ある日、ようやく彼らは岸辺さんの頬に一筋の切り傷をつけることに成功した。

 岸辺さんは息一つ乱しちゃいなかったが、頬から伝わる鋭い痛みと彼らが倒れ伏せている様子とを味わうように眺めてから、「よし」と一言呟いたのだった。

 

 ひとまずは合格らしい。彼の持つ基準をデンジくんらは満たせたようだ。

 そこから今の組み手を評価し、珍しくアドバイスも付け加えて、そして岸辺さんはこう言った。

 

「指導を踏まえて明日に実戦だ」

「実戦?」

「特異課の連中をぶっ殺したサムライソードとヘビ女を俺達全員で捕まえに行く。新四課のお披露目式だ」

「早いとこ言うと、成功したら美味い飯、失敗したらうちらとマジバトルっちゅうこっちゃ」

 

 デンジくんたちはよく分かってなさそうな顔をしていたので、理解のしやすいように言葉を付け加える。

 ふーん、とデンジくんは興味なさげだった。自分のことがどうでもいいというか、あまり頭が働いていないのかもしれなかった。だって、こんなことを言ったりするのだから。

 

「そん時ゃ俺は先生たちを殺さないで見逃してやるよ」

「は?」

「俺を強くしてくれたからな。これでもっと、悪魔を殺せる。……そうなりゃマキマさんとランデブーよ!」

 

 アホらし。目の前にいる人たちが敵になるかもしれないというのに。デンジくんは相変わらず明るく元気で、なにも分かっていないんじゃないかと心配になるほどだった。

 けどその明るさや能天気な態度が、彼らの良いところでもある。

 

「アホなこと言っとらんでな。明日は朝早いんやから、さっさ家帰って寝ぇや」

 

 晩飯はレンジでチンするだけでいいグラタンを作っておいたので、メモ書き通りチンして食べるよう伝えた。

 私はまだ用事が残っていたので、家まで見送ることはしなかった。

 

 さて、指導がひと段落ついたことをマキマに報告しなくては。

 支給された携帯電話を用いて彼女にメールを送ると、すぐに返信があった。岸辺さんのところにも届いたようで、その内容は要約すると『お礼がしたいのでどこそこまで』というもので、二人で顔を見合わせて、待ち合わせ場所まで向かうことにした。

 

 それなりに遠い場所だったので、移動しているうちに夕暮れになっていた。岸辺さんとは特に会話などない。先日飲みに行った際あらかた話したので、話の種はとうに尽きていた。

 お互い気まずいさを感じるような性格でもなかったので黙ったままでいたのだが、突然なんだか疲れたような声で岸辺さんは私の名前を呼んだ。

 思いもよらなかったので、驚きながら私は聞き返した。

 

「なあ、一ノ瀬」

「? なんですか」

「俺はもうアイツラが嫌になってきちゃったな」

 

 嫌になった。その言葉の意味を考える。

 そのままの意味ではないだろう。ましてや、頬に傷をつけられた負け惜しみなんかでもないはずだ。

 

 となると、情でも湧いたのだろうか。

 長生きなデビルハンターは人間としてなにか欠陥を抱えているものだが、岸辺さんはギリギリのところで僅かながら情を抱く部分があるのかもしれない。

 それを酒で誤魔化して、頭がダメになるまで誤魔化して、そうしてやっと生きていられるのかもしれない。

 

「育てた犬が死ぬと酒の量も増える。老いてくるとくだらねえもんに情を持っちまう。……お前はどうだ? いるんだろ、部下が」

 

 言われてさまざまな人の顔が現れては消えていく。最後に二人の顔が脳裏に浮かび、またモヤのように消えていく。

 

「うちは……部下が死ぬといっつも悲しなります。いま一緒におる奴らは一番付き合い長いですし、たぶん泣いてまうかもしれません」

 

 でも、と続ける。

 

「でもデビルハンターは死ぬんが仕事でしょ」

 

 覚悟はできているのだ。大切なものを失う覚悟を持って、それでたっぷりと情を注いでいるのだ。

 いつか落ちてしまう線香花火に消えないでと祈ることはあっても、本当に永遠にそのあかりを灯し続けていられるとは思っていない。

 

「悲しさを感じるところとはまた別に、心には冷たいところがある。うちはその冷たさに頼って生きていきますよ」

「……そうあれるなら、どれだけいいか。俺はお前が羨ましいよ」

 

 岸辺さんはタバコを吸おうとして、切らしているのに気付いたのか潰してポケットに戻した。

 

「マキマのやつは俺に指導を頼んだが、お前の方が適任だ。今後のことは頼んでもいいか?」

「……やですよ。うちも仕事あるんですから」

「先輩の言うことくらい聞いておけ。お前にとってもタメになる」

 

 ほんとうだろうか……? 単に仕事を押し付けられているだけのように思えてならない。

 

「しばらくデンジくんらとは一緒におるんで、その間なら別に構いませんけど。けど、たまには様子見に来てくださいね」

「ああ」

 

 酒焼けしてしゃがれた声。私にはそのただの相打ちが、ひどく悲しいもののように聞こえてしまった。




今週はチェンソーマン二部連載あります!
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