マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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料亭にて

「ごっそさんでした」

 

 手を合わせて言う。するとマキマが満足したように「美味しかった?」と訊ねてきたので、「うん、うまかった」と素直に返事をした。

 机の上から料理がなくなっても岸辺さんは熱燗をちびちびと飲んでいたが、マキマと私は食事もそこそこに仕事の話をし始めた。とはいってもそこまで固いものじゃない。元々この食事はデンジくんらの指導の礼という名目があり、マキマを交えた三人で行われる気安い食事会なのだから、ちょっとした愚痴や仕事の不安などを吐露するような場所であった。

 

 ただ飲むだけなら居酒屋でも良かったのだが、なにぶんお互い身分も偉くなったので、たくさん人のいるような場所ではできない話ばかりすることになるだろうと思われた。そのためマキマが気を遣って、こういう人気のない店を選んでくれたようだ。

 

「私は美味しい食べ物が好き。美味しいお酒が好き」

 

 既に空になった器の数々──陶器や漆喰の茶碗やら、高そうなものが並ぶ──を眺めながらマキマは言う。

 

「今やってる事案が終わって、休みができたら、どこか繁華街にでも行って食べ歩きでもしない?」

「ええなあ。大阪は美味いもん多いで。来いや」

「いいね、大阪」

 

 マキマは根っからの酒好きだが、この後の仕事に差し支えるとのことで飲酒は控えていた。すっかり夜も更けてきたというのに、まだ仕事があるとは大変だ。

 私も明日に響くからと飲酒はそこそこ終え、二人してただの茶を飲みながら話をしているのだった。

 

「大阪は前から行きたいと思ってたんだけどね。管理職になると、なかなか東京から離れられなくって」

「あー……京都とかは仕事で行くこともあるみたいやけど、大阪はそうでもないんか?」

「大阪はほら、たこ焼きとかお好み焼きとかが美味しそうだなって思ってるけど……接待で出される料理じゃないから」

「せやなあ、高い食いもんとちゃうしな」

 

 となると、店で買って食べたりというのはしたことがないのだろうか。駅で探せばたこ焼き屋くらいありそうなものだが……会食を食べる前や後にはあまり適していないのか。

 

 あんまりそういう上の人と話をしたりする経験がなかったので、それはそれで大変だなと思いつつふと思ったことを口にした。

 

「それやったら、うちが作ったるやん」

「いいの?」

 

 とマキマは意外そうにこちらを見た。

 私は少し笑いながら「ええよ」と返事をする。

 

「家からたこ焼き器持ってきとるし、お好み焼きもホットプレートあれば作ったる」

「……いいね、楽しみだな、ヨツナのたこ焼き……懐かしいね。前に食べたのいつだろう」

「うーん、言うても時々食うとったやろ?」

「そうだけど、でも」

 

 とマキマ。

 

「研修時代によく食べてたから、思い出の味だよね」

「そないにええもんでもないわ」

 

 謙遜混じりに鼻を擦る。未熟な頃の自分を思い出すと少し照れくさくなるのだ。

 あの頃はまだ料理も覚えたてだったから、たこ焼き一つ綺麗にひっくり返すだけでも苦労したものだ。

 

「そういえば、デンジ君とパワーちゃんはどう? 元気にしてる?」

「あーもう元気元気。朝昼晩、飯食わせに家行ったってるんやけど、もう嫌になるくらい元気やわ」

「へえ、ご飯って手作り? 大変だね」

「言うてそんな凝ったもんでもないけどな。汁物作ったったり、肉焼いたるくらいで」

 

 パワーちゃんは野菜嫌いらしいから気をつけた方がいい、とか。野菜は嫌いだけど大豆からできた豆腐は食べてた、とか。あとはデンジくんは最近よく教育テレビを観ているだなんて、そんなくだらない話を繰り返した。

 

 しばらく話し込んで、そろそろ帰ろうかという話になったところで、不意に岸辺さんが空になった酒瓶をお盆に戻しながらこんなことをマキマに尋ねた。

 

「……明日の作戦、お前はどうするんだ? 忙しいとはいえ、ある程度書類作業もかたはついてるんだろう」

 

 明日、デンジくんとパワーちゃんが属している特異四課は、サムライソードとヘビ女のいる雑居ビルに乗り込み派手に戦闘をすることになっていた。

 アキくんは戦闘が出来るようになるまで回復したと天童黒瀬から聞いているので、きっと彼も参加するのだろう。

 

 そんな中で、彼らの上司とも言えるマキマはその時どうするのか、岸辺さんは気になっているらしかった。

 

 マキマは岸辺さんの方を真っ直ぐに見つめて、すぐにこう答えるのだった。

 

「私は今回の事件の主犯格である人物に関与があると思われる組織にあたりをつけましたので、実際に話を聞きに行こうかと」

「居場所はわかってるのにか?」

「彼らは銃を使っていました。その入手ルートを探らなければなりません」

 

 銃、か。

 確かに彼らはどのようにして銃を入手したのだろうか?

 事件が起こった日、町中を走り回って片っ端から銃を集めたが、かなりの量の銃と弾丸を回収するハメになった。今のこの社会において、ああまで下っ端までにも流通させることができたということは、なんらかの取引ルートがあると考えて良さそうなものだ。

 

「そうか……ま、お前が現場に参加するとなれば、新四課のお披露目もあまり意味ないだろうしな。……となると一ノ瀬、お前も来はしないのか」

「うちですか? うちは、うーん……観にいこかなとはとは思いますけど、戦いはしないでしょうね」

「? あれ、ヨツナって明日暇なの?」

「えぁ? うん」

 

 曖昧に返事をした。一応、特異四課は悪魔や魔人だらけだと聞くので、もしものために控えていると考えれば暇というわけじゃないが……ただ自由に動けるという点では間違いなく暇だ。

 

 マキマは少し考えるそぶりをした後、こんなふうなことを提案してきた。

 

「ヨツナも明日一緒に行こうよ」

「は? 行くって……ヤクザのとこ?」

「そう」

「嫌や」

 

 ヤクザとか明らかに厄ネタだ。そもそもマキマが行おうとしているのは情報戦というか、交渉になると思うのだが、なぜそこにデビルハンターの私が必要となるのだろうか?

 

「うち、交渉とか苦手やし。……っちゅうか、護衛としていくにしても、もうそういう人ら用意しとるんとちゃうん?」

 

 嫌そうな顔をして話すと、こんな返事が返ってきた。

 

「そうだね、あんまり大勢で行くと警戒されちゃうかもしれないから、一人で行くつもりだったよ。……ううん、警戒はされてると思うんだけど」

「はあ……なるほど? ほなうち一人増えたとこで、そんなに差はないんか」

「そう。それに……一人じゃ不安だから」

 

 不安、なんて言葉がマキマから出てくるとは驚いたが、まあ方便というやつだろう。

 

 正直、マキマ一人でなんとかなりそうな事案ではある。今でこそ書類作業に追われてすっかり中間管理職の面をしているが、ああ見えて今でも現場に赴き悪魔退治を行うことがある。内閣府直属のデビルハンターという看板に嘘偽りはなく、彼女の実力は遥かに高いのだから。

 

 もちろんその実力は人に対しても有効だろう。今でこそ彼女は人を遣い仕事をするが、研修時代はその実力を遺憾なく発揮していた。

 

「ねえ、お願い」

「いや、いやあ……」

 

 しかし、いくら同期からのお願いとはいえ、ヤクザのところに行くのは気が引ける……勝てないわけじゃないが、あの手の輩はシンプルに面倒なのだ。

 それに私にだって守らなければならない部下がいる。なるべく厄ネタに首を突っ込みたくはない。

 

 ただ、人から頼られると強く断り切れないのが私の悪いところでもあった。悩みに悩んだ末、苦しく息をするように答えを出した。

 

「ううん、まあ、ええけど」

「いいの? やったね」

 

 嬉しそうにマキマは顔を綻ばせた。

 正直言って気は重かったが、マキマが喜ぶならそれでいいかと、半ば諦めた表情で茶をあおる。

 そんな私の苦しんだ様子を、岸辺さんは珍しいものを見るかのような好奇に満ちた目で見つめていた。見てないで、助けてください……!

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