マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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勉強会

「デンジくんは最近割り算できるようになったんやで」

「おぉ〜できるぜ。割り算」

「ええ〜! スゴイ!」

 

 机に広げられた算数のドリルに向かい、デンジくんは手に持った鉛筆を動かした。話しながら問題を解くのは難しいのか、辿々しくはあるが、しかし確実に問題を解いている。

 そうして得意げである彼を見て、レゼちゃんが大変喜ばしそうに笑顔で手を叩いた。

 

 習熟度は未だ十分ではないので筆算を用いての計算だったが、しかしながら目まぐるしい学習スピードである。足し算引き算はもちろん、掛け算も一桁のものであれば今の彼なら難なくできる。

 

「ここのページ終わらせられたら飯にしよか。答え合わせで大きいミスなかったら追加でアイス注文してええよ」

「ぃやったぁ〜……」

 

 店についてから三十分はこうして机に向かっていたのではないだろうか。そろそろ集中力も切れる頃だろうから、終わりにしたほうがよさそうだった。

 そんなことを考えながらいま彼が取り組んでいるドリルに目をむける。デンジくんならこのレベルは問題はないだろうと目を離し、それからレゼの方に視線を移した。

 

「レゼちゃんは勉強どう?」

「ん〜バッチシです!」

 

 そうやって彼女は机の上に広がる参考書やルーズリーフを見せてくれた。内容は年相応の難しさがある。

 特別困っている様子もなかったので、「ようやっとるな」と一言褒めた。するとレゼはとても嬉しそうに笑顔を返してくれた。

 

 どうやら彼女は夏休み中の学生らしい。こうしてアルバイトをしながら休憩時間には課題をコツコツ進めているのだという。

 彼女のノートを横目で見てみると、綺麗な文字でよくよくまとめてある。私はそれを横目で見ながらスゴイなあと言葉を漏らした。

 

 普段は休みの日にアキくんの家でデンジくんに算数や国語の勉強を教えているのだが、ここ一週間は仕事のある日でも昼食時にはこの喫茶店に集まりレゼも加えて勉強会を開いていた。

 

 私自身、そこまで学のある人間ではないが、人にものを教えることは得意であったので義務教育程度なら教えてやれるだろうと思ってのことだ。

 マキマにもデンジくんの世話は頼まれていたし、彼自身学びに対して強い好奇心を抱いているようだから、教えていて悪い気がしない。なにより彼は覚えが早い。

 

「できた!」

 

 とデンジくんが言うので、早速答え合わせを始める。

 必死に頭を動かしたからかデンジくんはややオーバーヒート気味で、氷の入った水を飲みながら疲れたようにぐったり背もたれに身を預けていた。

 

「お疲れさまデンジ君」

 

 とレゼが一旦ペンを置き、彼と目を合わせて話し出した。

 彼女は勉強するときとそうでないときとを見極め、メリハリをつけられる良い子だ。デンジくんが集中して物事に取り組んでいるときはあまり邪魔しないように……けれど、ときどき助言もしながら、彼女は彼の学びを手助けしていた。

 

 年頃の二人に挟まるわけにもいかないので机の向かい側に席を用意して座っていた私は、デンジくんから受け取ったドリルを赤ペンで採点する。

 丸、丸、三角。

 あまりバツはつけたくないから、考えることを放棄していなければ三角をつけるようにしていた。

 

「スゴイなあデンジくん。ほとんどマルや」

「アイス食っていいんすか?」

「ええよ。……しっかし、飲み込み早いなあ。掛け算は暗記やから覚えてもうたらええけど、割り算はそうもいかん。詰まりやすい子多いんやから」

「いやぁ〜余裕余裕!」

 

 照れたように頭髪を掻いてデンジくんは微笑んだ。

 

 彼は最近漢字も読めるようになってきた。居酒屋に行ったとき字が読めなかった思い出が彼の中であるらしく、普段読む漢字(料理の名前に使われるものや、仕事の書類に載ってるようなもの)から簡単なものを教えていった。

 

 カフェのメニューはカタカナが多く簡単だからか、今では難なく注文できている。それに外回りの際に知らない漢字を見つけると、彼はそれを紙に写してどう読むのか尋ねてきたりもした。

 

 読みはそこそこできるようになってきたが、書きはまだまだなので、書道を教えようかと悩んでいたりもする。

 

「デンジくんは書道とか興味ないん?」

「書道?」

 

 知らないのか、興味なさげに答えていた。

 

「んー、なんで言うたらええんやろ……キレイな字ぃ書くねん。好きな子に手紙書くときとか、汚い字のままなんは嫌やろ。それに学校でも書道やるみたいやし、なんかええんとちゃう?」

「う〜ん」

 

 彼は今なにを考えているのだろうか。彼のことだから、女の人のことでも考えているのかな。

 

「やってみよっかな……書道……」

「ええやん。ほな今度道具用意したるから」

 

 と言うと、レゼが少し神妙な顔つきでいた。笑顔ではあるのだが、少し悲しげに眉を下げているのだ。

 デンジくんが学校に行っていない話題が出ると、いつも彼女はそうした顔つきになる。

 

「キミはさあ、学校行かないの?」

「学校?」

 

 手を止めてデンジくんは聞き返した。

 レゼは手持ち無沙汰にペンを回している。

 

「デンジ君、十六歳でしょ〜? 学校行かないでデビルハンターやってるなんて変。珍種だよ」

「そうか? 学校なあ……俺は行ったことねえから分からねえけど。でもデビルハンターも良いぜ? 飯三回食えるし、寝るとこあるし、金もらえるし」

「そんなの普通だよ。みんなそうだよ」

 

 ぐいっとレゼはデンジくんに顔を近づけた。

 そうしてじっと目を合わせていた。

 

 どちらもなにかを喋ろうとはしない。私も、彼らの思春期特有の距離感を侵そうという気にはなれなかった。

 

「……学校なあ、行ってみてえけどなあ……」

 

 気まずそうに先に目線を外したデンジくんが、ちらりとレゼを一瞥して言った。

 

「じゃあ行こうよ、学校!」

「でも仕事があるんだよなぁ、これが。ただでさえ割り算で苦労してんのに、両立はキチィぜ」

「じゃあさ、じゃあさ……」

 

 そんな会話を聞きながら、私はマスターのところまで料理を取りに行った。客に運ばせて申し訳ないと彼は言うのだが、ウェイトレスのレゼを勉強会で拘束してしまっているのはこちらなのだし、好きでやっていることだから良いのだと笑顔で返す。

 

 そうしてお盆にカレーやアイス、チャーハンやらを乗せて席に戻ると、なにやら二人でこそこそ話をしていた。

 

 レゼはなにかを企むような嬉々とした笑顔で、デンジくんは反して驚きの表情をしていた。

 

「ん〜? なに話しとったんや?」

「えぇ〜? ヨツナさんには内緒!」

 

 レゼはなんだか嬉しそうに笑顔で答えた。こういうデンジくんとレゼ二人だけの秘密、というのも歳の差ゆえのものかもしれない。同年代の二人が仲良しでなによりだと、机に昼食を並べて「飯にしよか」と合図をとった。

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