次の日は夜から夏祭りが開かれていた。
普段は二人組で行動するのだが、昨夜デンジくんのところへ刺客が現れた一件を鑑みて人数を増やすことになった。そのため、私たちは三人共に巡回と称して夜店を巡っていた。
というのはまあ建前で、祭りなのだし少しくらいは楽しもうと気楽な一面はないわけではなかった。なのだが……。
「焼きそばか。買ってやろうか、お前好きだったろ」
「いや、ええです……うちかていつまでも子供やないんで。部下の前でやめてください」
部下二人と三人で仲良く……と洒落込もうとしたのだが、どういうわけか岸辺さんも着いてきた。
健全な青少年が楽しむ祭りに傷だらけで酒臭いおじさんはそぐわないですよ、とは言えなかった。
それに、岸辺さんが言うには警戒を強めたほうがいいだろうとのこと。確かに心強くはあるのだが、一緒に行動する理由はないに等しい。
「祭りなんざ久しく来たことがない。こうも明るいと眩暈がしそうだが、たまには良いもんだな」
「はいはい、花火見たら帰りましょーねー」
人混みの中で立ち止まる岸辺さんの背中を押しながら前に進んだ。
まあ、分からないでもない。私自身祭りなんて何年ぶりだろうか……屋台は美味しいものがいっぱいだし、楽しい出し物もたくさんある。
こうしたときに思うのはデンジくんのことだ。いま彼は一緒にはいないが、レゼと一緒に楽しめていたらいいのだけれど……。
そうしてずんずん人混みの中を進みながら、時々屋台で食べ物を買っては食べていた。
「お、たこ焼きやん」
「さっき向こうの店で買うたばっかりやないですか。……そないようさん、おんなじもん食えませんって」
「あほう、食べ比べするんや。おっちゃん! たこ焼き一つ!」
半分ほど食べていたたこ焼きを片手に叫ぶと、呆れたように黒瀬はため息をついていた。
先輩に振り回されているのは私だけじゃないらしい。
「家で食うたこ焼きと、店で食うんとではまたちゃうな……家のはこうもしっとりしとらんから。どっちも好っきゃな」
「そーですか。ほな良かったです」
「ん」
食わないのか、と口をつけていない爪楊枝を使い一つ黒瀬の口元まで寄せてやった。
彼は眉を寄せながらも大きな口を開けて食べる。
「まあ……普通に美味いですね」
「美味いもん食うとるときの表情とちゃうで。自分鏡見てきてみ?」
とおちゃらけたように言うと、黒瀬は一層不満げになった。
なにがそう嫌なのか?
不思議に思いながらも夜店を巡る。
ヨーヨー釣りをしたり、金魚すくいをしたり。
天童はよく楽しんでいるようだったが、黒瀬はそうでもなかった。
やがれ彼は不満を打ち明けるようにこう言った。
「……ヨツナさん。昨日、刺客が来よったん、分かっとりますよね?」
「? うん」
「せやったらもうちょい警戒しとったほうがええんとちゃいます? 祭りやからって浮かれとらんと……そらまあ、気持ち分からんでもないですけど」
昨日の一件があった時間帯、黒瀬は何も知らされずにただ眠っていた。そのことに対しての疎外感もあるのかもしれないが、なにより天童のやつが危険に晒されていたことを負担に感じているらしい。
おそらく、自分が起きていれば防げた危険なのではないか、とでも考えているのだろう。
だからこそ彼としてはより気を引き締めて警戒に当たっているのに、上司はそれに反して祭りに浮かれている──そのギャップが、彼の自らを律する気持ちと合わさって怒りに似た感情を生み出しているようだった。
「まぁ黒瀬、考えてみぃや」
ちょうど近くに射的屋台があったので、お金を払って銃を受け取った。
あんまりシリアスな表情をすると叱っているような気持ちになってしまうので、嗜めるように笑顔で話した。
「そない準備万端で身構えとるやつに、敵は襲ってこやん。油断で隙だらけのやつにこそ、敵は好機と捉えて襲いかかってくる」
せやろ? と黒瀬に確認をとる。
彼は渋々といった表情で頷いた。
「せやから、気楽に行こや。そら警戒は忘れとらんけど、ずっと気い張っとった疲かれてまうし、なにより来るもんも来よらんよって」
「……詭弁ですよ、それ」
「そうかもしれんな。せやけど、うちはそういうスタンスでやっとるから。それに岸辺さんも……いや、岸辺さんはただの飲んだくれ……うん? 計算してやっとるんやろか? どっちやろ……」
ともかく。
そこまで言って、射的のライフルを構えた。
コルクの弾は六つあったので、それを使って適当なお菓子でも取ろうと考えた。射的は得意なのだ。
「せやかて理由にはなりませんよ。いまこの瞬間来よったらどないするんです……」
「うーん……」
ようは常から準備しておき素早く切り替えられるのが重要なのだと、そういったところに話の着地点を持って行こうとしたのだが、それでも黒瀬は納得できない様子であった。
このままじゃ話も平行線だろうし、なにより祭りでするような話でもない。
射的で手に入れたお菓子を六つ黒瀬に押し付けると、私はそのまま人ごみをかき分けて坂の上の方に向かった。
「心配しやんでも仕事は忘れとらんよ。ま、他にも何人か監視付いとるとはいえ、なんかあったら遅いしそろそろ行こか。ようさん食うたし」
と、空になったたこ焼きの容器をゴミ箱に捨てる。
「なんか動きあるとしたらこうやろなっていう予想はあるんや。デンジくんらが人混み抜けたあと……特に花火のとき、人の視線が空に向かっとるときがいっちゃん危ないから。誰もデンジくんのこと見とらんし、花火の音でなんも聞こえんし」
逆に、それ以外のときなら安全だろうと考えていた。
それ以外ならば、人の叫び声や人混みの流れの変化で異変を察知できるだろうから。
「デンジくんらは上の方に移動しとるから、おおよそ花火でも見るつもりなんやろ。横道逸れて、花火見やすいとことか行ってまうかもしれへんから、早いとこ尾けよか」
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「しっかし……岸辺さんどこ行きはったんやろ……」
途中彼とははぐれてしまい、三人だけで草むらの中に忍びデンジくんの監視をしていた。
(あ、花火や……)
ようやく花火が始まったようだ。
大きな音の中、花火に照らされたデンジくんとレゼは甘酸っぱい青春のひとときを送っているように見えた。
見えたというか、見ていいものなのかどうか迷いながらだったが、警戒だけは薄れぬようにしていた。
ところが、だ。
動揺したように転げたデンジくんに近づくレゼ、そうしてその間を邪魔するようにサメの魔人であるビームが飛び込んできた。
「っなんでや! なんで邪魔するん!」
と思ったのも束の間。
花火を打ち上げる音と共に、レゼのいたあたりが大きな爆発に見舞われたのだ。そうして一瞬立ち上がった硝煙の中から現れたのは、異質な頭を持つ武器人間そのものである。
(え?! ちょ、ちょっと待って!)
後輩の手前、準備がどうのこうのと偉そうなことを言ったが、まずい!
心の準備ができてない!
「いっ行くで!」
ひとまず駆け出しデンジくんと、それに追い縋るレゼを追うが、心の中は未だ整理がつかず、ひどく困惑しながら斜面を下っていった。
は、恥ずかしい! 偉そうなことを言っていた自分が!
身構えているときには、死神は来ないものだ(`・ω・´)