マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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病室にて

 あれから数日経って、レゼの尋問は終わりひとまずの目処がついた。

 

 サメの魔人ビームくんが呟いた「銃の悪魔の仲間」という文言の意味については未だ詳細が明らかになっていないが、多少は有益な情報を上層部は手に入れられたらしいのだ。

 中でも、既にデンジくんの特異性について様々な場所へ情報が流れたというのが上を騒がせている大きな要因のようで、緊急で情報規制を敷くなどしているとのことなのだが、世界全体となるとそれも厳しいようだ。

 そのため、おそらく今後海外から多くの刺客がやってくるだろうと予想されており、それに対抗するべく厳重な警戒を持ってデンジくんを保護する方針を立てたのだという。

 

 ……なのだが。私は右肩の怪我を理由にしばらく彼の護衛を外されていた。レゼというソ連からの刺客に気付けなかったのも要因としてあるのではないだろうか。あくまで私の主観だが、私の二の舞を踏まぬように、今はヒソヒソとした護衛はやめにしたようで他県にも多くの応援要請を出しているようだった。

 まあ、以前のサムライソード同様に新たな武器人間が現れたことへの焦りもあるのだろう。

 それにプラス思考で考えてみよう。人的被害を最小まで抑えた私に対して貴重な戦力であるという高い評価を与えるがゆえに、なにかあったときに備え万全の状態まで整えるための療養期間を設けたと捉えれば悪いことじゃない。

 

「いや、そないに甘い組織でもないか。……ま、状況は過酷やけど、楽観的でいた方が気も楽やわ」

 

 三角巾で吊るされた右腕の具合を確かめながら呟いた。今回の怪我で一ヶ月程度の暇が出されている。その程度の期間で治る傷とは思えないが、視覚や聴覚を失っても働いているデビルハンターはいるのだ。文句は言っていられない。

 

 あとそれと重要なのはレゼの処遇である。会議でも、やはり殺すべきではないかという意見は多く見られたらしい。戦力として見るよりも、その危険性ばかりが目立ったのだろう。

 ただそこはマキマが頑張ってくれたようで、結果からしてレゼの所属先は私の抱える旧・肉片回収班に選ばれた。彼女を公安に引き入れることを提案した私の責任でもあるし、なによりレゼと十分に差し合うことができ──また仕留め得る存在は一ノ瀬ヨツナなのだと、そうマキマが言広めてくれたおかげで、自然と彼女の配置は私の元にあてがわれた。

 

 もともと私が言い出したことなのだから文句なんてあるはずもないし、むしろこうも理想的な状況になったことへ驚きすらあった。

 人体実験などありそうなものだが、軽い身体検査と事情聴取で済ませると見舞いにきたマキマから聞いた。

 ということらしいので、あと数日もすればレゼとはまた会えることになるのだろう。

 

「ヨツナさん、ちょいと飲みに行きませんかー?」

「アホ言うなや。病院やぞ」

 

 と、同室にて数ヶ月にわたり入院中の姫野が言った。

 パワーちゃんによる応急処置により失血死は免れたとはいえかなり危険な状態だったらしく、また胸に負った傷が心臓をかすめていたり、日頃の不摂生が祟って体の各所に問題があったりと、想像以上に長期の入院を強いられているようだった。

 そのためか、酒や煙草といった欲求を長い間に渡って満たせず、こうしてよく酒やら煙草やらに誘う文句を言ってくるのだ。

 

「言うとくけど、天童や黒瀬に酒やらタバコやら持ってこさせるこたぁない。期待するだけ無駄やで」

「ちぇえっ。アキくんもお酒持ってきてくれないし、後輩みんなフルーツばっかりで……この傷だらけの身体にはアルコールの消毒が必要なんですうぅ!」

「君ぃ傷治っとる言うとったやろ。……来週退院なんやったら、大人しゅうしとるんが一番とちゃうん?」

 

 口が開けば酒。閉じたら口寂しげに煙草の話をし始める。

 すっかり中毒者だが、そういったものに依存しなければならないほど彼女の心は病んでいたのだろうかとも思われた。

 

「それに、退院したからっていくらでも酒飲んでええわけやないんやから。内臓の機能弱っとるんやったら控えや」

「でもお、お酒おいちーですから」

「酔っとるんか? 言動危ういぞ」

 

 訝しみつつ彼女の近くに置かれたペットボトルに視線を向けるが、病院の売店で売っているただのお茶だ。

 怪我で頭もやられたのかと(実際あり得る)精密検査をするべきではないのか疑問に思いつつ話した。

 

「まあ、飲み会くらいは連れてったるさかい。あんときの祝勝会は参加しとらんやろ? まだ意識なかったやろうし。……人死んどるし、大怪我もしとるから祝勝会いうんが適切か分からんけど」

「奢りですか?」

「せや」

「行きます。ヨツナさんもやっぱり飲みたいんじゃないですか」

「ちゃうわ。一緒に行って、君の酒飲む量管理するねん」

 

 えー、と不満げな声が聞こえてきたが、私は無視を貫き通す。

 退院したとはいえ後遺症はあるのだ。内臓の機能が弱った状態で以前のように酒を飲んでは危険極まりない。

 

「店行ったら無限に頼まれてまいそうやから、宅飲みやな。うちが料理作ったるから、それ食うて酒飲みぃ」

「ヨツナさんの手料理食べたことないんですよね」

「変なもんは出さへんよ。自分で言うんもなんやけど、評判ええんやで? たこ焼き、お好み焼きはもちろん、よう分からん郷土料理やなかったら基本なんでもいけるわ」

「へえ〜、意外ですね」

「あんなんレシピ通り作ったらええだけやで。一人暮らし長かったから自分で料理ようさん作っとったんが良かったんかもしれへんけど。それに仕事でいろんなとこ行くから、美味いもんもようさん食えるしな」

「ふう〜ん。私も安い飲み屋と不味いラーメン屋ならよく知ってるんですけど」

「……若いからってそんなんばっか食うとったら、ほんま死ぬで? っていうか君ぃ死にかけやん」

「いいんですぅ、デビルハンターは短命ですから」

「不摂生で死ぬデビルハンターなんて聞いたことないわ」

 

 呆れ顔でため息をついた。

 それから、こう訊ねた。

 

「デビルハンター続けるんか?」

 

 私の問いかけに姫野は答える。

 その言葉には迷いが見られた。きっと、受け止め難く、それでもこの数ヶ月の入院生活でじっくり受け入れてきたことなのだろう。

 

「続けられるならそうしたいです。けど、怪我の後遺症で身体は満足に動かないし、悪魔と契約しようにも私の身体に払える代償なんてとてもじゃないけど残ってない。私はこれ以上働けません」

「そうか」

「けど、ダメなんです。それじゃ、ダメなんです」

 

 姫野は悲壮な顔つきをして、ベッドから身を乗り出して言った。

 

「お願いします。アキくんを、どうか、アキくんに辞めるように言ってもらえませんか……!」

「それは無理や」

「どうして」

「アイツはなにかに取り憑かれたみたいに仕事しとるで。あれは差し違えてでも殺すゆう、そういう目ぇしとる」

 

 うちなんかが言って聞かせられるようなもんやない。

 そんな意図を鋭く視線に込めた。するとそれを受けて、姫野は力が抜けたように乗り出した上体を背もたれに預けた。

 

「……アキくんは、銃の悪魔に家族をみんな殺されたんだそうです」

「家族をな……」

「だから銃の悪魔を自分の手で殺すんだ、って……でも、きっと無理です。アキくんは普通の人だから。ちゃんとした人だから、きっと死んじゃいます」

「…………」

「お願いします。死なせたく、ないんです」

 

 彼女の言葉には真に迫るものがあった。さっきまでの酒に酔ったような発言とは違い、心のこもった言葉であった。

 けれどそれと同じくらい、いやそれ以上に早川アキが抱く意志は強いものである。

 

「無理なもんは無理や。ひょっとしたらアイツは、銃の悪魔に殺されるならそれでええとすら思っとるんとちゃうか。家族と同じように死ねるなら、それでええって……バディやっとったお前に止められへんのやったら、うちが出来るはずないわ」

 

 せやけど、と付け加える。

 

「うちを誰やと思っとんねん。今回の一件で死傷者数ゼロに抑え込んだ立役者やぞ。死人なんて出すかいな」

 

 話しながら三角巾で吊るされた右腕に触れた。この痛みが、人命を救ったのだと考えると、心が洗われる。

 

「部下には死なれとうないし、アキくんの実力が銃の悪魔討伐に不十分や思ったら、参加できやんように提言する。それくらいのことができる権利はある」

「! ……ほんとうですか?」

「アキくんが実力不足やったらの話や。彼がちゃんと力付けてきたら、そんときは一緒に討伐に行くことなるやろな。──せやけど、それでも死なせはしやんよ」

 

 安請け合い。こんな確証もない約束を、姫野は驚きの混じった笑顔で受け取った。

 

「じゃあ、また飲みに行きましょうね。みんなで。銃の悪魔が倒せたら」

「……ああ、せやな。銃の悪魔倒したら、そんときは飲みにいこか」

 

 銃の悪魔を倒す。

 その目標へ定めた狙いに、狂いはないはずだ。

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