「あれ〜? コベニちゃんやん」
「ひぇいっ?! あっ、はぁっ……ぃよっ、ヨツナさん……」
「あはは、びっくりさせてごめんな。……ってあれ? コベニちゃんは、デンジくんらと同じやないん?」
「えっ、ええっと、その……」
通りがかり見つけた驚きから突然声をかけたからか、コベニちゃんはいつものようにオドオドと言い淀んでしまっていた。
もう少し話しかけ方を工夫するべきだったかなどと考えていると、隣に立っているペストマスクを被った男が代わりに話した。見たことのない背格好だが、顔を隠している点やコベニちゃんと同じ特異課という特徴からおそらく魔人なのだろうと思われた。
「まぁーいつだって悪魔はいますし、全員彼の護衛に付けるわけにもいかないって話なんで、自分らは巡回するよう言われてんですよ」
「そうかあ。うちらはこれからデンジくんらんとこ行くから、一緒に仕事するんかなぁ思ったんやけど……ま、今度また飲みに行こな」
私の声掛けに、二人は嬉しそうに返事をした。
特別緊張を持っているわけでもないようだったので、まだこちらの方ではなにかしら異変は起きていないらしい。
ほなまた、と巡回中の彼女らに別れを告げて一旦はその場を離れる。
いま私たちは二つの車に分かれて行動していた。刺客三人を含めた七人で一つの車に乗るのはさすがに厳しく、スペース的な問題もそうだが、タイヤがパンクしているのでもしものことが起きたときあまりにも危険だろうと思われたためである。
とはいえ、山の中でもう一台車を用意するというのは不可能に近い。
そこで私たちは考えた。こんな山の中に現れた刺客三人は、どうやってここまで来たのだろうかと。
その考えのもと辺りを散策すると、思いの外すぐにもう一台の車が見つかったのだ。どうやらレンタカーらしく、それなりにスペースもあったので、私たちは元々乗っていた車と新たに発見した車に分かれて乗車し東京公安を目指していた。
「生捕りにしてもたけど、この場合殺しといた方が良かったんやろか。海外の人間やと色々ややこしならへんか?」
「殺したら殺したでややこしなる気もしますけど」
それもそうかと相槌を打った。
まあ、マキマは外の情報を欲しがっていたようでもあるし、生捕りにできたのならそれで良いのかもしれない。
「……まあ外交関係は私たちの仕事やないんで、ええんとちゃいます?」
「そういうもんか……? そういうもんか……」
しかし、私たちのような間接的にしか関わりのない人間にまで刺客の手が及ぶとは……。ある程度想像できていたことではあるのだが、それもデンジくんの護衛が始まってからのことだと思っていたので、正直気が抜けていた。
今こうして車を運転している最中にも何者かが襲ってくるのではと思うと、今回の仕事の大変さが嫌でも分かった。公安に就いたばかりのレゼをこうした仕事へ連れ出すことに抵抗がないとは言えないが、それ以上に彼女に対しては強い頼もしさを感じている。天童黒瀬と同様に十分に働いてくれるだろうとも。
そのまま公安まで何事もなく辿り着き三人の身柄を受け渡すと、車を換えてからデンジくんらの元に向かった。
この任務についているという宮城公安の日下部くんからおおよその巡回ルートは教えられていたため、ゆったりとした道順で街の中を走っていると、異様に目立つ一行の姿が確認できた。
スーツ姿の大人や魔人がずらずらと塊を作って歩いているのだから、目立たないわけがない。
薄々勘づいてはいたが、デンジくんの護衛というよりはむしろ世界からの刺客に対して積極的に迎え撃とうというマキマの好戦的な姿勢が見てとれた。
「あ、デンジくん! おーい!」
レゼが車の窓を開けて声をかけた。
声に反応して振り返った彼は、とても明るく嬉しそうな顔して手を振りかえしてきた。ただどうにも表情に疲れが見える。ずっと歩き回っていたせいだろうが、そんな疲れすらも吹き飛ばすくらいに彼はレゼの登場に喜んでいた。
ふらふらとこちらに歩いてくる様子が見えたが、護衛の陣から外れぬよう誰かに引き戻されていた。
私たちは道端に車を停めると、彼ら護衛班に合流した。
「君ら久しぶりやな。みんな元気そうでよかったわ」
「ヨツナさんも、お変わりないですか」
「あぁ〜あらへんよ。右腕怪我したくらいで他はなんも」
宮城公安の日下部、玉置とは仕事の際に何度か顔を合わせた経験があった。銃の悪魔の肉片回収で良かった点といえば、美味しい食べ物の店に詳しくなったことと、こうしてさまざまな地域の同業者と顔見知りになれたことだろう。
「うちらもこれから護衛に加わるから、よろしゅう」
「どうも初めまして。民間の吉田ヒロフミです」
「ん、君ぃえらい男前やな。よろしゅう」
初めて会う民間のデビルハンターとも挨拶をし、軽く現状を教えてもらうことになった。
今のところ変化はなく、特別大きな異変もないのだという。
またそれとは関係なくデンジくんやパワーちゃんの扱いに困っているなどの話もあり、真面目な性格の彼には確かにデンジくんらは合わないだろうなとも思われた。
それから次は、私たちが遭遇したアメリカからの三人の刺客について話をした。デンジくんらはまだ刺客と遭遇していないものの、既に日本にそういった奴らはやってきているのだというのを強調する目的があった。
「……っちゅうわけやから、今後とも気ぃつけるように」
「なるほど。もうそんなことが……お怪我などは?」
「あらへんよ。せやけど、運よかっただけやわ。休んどった分、気い引き締めて働かんとなぁ……」
言いながらレゼたちの様子を見た。
ここへ来る前にスーパーで菓子類を購入しておいたので、それを三人で分けて食べているところらしかった。
「ちゃんと三人で分けや」
「うぅ〜なんじゃこれは、にんじんか?! 野菜は嫌いじゃ!」
「ねえねえパワーちゃん、これポン菓子だよ」
「ガムうめぇ〜永遠に噛んでられるよぉ」
こうしてお菓子を無邪気に食べているところを見ると、まるで子供みたいだ。かわいい。
「ほんで、えぇーっと……移動しながら護衛するんやっけか?」
「ええはい。助言などいただけるようでしたら……」
「いやいや、そういうんちゃうよ。それに対人警護に関しては君らの方が上手やろうし……」
腕時計を確認するそぶりをしながら続けた。
「単に、うちらのせいでずいぶん引き留めてもうたみたいやから、そろそろ進もか思ってな」
「! それもそうですね。すみません、気を遣わせてしまって」
「いや、それはこっちのセリフやわ。まあ今後ともよろしゅうな」
車は置いておくわけにも行かなかったが、途中またここを通ることになるらしいのでその時にでも乗って帰ることにした。
しかし護衛か。前の時もそうだが、天童黒瀬には慣れない仕事ばかりさせて申し訳ない。そのうえ今じゃデンジくんらの子守りみたいなこともしているのだから、上司として不甲斐なさを感じつつあった、
「ほな行くでぇ君ら」
お菓子で餌付けされているからか、パワーちゃんはやけに素直だった。明日も買ってこようか、けどそれだと栄養バランスがなあ……。そんなことを考えながら、あたりに警戒の視線を巡らせた。