マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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ボウリング

「ぃよっしゃあ! すまんなあデンジくん!」

「ぐううう……おぉいパワー!」

 

 ピンがボールによって弾かれ、バラバラと軽い音が鳴る。明るい電飾が長いレーンを照らし出した。街はすっかり暗くなり、いよいよ夜かという時間帯である。

 定時を過ぎて職務から解放された私たちはいわゆるボウリング場に訪れていた。

 

 というのも理由がある。それを説明するのにはおよそ数時間前まで遡る必要があった。

 

 東京へ来る途中に山中で襲撃に遭うというトラブルはあったものの、その日起きた事件といえばそれっきりで、以降対処しなければならない異変などは起こらなかった。

 悪魔はいつも通り出現するので現れ次第倒すなどしたのだが、そうしたときに気を抜いてデンジくんへの護衛が疎かになってはならないということでいつまでも彼の身辺は守りが固められていた。

 まあ要するに、悪魔の到来という一種のイベントですら、デンジくんはぼうっと眺めていることしかできないでいたのだ。

 

 彼は自由奔放な気質であったから、こうして行動が制限されるのは耐え難い苦痛であるのかもしれない。ここ一週間近く続いていただろうこの規則正しい生活が彼にそうさせるのか、レゼと話をして多少和らいだとはいっても、時々彼の眉間に皺が寄っていた。

 

 外を出歩くというのは彼を部屋に閉じ込めておくよりかは幾分健全であるものの、鬱憤の溜まり具合を見るにそろそろ限界な気もする。むしろ、よくここまで耐えてくれたとさえ思うのだ。

 

「どう? デンジくんは」

「あんまり元気じゃなかったです。楽しそうにはしてくれるんですけど」

 

 私の問いかけに答えたのはレゼであった。

 彼女はデンジくんと仲が良いので、話をしたりして暇を潰していたようだった。彼のそばにいる彼女から見ても、やはり良い状態ではないらしいと思うと、監督者としては気が重く感じられる。

 

「なんかええ案ないやろか。河原行ってキャッチボールとかあかんのか?」

「デンジくんの周りを護衛で固めてですか?」

「……つまんなそうやなあ」

「ですねえ」

 

 元々楽しむためにやっていることではないのでデンジくんが楽しくないのは当然といえば当然なのだが、はたしてこのままで良いのだろうかと心のうちではモヤモヤとした感情があった。

 

 昼食はもう済ませてあるという話だったので、そのあと日が沈むまでは外を歩いていた。

 時折公園に立ち寄るなどして休憩するのだが、それで彼の抑圧された元気が発散されるようなことはない。むしろ沸々と溜まりゆくのみであった。

 

 歩いているだけで、その若さからくる元気を目一杯放つための場所がない。パワーちゃんもすっかりげんなりしてしまっている。

 

「せや」

「?」

 

 腹が減ったというので、間食を摂るためにデパートに入ったところで一つ思いついた。

 デンジくんらがパフェを食べている後ろで、宮城公安の日下部と相談しつつ、どうにかこの考えがカタチにならないだろうかと話し合った。

 

 

 

 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎

 

 

 

 というわけで冒頭に戻る。

 夕方になり、私たちはボウリング場にやってきた。

 私たちが務める職務はデンジくんの護衛であり、その裏には世界からの刺客を誘き寄せる目的がある。そのため外を出歩き人目につきやすいようにしていたのだが、定時を過ぎればそれも関係ない。

 なんせ私たちの仕事は終わりなのだから。

 

「本当にいいのでしょうか……? 私としては、間違っている気がしてならないのですが」

 

 不安の混じった低い声で日下部が訊ねた。懐疑的でありながらも、ちゃっかりレンタルシューズやらボウルやらを着用して上着も脱ぎやる気満々のようだったから、私の提案したことに反対しているようではないらしい。

 

 仕事に対しては非常に真摯な態度の彼だが、それと同時にデンジくんに対する情もまた持ち合わせていたのではないかと思われた。

 

「ええんよええんよ。たんに場所が外から中に変わったっちゅうだけで、うちらの仕事は変わらん……デンジくんらのレーンをうちの班と君らの班で挟む。監視しとることに変わらへんのやから」

「それなら、まあ」

 

 渋々、といった形で日下部はポジション(レーン)に戻った。……おやおや。なんだかんだいって、向こうは日下部が一番ハイスコアじゃないか。次いで玉置、中……。

 

「ヨツナさぁん、ヨツナさんの番ですよ!」

「おおすまんすまん」

 

 というわけで、中央のレーンにはデンジ、パワー、アキ、ビームの四人が。その隣のレーンには天童黒瀬レゼ、それから私の四人で遊んでいた。

 

「なあデンジくん、勝負しやんか?」

「勝負〜?」

「そ。君ら四人とうちら四人で、総スコア高かった方の勝ち」

「勝ったらなにか貰えるんですか」

 

 と訊いてきたのはアキくんだ。

 

「そらもちろん! デンジくん行きたがっとった焼肉連れてったるわ」

「ああ! 焼肉!」

「でもいいんですか? こいつらに焼肉なんてもったいないですよ」

「おいアキ! 変なこと言うんじゃねーよ!」

 

 言って、デンジくんは喝を入れるように近くにいたサメの魔人に声をかけた。

 

「ビーム! 負けんじゃねえぞ!」

 

 というわけで、各チーム三ラウンドのスコア合計を競い合う対決が始まった。

 

 アキくんは経験者らしくそつなく得点を重ねるが、パワーちゃんやデンジくん、それからビームくんにレゼは未経験であるのが仇となったか最初のうちはガターがよく見られた。

 とはいえ、彼らは覚えがとても早い。二ラウンド目からはストライクなども頻発し、最終的な総スコアは平均よりも高いくらいにはなっていたのだ。

 

「特異課もなかなかやるやないですか」

 

 と言って黒瀬がボールを放った。それは綺麗なカーブを描き、力強く十あるピンに突き刺さる。

 

 おおよそ一ラウンド目が終わったあたりで既に、私たちと彼らとの間に生まれたスコアの差が明確に表れていた。

 

「ああ? んで負けてんだよ……」

「すまんな。うちの部隊、基本暇しとったからずっと遊んどったんや」

「……っああくそ! ビーム! もっと球磨くぞ!」

「ギャッ、ギャッ!」

「アキぃ! なんか、ガター塞げる柵みてぇのがあるぜ」

「勝手に触るな!」

「パワー。踊って気ぃ逸らしに行こうぜ」

 

 などなど、さまざまな過程を経て、およそ二時間ほどで全てのラウンドを終えることができた。

 

「ふう。すまんなデンジくん、うちらの勝ちや」

 

 スコアはおおよそ二百ほど離してこちらの勝利となった。

 途中パワーちゃんが球を盗んだり、デンジくんが球を二個投げるなどの妨害・不正はあったが、店に被害の出そうなことは叱って未然に防いだのでよしとする。

 

「ふっふーん。ほな、今晩は近くの牛丼屋でも……」

 

 などと呟きながら、気まぐれに二つ向こうのレーンで遊んでいた日下部くんらのスコアを見た。

 ふむふむ。私たちよりも、百上……百も上?!

 

「あえ? 日下部くん、君らんとこスコア高過ぎん……?」

「仕事は真面目に。遊びも真面目に。それが宮城公安のモットーです」

 

 と眼鏡の位置を直しながら日下部くん言った。

 ううん? どうなるんだ、これ。

 

 何度かスコアを見比べていると、日下部くんがこんなことを言った。

 

「焼肉、行きたいですね」

「げえっ」

 

 と、いうわけで。結局私は彼らに焼肉を奢ることになるのだった。まあ彼らが笑顔ならそれで良いのだ。

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