マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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デパート

 けたたましいエンジンの音が豪快に鳴ったかと思うと、ただでさえメチャクチャになっていたデパートの入り口を突っ切って一台の車がホール内で侵入した。その車は勢いを緩めることなくホール内で駆動し、人形どもは跳ね飛び、そして車のフロントバンパーはみるみる湾曲していった。

 人を跳ね飛ばすことに慣れているのか、はたまた慌てて意識が定かでないのか、車はアクセルベタ踏みの速度で縦横無尽に人形を轢き殺していた。

 階段に押し寄せられていた公安の者たちは突如現れ人形を轢き倒しながら暴走するコベニカーに呆然とした様子であったが、やがてその暴走車が自らの方に向かって来ているのだと察すると一斉に上の階まで足を進めた。

 

「なんだあれ、コベニか?」

「前からやばいやつだと思ってたけど!」

 

 階段に向けて車は走り出す。しかし流石に登ることはできないと判断したのか、ドリフトでピッタリ階段の出入り口に車をつけると、右側の扉から幾人かの人が出てきた。

 彼らは見知った顔で、後部座席の者たちは命も危うそな真っ青な顔をしており、運転席から現れた彼女は一仕事終えたような爽快感ある表情で現れた。

 

「いやぁ、久しぶりに車運転したけど、乗り心地ええやん」

「! 右腕動かへんのにっ、運転せんといてくださいよっ!」

「あはは、すまんすまん」

 

 なんともダイナミックな登場を遂げた彼女──一ノ瀬ヨツナは、軽く笑いながら我々と合流することになった。

 

 

 

 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎

 

 

 

 時は遡ると数十秒前。車を確保した私たちはデンジくんらがいると思しきデパートまでやってきたのだが、その前には明らか異様な量の人形どもが集っており、到底中に入ることは不可能に思われた。

 こちらへの反応は薄く、厚い肉のカーテンが敷かれているような状況だ。なにか変化は起きないだろうかとデパート前に押し寄せる人形どもに向けて大仰にクラクションを鳴らしたりライトを付けたり消したりしたが、彼らは反応というものを示さなかった。私たちを襲おうとする個体もあるのだが、それとは別の指示を受けている個体──つまりは、デンジくんの命を狙う人形どもがこの場の大半を占めているらしく、こちらに興味関心がないらしい。

 

 もちろん、仲間を増やそうとする意識はあるようで、度々窓を叩かれるなどするのだが、それ以上の行動はないのでやはりデンジくんらの方が状況的に危険のように思えた。

 

「ヨツナさん! 運転変わってください! 右腕っ、動かないんですからっ」

「困ったなあ……どないして入ろ」

「ヨツナさんっ!」

 

 後部座席に座る天童と黒瀬が肩を叩いてくるが、残念ながら席を代わるつもりはない。レゼに関してはあまり危機感を持っていないのか、二人の態度を不思議なもののように見ていた。

 

「とりあえず突っ込むから、怪我せえへんように姿勢低くしときや」

「……っ!」

 

 一度後ろの方まで下がり助走をつけ、アクセルを踏み込む。すると車はぐんと前に進んで、何かにぶつかるような音や物の上に乗り上げるような振動が伝わってきた。障害物は多いが、そのまま突っ走り勢いに乗せて出入り口の金枠に捩じ込むような形で中に入った。

 

 そのまま中にいる人形も轢いていき、デンジくんらがどの辺りにいるかを探りながらホールをぐるぐると何周か駆けた。

 

 そこでようやく階段あたりにスーツ姿がいくつか固まっているのが見えたので、そちらに向けて一直線に車を走らせたわけだ。

 

 荒ぶる運転を前に行った遊園地のジェットコースターのようなものだと捉えていたのか、レゼは上機嫌だったが、後部座席の二人は今にも死にそうな表情でふらふらと車から降りて出た。

 

「あれ? コベニちゃんは」

 

 車から降りて、詫びを入れようと彼女の姿を探すが見つけられなかった。

 ドン引きしている公安の彼らに視線を向けると、アキくんが恐る恐るこう言った。

 

「コベニなら、暴力の魔人と一緒に岸辺さんのところにいます」

「そうかぁ……まええか。で、現状はどうや? デンジくんは元気か?」

「え、ええはい。今のところ欠員はゼロ……先ほど本部に連絡したので、近くにいるデビルハンターが外の人形の処理をしてくれる手筈です」

「ほぉん、せやから岸辺さんとこにコベニちゃんら行ったんかな? 外にも戦力いるやろし」

 

 だったら自分も外で人形の掃討に参加していれば良かったななどと思ったが、一度こうして中に入ってしまった以上再び外に出る手段というのがなかった。

 コベニちゃんの車も、大胆に階段付近に停めてしまったので、今では一種の柵のようになって動かそうにも動かせないし。

 

「うちらは君らと合流するわ。いくら君らが優秀でも、この数を相手にしとったら物量でやられてまうやろ。せやったら戦うやつ多い方がええ」

「助かります。……今の運転でいくらか人形の数も減りましたし、だいぶ窮地からは抜け出しました」

「よし! ほな決まりやな。現場の指揮権は日下部くんにあるから、基本こっちも指示通りに動くわ」

「なら、我々はデンジくんを連れて安全な場所まで連れて行きます。それまで時間稼ぎを──」

 

 その瞬間、やけに明確な殺意を感じた。

 恐ろしく鋭敏で冷たい風が我々の間を吹き抜けるような感覚と共に、人形の海が波でも起こったかのように隆起する。

 否、それは波ではない。ただなにかの波長のように首が跳ね飛ぶので、そう感じただけなのだ。

 

「! まずい!」

「構えろ! 死ぬぞ!」

 

 咄嗟になって、天童ら三人の身体を無理矢理車の影に伏せさせる。

 その上を通り過ぎていったのは一つの刃で、煌めく残光が先程まで私たちの首があった位置を掠めていった。

 

 そうして、なにか人が、通り過ぎていくのが見えた。

 

 そのままそれはデンジくんらの方に向かっていき、唐突な敵の到来に反応できないでいた誰かが死んでいった。

 

「……! アカン!」

 

 階段を一息に飛び上がり、状況を確認する。

 デンジくんのすぐそばにいるラフな格好をした女は、彼の顎を蹴り抜くと、そのまま周りの護衛に対しても暴力を向けようとしていた。

 

 私は飛び上がった勢いのまま壁を蹴り、身体の向きを調整して跳ねる。

 

 宮城公安の日下部、玉置がやられた直後、民間の吉田が悪魔の力を行使しつつ対抗しているところに横槍を入れる。

 

 具体的にいうと、隙だらけの頭に蹴りを入れたのだ。

 しかし何事も思い通りにはいかない。それは上手く防がれてしまい、空中で姿勢を保つことのできなかった私はそのまま奥にある店の戸棚に突っ込むことになった。

 

「くっそぉ……」

 

 追撃に備えて跳ね起きる。

 右腕が動かなくなって初めてのまともな戦闘だった。体の一部が重りになるだけでこんなにも思うように動かせないのかと、歯を強く食いしばった。

 

「クァンシ」

 

 と、聞こえてきたのは岸辺さんの声だ。

 どこからやってきたのか、彼は二人の魔人を引っ捕らえ、その両脇に抱え込んでいた。

 

「久しぶりだな」

「…………」

 

 クァンシと呼ばれた女はピタリと動きを止めた。

 そうしてそのまま、私は動き出そうにも動き出せない緊迫した空気感の中に閉じ込められてしまった。

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