マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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再開、そして決裂

「デンジ、パワー。この二人を拘束。暴れたら殺せ」

 

 クァンシの急襲により倒れ伏していた二人は、のっそり身体を起こすと岸辺の言う通りに魔人二人の自由をそれぞれのやり方で抑えた。

 本来、彼らの身柄を抑えるべきなのは私なのだろうが、こういったときに右腕が不自由なのを呪う。

 

 私はというと、店の戸棚に身体を突っ込んだとはいえ、特別クァンシから攻撃をもらったわけではなく──お恥ずかしながら、攻撃を上手くいなされた後、そのまま自分の勢いにブレーキをかけることができず奥へと突っ込んでいった自滅だったので──意識もはっきりしており、身体に不調を訴える部位はなかった。

 

 そのため、今からでも彼らの戦況に首を突っ込もうとすれば不可能ではなかったのだが、岸辺さんがこれからなにをしようとしているのか彼の企みを図りかねていたため、動こうにも動きづらい現状があった。

 これなら、戦闘が再び始まった際に死んだふりから奇襲をかけた方がいいんじゃないかとすら思う。

 

(なんやここ最近、奇襲ばっかやな……)

 

 ここ最近、まともに殴り合って勝ち星を得た記憶が少ない。

 レゼとのときも、デンジくんと戦って意識が朦朧としていた彼女の不意を斬りつけたわけだし。

 いいところないなあなんてぼやきつつ、私は異動が悟られぬよう店の影から這って階段の方まで向かった。道中、クァンシと闘い気絶した者たちが倒れていたが、どれも命に別状はないようだったので目的の地まで急いだ。

 

「……おーい」

「? あ、ヨツナさん」

「静かにな。いま上の方で岸辺さんが敵と話しとる」

 

 階段では人形の侵入を防ぐべく、天童黒瀬レゼの三人が車を壁にして攻防を繰り広げていた。人間は人形に触れると人形にされてしまうので、レゼを前衛とし後ろから二人が悪魔で援護をしている形だった。

 

「だいぶ数減ったな」

「さっき急に来たやつがほとんどやってしもうたんで、さっきからこんな感じです」

 

 見るに、車の付近で死体の山が連なっているのではない。デパートのホールから外の道路に至るまで、満遍なく死体の山が連なっている。

 

「なにはともあれ、ようやったな」

 

 階段を降りながら上の状況について話した。

 おおよそ全滅に近い状態でありながらも、刺客の人質をとることで均衡状態が保たれていること。またデンジくんは無事であることをだ。

 

 話し終えるのにそれほど時間は掛からなかったため、一度ここで作戦会議を行うことにした。とはいえ緊急事態の真っ只中にいるわけだから、本当にごくごく簡単な、方針を決めるだけのものである。

 

「そのクァンシっちゅうやつだけが刺客やとは思われへん。明らかに人形は、そいつの力とは別のところにあるように思える……おそらくサンタクロースっちゅうやつやろうな」

「なるほど……じゃあ、そいつを先に片付けちゃえばいいんじゃないですか?」

「せやねんなあ、それがいっちゃん楽なんやけど……」

 

 思案して、レゼの問いに答える。

 

「サンタクロースのやつ近くにおるとは思うんやけど、問題なんは力の強さや。普通こんな規模の影響、ただの契約やと起こされへん。向こうも相当用意しとるやろうから、うちらだけでどうこうできるか分からんねんなあ」

「そうですねえ……ただ人形はもうほとんど壊滅状態ですし、向こうの戦力は明らかに減っとるんで、そこまで危険視しなくてもええかもしれませんね」

 

 うーん。あまりにも楽観的といえばそうなのだが、現状向こう側からなにかしらのアクションが見られないので万策尽きたのではないかと思わなくもない。

 実際、あの量の人形はそれだけで盤面を決することができるような切り札だろう。ただ今回の場合はイレギュラーがあったというだけで、事実私たちは危うい一歩手前まで追い詰められはしたのだから。

 

「サンタクロースの方は、一応討伐隊というか……本部に連絡したとき、公安のデビルハンターが派遣されたらしいから、彼らに任せるゆうんもありかもしれへんな。うちらが変に動いてもうたら向こうの連携乱してまうだけやろうし」

「それもそう、ですね。下手に戦力を分散するよりも、まずはこっちの安全を確保してからの方がええでしょう」

 

 となると、すべきことはデパート内の安全確保ということになる。それに外から人形が現れたからといって、デパートの中にサンタクロースがいない理由にはならない。デンジくんの安全確保のためにもまずは安全確保だ。

 

「ほなうちはデパート見回るわ。君らは、せやなあ……レゼちゃんは人形の掃討、天童黒瀬はそのサポート。外出てええけど、なるべくデパートの出入り口付近からは離れんように。上の階には誰かしら人おるから、異変あったら走って知らせに来ぃ」

「了解!」

「あのう……」

 

 意気揚々と動き出そうとしたところで、レゼが遠慮がちに声を上げた。

 

「その、いいですかね?」

 

 レゼは物言いたげに首元にあるリングに触れた。それを引き抜くような素振りも加えてだ。

 

「緊急事態や。許可」

「ぃやったぁ!」

 

 嬉しそうに飛び跳ねると、レゼはそのままホップステップジャンプで人形の群れに飛び込んだ。そうして、彼女の姿が見えなくなったかと思うと、一際大きな爆発を伴って例の姿が現れた。

 一つ違うのは、彼女が身にまとう衣装だろうか。公安から支給されたスーツからは異様な頭部と腕部が見えていた。

 

「ぅおお……味方やいうんは分かっとりますけど、なんや身震いしますわ」

「俺らん仕事ないかもなあ」

「あんま血ぃ使いすぎやんようセーブしたりや」

 

 言って三人を残し、爆発の音に紛れて上の階に登った。

 こっそり階段を登り、頭だけ出して岸辺さんの方を見ると、なにやらまだ話をしているようだった。

 このままバレないように元の位置まで戻ろうとしたが、あのクァンシという女の勘は想像していたよりもずっと鋭かったようで、気配を消していたというのに一瞬目があった。

 

 クァンシが私の方へ視線を向けたことに岸辺さんも気付いたのか、二人してこちらを見る。……気まずいからやめてほしい。

 来い、と岸辺さんが手招きをするので、私は姿を隠すのをやめてのっそり身体を揺らしながら向こうまで歩いて行った。

 

「なんや邪魔してもうたみたいで。お話の途中でしょう、菓子でも持ってきましょうか」

「いやいい。それより座れ」

「……ええんですか?」

 

 右腕が不自由な私を気にしてか、岸辺さんは一脚椅子を引いて指し示した。あんまり良い雰囲気じゃないから遠慮したいのだが……。

 

「彼女も仲間か?」

 

 と脈略もなくクァンシが言った。

 岸辺は少し思案したあと、「お前が抜けたあとに入ってきた後輩だ。部下じゃない」とだけ言った。

 

 その言葉のやりとりに、一種の違和感を感じたのは気のせいではないだろう。二人の言葉選びはどこかぎこちなく、なにかを気にしているようであったから。

 

 クァンシの容姿は私より少し上くらいに見えたが、こうして岸辺さんと対等な言葉遣いをしているのだから、私には空知らぬ特別な関係がそこにはあるのだろうかと思った。だが、それをわざわざ口に出して尋ねるほど私は野暮な人間でもない。

 

 なにがなんだか分からないが、岸辺さんが私をここに座らせたのにはなにか目的があるのだろうと思われたので、その役割を必死に考えた。

 

「えーっと……一ノ瀬ヨツナいいます。十何年くらい前から公安で働いてまして、ちょっと前まで銃の悪魔の肉片回収してました」

「誰が自己紹介しろって言った」

 

 岸辺さんの冷たい視線が私を突き刺す。彼は呆れたように息を吐いて、手に持っていたメモ帳を机に置いた。

 

「まぁ、こんなやつだ。今じゃ部下もいるが、根っこのところは変わらず馬鹿だよ」

「そう……」

 

 クァンシはじっと私の方を見て、それからこう言うのだった。

 

「お嬢さん、こいつに言ってやってくれないか。酒とタバコは辞めろって」

「……お父さん、やっぱ酒臭いんとちゃうん……?」

「お前の父になった覚えはない」

 

 なんてちょっと笑いが取れそうな小ボケをかまして、雰囲気も和んだかな……? なんて思ったのも束の間であった。

 

「あああっアアッ! ダメですぅっ、逃げましょうクァンシ様!」

 

 突然の叫び声にびっくりして肩を震わせる。声の発生源はパワーちゃんの方からで、パワーちゃんに後ろからしがみつかれた特徴的なポニーテールの魔人が、なにやらそのポニーテールやら指やらで私の方を覗き見ながら叫んでいた。

 

「……っ、ゃぁっ、ヤバいんですっ、ク、クァンシ、様……ヤバいですゥ! その女の身体、半分くらい悪魔の肉でできてる……!」

「はぁ?」

「それに、さっきから臭いがするんですっ。あいっ、あいつのっ──」

 

 急に取り乱した魔人にドン引きしたのか、パワーちゃんが怖いものから手を離すように震えながら拘束の手を緩めた。

 その隙を見逃すほどクァンシも馬鹿じゃないらしい。

 

 彼女は私に向かって──それも、使えない腕の方に目掛けて──ほとんど予備動作のない強烈な蹴りを繰り出してきた。ただの蹴りじゃない、それは尋常じゃないほどの速さと質量を持っており、左腕を使って辛うじて受け流し反撃に椅子を蹴り飛ばした。もっともそれも易々と避けられてしまったわけだが。

 

 後ろを見ると、デンジくんを無理やり引き剥がしてもう一人の魔人が自由になるのが見えた。ああもう、めちゃくちゃだ。

 こうして、肉と肉がぶつかり合う殴り合いの鈍い音が、戦闘再開の合図となった。

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