マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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ガラス窓へダイブ

 戦況は乱れていたが、大きな視点で捉えるとおおよその勢力図に変わりはなかった。

 

 デパート内ではデンジくんの護衛を務める公安(プラス民間)のデビルハンターが多数おり、そんな私たちと対峙するようにクァンシと呼ばれる女と二人の魔人がデパート内で暴れていた。その二つの対立構造をぐるりと囲み、今か今かと漁夫の利を狙おうとしているサンタクロースの傀儡どもが外で跋扈しているわけだが、デパートの玄関口で他の侵入を阻んでいた天童らの報告によるとクァンシの影響で人形のほとんどが壊滅状態だという。

 

 観察していて思ったことだが、人形を作るにはおそらく元手となる人が必要である。ただ人というのはそう無尽蔵に湧いて出るものではない。証拠に、一度減った人形の山はそのまま増えることがなかった。

 クァンシによって大幅に数を削られ無策の物量戦が難しくなった以上、サンタクロースはここぞという場面のために人形を温存する必要があった。

 

 以上のことからメチャクチャに人形が押し寄せるといったことは起こりづらいと考えられる。そのため数少ない人形を階段の辺りでせき止めさえすれば中にいる我々は外を気にする必要がなくなる。これによりデパート内の戦力をクァンシに向けることができた。

 もっともこちら側の戦力がほとんどワンパンでノックダウンされた事情を鑑みると、人数有利というのもほとんどないに等しいのだが。

 

「合わせろッ」

 

 叫ぶと、岸辺さんは右手に持ったナイフでクァンシに飛びかかった。姿勢を低くして行われたそれはタックルに近しいが、急所を狙われぬよう腕で防ぎながらもナイフを振り抜くことができるように工夫された無駄のない動きであった。

 

 それに合わせ、私は反対側からクァンシに迫った。

 私もまたナイフを武器として構えている。元々の戦闘スタイルは彼に習ったのだから、自然と似たような闘い方になっていた。もっとも私も彼と同じ構えでは芸がないと考え、ナイフを至近距離から投擲し、それに合わせる形で全体重をかけた上段蹴りをクァンシの右側頭部目掛けて打ち込んだ。

 

(バケモンが……)

 

 全力で投擲したナイフは一直線に心臓を狙っていたというのに、まるで造作もないように拳で払い落とされた。楽観的に考えていたわけではないが、こうも簡単に防がれると正直落ち込む。

 

 ただ負けてはいられない。ナイフが払い除けられるのとほぼ同時のタイミングで右側頭部を狙った蹴りがクァンシに直撃した。

 だが悔しいかな、相手は強敵だ。クリーンヒットとはならず、腕で十文字を作るように受け止められてしまった。ただいなすのでなく防いだのには、ほとんど同時に彼女へナイフを振り翳した岸辺さんの存在があるだろう。防ぐのといなすのとでは必要な技術量が違う──私に集中して岸辺さんへの対応を疎かにしないため、また十分に蹴りの威力を外に受け流す自信がなかったからかも知れない。

 そのため、私からの攻撃に対しては完全な防御の姿勢をとっていたのだが、それが仇となった。

 

 私の蹴りは、クァンシの防御姿勢をそのまま貫き、彼女の側頭部に到達したのだ。なんせ全力の蹴りなのだ。そう簡単に受け止められては困る。

 

「ッ……! 頑丈なやつ!」

 

 姿勢は揺らぐが、それで倒れることはなかった。私の蹴りはほとんど防御を無視したものだったので大きな隙が生まれてしまったが、そこへ追撃が加わる前に岸辺さんのタックルが加わる。

 これには危険と判断したのか、どうにか踏ん張った様子のクァンシは崩れた姿勢から粘りを見せアッパーのように下から拳を飛ばして岸辺さんに殴りかかった。

 

 私の蹴りがだいぶ効いているのか、バランスだとか姿勢なんかがメチャクチャな、化け物じみた体幹による力任せの振りかぶりだった。

 

 一撃、彼の胸に拳が入るもののそれで止まるほど柔ではない。どうにか腕で防いだと見え、衝撃でナイフは取りこぼしはしたもののそのままクァンシの無防備な腹部に突撃したのだった。

 

「ぐっ……!」

 

 一瞬クァンシの身体が宙に浮き壁際まで押し寄せたが、それ以上の動きは見られなかった。

 

(マズイ……!)

 

 一瞬クァンシの身体が浮いたものの、すぐさま体勢を整え、彼女は岸辺さんの腰に指をかけた。あの体重移動、足への力の掛け方──外へ投げ出す気だ!

 

 私は懐から予備のナイフを取り出し攻めにかかる。

 いま岸辺さんが抑えている間がチャンスなのだから。

 

 だが何事もそう上手くはいかない。クァンシの手下である魔人が大振りの火をこちらに向けて吹いてきたのだ。岸辺さんがクァンシをタックルで押し出したことにより、ちょうど私はその二人から孤立した場所に立っていた。およそ遠慮なくあの魔人は火を吹くことができただろう。

 

「──!」

 

 考える時間はそれほどない。

 私は避けることと岸辺さんを助けること、その二つをどうにか両立すべく跳躍した。

 

(うおっ……)

 

 岸辺さんの腰に両の手をかけていたクァンシの無防備な顔に膝蹴りを入れる。一瞬、またぐらつくが、彼女は力一杯に岸辺さんをガラス窓の外に放り投げた。

 

「やばいやばい!」

 

 バリン、とガラスが割れた。下にはクッションも何もない。それにこうも力強く放り出されれば、なにかに掴まることもできない。

 思い切って、私も彼の後を追い砕け行くガラスの中へ身を投げ込んだ。岸辺さんはおじいちゃんだから受け身をとっても骨が折れそうだし、私がどうにかするしかないと感じた。

 

 幸いビームくんがやってきているのを目端で捉えていたので、私たちがクァンシの注意を引きつけている間に彼らはしっかり逃げおおせたはずだ──。

 

「──レゼ!」

 

 下方に彼女の姿を認めると、名を力強く呼んだ。いつぞや戦った例の姿で人形の残党を砕いており、声に反応して上を見上げた彼女はすっかり驚いたようにアタフタとしていた。

 

「レゼ! 受け止めて!」

「ええ?! なんで空から?!」

 

 足を爆発させ飛び上がったレゼは、空中で私たち二人を受け止めると持ち前の頑丈さでそのまま大地に脚を下ろした。

 岸辺さんは腰を痛そうにしながら立ち上がると、感慨深そうにレゼの方を見た後、視線をクァンシらがいる階層に向けた。

 

「歳はとるもんじゃないな……アイツ相変わらずバケモンだ」

「気になっとったんですけど、お知り合いなんですか?」

 

 訪ねると、岸辺さんは答えづらそうに言った。

 

「昔、あいつも公安にいたんだよ。……お前が入った頃にはもういなかったか」

「ええまあ……しっかし、うちよりも前にですか? うちとそんな歳変わらんような見た目しとりますけど」

「お前だって、見た目変わらねえだろ? 今いくつだ?」

「…………よし! レゼ! 今からデパートん中戻って、デンジくんが逃げるサポート!」

「露骨に話逸らしやがって」

 

 岸辺さんは不愉快そうに懐から取り出した煙草を吸った。

 どうやらまたもう一度デパートの中に入って闘うということはしないらしい。なら私もそれにならって煙草でも吸っていようか。

 

「デンジ君どこにいるんですか?」

「下の階降りてったん見えてるから、下の奥やと思う。ビームくんもおるからよろしゅう」

「はい!」

 

 と言って、元気にレゼはデパートの中へと入っていった。

 そうして彼女を見送った以上、今まで彼女がしていた人形退治は私の役目というわけだ(レゼがしっかり働いていたので今はもうほとんどいないが)。天童黒瀬は岸辺さんと一緒にいてもらったほうが安全だろうと思われたので、彼らもまたこちらに呼び寄せることにした。

 

 

 

 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎

 

 

 

「やっぱチェンソーなっといた方がいいかなあ?」

「チェンソー様! 血! 節約!」

 

 一人の走る足音ががらんとしたデパートの通路に響いていた。その横ではジャプジャプと場にそぐわない水の音が……ビームは彼に連れ従って逃げ道を確保している。

 

(あの女バケモンだ……! 先生とヨツナさんに任せて、さっさと逃げよう)

 

 そうして走っている矢先、彼の後方から物の爆発する音が聞こえ始めた。それが段々と大きくなって、こちらに近付いているように思われたので、デンジとビームはつい立ち止まり後ろを振り返った。

 以前の戦いですっかり聞き馴染んでしまったこの音……デンジは振り返る前から嬉しそうに頬を緩めていた。

 

「デンジ君ー! 大丈夫?!」

「うおお! レゼ!」

 

 喜びの声を上げて彼はレゼの方に歩みを進めた。

 レゼは巧みに爆発を操り自然な動きで地面に着陸すると、そのまま駆け足で彼の元まで寄って行った。

 

「よし! デンジ君逃げよう! 外で岸辺さんとヨツナさんがいるから、向こうに合流しよう」

「外……? 上で闘ってるんじゃねえのか?」

「上? ああ、なんかね、落ちてきたんだ」

「落ちてきた……?」

 

 一瞬怪訝そうな表情をしたデンジだが、「ま、細えこたあいいか!」とレゼの言葉に従い、ひとまずは外に向かうことにした。

 

「ってもよぉ、ここどこだよ? めちゃくちゃに走ってたから分からねえ……っ! 痛っ! ……ひぃ〜クギ踏んじゃった!」

「え?! デンジ君大丈夫?!」

「おお〜だいじょう……うわっ、え、あ? なんか……あれ、掴まれてる!」

「浮いてる……す、すげえ……」

「ああーっ!? あれぇ! デンジ君浮いちゃってる! なんでえ?!」

「動けねえー!」

 

 徐々に徐々に浮かび上がるデンジ。

 それを見上げる二人。ビームはそれをある種神聖なものとして捉えているようで、対してレゼはあたふたとどうしたらいいのか分からない様子であった。

 

「あ、なっ! 体がハリツケになってくよオ〜!?」

「あっ、ヤバいやつだこれ! デンジ君!」

 

 レゼはギリギリになって気付いたようだが、時すでに遅し。

 空中へ浮かび上がったデンジは、そのまま呪いの悪魔によって命を奪われたのだった……。

 

「デンジくぅーん!!」

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