マキマと友達になろう!   作:鹿手袋こはぜ

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前半は天童ミチコの視点。
後半から一ノ瀬ヨツナの視点となります。

一応説明ですが、黒瀬と天童は原作にも登場した京都組の男女です。


先輩と写真と

 ~ 天童ミチコ視点 ~

 

 

 

「in 北海道ぉ〜!」

「写真なんで、声出さんでええですよ」

 

 パシャリ。

 

 ヨツナさんが常日頃から持ち歩くものといえばタバコとライターとそれからカメラを加えた三つなのだと即答できるくらいには、彼女は写真が好きだった。ただ、風景を撮る趣味はないらしく、そういった意味では彼女の趣味が写真だとは言えないのかもしれない。というのも、カメラに収められた写真のうち、そのすべてが彼女を被写体としたものだったからだ。そしてその多くは、彼女の後輩と共に肩を並べて撮られたものだった。

 

 任務と称したお使いで現像した写真を彼女に渡したとき、一度だけアルバムを見せてもらう機会があった。男、女。みんな年若く、笑顔で、けれど私は彼らの名前も顔も知らなかった。とっくの昔に死んでしまった先輩たちの写真が、まるで遺影のようにアルバムに収められていた。

 ヨツナさんはアルバムの写真を懐かし気に見つめながら、写真に写る人物の顔を優しく指先でなぞっていた。私は彼女の意外な一面を垣間見たような気分になれた。

 彼女の心はひどく冷え切っているのだと思うことがある。よく笑うのは、彼女のそんな一面を隠すためだとさえ思う。けれど写真を見ているときの彼女は、その時だけは慈愛に満ちたようなほほえみを浮かべているのだ。

 

 そのうち、私と黒瀬の写真が見開き一ページを埋めるようになった。彼女はそれを見て、「こんなんはじめてやわ」と驚いたように笑っていた。笑う彼女の目は、アルバムの写真でない何か別の物事を見つめているようにも見えた。

 

「みっちゃん、もうちょい近う寄って」

 

 クラークの像の前で私たちは写真を撮っていた。ヨツナさんはいつも誰かと写真を撮りたがるので、こうして私が隣に立っていた。

 腰に回された手が、グイっと私の体を抱き寄せる。私の方が背も高いのに、彼女の腕は非常に力強く体を引き寄せた。

 

「俺とのツーショットはいりませんか?」

 

 カメラを構えた黒瀬が冗談めかして言う。

 するとヨツナさんがわざと偉そうな口ぶりで言葉を返した。

 

「しゃあない、あとで野郎とも撮ったるわ」

「嫌ならええですわ」

「いじけんなや。ほら、みっちゃん頼むわ」

 

 ムスッ。パシャッ。

 不満げに口元を歪めた黒瀬とのツーショット。

 彼がどうも嫌がるので、ヨツナさんが得意の腕力で彼を抱き寄せてのものだった。

 

「ほれ見てみい。クロちゃん半目やで」

 

 にやりと笑い、カメラに収められた写真を私に見せようとしてきた。すると黒瀬の眉根がひどく寄った。

 それを見て私は呆れたように「黒瀬のやつ嫌がってはりますよ」と返した。それでもヨツナさんは嬉しそうに笑って、カメラをポケットにしまい、「飯でも行こか」と駐車場の方に歩いて行った。

 

 有給で、これから先一週間は休みになった。私たち対銃課(公式な名前はない特殊な少数部隊であるが、今のところ銃の悪魔に対する具体的な対抗部隊がないため、肉片の回収に特化しているというだけでこう呼ばれてる)は言ってしまえばいくらでも替えが効く部隊であった。

 肉片の影響を受けて強くなった悪魔を撃退できるだけの力を有し、また肉片を素早く摘出できる人材が一人いるというだけで、それらは人材と時間をかければどうとでもなるものだからだ。

 

 あくまでもこの部署の存在意義は、一ノ瀬ヨツナという人物の保護・観察という面が強い。肉片の位置を感じ取れるという特異性や、最前線に身を置きながらも十数年間傷一つなく生き残れるような優れた戦闘能力をみすみす手放すほど政府はバカではなかったのだ。人員の入れ替わりが激しい公安で、一定の戦力がいる(あるいは人員の消耗を防げる)という点で彼女は有用だった。

 

 なので、悪魔退治という点で言えばそれなりの人員を割きさえすれば休みは安易に取れる。だがこのところずっと仕事が続いていたのは、ひとえにヨツナさんの仕事熱心な性質にある。彼女はとにかく働いていた。まるで食事をするみたいに悪魔を殺して、口元を拭うような軽い動きで肉片を奪い取った。それはあまりに洗練された動きで、それでいて彼女の非人間的な要素をありありと表現していた。

 

 だからそう、私は怖くなる。彼女のような人でさえ倒せない銃の悪魔は、いったいどれほど強いのか。

 彼女が死んだとき、その代わりを誰かが務めたとしても、私はそれに従ったところで未来がないような気がした。

 

「……どうしたん? 辛気くさい顔して。苦手なもんでも入っとったか」

 

 ヨツナさんの顔がふいに私の視界に入った。心配そうな表情で覗き込んでくる。

 

「なんでも食えますよ。ただ、めったに食えるもんでもないんで、じっと見てたんです」

「そーか。金あっても使える機会はほとんどないしなあ」

 

 私たちは海鮮料理が売りの食堂で昼食を済ませることにした。北海道に来たなら食べねばと、ヨツナさんが強く推したのでそうした。

 彼女はその小柄な体格からすれば意外なほどの健啖家で、普段から日本中を駆け回っているからだろうか、どこに行ってもおいしいお店や料理に連れて行ってくれた。この店も、誰かと来たことがあるのだろうか。

 

「ヨツナさん、その……」

 

 聞いてみようと思って、けれどすぐにやめた。彼女ならきっと不機嫌になることなく昔の後輩について語ってくれるだろうという直感はあったが、それはよしたほうがいいと同時に感じたから。

 

「なんや、どないした」

「いえ……あの、醤油、とってもらえませんか」

「おおええよ、そんなんで気い使わんでええよって」

 

 醤油瓶を受け取る。どうも、と言って自分のどんぶりにかけた。

 

「美味いわ。ようさん食いや」

 

 促されて、どんぶりに手を付ける。こうして三人で何かを食べるのは何度目だろうか。いつものことだから、もはや振り返って数えることもできない。

 ならあと、何度こうして食べられるのか?

 数えるような気にはならなかった。数えてしまえるのなら、それは悲しいことだろうから。

 

 

 

 ~ 一ノ瀬ヨツナ視点 ~

 

 

「ごっそさん」

 

 ぱちんと手を合わせた。食べ終わってしまったのが少し悲しいが、まあいい。名残惜しい気持ちを抑えて、私は箸を机に置いた。

 見ると天童がまだ食事の途中だったが、黒瀬はとっくに食べ終わっていたので、食後の茶ついでに今後のことを話すことにした。とはいえ、大したことはないのだけれど。

 

「これからのことやけど、一週間近く休みあるし──」

 

 言いながら、二人の目を見比べた。目が合ったのを確認してから続ける。

 

「どないする? うちは一回家帰ろう思っとるんやけど、二人もそれでええか?」

「一人で帰れます?」

「あほか。電車くらい乗れるわ」

「でも前、梅田駅で散々迷ってはったやないですの」

 

 ぎく。それを言われると何も言い返せない……。

 

「……悪いけど、家の前まで送ってもらえるか?」

「ええですよ」

「ほんまええ後輩持ったわあ」

 

 食事を済ませていっぱいになったお腹をさすりながら言った。あまり家には帰らないからか、私は電車(特に駅での乗り換え)が苦手だった。

 すると会話を聞いていた天童が水を一杯飲みほしてからこう言った。

 

「帰りは黒瀬が運転しいや」

「はぁ~えらい遠いな。ヨツナさんは免許持ってないんでしたっけ」

「もっとったけど、仕事しとったら免許更新行くの忘れて失効した」

「こわー、仕事熱心は今も昔も相変わらずですね」

 

 冗談めかして黒瀬が言った。仕方ない。そもそも車は誰かが運転してくれるし、緊急事態に陥って私が運転するしかない状況になってもそのような緊急事態で交通安全を取り締まる警察はいないのだから。身分証明だって公安の手帳でこと足りるのだ。

 

「せや、帰りは東京寄って、観光しませんか?」

 

 と天童が提案した。

 帰りは黒瀬と天童の二人が交代で運転するのだし、特に予定もないので私は彼女の提案にゆったりと首を縦に振って「ええよ」と返した。

 

「でもその前に」

 

 私は席を立ち、二人よりも高い目線から見下ろしこう告げた。

 

「今夜は蟹や! 蟹食って、旅館泊まって、ほんで帰ろか!」

 

 蟹は良い。めったにお目にかかれない代物であるし、どうせ本場にいるのだから、食べないという選択肢はない。

 若者の休日らしく、私たち三人は店の迷惑にならぬように静かにこぶしを掲げた。

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